気まぐれ少女の逆転劇
流行りのヒロインざまぁを書きたかったのですが、迷走しておかしな方向に着地しました。
「レティシア=ブルーム!僕はお前との婚約を破棄する!」
今日は、卒業式。
華やかなパーティーが開かれ、各々が談笑する中、我が国の第二王子、クリフォード=コールズ殿下は、私の友人で公爵家のご令嬢、レティシア=ベディングトン様(私はシアと呼んでいます)との婚約破棄を宣言しました。
殿下の後ろには、(見た目は)可愛らしい少女…男爵令嬢のフィオナ=バラノフ嬢が、あざとい仕草で殿下の腕に縋り付き、その周りをこの国の上位貴族の子息たちが固めています。
「…私と殿下の婚約は、王家と公爵家で結ばれた契約です。
この場で勝手に破棄できるものではございませんわ」
「ふざけるな!お前がフィオナにした悪事は全て耳に入っている!
お前のような悪女、王家に迎えられる訳がないだろう!」
殿下は随分熱くなっている様子ですが、自分の言ってることの意味、わかっているんでしょうかねぇ?
会話になっているようで、なっていません。
と、いうか、お父上…国王陛下にも見放されてるの、わかっていないのでしょうか…?
「悪事とは?」
「とぼけるな!
フィオナの持ち物を壊し、悪評を流し、挙げ句の果てには階段から突き落としたそうじゃないか!」
「身に覚えがございませんわね」
あぁ、あの依頼はそういうことだったんですか…
シアに覚えがなくても当然です。
シアは何もしていないのですからね。
それにしても、私が言えたコトではありませんが、フィオナ嬢は随分と性格が悪いようです。
まさか、アレをシアになすりつけるとは…
公爵家を敵に回すなんて、性格が悪いのもありますけど、かなりおバカなのでしょうか。
もう笑いが堪えきれなそうですし、アレのせいでシアが貶められるのも嫌なので、そろそろばらしてしまいましょうか。
「ふふ…くくくくっ…ふ、ぅ…アハハハッ…!ふは、く、アッハハハハハハ」
「コールマン!何がおかしい!」
「あら、失礼。
少し調べればわかるような事に気づいていないあなた方が、心底おかしかったんですよ」
あぁ、申し遅れました。
私、コールマン伯爵令嬢、シャーロット=コールマンと申します。
伯爵とはいえ、お父様はこの国において、かなり重要な立ち位置にいるようですよ?
外交官の長として、他国との橋渡し役になる程度には、ね。
まぁ、そんなことは今はどうでも良いですが。
「…どういう意味だ」
「そのイジメの数々、どなたが仰ったんですか?《レティシア様がやった》と」
「フィオナが言っていた。
フィオナが嘘を吐くはずがないだろう?」
「いえいえ、大きな嘘を吐いていますよ」
「そ、そんなことしてないもん!
私、嘘なんて吐かないもん!」
それにしても、フィオナ嬢は随分と幼い言葉で話す…
あれが可愛いとでも思ってやっているのでしょうか?
それとも、あの口調が素なのでしょうか?
「まず、今殿下の挙げたイジメ、持ち物を壊した事以外全て私が、そちらのフィオナ嬢から依頼を受け、実行したことです」
「なっ…!証拠はあるのか!」
「証拠も何も、こんな自分が不利になるような嘘、吐いて何になるんですか?
いくらシアが友人でも、自己犠牲で救うほど私は善人じゃないんで。
あ、あなた方の中の誰かが好きで嫉妬を…とか、やめて下さいね?
私、婚約者いますし、そんなこと言われたら気色悪くて鳥肌立つんで」
「ぶ、無礼だぞ!」
「無礼で結構。
どうせ明日になれば国外にいますから。
今後あなた方と会うことはほぼないでしょうね」
そう、私は、いくら面白いからと言って、流石に何も考えずに発言するようなバカではありません。
私は、明日には隣国の第三王子、ジョナサン=アルディティ様(私はジョンと呼んでいます)に嫁ぎ、この国を出ることが決まっているのです。
それは、今のところ十数人しか知らない事実でして、ついでにいうと、ジョンも、このパーティーにこっそりと参加していることは、私と一部の教師以外知らないだろうと思われます。
まぁ、私の婚約者が彼であることは、割と有名な事ですがね。
それに、切り札もあります。
「ロッテ、海外に行くって本当ですの?」
「うん、黙っててごめんね、シア」
「…まぁ、もう少し早く言って欲しかったけれど…
でも、彼と結婚なさるんでしょう?
