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昔を思う


 浅井秋一と知り合ったのは、明乃が小学二年生の頃だ。

 今でこそ明乃はパッと見は普通の女の子と言えるのだが、幼い頃の彼女は勝ち気で負けず嫌いで乱暴者で、そしてどうしようもない激情家であった。特に何かを強制されるのが大嫌いで、上から押さえつけられようものなら相手が教師だろうと両親だろうと高学年の男子だろうと全力で抗うような、そんな起伏の激しい少女だった。

『女の子らしくしなさい』なんて一言でも言われようものなら烈火の如く怒り散らし鋏で自分の髪の毛を短く切り刻んでしまう。ひとたび喧嘩となれば落ちてる石だろうが椅子だろうが机だろうが躊躇なく振り上げて武器にする。一人称は『オレ』と呼び、常に何かに抗っていないと気が済まない。ただ、年下には優しかったし取扱いさえ間違わなければ癇癪を起すことも少なかったのだが、その気性の荒さと面倒臭さのせいで周囲から一線引かれてしまうのは、まぁ仕方のない事だった。

 その日、明乃は人のあまり通らない河川敷で、一人ベソをかいていた。

 夕方で、紅茶に溶けた角砂糖みたいなオレンジ色の太陽が、しゃがんだ明乃の影を長く伸ばしていたのを覚えている。

 自分でジャキジャキに切ってしまった長い髪は男の子みたいな短髪に切りそろえられ、少年のような服装ばかりを好んだ明乃はとても女の子には見えなかった。

 泣いていた理由は忘れてしまったが、確かとんでもなく下らない事だったと思う。クラスの男子が髪の短い明乃を指して『男女』とからかったとか、女の子らしくないということを教師か両親に咎められたとか、そんな小さな事だ。

 そんな事はしょっちゅうだったのに、いつも大して気にも留めない事だったのに、何故かその日だけはは無性に悔しかったのだけは覚えている。

 何がそんなに悔しいのかは解らないが、とにかく悔しくて悔しくて仕方がなくて、誰もいない場所を選んで一人で泣いていたそんな日だ。

「おい、ンな所で縮こまってると邪魔くさいぞ。あと泣くなら煩いから家帰って泣けや」

 ぬるり、と背後から影が現れた。

 声変わりしたての、少しアルトがかった低い声。

 明乃が涙濡れの目で睨みつけると、そこに立っていたのは全世界の退屈を詰め込まれたような顔をした男だった。その人こそ、既に町内で有名になっていた不良少年の浅井秋一だ。

「泣いてねーよ」

 涙声で、明乃は悪態をついた。

「嘘つけ。鼻水出てるぞ。きったねー顔晒してる暇あったらとっとと帰れやクソガキ」

「ガキじゃねぇ!! 通るなら後ろ通れば良いだろ!! 邪魔してねぇし目ぇ腐ってんじゃねぇのか!!」

 浅井が怖いお兄さんだというのは親の話す噂話で知ってはいたが、その時の明乃にはそんなことはどうでも良かった。小学生でも容赦なく殴られるかもしれないなんて微塵も頭に浮かんでいなかった。後先も考えず、怖いもの知らずの小動物が威嚇するように喉を鳴らして啖呵を切ると、退屈そうな少年はさも詰まらなさそうにため息をついただけだった。

 その大人ぶった態度にも苛立った明乃がさらに続ける。

「大体な、学校にも行かないでブラブラしてるような不良と喋るとこっちまでアホになるって母さんが言ってたぞ。お前みたいな不良と喋る事なんかなんもねぇ! あっち行けやボケ!!」

 そこまで言ったところで、癇癪玉みたいな少女の視界は天と地がくるりと反転した。襟首を掴まれて川とは反対方向の芝生に投げ飛ばされたと分かった時には、浅井はのったりした動きで明乃を見下ろしていた。安い染料のせいで染ムラだらけの虎猫みたいな髪の毛の、色が薄い所が太陽に反射してきらきら光っていた。

