★探索者ギルド
2017/2/3 クエスト名の修正を行いました。
最初の町イスブルクは、中世ヨーロッパの田舎の大都市という触れ込みの町だ。
正直、『中世』と言うのがどの程度の文化過程なのかが分からないのだが、建物は全て石造りで丈夫そうではあるものの、道は舗装されておらず土がむき出しになっている。
建物の感じからすると、弟子を雇い入れる時に旅をした道程の町とあまり変わらないようだ。
ただ、あちらの方は大きな通りには石畳が敷かれていたかもしれない。
大差ないと言えばそう言える程度の違いだ。
ところで、このゲームを始めた者は皆、最初は同じ場所に現れるらしい。
私が周りを見回している間に、1人、また1人と周囲に人が増えている。
現れた人は、一様に目の前にある建物――看板に『探索者ギルド』と書かれているの――中へと入っていく。
――成程。
最初の職業に合わせた場所から始まるという事か。
出現地点はどうも初期職の仕事を請ける場所という事になっているらしいと、周りの人間の動きから納得すると、私も彼等に倣って『探索者ギルド』の扉をくぐる事にした。
中は、ところどころにある採光用の小さな窓から差し込む光と、要所要所に設置されたランプによって必要最低限の明るさを維持している。
はっきりと言うなら、薄暗い。
扉を押し開けたまま中を見回していると、他のプレイヤーから怒声を浴びせかけられた。
「おい、あんた。入るならさっさと入ってくれ。後が詰まってんだ!」
「すまない。」
少し横に避けると、その男性プレイヤーは私の方を睨みつけ、舌打ちをしながら通り抜けていく。
――そんなに急いでも、仕方ないだろうに……。
ゲームは、遊びの1ジャンルだと彼女は言っていた。
遊びと言うものは、私の中では楽しむためのモノだと認識している。
私にとっての現実世界では、それは散歩であったり他愛のない世間話だったりだが、そのあたりはおそらく地球でも大差ないのではないかと思っていたのだが、どうもそうでもないらしい。
なにせ遊びに|疑似異世界《こんなに大掛かりなモノ》を用意できるのだ。
それ自体も驚きだったが、どうやらその『遊び』の中で半ば生活しているような人物もいるらしい。
きっと、今の男性プレイヤーもそういった人物の一人なのかもしれない。
価値観の違いというのか、文化の違いと言うのかはよく分からないが、逆に『遊び』の中で生活できると言うのは少し羨ましくもある……か?
とはいえ、親の稼ぎで養ってもらいながらソレばかりをしているという人物だと論外だとは思う。
そうはいっても、私には関係のない事だ。
頭を振ってどうでもいい考察を振り払うと、私は『探索者ギルド』の中へと足を踏み入れた。
薄暗い探索者ギルドの中は、サービス開始日であるせいもあってかひどく混み合っている。
この中に入って、行列の後ろに並ばなければならないのかと思うと少々辟易する。
地球世界の中でも、彼女と同じ日本人と言う民族は良く並ぶ人種なのだそうだ。
実際、どのゲームをやっても何かしらの理由をつけては並んでいたのを思い出す。
もしかすると、このゲームでも『~~討伐@1000!』と言うのに並ばないといけないのだろうか?
アレは少し面倒だったなと思い返しつつ、出来ればそう言った行列に並ばずに済む事を心の中で祈る。
祈ったところで、彼女にそうしようと言われたら喜んで並ぶのだが。
探索者ギルドの中は外から見たよりも随分と広い。
並んでいる人数も多かったが、受付窓口もそれ相応の数があったお陰で思いの外早く私の番が回ってきてくれた。
「はじめまして。探索者ギルドへようこそ!」
定番と言える言葉を私に投げかけるのは、妙齢の耳長族……この世界ではエルフ?と言うらしい種族の女性で、少しキツメの美女だ。
面白い事に、他の窓口を見ても種族は違えど容姿は整っている。
これもゲームクオリティと言うヤツなのだろうか?
「登録などはどうしたらいいのかね?」
「はい。
こちらの登録証へ必要事項の記入をお願いいたします。」
私の問いに、彼女は営業用の笑みを浮かべながら『ギルド証』と書かれたカードと共に書類を差し出す。
一緒に渡されたペンは、何故かボールペンと言う至極便利そうな筆記用具で、私の世界に近いイメージのこの世界にはちょっと似つかわしくない様に思えた。
ここはきっと、ご都合主義と言うヤツなのだろうと思う事にして、ボールペンを手に取る。
この記入、私は字が書けるかと少し不安だったのだが、この行為自体は『ソレらしさ』を出す為の演出でしかなかったらしく、ペンをギルド証に近づけただけで必要事項が勝手に現れた。
――助かった。
書けなかったら少し、恥ずかしい思いをしたかもしれない。
地球世界と言うのは識字率がひどく高いそうで、ひらがなやカタカナならば幼稚園児――4~6歳位の子供でも書けるものらしい。
読む事自体は、もっと前から出来る子供も居るそうだ。
なので、どう見ても成人している私が書けなかったら、きっとひどく恥かしい。
カードを確認した受付嬢の言葉に耳を傾けながら、心の中で胸を撫で下ろした。
「登録したての方には、町の外で探索スキルを使って入手した物を10個持ってきていただきます。」
どうやら、登録と同時にチュートリアル的なモノが始まるらしい。
「探索スキルは持っているだけで使用可能なスキルです。
このスキルがあれば、入手できる物がある場所が光って見えます。
その場所に、手か採集道具を近付けるだけでアイテムを入手する事が出来ます。」
「採集道具というのは?」
探索スキルと言うのは、アイテムを採集する用の技能らしい。
やはり、生産系をこよなく愛する彼女の為にはこの選択肢で間違っていなかったようだ。
私は心の中でガッツポーズを取りつつ、受付嬢に詳しい説明を求める。
「食材採集でしたら、鎌。
木材でしたら斧などになります。
ただ、高価な消耗品なので最初の内は素手で探索される事をお勧めします。
道具を使用すると、採集品の質が良くなります。」
「成程。
入手しようと思った時にはどこに行けばいいのかね?」
「鍛冶屋に行かれれば、大概の採集道具は手に入ります。」
「了解した。」
細かい問いにも嫌な顔一つせずに答えるのは、流石プロというものなのか?
それとも、えーあいと言う疑似人格だからだろうか?
「他に何かございますか?」
「いや、特にない。」
「それでは、採集品をお持ちいただければ報酬もお支払いできます。
是非やって見て下さい。」
受付嬢がそう言って頭を下げると同時に、目の前に『クエストウィンドウ』とやらが開いた。
☆探索者ギルドクエスト☆
採集を使ってみよう! 報酬 200ゴールド / 経験値20
受注しますか? はい・いいえ
私はそのクエストを受注すると、先に始めている筈の彼女を探す為に町中へと足を踏み出した。
2018/5/6 加筆・修正を行いました。