★家族の話
私に分からない話で盛り上がる2人に嫉妬して、子供じみた事をしてしまった。
自分でも余りの子供っぽい振舞いだと気が付いたものの、出てしまった恨みがましい声はもうひっこめる事も出来なくて、膝を抱え込むようにして俯いて顔を隠す。
――いっそ、このままログアウトしようか?
そう思ったところで、りりんが私を抱きしめながら謝罪の言葉を口にした。
彼女の腕に抱きしめられ、その体温と甘い匂いに包まれると、あっというまに私の気分は上向きになる。
我ながら単純なモノだ。
チラリと目を上げると、イカ下足君と目が合った。
「「……。」」
気まずい……。
私が思わず目を逸らすと、ポンポンと肩を叩きながら彼も謝罪の言葉を口にする。
「アスタール君、りりんちゃん独占してしまって悪かったわ。」
「いや……。
私も大人げなくて申し訳ない。」
本当にどうしようもない。
自分の余裕の無さに泣きたくなる。
これが本物の世界で、いつでもりりんに触れる事が出来たのなら、こんな醜態をさらす事は無かったのだろうか?
「りりんも、悪かった。」
「ううん。
私の方こそ、アルの分からない話で盛り上がってゴメン。」
しょんぼりと耳を伏せてうなだれる彼女の姿に、胸がキュッと締め付けられる。
りりんの、こんな顔が見たかったわけじゃないのに。
私のあんなどうでもいいような嫉妬心から出た言葉で、彼女にそんな顔をさせてしまったのかとやるせない気持ちになる。
「私がもっと学べばいい事だ。」
「でも……」
「なら、君が教えてくれればいい。」
「……ん。
りょーかい。」
困り顔で頷く彼女と、仲直りの印のエスキモーのキスを交わして立ち上がると、イカ下足君は気を使ってこちらを見ない様にしながら待ってくれていた。
こういったさり気ない気づかいが出来るのが大人と言うモノなのだろうか。
まだまだ、私には真似が出来そうにない。
年齢の問題ではなく、きっと、情緒的に私はまだまだ子供なのだろう。
子供でいさせてもらった期間など殆どなかった、その反動のようなものだろうか?
「んじゃ、いこかー!」
「お待たせして申し訳ない。」
「ごめんねぇ……。」
何も見ていなかったとばかりに、気軽な口調で先を促す彼に二人で謝ると、彼はニヤリと笑う。
「んじゃ、その代わりに……」
「そのかわりに?」
「港町に着いたらウチの嫁さんもメンバーに混ぜて貰いたいんだわ。」
「おお?!
イカ下足君、奥さんと一緒にゲームしてるん?」
イカ下足君が口にした『嫁さん』と言う言葉に、りりんが意外そうな声を上げる。
彼女がこんな反応をしたのは、こういったネットゲームの類を一緒に遊んでいる夫婦がいない訳ではないものの、その比率はとても少ないのだと前に教えてくれていたからだろう。
むしろ、私は彼が奥方と共にこのゲームをやっているという発言よりも、その後の言葉の方に驚いた。
「うちは息子も一緒にやってるわ。
それにそんなんゆーたら、恋人同士でやってる君らも似たようなモンじゃないの。」
「まじで?!」
「マジよ、マジ。
たまに一緒に狩りもしてるんだわ。」
「それはまた、仲が良いんだねぇ……。
ウチ、お兄ちゃんはゲームに興味ないから羨ましいなぁ……。」
――奥方だけでなく、子息もいるとは。
何と羨ましい。
彼は見ただけでも、成人してから大分経っているのが分かるから、子供が居ると言うのは意外には感じない。
だが、親子で共に同じゲームに興じていると言うのは驚きだ。
仲が良いというりりんの兄でさえ、一緒のゲームをやっていたことがないというのに。
ふと、自分の兄だったらどうだろうという考えが頭をもたげる。
――兄上は、誘ったらやるかもしれない。
私の兄は、妙に付き合いが良いところがあるから、もしも誘う事があれば一緒に遊んでくれるかもしれない。
ただ、前にりりんの事を話した時の彼の反応を思うと、やはり兄を誘う事はないな、とも思う。
あの時は本当に、ひどい拒否反応を示されたのだ。
誘ったりなんてしたら、今度は一体何を言われるものやら予想もつかない。
「あー……。
でも、うちは超遠距離だからココでしかこうやって会えないんよ。」
――うむ。
実際には物理的にと言う以前に、異世界の壁が立ち塞がっているのだが。
「成程。
そりゃ淋しいわなぁ……。」
「うん……まぁねぇ……。」
りりんが深く聞かれたくない雰囲気なのを感じてか、イカ下足君はそれ以上その話題に突っ込んではこなかった。
「それはそれとして。
イカ下足君の奥さんが合流するの、わたしは構わないんだけど、アルは?」
「問題ない。」
「助かるわー!
