(3)お父さんと映画デート 後編
(承前)
私はお野菜をチーズソースで絡めて食べるっていうラクレットが楽しそうで美味しそうで選んだ。デザートもあるっていうから楽しみ。飲み物はオレンジジュース。お父さんも私と同じお料理を選んで食後にはアイスティーを頼んでいた。
食事がくるまでお父さんに名前の由来について聞いてみた。
「私の名前って何故、ミナツとかナツミじゃないの?普通6月なら夏ならそうなるよね。あと春の付く名前でも良かったかも。お母さんが春の海なら私がミハルとかってあり?」
お父さんは面白い質問だと思ったようで少し笑みを浮かべたけど、少し言葉を選んでいた。
「夏でも良かったし、それが普通だろうけどそれじゃミアキが大きくなってから面白くないだろうからあえて秋にする事に反対しなかったんだよ」
「ふーん」
とりあえず返事したらお料理をお店の人が持って来てくれた。熱々のチーズソースにブロッコリーとかジャガイモとか絡めて食べる。美味しい。
お父さんは付け合わせのパンをチーズソースに浸してパクッと食べた。
「お野菜とチーズって合うね」
「そうだね。ほら、チーズソースにパンをからめても美味しいよ」
「あ、それ、美味しそう!私もやってみる」
そんな話をしながら食事が進む。
お食事を楽しみながらお父さんの奇妙な回答について少し考えてしまった。お父さんの方のお祖父ちゃん、お祖母ちゃんは早くに亡くなっていたとは聞いていた。だから私の名前に関わりがありそうなのは呉のお祖母ちゃんとお母さんとお父さん、お姉ちゃんぐらいしかいない。
お母さんがミアキって名付けてくれたのか?っていうと姉の場合はどうだったっけ。
「お姉ちゃんの名前ってお父さんが決めたの?」
「……そうだなあ。お母さんが春だから季節から取ろうとは言っていくつか案を書き並べてお母さんと呉のお祖母ちゃんと相談して決めたんだよ」
「ふーん」
でも私の場合、お父さんはなんていうのかな、はぐらかしてはっきり答えてくれない。嘘は言わないけど本当の事を言うと誰かが私に文句を言われると思っているみたい。
お母さんとは隣合わない季節が秋。お姉ちゃんとは隣り合っている。って事はお姉ちゃんが秋にちなんだ名前を望んだ?
お食事を終えるとお店の人がアイスティーとオレンジジュース、デザートのアイスクリームを持って来てくれた。ストローをグラスにさして少し飲んでからまたお父さんに探りを入れてみた。
「お姉ちゃんって夏が嫌い?」
「別にそんな事はないと思うよ」
お姉ちゃんって寂しがりやなのかなっていうとそんな事はないはずだけどお母さんのとなりの季節だとお母さんを取られると思ったのかな。
「だよね。だったら私、ナツミとかミナツの方が良かったかも」
「お父さんはミフユもミアキもどちらの名前は好きだけどな」
お父さんは言わないけどそういう名前だったら私がもっとお転婆になって困るとか思っていそうな気がする。うーん。今の私でも充分そういう自覚あるけど。
「じゃあハルミは?」
お父さんは冗談めかせて軽くげんこつを私の頭に落とすふりをして優しく頭を撫でてくれた。
「お母さんの事は好きに決まってるじゃないか。こら、親をからかうもんじゃないよ、ミアキ」
「お父さん、レディの髪の毛いじらないの!」
そう言うとデザートのアイスクリームをパクッと食べた。
「冷たくって美味しい!」