☆ハニーちゃんとダーリンさん
「イカ君の妻の、『ハニーちゃん』でっす☆
年齢は20歳♪」
蛍光ピンクの髪をツインテールの縦ロールにした彼女は、『きゃるん☆彡』という擬音が聞こえてきそうな可愛らしいポーズを決めてそう名乗る。
なんかこう、魔法少女っぽい感じ?
ちょっぴり残念なのは、長身な彼女にはイマイチその可愛らしすぎる仕草が似合わないってことか。
出来る事なら、妖艶系で攻めて欲しかった……!
「実年齢は×2なんだわ~。」
「イカ君、言っちゃダメ!」
「義兄さん、女性の年齢を暴露するのはルール違反ですよ?」
「そーよそーよ!
イカ君、ひどすぎるわ~!」
――分かります。
女だもん。
こういう場合に下にサバ読みしてキャラ作るのはデフォだよね!
ところで、『義兄さん』とイカ下足君を呼んでいるのはハニーちゃんと一緒に居た中性的なイケメンさん。
顎のラインと同じ高さから後ろに向かって斜めに切りそろえられた、深緑にも見える黒髪が優し気な中にもシャープな印象を加えてる。
フリル満載なハニーちゃんの服とは対照的に、軍服を思わせるすっきりかっちりしたデザインのモノを身に着けていのが、なんだかカッコイイ。
「それより、義妹ちゃんの自己紹介がまだだわぁ。」
「そうでしたね、失礼。」
イカ下足君に促されて、少し気まずそうに咳ばらいをするイケメンさん。
――義妹ちゃんってことは、イケメンさんじゃなくって男装の麗人さんか。
通りで中性的なイメージな訳だ。
なるほど納得。
「僕は、ハニーちゃんの従妹でイカ下足君の弟の妻でもあるダーリン。
よろしく、可愛いお姫様と麗しの王子様。」
左手を胸に当てて、スッと優雅に礼をする姿がなんだかカッコいい!
「わたしはりりん。
イカ下足君にはいつもお世話になってます♪」
「……アスタール。」
「りりんちゃんとアスタール君だね。
義兄のついでに仲良くしてもらえると嬉しいな。
よろしく。」
すんごいなりきってるなーと感心していたら、アルにチョイチョイと肩をつつかれた。
ハイハイなんじゃらほい?
と振り返ってみたら、困惑した様子で耳を揺らす彼の姿。
「……君の世界では、男性同士で婚姻が許されるのかね?」
「おおう……。」
耳元に口を寄せて、こっそりと訊ねてくる彼の言葉に思わず言葉にならない声が漏れる。
なんか、うまく伝わっていないらしい。
取り敢えず、『妻=結婚している人』的な理解はしたらしいけど、『妻=結婚している女性』的な理解じゃないって事か?
取り敢えず、そういう方向でダーリンさんが女性だって事を教えてあげると、アルはなんだか安心した様子だった。
上手く伝わったのかな??
ドギマギしながら様子を見ていると、アルは挨拶の時よりも少し砕けた雰囲気でダーリンさんと言葉を躱し始めた。
大丈夫っぽい。
良かったと安心したところで話を聞いてみると、ハニーちゃんとダーリンさんは基本子供二人と一緒に四人で行動しているらしい。
それが今回、先に行かれてしまったとかで、わたし達と一緒に行きたいという話になったんだとか。
賑やかになるのはそれはそれで楽しいからいいね。
「最初は娘と一緒に渡る筈だったんだけどね。」
「息子達はリアルの友達に誘われて、先に渡っちゃったんのよ。」
「淋しいねぇ。」
「つれないわよねー!」
「むしろ、ほぼ一緒に遊んでるだけでもすごいと思う。
ウチのお兄ちゃんは、ネットゲームには付き合ってくれないし。」
「あら、淋しい!
ゲームも楽しいのに。」
「それは是非とも、僕の旦那様にも言ってほしいな。」
「あいつはゲームはあんまり好きじゃないから仕方ないわぁ……。」
ちなみに、こんな雑談をしながらもイカ下足君とハニーちゃんはベッタリと抱き合ったまんまだったりする。
わたしもアルと手をつないだまんまだから、あんまり人の子とは言えないかもしれないけど、ちょっぴりダーリンさんが仲間外れみたいで淋しそう。
なんだか申し訳ない気分になっちゃうな。
「それにしても、イカ下足君がウチらの絡みに免疫ある理由が分かったよ。」
「ウチも昔はバカップルって言われてたんだわー。」
「今も、仲はいいでしょ。」
「そうそう、だから息子に良く呆れられてるわぁ。」
「僕と、僕の娘にもね。」
「そうだったわな~!」
そうして笑い合う姿は、新しく同行することになるらしい彼女らととイカ下足君がとっても仲良しなのだという事を教えてくれるのと同時に、わたし達がその輪に加わりやすくもしてくれている。
有難い。
「それにしても……。」
ふと、視線をアルに向けたハニーちゃんは、そう言いながら彼の顔を覗き込む。
アルがその光にあてられたかのように思わず半歩下がる位に、その目はなんだかキラキラしている。
数秒、アルの顔を念入りに検めたハニーちゃんは、腰を90度に折り曲げ、右手を差し出す。
「イカ君の言ってた通り、アスタール君美人さん!
お友達になって下さい!!」
まるで、某番組のプロポーズの様な形で差し出した手を、あからさまに戸惑いながらもその言葉を了承したアルが取ると、その手を両手で挟んでピョンと飛び上がって喜び始めた。
なんか、テンション高い人だなーと思いながらイカ下足君に訊ねると、苦笑が返ってきた。
「奥さん、美人さんな男の子が大好きなんだわ。
……まぁ、2~3日で落ち着くと思うわ。」
「なるほど、了解。」
「んでなぁ、りりんちゃん……。」
「ほえ?」
「その、義妹ちゃんの方なんだけど……。」
微妙に歯切れ悪く何かを口にしかけたイカ下足君の目が、ハニーちゃんから離れてこちらにやってくるダーリンさんを見るとスッと泳ぐ。
「お義兄さんは『普通』だと言ってたけど、やっぱり嘘でしたね。」
――『普通』?
なにがだろうと首を傾げると、わたしに向かって手を合わせるイカ下足君の姿。
ますます謎だ。
「こんなに美しいお嬢さんを『普通』だなんて、お義兄さんは本当に見る目がない。」
「ほえ?」
そう言いながら彼女は私の前に膝をつき、微笑みながらそっとわたしの手を取る。
――???
これ、なんてシチュエーション?
「貴女さえよければ、これから僕とも友誼を育んではもらえないかな?」
そう言いながら、そっと私の指先に唇を落とすのと同時に、電子音が頭に響く。
ピロリーン♪
『ダーリンからフレンド申請が入っています
YES / NO 』
――あ。
なんだ。
ただのフレンド申請か!
ダーリンさんの行動に、ドギマギしてしまった胸を押さえながら、わたしはフレンド申請を受け入れた。




