★隠すから……
りりんの事をからかって笑っていたら、何故か怒った彼女に追いかけまわされた挙句にくすぐり倒された。
やっと解放された時には、笑いすぎで頬と腹筋が痛んだ。
一番、敏感であって欲しいと思う触感は鈍いのに、こういう感覚が鋭敏だというのは理不尽だと思うと同時に、触感が鈍くされているのは故意に行われている事なのだと実感する。
と言う事は、だ。
触れ合った時の感覚が変わる事は無いと言う事で、その事にやはりひどく落胆した。
「折角の笑顔を隠すからいけないのだ☆」
「?」
「そうでなくても、アルってばあんまり表情変わらないんだから。
貴重な笑顔を隠したりしないで?」
笑いすぎで乱れた呼吸を整えていると、馬乗りになったままのりりんが鼻先を合わせてくる。
『エスキモーのキス』か。
ここで行える最大限の愛情表現とも言えるその行為に、沈みかけていた気持ちが浮上する。
私も大概単純だ。
それに、彼女のおねだりのなんと可愛らしいことか。
遠まわしであるものの、りりんが私の表情の変化を気に掛けていると言うのがまた嬉しい。
笑顔が見たいと言うのは中々難易度が高い様にも思えるが、頑張ってみよう。
……いや、意外と彼女と居るだけで勝手に笑みが浮かぶかもしれない。
私の胸の上に寝そべる様にして、顔を覗き込んできているりりんを引き寄せて、私からも『エスキモーのキス』を贈ると彼女の頬が薄く染まった。
「ねーねー。」
「ん?」
「なんか、採集ポイントがある気がするんだけど?」
「うむ。」
レンの実――こちらではミカンと言うらしい――をもいで、皮を剥いているとりりんが私の服の裾をツンツンと引っ張る。
実は先程から、果実園のあちこちにそういった採集ポイントらしいものがちらほらと散見されていたのだが、採集しても良いものかと悩んでいたものだ。
彼女の指差す辺りに私の採集できるものは無いようだが、少し下の方には採集ポイントを示す光が見えている。
「私の方はもう少し下だな。」
指差して見せると、彼女は少し唇を尖らせ思案顔になった。
どうも、考えごとをする時の癖らしい。
「……採ってみちゃおうか?」
「ふむ?」
「スキル使うやつは果物狩りとは別計算かもしれないし。
採ったやつをお持ち帰りしていいか、出口で聞く方向で。」
「成程。」
彼女の言葉に、それでもいいかと頷いて採集ポイントに手を伸ばす。
私の方は木の根元。
彼女の方は木肌が採集ポイントらしい。
ポイントに手を伸ばすと、少し柔らかい感触。
手の中の物を確認してみると、茸が採れていた。
彼女の方を見ると、そちらは人差し指の先位のサイズの小さな茶色っぽい実。
「おおおお。」
りりんは喜びの声を上げると、それを口に放り込んだ。
「甘ーい! おいしー!!」
頬を両手で挟んで、小さく跳ねる。
上機嫌で尻尾を振りながら採れるだけとると、私にもそれを勧めてきた。
「サルナシって言うの。
おいしーよー?」
「サルナシ?」
「このまま食べれる。
柔らかいからね?」
彼女の指に挟まれたソレを、少し身をかがめて直に口にすると微かな酸味と強い甘みが口中に広がる。
甘味は強めだが、しつこくなくいくらでも食べられそうだ。
「どぉ?」
「大変美味だ。」
私の返事にりりんは満面の笑みを浮かべて、他の採集ポイントが無いかと辺りを見回した。
「採集出来るモノの方が美味しいとか、ちょっと詐欺っぽい―!」
そう、文句を口にしながらも、口元が緩んでいてその言葉を裏切っている。
前にやっていたゲームでも、ひたすらツルハシを振って鉱石を採る作業にハマっていた事もある。
きっと、単純にこういった作業的な事が好きなのだろう。
楽しげに木から木へと採集して歩く彼女の後を追いながら、私もキノコ採りをする。
減った体力は、果物狩りで食べ放題だから、それで十分補充できるだろう。
いくらでも食べられると言うのは、随分と便利なモノだ。
現実でもこれ位食べられたら、もう少し人生が楽しいのかもしれない。
ホクホク顔のりりんと手を繋いでシュタール村からの帰路につきながら、今日の収穫物を確認する。
果実園での採集物は、本来ならば木の世話をする時に排除する雑草扱いだったらしい。
どうすればいいかと訊ねると「どうぞどうぞ! 捨てるしかないモノですからお持ち下さい!」と、逆に喜ばれた。
採れたのは薬材採集のスキルではナオリ茸のみが31個。
白くてフワフワしたキノコで、説明文によると薬の材料にする他に食材としても使えるらしい。
りりんの方は食材採集でサルナシだけが採れたらしい。
こちらは食材アイテムなのだそうだ。
スキルレベルと同じ数が一度の採取で手に入ったそうで、80個も採れたと喜んでいた。
ついでに、この採集で食材採集のレベルが上がったのだと二重の意味で喜んでいる。
「これで、きっとケチらずに採集クエストが請けられる……ハズ!」
彼女はそう呟くが、自分で口にしながらなんだか自信がなさそうだ。
確かに採集品を納品できるかどうかは疑問だな、と私も内心苦笑する。
彼女はリスの様に巣に素材を貯め込む習性があるのだ。
だから、やはり素材を放出するのがもったいないと言って、結局は採集クエストを請ける事はできないのではないかと思う。
その時の彼女が上げそうな言葉を想像したらついつい笑いがこみあげてきた。
「なになに?
なーに笑ってるの~???」
「いや、なんでも?」
思わず噴き出しかけた私の様子に、何か面白い事があったのかと目を煌めかせる彼女を抱きしめる。
笑いの発作が治まるまでの間そうして、彼女の髪に顔を埋め、彼女の匂いを堪能する。
――匂いも、再現されているのだろうか?
一瞬だけ、そんなどうでもいい事が頭を過って行った。
2018/6/13 加筆・修正を行いました