「いてぇ!!」

「痛くねぇよ。芝生は柔らかい」

 浅井が、心底明乃を馬鹿にするみたいに口の端っこで笑っている。

 ますます腹が立った。

 大きな相手にはまず武器だ。草の中に落ちていた石ころをぶつけてやろうと、拳くらいの石を手探りで掴もうとした。が、指先の触れる直前で、浅井が石を蹴り飛ばした。

「石を投げるなら今度はお前、本気で蹴るからね」

 投げかけられた熱の無い言葉は、嘘ではないような気がした。黒くてゴッツイその靴で蹴られるのはとんでもなく痛そうなので、ギリリと歯噛みした明乃は仕方なく、わぁーー!! だか、ぎゃーー!! だか大声で叫びながら自分の身長の二倍はありそうな浅井の、その足に向かって拳を振り上げて殴りかかっていた。

 もう一度ブン投げられた。

 二回目は、殴りかかるついでにジーンズの上から思いっきり脛に噛み付いてやったが、浅井は痛みを感じないように片腕で明乃の首根っこを掴んで無理矢理引きはがすとまたブン投げた。

 普段から喧嘩ばっかりしている年上の中学生に、小学生の女の子が敵うはずはないのだが、それでも立ち向かわずにはいられない。

 明乃はとにかく相手を「参った」と言わせたかった。相手が中学生だろうが隣のクラスのガキ大将だろうが、とにかくゴネて暴れて何が何でも「参った」を言わせたらこちらの勝ちなのだ。

 四度目か五度目に襟首を掴まれたとき、手の甲を思いっきり引っ掻いてやった。六度目には飛び掛かって目潰しを試みた。八度目くらいで金的を食らわせようとして失敗し、十度目くらいに芝生の上で思いっきり首根っこを押さえつけられた。手負いの獣みたいに自分を掴む手首を引っ掻いて、大暴れしながら浅井を睨む明乃を、彼は冷めた目で黙って見下ろしていた。

 どれほどそうしていただろう。少年の手の中で思いつくさま暴れたと思う。

 そのうち暴れ疲れた明乃が諦めて、ぜぇぜぇ息をつきながら体の力を抜くと、色の無い目をした年上の少年は明乃を傷だらけの片腕で抑え込んだままぽつりと漏らした。

「たまに、電線とかから透明なヒモが降ってくるだろう?」

 なんだそりゃ。と明乃は思った。

 しかし、浅井は明乃から何か反応を待つでもなく無感情な言葉を続けた。

「避けりゃ良いんだ。けど、何千本も降ってきたりするとそうもいかないよな。沢山降ってきて、うっかり触ったりすると頭の中にわーーーーーーってな、分裂したそれが皮膚から潜り込んでくるだろう。そうすると、周りが一斉に俺を非難しはじめるんだ」

 そこでようやっと浅井は明乃を抑え込んでいた手を放し、引っ掻かれ過ぎて血の滲む腕を組んでその場に座りこむ。語る言葉に興奮は無く、ただ眉根を寄せて、ちょっとした悩みを語る時のような口調であった。

「馬鹿とかアホとか。それくらいはまだ我慢が出来るんだが永遠に幸せになれないとか、生まれて来たのは間違いだったと言われるとちょっと辛い。……お前も今、俺のそういう時に似てるんじゃないかと思うんだが、やっぱりあのヒモが原因なのか?」

「なんじゃそら!? お前頭おかしいのか!?」

 もそもそ芝生から上体を起こした明乃が、涙と鼻水と擦り傷だらけの頬を土で汚れた袖で擦りながら吠える。と、浅井は少し寂しそうな、難しい事を考えるような、複雑な顔をして後ろ頭をガシガシと掻いた。

「見えないのか?」

「んなもんあるわけねぇだろ!?」

「……それならまぁ、良いんだ」

 その時の浅井は、いろんな気持ちがないまぜになった、繊細な表情をしていた。例えば、クラスに一人は居る病弱だけど誰よりも物知りな子みたいな。明乃には何だか噂に聞いたような親でも手に負えない不良少年とはちょっと違う気がして、そこで初めてイライラとした気持ちよりも何か言いようのないもやもやした変な気持ちが頭をもたげた。

 この人は、噂話で聞くようなただの不良では無いのではないか?