どうか幸せになって下さいまし」
「ふふ、大丈夫。
ジョンは私にべた惚れだもん。
…で、殿下筆頭のフィオナ嬢の取り巻き共はどうするんです?今更シアとの婚約破棄をなかったことになんてできませんよ?
それとも、シアがやったという証拠でもあるのでしょうか?」
「そ、それは…」
私の言葉に、取り巻き共はたじろいでいます。
やっぱり、ロクな証拠もなしに断罪しようとしてたんですねぇ。
本当に、おめでたい人達です。
「あ、取り巻きの皆さんのご両親から、言伝も預かっていますよ。
聞きますか?」
「い、言ってみろ!」
「どうせハッタリでしょう、バカバカしい」
「こんだけ言って、タダで済むと思ってるのぉ?」
言伝というのをどう誤解したのか、私の問いかけに取り巻き共が強気になります。
「では、遠慮なく。
国王陛下と王妃様からは、《フィオナ嬢と結婚することを選ぶなら、廃嫡する》と。
アッカーソン侯爵夫妻からは、《帰ってきたら、少なくとも10年は外に出さない。恋にうつつを抜かし、仕事を放棄するなど自分を恥じろ》と。
バンブリッジ公爵からは、《誰と結婚しても良いが、もう帰ってくるな》と。
クリフォード団長からは、《廃嫡されるか、6年お前の兄の元で修行するか選べ。フィオナ嬢は連れてくるな》と。
宰相閣下からは、《見損ないました。家督はあなたではなく私の弟に譲ることにします》とのことです」
「なっ…!」
「そんな、ひどい!」
「うそ…!こんなのうそだよぉ!」
「廃嫡か…しゅ、ぎょう…?兄上の元で…?死んじまう…」
「な…!父上が…!?」
「あぁ、そういえば、物的証拠もありますよ?
こちら、フィオナ嬢から依頼を受けた際の契約書です」
「そ、そんなの私知らない!
私はそんなこと依頼してない!」
「こちらに、きっちり魔力判別もかかってますよ〜」
「そんな…!フィオナがそんなこと…!」
「信じられないならば、王宮魔術師にでも解析して貰えば良いんじゃないですか?
とにかく、証拠も提示しましたし、シアがやっていないことはわかったでしょう?
今回のこと、全て、私を使った、フィオナ嬢の自作自演なんですよ」
「ロッテ…楽しそうですわね」
「うん、超楽しい。
あ、取り巻きの皆さんのお家からの言伝は、みんな本当のことですからね?
ちゃんと、書類で貰ってます。
それから、婚約者の皆さんのご両親からの…」
「ロッテ、それ以上はやり過ぎですよ」
楽しくフィオナ嬢と取り巻き共を追い詰めていたのに、ジョンが出てきてしまいました。
なんで止めるんですか!もう!
「なんで出てきてるんですか、ジョン。
バカなんですか?バレますよ?」
「流石に、これ以上は依頼があったとしても、問題になりかねませんからねぇ。
僕もイキイキとしている貴女をもう少し見ていたいところですけれど、そろそろ止めておいてください」
「だから、バレますよ?良いんですか?
思いっきり素顔見せてますけど」
「んん、まぁ、面倒なことになりそうなので、貴女を連れて逃げることにします。
ご友人には後日連絡を取りましょう」
なんて、笑顔で言いながら、ジョンはヒョイと私を横抱きにしてしまいました。
ええそうです。俗にいう『お姫様抱っこ』なるものです。
「またこれですか、好きですねぇ」
「良いでしょう?物語みたいで」
「まぁ良いですけど。
シア!また手紙書くね!
フィオナ嬢!私を利用しようとするからこうなるんです!ざまぁみろです!
それではみなさんごきげんよう!」
私は、意気揚々と退場するジョンに抱かれたまま、言いたいことだけ言って、舞台の幕を強制的に引き下ろしたのでした。
「ねぇ、ジョン」
「なんですか?」
「いつまで敬語使ってるつもり?
明日には私たち夫婦になるんだよ?
それに、私の方が身分低いし、敬語っておかしくない?」
「ふふ、僕はこれで良いんですよ。
敬語で愛を囁かれるの、ロッテは好きでしょう?」
「う、ま、まぁ…嫌いじゃない」
「だから、良いんです、このままで」
感想でおかしな点が多いと指摘頂いたので、話の流れはそのままで、大幅に加筆修正しました(2015.10.22)