願いを
願い
栄子は悪魔に出会った。
悪魔は優しい声音で彼女に言った。「君の願いを何でも成就させてあげよう」
「何でも?」と訊き返すと、悪魔は鷹揚に頷いた。「何回だって叶えて上げよう」
試しに栄子は願ってみた。「A組の直子を殺して」
「承知」
翌日、直子は交通事故で死んだ。
証拠は何もなく、事故以外の何様でもなかった。
悪魔の言った事は本当だったのだ。栄子は小躍りして、又願った。「幼馴染の明を殺して」
「承知」
翌日、明も居なくなった。
栄子は再び喜んだ。
まるで万能を力を手に入れた気分だった。
悪魔に対し、次々に願った。あいつを殺せ、あいつを殺せ。
富が欲しいとか、名誉が欲しいとか、美人になりたい等と彼女は一切願わなかった。ひたすらに、殺せ、殺せと願った。
気に食わない連中を地球上から消す事が第一だった。
殺すように願っても願っても、次から次へと気に食わない連中は頭の中に浮かんだ。
段々まどろっこしくなって来た。
一々、個人を名指ししていては切りがない。
もっと手早くやる方法はないものか。
閃いた。
栄子は悪魔に言った。「人間を滅ぼせ!」
「いいのかい?」
悪魔は目を眇めて栄子を見ている。
栄子は首肯した。
「本当に?」
悪魔は念を押す。
栄子はムキになって、言った。「人類を滅ぼせって言ってるじゃんかっ!」
「承知」
悪魔が快諾した途端、栄子は血反吐を吐いて倒れた。そして、動かなくなった。死んでしまった。
こうして、人類は滅んだ。