「まぁとにかくさ……もう遅いから、帰ったほうがいいぞ」

 まじまじと浅井を見ていて気付かなかった。

 浅井に言われて気が付けば、最初は沈みかけだった夕日はとうに空の彼方へ沈んでおり、太陽の反対側は濃い藍色に変っていた。雲の無い半分の夜空には、一番星が控えめに輝きはじめている。

「帰りたくない……」

「帰れ」

 俯いて、ふてくされたように言う明乃に浅井は切って捨てるように言い放つ。

「やだ。帰らない」

 それでも座り込んだまま駄々をこねるように首を振ると、浅井は大きな溜息をついて小学二年生の明乃の小さな手を掴んだ。そのまま、浅井が立ち上がると同時に引っ張られた明乃も立たされる。

「じゃあ、俺が一緒に行ってやるから帰れ」

 自分よりも大きな、引っ掻き傷だらけの骨ばった手の甲に滲む血が何だかとても痛そうで、暴れている最中は無我夢中だったとは言え明乃は少しだけ悪い事したなと思った。それから、傷だらけの手を両手で掴んでぎゅうっと握り返した。

 暗い河川敷を帰る途中、浅井は始終無言だったが、玄関に入る寸前に一度だけ明乃の男の子みたいな頭をぐりぐりと乱暴に撫でた。

 あの時、浅井が何を言いたかったのかは解らないが、励まされた事だけは解った気がした。



 ★   ★   ★



 自分が女の子扱いを強要されても必要以上に怒らなくなったのは何時の頃だろうか?

 畳の上で眠ってしまった浅井に毛布をかけてやりながら、明乃はぼんやりと考えた。

 この布団屋に来るのはご近所周辺に気取られないよういろいろと気を使わなければならないけれど、今日も明乃は来てしまった。

 布団屋のおじさんは息子に襲われた時に腰を打ってしまったとかで入院してしまい、おばさんは貸布団の配送に行っている。親から仕事はするな、とにかく家から出るなと言われたらしい浅井は、女に寝取られた彼氏が謎の卵の電波で捕まるのを一人で待っているそうな。

「木佐さんは、すごく優しい人なんだ。ご飯とか、俺は作れないけど作ってくれたりしたんだよ。あと俺が悲しいとき傍に居てくれたし。青いミミズが天井から喋っても馬鹿にしなかったし、俺を気味悪そうにもしなかった。木佐さんは凄い人なんだ」

 起きていればいつまでもそうやって木佐なる人物を楽しそうに、時に意味不明に誉めそやしている浅井は、何というか……雌だと思う。見た目は男なのだが、どう頑張っても滲み出てくる夢見る乙女のような独特の雌臭さは、あの時、小さかった明乃を芝生に投げ飛ばしまくった人物と同じ人間だとは思えなかった。

「なーんでこうなっちゃったかなー」

 昔はもう少し格好良かったはずのになー……とがっくりと肩を落としながら、明乃は胎児のように丸まって眠る浅井の染ムラだらけの虎猫頭を撫でてやる。くすぐったかったのか、妙に整った生白い顔と、長い睫、あと薄い唇が、呼吸に合わせて一瞬ふるふると僅かに震えた。その様子が少しだけ可愛いと思う。

 夜に木佐さんがくるかもしれないから待ってなきゃ。という本人の証言を信用するならば、きっと深夜まで起きているのだろう。夜もよく眠らず、一途にコイビトを待ち続ける姿というのは例えホモでも健気なモノなんじゃなかろうか。

