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★初フィールド ~体力と料理~

 クエスト終了の報酬を持ってどこからともなく現れた小竜は、荷物を私達が受け取ると頭上でクルリと輪を描いてから町の方へと飛び去って行った。

クエストの終了通知は、あの小竜が配達する事になっているらしい。

私が小竜の行方を目で追っていると、彼女は立ちあがりながら次の予定を口にした。


「探索者のクエストが終わったから、次は戦闘系だね。」


 りりんの言葉に頷きながら、私は周りを見回す。

私達と同じ様にゲームを始めたばかりのプレイヤー達が、あちこちで戦闘を行っており、パッと見る限りすぐに参戦出来る様には見えない。


「流石に今日は、この付近で狩りをするのは厳しくないかね?」

「ふっふっふー♪

 逆に今日はリポップするテンポが速いし、ちょっと町の側面に回りこめば大丈夫!」


 得意げに長めの優美な猫の尾をくねらせながら胸を張る彼女の後をついて外壁に沿って少し進んだだけで、先程までの人ゴミが随分と解消される。

ちなみに、リポップと言う物の語源が私には良く分からないのだが、ゲームの中で良く使われている単語で、別の言い方だと『湧き』と言ったりもする。

要は、倒された後の敵性生物が再配置されることらしい。

この機能が無いと、沢山のプレイヤーを擁するMMOと言うゲームが成り立たないのだそうだ。

倒すべき敵性生物が無限に出現するこの機能が無いと、あっという間に狩るべき対象が居なくなってしまうらしい。

私が管理している箱庭でも、確かに同じ様な機能があるのでそれと似た様なものかと納得した記憶がある。

テクテクと先に立って歩く彼女に着いて行くと、その道中で軽くステータスの見方を教えてくれた。


「視界の右上の方に『体力』と『精神力』って言うのがあるの分かる?」

「……何故か、目を閉じても見えるものかね?」

「そうそう。

 私は今、体力95/105。精神力95/95になってるんだけど……。」

「私の方は、体力10/20。精神力10/10のようだ。」


 彼女に言われた通り視界の右上に意識を向けると、そこには言われた通りの項目が並んでいた。

体力・精神力の各項目の下には減り具合が分かり易い様にバー表記もされており、体力バーが丁度半分に減っている。


「減っている体力は、先程の採集で消耗したと言う事かね?」

「流石アル♪

 そのとーり!

 食べ物を食べると、少し回復するよ。」


 りりんは、私の問いに笑顔で応えると自分のバックパックに手を突っ込み始める。

 ちなみに、このゲーム内でのバックパックと言うのは、別名・アイテムボックスとも呼ばれるもので、ゲームの中では定番の夢アイテムだ。

ゲームによって多少の違いこそあるものの、大概は一定種類のアイテムを重量・サイズを無視して持ち運べるという素晴らしい物だ。

『セカンド・ワールド』では、50種類のアイテムを数量・サイズを無視して運ぶ事が出来るらしい。


 このアイテムボックス。

実は私の世界でも一応は類似品が存在しているのだが、作れる者が私とその愛弟子の2人だけな為、流通させる予定はない。

ちなみに、劣化コピーと言えなくもない魔法は存在している。

ただ、こちらは使い手が少ない。

その上、身に着けている容器――袋でも箱でもいい――の中身の重量と嵩を一見存在しない様にすると言うモノなのだ。

兄などは、その魔法をかけた小袋に色々と詰め込んだ上で、ウェストポーチにも同じ魔法をかけていろいろ詰め込んで歩いているらしい。

ただ、うっかりその魔法を使った状態でウェストポーチを落としでもすると、一斉に魔法が解けて中の袋を突き破りながら中身が散乱するという悲劇が起こるのだとか。

たまに兄が、そういうやらかしをしてしまい落ち込んでいる姿を見たこともある。

だから、せめて魔法具の形で再現できないかとこっそり研究を行ってはいるのだが、残念なことにまだ目処が付いていない。

ゲームの世界でこんなに便利なのだから、製品化できればもっと素晴らしいだろうと思うのだが……。


 りりんがバックパックを漁り始めて少しして、その中から出てきたのは葉っぱに乗っかった目玉焼き。

卵黄は半熟になっているらしく、取り出した時に少しフルリと揺れる。


「じゃじゃーん!

