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第二章:白き花の告げるもの18

暗い世界を松明が照らしている。

煌煌と焚かれる炎も全てを照らす事はできず部屋には深い陰影がついていた。

半身を闇に呑まれた男は苦しげに呼吸をしていた。

岩に開いた隙間を風が走るようにヒューヒューとか細い息だった。

窓にかけられた布の向こうには荒涼とした砂の世界がどこまでも続いている。

男の濁り始めた瞳はどうにか星の動きを見ようと天を睨みつけた。

自分の息子たちの背負う宿命の星が滑り落ちる事のないように。

その窓の向こうで見知らぬ青年が嗤った。

闇を背負い、月明かりを浴びて。

吊り上った唇は今しがた血をすすったかのように赤かった。

笑みを作りながらも一切それを含まない冷たい瞳も同じような赤だった。


「アンタの舞台はもう終わり。星読みなんて無意味でしょう。どんなに頑張ったってもうアンタは関係ないんだから」


「この化け物め」


自分の命はそう長くはないと、諦めていたはずなのにかけ布を握り締める拳には力が入った。


「ああ、間違っちゃいけないよ。タハルの王様。そこはね、「この人間め」って言わなきゃ。人より怖い魔物なんていやしないよ」


暗い怒りを含んだ視線も青年は難なく受け止め、なお暗く深い憎しみを宿した視線を返した。


「それにね、魔物は気の遠くなるほど昔の復讐なんてしやしないよ。ねぇ裏切り者の王様。心配しなくて大丈夫だよ。あんたの息子には相応しい最期を与えてあげる。裏切りには、裏切りを。ね?」


男の瞳がくわっと開いた。

血走った瞳からは一粒だけ涙が零れた。

やせ細った手が空をかき、口が絶叫の形に開かれる。

けれど音はなかった。


「アンタの亡骸はシルトで飾ってあげる。僕の一番好きな花だから。知ってる? シルトの花言葉。未来をつなぐだよ。……ああ、もう聞こえてないか」


はっと空気の抜ける音がすると伸ばされていた手が、ぱたりと胸の上に落ちた。

ちょうど胸を飾っていた銀の魔除けの上に。


「残念だったね。それ、人間には効かないみたいだよ」


暗い忍び笑いを消すようにびょうと風が吹いた。

風に揺れた青年の髪は月明かりを受けて白銀のように輝いた。















タハルから遠い、遠いアリオスの城の明かりの消えた部屋で誰かがそっと天に向かってため息をついた。

何とか天の端に縋っていた小さな光りが、流れ落ちていった後だった。



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