第九話 調査
かなり頼もしくなったキャスとハナに村の事を任せて、王都に向かった。
いくつかの村を通り過ぎ、1時間ほどで王都に着いた。本来なら、馬車を使って1ヶ月ほどかかる距離である。我ながら、人外な身体能力になったものだなと思う。日本で生活していた頃の肉体なので、違和感がありまくりだが。
白の国。王都ホワイトキャッスルは周りを真っ白な外壁で囲われていて、北には大きな白いお城がある。そこからまっすぐ南に道が伸びており、王都の中央で東西に延びる道とぶつかる。そして、細い道が円形に巡らされている城塞都市である。お城に近い北東に貴族たちの住居があり、北西には教会や緑の多い公園などがある。南東は商家や工場。上級国民の住居があり、南西はその他の国民たちの集合住宅が建ち並んでいた。そして、大きな通りに面して様々なお店が建ち並んでいる。北側の店は上品で高級な物を扱い。南側の店は中流の物を扱うという風に貧富の差で別けられている感じだ。
貧民街は無いようだが、そういう場所は必ずと言っていいほど出来る物であるのだが・・・
南側の宿屋に部屋を借りて、併設された酒場で情報収集をしていたら、どうやら貧民街は街の地下にあるらしい。なんでも、旧王都がそのまま地下に埋もれているような状態で、そこが下水施設として使われているのだが、あまりにも広大なので貧民が住みついているそうだ。
まあ、そんな王都の情報を集めてもしょうがないので、肝心の勇者たちの情報を集める。すると、彼らのほとんどは大陸中央の橋。白の国側に作られた前線都市に向かったそうだ。20人くらいの男の勇者たちは、王都の娼館に通い詰めていて、そのうちの数人は性病にかかって死んでしまったらしい。
15歳前後の若者だから、娼館を見つけたら行くしかないって感じなったんだろうなぁ。死んだ数名の勇者はどうやら、お金をケチって貧民街の娼館に通っていたらしい。そして、北側の高級娼館に通っていた数名は借金を滞納して奴隷になったそうだ。
残りの十数人はモンスターを狩りに行っては、娼館に行って全財産使い果たし、モンスターを狩りに行くというのを繰り返しているそうだ。
モンスターを狩っているのだから、強くなっているんじゃないかと思ったのだが、どうやら王都周辺にいるモンスターは数が多い割に強くないものばかりで、いくら倒したところで経験値は雀の涙ほどらしい。つまり、王都から動こうとしない残りの勇者たちもそのうち借金を滞納して奴隷になる運命なのだろう。
正直、彼らの事を救ってやる意味も義理もないので、放っておくことにする。
それよりも、前線都市に向かった者たちを追ってみたほうが良さそうなので、向かうことにした。
王都で情報収集をしたのはわずか三日だけだった。こんなことなら、最初から前線都市に向かった方が良かったかもしれないなぁ・・・
王都を出てまっすぐ西に向かう。大きな中継都市をみっつほど通り過ぎて前線都市に着いた。さすがに時間がかかって3時間でした。
前線都市は西に大きな門があり、その先に女神たちが作ったという橋がある。街全体が大きな砦のような作りで、街はすべて砦内にある感じだ。つまり、場所がかなり限られているので、誰でも住めるような街ではないらしい。一般住民は都市の外側に街を作っており、そこに住んでいるので、大きな砦のある外壁の無い街というのが外から見た印象だ。
砦都市と外縁都市という風に住民たちはわけて呼んでいるそうだ。そして、砦都市には勇者や兵士たちが住んでいるらしい。さすがにただの一般人が中に入る事は出来ないようなので、外縁都市の宿屋に併設された酒場での情報なのだが。
酒場での情報収集はよくあるファンタジーの基本みたいに描かれているが、本当に酒場には様々な情報が集まる。勇者たちの噂も盛りだくさんで、どうやらこの前線都市に着いた勇者はわずか5名ほどらしい。どうやら、まっすぐこの都市を目指したようで、その5名は全員レベルが低くて使えないと兵士たちに愚痴られているようだ。さすがにそのままじゃまずいので、前線都市周辺でモンスターを兵士たちと共に狩りながらレベル上げしている日々らしい。
名前まではわからなかったが、女5人だそうだ。15歳前後の若い娘なのでほとんどの兵士はションベン臭い小娘たちの子守りは大変だと愚痴っているらしいが、一部の兵士はいやらしい目で彼女たちを見ているといういらない情報まで得ることができた。
わずか4日間ほどの情報収集だったが、召喚されて1年も経ったのに勇者たちのほとんどは前線都市にいないという状況だという事がわかった。私が女神なら、呆れてものも言えないだろうなぁ・・・
もしも、私が黒の国の王都を陥落させるか、王を暗殺したらどうなるのだろう?女神が現れて願いを3つ叶えてくれるのだろうか?まあ、3つの願いなんて思いつかないので、今のところはいいか。黒の国の勇者たちが攻めてきて危うい感じなら、動いても良いかも知れない・・・
まだ前線都市に来ていない勇者たちは、どこにいるのかはさすがに調べるのが面倒なので、一度村に帰ってから、どうするか考えたほうが良いかもなぁ。この世界での目的というものが全くないし・・・
そして、前線都市で一泊してから、4時間かけて村に戻ったのだった。
主人公がチート過ぎると、普通なら半年以上はかかるであろう情報収集を5日間くらいで終わらせてしまうのであった・・・