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☆ラビットソテー

 調理施設に入ると、中はいくつものブースに区切られてる。

そのブースの壁は真っ白な漆喰で塗られた空間で、扉はない。

奥行きは2メートルと少しくらいで、大人が二人何とかすれ違える程度のスペースの片面に、調理台・シンク・三口コンロが設置されている。

まぁ、身近なところで想像するなら、会社の給湯室とか?

え?

まだ社会人じゃないって??

なら、普通に家の台所でもいいかな。

それでも大差ないし。


 ブースの埋まり具合を見る限り、他の利用者もちらほら居る。

でも、まだゲーム内の昼時なのもあってかその人数は多くは無さそうだ。

ゲーム内で夜になると少しモンスターが凶暴化するから、夜の間は結構混んでるんだよね。

アルにその事も説明しつつ、わたしは他の人から離れ気味のブースを確保した。

ブースの中は狭いけど、まぁ何とか二人で作業は出来るはず。


「これは何かね?」

「それはね、ここを押すと水が出てくるの。

 水出る量はこうやって調節……。」


 わたしが、水道の水を出したり止めたり、シャワーにしたりと色々やって見せると、アルは目を輝かせてそれを弄り始めた。

彼のところだと、水道に類する物はないのか、それとも形が違うのか?

魔法で出すのかもしれない。

こう、広げた手のひらからジャーっと?

咄嗟に、アルが足元をびしょぬれにして、耳を垂らしている姿が思い浮かんだ。

いやいや。

これはないないだな。

そんなおマヌケは晒さないだろう。

多分。

なにはともあれ、耳をピコピコさせながら目を輝かせて蛇口を弄っている彼がえらく可愛いので、わたしは迷わず彼の首に抱き着いた。

驚いて硬直した彼に頬擦りしてから手を離すと、彼の耳が真っ赤だ。



――うわ。

  なにこの生物!

  めちゃくちゃ可愛いんだけど?!



 思わず、手をワキワキさせて近付くと、怯んだ様子を見せる。



――めちゃくちゃ可愛い!!!



 もう少しやりたい気分になったけど、引かれるのは悲しいからこの辺で止めとこう。

あと一回位は抱きつきたい気持ちはあるけど、仕方ない。


「アル、冗談冗談!」

「そ、そうかね……?」



――男の子って、追い掛けると引くって噂は聞くけど本当なんだなぁ……。

  やりすぎないように気を付けないと。



 ケラケラ笑いながら誤魔化すと、少し残念そうに彼が呟くので結局抱きついてしまった。

今度は、彼の腕が背中に回されてきたから、急な事にビックリしただけだったのかと納得した。

次の時は、『抱きついて良い』か聞いてからにしよう。

……なんとなく、聞き忘れる気がするケド。


 じゃれ合っているとあっという間に時間が過ぎちゃうから、残念だけどいちゃつくのはこの辺にして、作業に取り掛かる事にする。


「アル。

 私はちょっとオリジナルレシピに挑戦しようと思うんだけど、そっちはどうする?」

「ふむ……。

 私は最初は今貰ったレシピを試してみる事にしよう。」

「了解。

 道具はこの辺の引きだしに入ってるよ。」



 勝手知ったるなんとやら。

アルと合流する前に何度か使っているから、道具類のある場所はちゃんとチェック済みだ。

調理台の下の引き出しをあちこち開けて見せる。

中身をサッと確認すると、アルは納得した様に頷く。

それから彼が最初に取りだしたのはキッチンバサミ。

アルは何が楽しいのか、ソレで空を切って遊んでる。

暫くそうしていて、今度はおもむろに他の引き出しを開けるとトングとカチャカチャ。

妙に楽しげに耳を揺らすその姿が可愛くて、思わず時間がすぎるのを忘れそうになる。


「……作業は始めないのかね?」

「え?

 あ、ああ……。

 そういや、時間制だったっけ。」


 危ない危ない。

危うく、アルを眺めているだけでスペースの貸し出し時間を使い切っちゃうとこだった……。

惚けていた気持ちを切り替えて、わたしは自分の作業に取り掛からせて貰う事にした。

確かに、いつまでもアルばっかり見てても仕方ないしね……。


 まずは包丁を引き出しから取り出して、自分で切れる極薄状態、ちょい厚め、5ミリ厚くらいの3種類に取り出したウサギ肉を削いで、フライパンで軽く焼く。

調理スキルの1LVで出来るようになるのは、『下ごしらえ』と『焼き物』。

そのお陰もあるのか、ある程度は自動的に体が動いてくれる。

ただ、スキルに頼っていると焦げはしないけど、焼すぎ一歩手前位まで加熱しちゃうから、出来上がったものは食べれるギリギリって状態になるんだよね。

なので、わたしはスキルに頼らず自分の経験をもとに焼き加減の調節をする事にしてる。

こう、モノによっては少し焦げ目がついたほうがいいのもあるじゃない?

その逆もあるけどね。

今回は、スキルで焼き上げた物を、薄い物から順に味見していってみる。



――ふむ。

  切る時の手ごたえから想像はついてたけど……。



 削ぎ切りにするときの手ごたえで想像してた通り、ちょっとこのお肉は固くって、極薄状態のモノ以外はある程度手を加えないと厳しそうだ。

お次は、さっき手に入れたばっかりのレシピを使ってみようか。

『ラビットソテー』って、まんま今使ってるウサギを使った焼きものだよねぇ?