 髪を撫でたついでにように、明乃は浅井の袖を捲って腕の静脈と鼻の粘膜をこっそりと確認した。鼻の孔は暗くてよく見えなかったが肉の無い腕には、青い静脈がすーっと流れるように通っていて、特におかしい所は何も無かった。

 昔から言動はちょっと変な所はあったのだが、もしも噂と違い、浅井秋一が都会で何か良からぬ薬でもやっていて恋人も何もかも全部幻覚だったらどうしようと思っていたのだ。しかし、今のところ鼻をずびずびさせるとか、注射器を持っているとか、そういう悪い物をやっている気配は多分無い。まぁ、このご近所の目が厳しい界隈で警戒もせずに今より更に妙な動きをしようものならすぐに広まってしまうのだが。

 そろそろ帰ろうかな、と思ったとき、毛布の中から「むぅ」と不機嫌そうな声が聞こえた。

「あ、ごめん。俺寝てた?」

 ごしごしと目を擦りながら浅井が体を起こした。

「良いよー。私もう帰るし、寝てていいよ」

「木佐さん、来た?」

「来てないよー」

 明乃が立ち上がろうとすると浅井がちょいちょいと手招きする。何だろうと思って手招きされるままに近づくと、またキスされた。

「卵の追加補充」

 固まる明乃に、眠そうな目でへにょと笑う浅井はどう頑張ってもあの全世界の退屈を詰め込まれたような少年とは似ても似つかなかった。が、なまじ綺麗系の顔のせいか、緩く弧を描く薄い唇から見え隠れする舌に、何故かドキドキしてしまう。

 自分が可愛いのを知っている女の子は、ここぞと言うとき一番可愛く見える仕草をするらしい。

 それと同じように、果たして浅井はこれをワザとやっているのだろうか?

「……ずっと疑問に思ってたけど、卵って何なのさ」

 未だに早鐘を打つ心臓。

 頬が熱い。妙な気分を追い払うように未だ眠たげな浅井に聞けば、彼は思ったよりもはっきりとした口調で「木佐さんに貰った」と答えた。

「卵、あるだろ。鳥のとは違う魚か虫のみたいに小さい奴。産み付けられたんだ。俺はこれを出来る限り孵してやりたいと思っているんだけど、一人じゃ孵らないらしい。木佐さんが居ればこれらも孵ると思ってるんだけどな。あ、木佐さんが帰ってきたら明乃ちゃんの卵もちゃんと返してもらうから大丈夫だよ」

「あ、うん……」

 何が大丈夫なのかよく解らないが、浅井の中ではそういう事になっているらしい。

「何が生まれるんだかは俺も解らないけど、電波に弱いんだよな。携帯とか持つと一日くらいで焼け死ぬんだ。でも親が来ると解るんだろうな。木佐さんが近いと電波で教えてくれるんだよ。やっぱり親子だからなのかな。俺が孵してやったら、一応俺も親ってことになるのかな。卵を孵すだけだけど、親って言うのかな。明乃ちゃんはどう思う?」

 自分で話を振っておいて身勝手なものだけれど、嬉しそうに木佐の事を語る浅井を見ているうちに、頬の熱さも胸の高鳴りも消えて他人の惚気話を聞かされているような、もやもやとイライラがない交ぜになった気持ちになってきた。

「さぁ、でも私は携帯を使うから、貰った分の卵はきっと死なせてるかもしれないね」

 なので半分八つ当たり、半分悔し紛れにわざと意地悪な答えを返しても、浅井は嬉しそうな顔を崩さなかった。

「大丈夫。卵はまだ沢山あるから。木佐さんを見つけてくれれば生まれるんだと思う。そしたらきっと死んだ子も浮かばれると思うんだ」

 幸せそうに自分を捨てた人間の話をして笑う青年を、明乃は不思議と見ていられなくなった。

 浅井がおかしいのは知っている。だから仕方がないのもまぁ解る。しかし何故だかは解らないけど、非常に悔しい上に腹立たしい。

「じゃあ、そろそろ帰るね」

 それ以上もやもやするのが嫌で明乃は立ち上がる。そそくさと帰ろうとすると「待って」と呼び止められた。

「明乃ちゃん、明日も来る?」

 熱っぽく、潤んだ目で見られているような気がした。

 それは、他人に向けられた情熱だったのかもしれない。実際は熱っぽくもなければ目も潤んでもいないのかもしれない。が、どこか色っぽく、懇願するような切なげな表情を見てしまった明乃は何故か「うん」と頷く以外に選択肢が見つからなかった。



