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第二章:白き花の告げるもの14

城の中は、未だセイラとナジュールたちの不在には気づいておらず、明日の祭を待ち望む平和な空気が流れていく。

けれど、一箇所だけぴりりと緊張している場所があった。



クロエは視線を感じて振り返った。

目の前の自分を何者なのか見定めようとする警戒心の強い猫のような瞳でじっと見つめている少女がいる。

確かめるまでもなく、セイラ王女が連れてきたハナという侍女だ。

引き結んだ唇が開きやすいように先に口を開いてやる。


「何か?」


冷たい物言いに、開かせようとしたはずの唇が強く噛み締められた。

完璧な侍女を演じようとすればするほど、クロエの声は色を失い冷たく聞こえてしまうのだ。また失敗した。

その後悔は決して面には出ず、もともときりっとした顔立ちは、冷たい声と相まって怒っているような印象を与えてしまう。


「貴女、何ですの?」


ハナの声は僅かばかり震えていた。

将軍にも他国の王子にも遠慮なく叱咤を飛ばす少女は、今、唯一人の侍女に対峙することに恐れを抱いていた。

最近、ジルフォードと共にいるところをたまに見かけるようになった女性は、すらりと背が高く、美人だ。

名はすぐに知れた。

彼女の後見人は昔は強い権力を持った貴族だったらしく侍女仲間たちが教えてくれたのだ。

貴族の後見人がついていようと、侍女には変わりない。

他国の王子より恐ろしく感じるのは、今口をついて出て行くのがハナ自身の思いだからだ。

セイラのためでもなく、ジルフォードのためでもない。

理由も分からず、平穏だった自分たちの世界に他人の影がチラチラするのがひどく不快だったのだ。

なんて我侭な想い。

もし、彼女が純粋にジルフォードへの好意で近づいてきたのならば、この気持ちはおさまるだろうか。


「何の目的ですの?」


「ハナさん、とお呼びしてもいいかしら。」


クロエは頷きを返したハナに笑いかける。

途端にたじろいでしまうほど印象が優しく変わった。


「私、王族付きの侍女になりたいの」


ハナの中で何かがカッと熱を持った。

くってかかろうとする前にクロエが続けた。


「私も孤児だったの。そんな私が、今や侍女。手に入りそうな幸せに全力で縋る。貴女なら分からない?」


一度持った熱が急速に下がっていく。

分からない。

そう叫んでしまいたかった。

けれど、それが出来ない事を見越したようにクロエは小さく笑ったのだ。


「私は貴女の気持ちがよく分かるわ」


「何を……」


「一度手に入れてしまったものは、絶対に手放したくないの。だって他に何も持っていないから。取り上げられたら、もう一度あの場所に突き帰されたら……怖くて、怖くてしょうがない」


全身を冷たいものが撫でていく。

頭の先から冷たさが浸透してくる。

紙のように色をなくしたハナを見て、クロエは哀しげに目を伏した。


「私も、とても怖いもの」


お前なんて拾うんじゃなかった

そういわれる日が何時か来るんじゃないかって


その言葉は言ってしまえば本当になる気がして、口に出す事さえ出来なかった。


侍女頭になったら、

もう一度愛しい人たちの家名に栄光を取り戻すことが出来たなら。

そんな恐怖から逃れることが出来るに違いない。

クロエの瞳には決然とした意志があった。


「貴女が快く思わないのは分かっているわ。でもね、どうか邪魔をしないで」


廊下に残されたハナはケイトが声をかけるまで動く事ができなかった。




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