 これが、リリン特製☆愛妻弁当第一弾!!

 食べてみて♪」



――愛妻。

  ……愛妻?



 私は心の中で、彼女の言葉を反芻した。

今まで一緒にやってきたネットゲームで、私は何度も彼女に婚姻を申し込んで結婚式を挙げてきている。

その延長線で今の発言になったのかもしれないが、彼女の想定以上に破壊力のある言葉だ。



――リア充……!

  これが、リア充と言うやつか?!



「……君が作ったのかね?」


 頬に熱が集まり、耳に達するのを感じる。

自分のその過剰ともいえる反応を誤魔化そうと、努めて平静を装いながら彼女に問う。

勿論、彼女が作ったものだと信じているが。


「ん♪

 今のメイン商品だねぇ。」


 彼女の作ったものだと聞いて上がったテンションが、その言葉で少し落ちた。

いや、しかし。

彼女の初料理と言う訳じゃないのは残念だが、それでもりりんが作ったものである事には変わりはない。

私は喜んでそれを食べさせて貰うことにした。

 採集地点を避けた場所に腰掛けると、りりんが近くの木から細めの枝を手折って簡易フォークとして渡してくれる。

私には1本で、彼女は2本。

彼女の方は、地球世界の日本と言う国で伝統的に使われている『箸』の代用品としてその枝を使うらしい。

どうやって使うのか見るのは初めてなので、興味深く思いながら彼女が器用にそれを操る様子を観察していると、なんだか気まずそうな顔をして頬を赤らめ目を逸らしてしまう。

恥じらう姿も、やはり可愛らしい。


「見てないで、食べてよ?」

「うむ。

 有難く頂く。」


 改めて、彼女の作ってくれた目玉焼きに視線を戻す。

乾燥した葉を皿替わりにされたそれは、バックパックの中に入れられたたせいか、まだ温かく微かに湯気が立っている。

フォーク替わりの枝では、刺して口に入れるのは難しい。

仕方が無いので行儀は悪いが、皿の端にソレを滑らせて齧りつく。

まずは目玉焼きの白身を齧りとると、カリッと焼かれた香ばしい香りが鼻を抜けていく。

程良い量の油で焼かれている為か、油のしつこさはまったくない。

次は、先程も味わった白身の程良い歯ごたえを楽しむ。

大変素晴らしい。

お次は、先程から微かに揺れる半熟の黄身に枝の先で穴を開け、中から出てくるトロリとした黄身と白身を絡めて齧り付く。黄身の香りとコクが口内に広がり何とも幸せな気分になった。

美味しい物と言うのはあっという間になくなってしまうもので、せっせと口に運んでいる内にあっという間に無くなってしまう。

もう少し食べたいなと、空になった葉皿を見下ろしていたら、りりんに大笑いされた。


「そんなに喜んで食べて貰えるとは思わなかった~!」

「もう一皿ないのかね?」

「はいはい。

 もう一皿ね!」


 彼女は嬉しげにもう一皿同じものを出してくれ、それを食べる私を楽しげに眺めている。

その視線が嬉しい様な、こそばゆいような。

もう、何度目になるか分からない言葉を私は心の内で呟き直した。



――ああ。

  このゲームを始めて、本当に、本当に良かった……。

ちなみに、私は白身と黄身が分離した料理全般が食べれません……。

目玉焼きの良さは、目玉焼きが大好きな夫に教えて貰いました。


2018/5/8 加筆・修正を行いました。

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