 ★   ★   ★



「オレは女じゃなくて男に生まれるべきだったと思うんだよな」

 浅井の部屋。四畳半の畳の上で寝転んで格闘系の少年漫画を読んでいた小学二年生の明乃が文句を言うように口をとがらせると、横で同じシリーズの漫画を胡坐をかいて読んでいた浅井は顔を上げる。

 河川敷で会って以来、明乃は度々こうして浅井の部屋に遊びに来ていた。浅井は時たま変な言動をするけれど、それさえ慣れてしまえばそこらの大人よりも話の通じる少年だったと思う。特に、何かをしろとかあれをやるなこれをやれと強要しないのがとても良い。

「そうか?」

「そうだよ!! そしたらオレもこういう主人公になれたかもしれないだろ? もっと修行して強くなって、最強の男の中の男になれるかもしんねーだろ!?」

 しゅっしゅっと空中にパンチを繰り出す明乃の髪の毛は、河川敷で泣いていた頃より少し伸びてきているところだった。

「女の中の女じゃダメなのか?」

「ダメだろ。あんな口ばっかで弱すぎる生き物」

 吐き捨てるように言った明乃は、既に漫画の世界に戻っていた浅井の膝の上にどしんと頭から飛び乗った。それから浅井の持っている漫画を取り上げて畳に放り投げると、薄く筋肉のついた腹に顔を押し当ててぎゅうぎゅう腰にしがみついた。浅井は勝手に漫画を読んでも怒らないし、抱きついても飛びついても嫌がらないのを知っている。

「何をする」

「オレは兄ちゃんみたいに強くてカッコよくなりてぇ。弟子にしてくれよ」

 浅井がここらでは負け知らずなのは有名な話だ。

 明乃が笑いながら言うと、浅井は呆れて「アホか」と苦笑する。噂では、浅井は爆弾みたいな人間らしい。爆弾ならば誰よりも強いのは当たり前のことだと思う。

「男なんざやってても良い事なんかねぇよ。せっかく女に生まれたんだからそれを楽しんだ方が人生は得するぞ?」

 明乃が女の子だと解っても態度をまるで変えなかった浅井が、割と真剣な顔でそんなことをを言うとは思わなかった。軽い調子で「良いぞ」と言うか、アホたれ呼ばわりされるのが関の山だと思っていた。

「えー、ヤだよ。女の良い所って何だよ。毎日メシ作って掃除して洗濯して親父のいう事ばっかり聞いてんだよ。かーちゃんに楽しい事ないのか聞いてもよくわかんねーし、親父の方が外でゴルフしたりメシ食ったりして楽しそうだ」

 口をへの字にしてぶーたれる明乃。まだまだ女の子にしては毛の短いその頭を、口の端っこで笑った浅井は手のひらでぐりぐりと撫でまわす。乱暴だが、決して痛くはない撫で方が明乃はちょっとだけ好きだった。

「でも、女は男と結婚できるだろう」

「は? それを言うなら男だって女と結婚出来るだろ?」

「うん、まぁ、そうなんだけどな……色々と難しいんだよ。俺が言いたいのは」

 言いにくそうに少し寂しそうにも見える苦笑いをした浅井の顔を見上げ、撫でる手の体温を感じながら、明乃は(まぁ、兄ちゃんが相手ならオレがちゃんとした女の子になって結婚してやっても良いかな)と思ったのだった。



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