船に乗るのにもクエがあるらしくて、そこで嫁さん引っかかってるらしいんだわ。」
「船乗るのもクエ必要なのかぁ……。
めんどいなぁ。」
「りりんちゃん、その割にはクエ沢山やってるみたいじゃないの。」
「え、何故にそれを知ってるし?!」
りりんの発言に、イカ下足君は苦笑している。
なんでも、りりんの名前がクエスト受注数のランキングのトップに輝いているのを発見したのだとか。
成程。
そんなものをみてしまっては、りりんがクエストの類を面倒だと言っても苦笑するしかないだろう。
「それより、イカ下足君の息子さんっておいくつ??」
「うちのは今、高校生だわ。」
「思ったより大きい!」
高校生……5年……7年前まで、彼女もその高校生とやらだったような気がする。
小声で彼女に確認をとると、肯定の返事が返ってきた。
と言う事は、イカ下足君には18歳よりも若い子息が居ると言う事か。
私の国はりりんの住んでいる地球世界の日本と言う国よりもずっと人口が少ない。
王都でも10万人程で、それに次ぐ大都市と呼ばれる町でもせいぜい5万人程度だ。
私の町は住民が1万人位で、その他に探索者と呼ばれる人間の出入りがその2~3倍と、彼等相手の商売を行う者達が5千人程と言ったところか。
だから、人口が1万人を超えたら割と大きな都市と言う認識になっている。
また、学ぶ場もまだあまり整備が進んでおらず、人口が1万人を超える町でやっと学校と言う学びの場が用意されているらしい。
その学ぶ期間もあまり長くは無く、一般的には12歳になると働きに出始める。
その為、100年も生きる者が多くは無いと言うのにも関わらず、地球世界での学校とやらに通う年数がやたらと長い事に、初めてりりんから聞いた時には仰天したものだ。
イカ下足君のご子息の話を聞いてその時の事を思い出し、少し懐かしいような気持になる。
私の世界で、そのように長い期間を学ぶ事が許されるのは富裕層か、よほどの才のある者だけなのだ。
その才にしても、見出されずに働きに出ている者も少なくないのではないかと、たまに自らの愛弟子を見ると思う。
彼女は、間違いなく天才の部類だと思うのだが……。
それから、ふと、兄上も18歳になるまでは王都の北にある魔法学院に籍を置いていたんだったな、などと言う事をとめどなく思い出していた。
「アル~?」
「ん?」
「確か、アルの従姉弟もイカ下足君の息子さんと同じ位の年代じゃないっけ?」
「うむ。
一番上の長女が19歳、その下の長男が17歳、次女が15歳で3女が12歳だったはずだ。」
訊ねられ、一人一人顔を思い浮かべながら年齢を上げていく。
一番上の可愛い物好きの従妹、女好きだと女兄弟に槍玉に挙げられている不憫な従弟。
勝気な性格の活発でお喋りな従妹、綺麗好きで掃除が趣味の一番年下の従妹。
どれも、私の可愛い大切な従妹達だ。
「その長男君とウチのが同い年だわ。」
「アルのとこだと、もう働いてるんだよねぇ?」
「早くない?」
「なんか、12歳位から働くのが普通なんだって。」
「へぇ~。
なら、一番下の子も働いてるって事か。」
「今年から私の工房に弟子入りしてきているが、中々の働き者だ。」
それから、港町に入るまでの間それぞれの家族について話しながら歩いた。
思っていたより、ずっと楽しい。
2018/7/1 加筆・修正を行いました