☆ラビットソテー☆

材料 ラビット肉1kg / 油 適量 / 塩・砂糖 5gづつ / 水 500ml



――おおう。

  レシピの内容がコックパッドみたいだ!



 笑いを噛み殺しつつ、書かれている通りの手順で作業を進める。

まずは水の中に塩と砂糖を5gづつ投入!

ついでウサギ肉を調味液の中へ付け込んで『下ごしらえ』。

『下ごしらえ』は皮むきや下味付けを一瞬で終らせる素敵スキル。

リアルでも欲しい。

下味が付いた肉を取り出して、100g位づつ――10枚――に切り分けて表面の水気をふき取る。

水気をふき取るのと同時進行でフライパンに油を引いて火に掛けておくと、丁度全部の水分を取り終わった頃に、肉を投入するのに良い温度だ。

すかさず下味のついた肉を投入♪

ジュワッと音が立って、肉の焼けていく香りが立ち上る。



――う~ん♪

  いいかんじ☆



 フライパンを揺すりながら、肉から浸み出してくる油を掬って回し掛け。

そうやって、上になってる面にもまんべんなく熱を通す。

ひっくり返してまた、同じようにしていくと良い感じに焼き上がってくる。

最後に強火にして、両面に焦げ目をつけると出来上がり!


「こんがり・ふんわり焼き上がりました~♪」


 2枚分を備え付けのお皿に1口サイズに切ってから葉皿に盛りつける。

これは、今からアルと二人で味見と称して食べる分。

残りの8枚は行商用として、同様に葉皿に載せてバックパックに仕舞いこむ。

横で淹れ終わったハーブティを水筒に詰める作業をしていたアルも、さっきからウサギソテーが気になっていたらしい。

視線がチラチラ。

耳がピコピョコと忙しく上下している。



――その耳、齧っていいですか……?



☆ラビットソテー☆

アイテムランク:G 回復体力:10

最低価格30G


「アル、まずは実食いってみよ~♪」

「うむ。

 では、ハーブティも一緒にどうかね?」

「喜んで♪」


☆ハーブティ☆

アイテムランク:H 回復精神力:5

最低価格20G


「おお~! 精神力回復アイテム……!」

「君の方は、アイテムランクが高いのだな。」

「お、ほんとだ。

 体力も10回復するね。」

「次はそのランクを目指すとしよう。」

「色々と、先が楽しみだねぇ~♪」


 二人で言葉を交わしながら壁に寄り掛かり、早速ハーブティの味見をしてみる。

備え付けのカップに入れた淡い緑色のお茶は、生ハーブを使っている筈なのにもかかわらずなんだか粉っぽい薬の匂いが立ち昇っていた。



――これ、苦手な人が結構いそうだなぁ。



 味はまぁ、白湯よりずっと美味しい気はするものの、ミントっぽい清涼感の中に漢方薬っぽい香りが混じっていて物凄く好き嫌いが分かれそう。

私は嫌いでもないけど、何か飲みやすくする工夫を入れた方がいいかも。


「ふむ……。

 改良は必要そうだな。」

「作る時に、砂糖でも入れてみたらどうかねぇ?」

「試してみる事にしよう。」


 アルも、口にしたハーブティを片手に片耳をピョコピョコさせながら考え込む。

彼的にも少し、お味に問題があった模様。

甘味をプラスしても焼け石に水かもしれないけど、液体ガムを噛んでるつもりになって貰えば……?みたいな??

施設に常備されている調味料は、使い放題だから活用しないとモッタイナイしね。

砂糖と塩は施設代のうちなのだ。


 ハーブティを飲み干すと、次は私のウサギソテーの皿を手に取って、備え付けのフォークを使って口に運ぶ。

このフォーク、めちゃくちゃ外に持って行きたいけど、荷物に忍ばせても消えちゃうんだよねー。

この生産施設内のみの限定アイテムとか、滅茶苦茶残念すぎる。

でも、アイテム枠をフォーク1本で潰すのもナンでアレだからいいのか……?

口に入れたソテーは、外はカリっと、中はジューシーに焼き上がっていて、調味料が塩だけとは思えない位に美味しい。

焼き上がってから、一口サイズに切ったお陰もあるのかな?

さっき味見してみた、かったーーーーーーいお肉だとは思えない位に柔らかい。

ブラインなんちゃらって言うんだっけ?

ローストチキンを焼いたりする時の方法に似てるから、何か適切なハーブでも調味液に混ぜたらもっと格が上がりそうな気がする。


「美味しい。」


 アルにも好評なようで、彼もせっせとソテーを口に運んであっという間に食べてしまった。


「取り敢えず、アレンジから始めた方が良さそうだねぇ。」

「うむ。

 まずは今ある材料分を作って、行商してしまってからという事にするかね?」

「そうしよっか。」


 当座の方針を決めると、2人で肩を並べてせっせと商品を作り始めた。

とはいっても、私のは材料が多すぎるからアルの作業が終わったらそこまでにしとこう。

彼がゲーム内に居られる時間は短い事だし、ぼーっとわたしが作っているのを眺めているだけなんて流石につまらないだろうから。

2018/5/18 加筆・修正を行いました。

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