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第三章:夕闇に映う色6

「セイラ様!」


「ハッハナ」


探していた人物がひょっこりと現れるなんて思っていなかったからハナは思わず声を上げ、セイラもまさか、いきなりハナに出くわすとは思っていたので素っ頓狂な声を上げる羽目になった。

先ほどまで外は厳戒態勢が引かれているというのにどうやって書庫の中に入ったのだろう。

一応、ぐるりと書庫内を一周してみたもののセイラの姿は無かったはずだ。

いぶかしむハナの前でセイラは冷や汗を垂らした。


「セイラ様、皆が探してましたわよ」


「……う〜ん。知ってるけどさ」


地下墓所から秘密の通路を抜けると書庫の地下の本棚の後ろに出たのだ。

本棚の後ろは、全てどこかしかに繋がっているんだろうかとうきうきした気持ちがちょっとだけ沈んだ。

引き渡されたらどうしよう。

ジルフォードの背中に隠たセイラにハナは小さな笑みをもらした。


「お茶にしましょうか?」


「うん!」


満面の笑みに皆には悪いがしょうがないと思う。

自分がセイラの一番の理解者だという自負があるから。

時にせっつく事もあるけれど、逃げ道だってちゃんと用意する。

舞の日までには必ず。

そう言って侍女仲間には先ほどお帰りいただいたのだ。


「いらっしゃいませ」


にこりとカナンに招かれて、今までの嬉しさが一気に弾けた。


「明日ね、ジンと街に行くんだ」


カナンがお茶を淹れて席に着くまでが待ちきれなくて、思わず口にしてしまうと、珍しくもカナンはカップからお茶を溢れさせた。

黄金色の液体が机の上に広がっていくが、それを注意するものは居なかった。


「本当でございますか?」


「まぁ!」


カナンは未だに手元の惨事に気がつかず、ハナは常より大きい瞳を更に大きく開いた。


「本当だよ。約束したもん」


同意を求めるようにジルフォードのほうをむくと、驚いている二人の前でジルフォードは頷いた。

それを確かめてから己の失態に気づいたカナンは慌ててポットの傾きを直す。

部屋中に花が咲いたような華やいだ香りが広がっていた。


「ハナも行こう」


その言葉を嬉しく思いながらもハナは首を横に振った。


「お二人で行ってきてくださいな」


「え〜来ないの?」


ジルフォードまでも首を傾けるのが可笑しくてハナはふっと笑った。


「せっかくですもの。お二人だけで行ってきてください」


「だけ」を幾分か強調して、カナンを見上げると、カナンの表情もゆるりと解け、いつも以上に柔らかな印象をもたらした。


「では、街のお勧めを紹介しましょうか」


部屋を満たす香りと同じく華やいだ話題は尽きることがなかった。



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