第十四話 王都からの使者
王都から使者が来た。私が魔王と言われている件だろうか?
「なんじゃと?1億円の借金を村の男どもが?」
おばば様の驚いた声が応接間に響く。まあ、驚くのも無理はない。勇者の使者によって村から徴兵されたはずの男たちが娼館に入り浸った挙句に借金を抱えて奴隷となったのだ。そして、一番多い借金を作ったのはおばばの息子である村長だった。
小さな村に王国から使者が来るというのは、滅多にない事らしい。なんでも、たまたま王国所有の鉱山での働き手として買い取ったのが村の男たちで、鉱山行きを伝えると慌てて村長が村の母に頼めば何とかしてくれると泣きついたそうだ。王国としては、嫌がる奴隷を鉱山に連れて行ったとしても、ちゃんと働くかどうか不安なのである。特にお金ならあると訴えるような者は碌なことにならないらしい。なので、予定を変更して彼らの買い取りを村に通達して、無理だと断られたならば別の使い道を考えているそうだ。
「ちなみに別の使い道とは?」思わず王国の使者に質問してみた。
「前線都市に送り、突撃兵とする予定です。突撃兵とは体に爆弾を巻いて・・・」
「なるほど。話はわかりました。買い取りを拒否いたします」
「え?おばば様なんで!?」おばば様の横に控えていた村長の妻であるアリサが問いただす。
「あんな馬鹿どもに何で貴重な村の資金を出さねばならんのじゃ?やむにやまれず作った借金ならばまだしも、娼婦を買った結果じゃぞ?そんな馬鹿どもはお国の為に死んでこそ本望じゃろう」
「でも!」
「だいたい。買い取ったとして、男どもを許せるのか?村の為にと言って出て行ったくせに、娼館に奴隷になるまで通うような男どもが村に帰って来たとしても、害にしかならんわ。それに、村にはすでに新しい村長がいるからのぅ」そう言って、こちらを見るおばば様。え?私の事ですか?
「あー。そうですね。確かにいま。村に帰ってこられると色々と面倒そうですね・・・。なんせ自分たちの妻の腹には身に覚えのない子供がいるわけですし・・・」
「じゃろ?そもそも、ユーロ殿に村の女たちを抱かせたのは、こんなことじゃろうと思っておったからなのだがの」
「あの!それでは、買い取りはしないという事でよろしいですか?」
「うむ。そういうことで・・・」
「いえ。お金は支払います」
「何?どういうことじゃ?」
「別にお金には困っていませんし。一回ぐらいは面倒見てもいいんじゃないかと。いわゆる手切れ金として、お金は支払しますが。その代わり・・・」
王国の使者には現金で支払いをして証文を受けとり、元村長たちには二度と村に帰ってくることは許さないと伝えるようにお願いした。もちろんおばば様の名前で。私の名前を出したところで、誰だ?となるだけだからね。おばば様の名前で出せば、村の男たちは逆らわないはずだそうだし。もしも、無視して村に帰ってくる男たちがいた場合は、隣村のモンスター村改めモンムス村に移住願おう。あそこなら、まだ独身モンスター娘が居るから歓迎されるだろう。
「わしの不詳の息子と馬鹿な男たちに代わって礼を言わせてくれ。ありがとう・・・」
「ありがとうございます」
おばば様とアリサから礼を言われたが、イデアがくれた財宝があるから、1億円はすでに小銭レベルである。それと、無一文で村を追いだしたとしても納得いかないだろうから、一人当たり1000万円の手形を手切れ金として、王国の使者に預けた。王国の銀行に行けば現金に変えられるやつだ。この前、奴隷を買いに行った日に銀行を見つけたので100億円の口座を開設しておいた。まあ、アイテムボックスにはまだまだ現金化されていない貴金属類があるのだが。
別にこういう事があるという予測をしていたわけではなく。奴隷を大量に買う事があれば、現金よりは手形のほうが楽と聞いての事だ。この国の手形は預金分しか持てないものだそうなので、大量の金貨を持ってこられるよりは、手形一枚のほうが楽なので好まれるそうだ。そして、手形を持っているという事は大口の預金口座を持っているという証明にもなるので、奴隷商の対応も段違いになるそうだ。
何が段違いかと言うと、品揃えである。手形で支払いが出来ると知られれば、裏メニュー的な高額奴隷を見せて貰えるようになるらしい。らしいというのは、残念ながら奴隷を買いに行っていないからだ。もう少しで購入と言うところで、キャスに止められた。「これ以上女はいりません!」と・・・
子育ての手伝いとして欲しかったんだけど、キャスが言うには「それだけじゃすまなくなります!」だそうだ。信用されていないのだろうか?
王国の使者が帰って行ったのだが、一週間後に今度は別件で来たという王国からの使者が来た。なんか、王都に私を召喚する正式なやつらしい。王様からの召喚状は基本的に拒否権が無い。なので、大人しく使者と共に王都に向かう事になったのだが、馬車って遅いのね・・・
自分だけなら30分もかからない距離を、3週間ほどかけて王都に向かったのだった。ひとりで行っても良かったのだが、長くなるとわかっていたので、イデアをお供に連れて行った。馬車の中でイチャイチャしながら時間を潰したので苦にはならなかったけれど、使者からは「お盛んですね」と嫌味を言われた。そんなに馬車が揺れていたのだろうか?
後でわかった事なのだが、王国の馬車には中の音が聞こえる仕掛けがあり。中で王国に対して何かしら言っていないか監視?的なことをしていたようだ。王都に着いた後に部屋つきのメイドさんに感度上昇魔法をかけて、優しくしてあげたら色々と教えてくれた情報なので間違いないだろう。本当に魔法って便利だなぁ・・・
王都について王城の客室に案内されても、王様にすぐに会えるわけではない。召喚しておいてだ。なんでも、王室の威厳を示すために慣例として、召喚した者でも一日は待たせるそうで忙しいというわけでもないようだ。それにしても、召喚理由を聞いていないのだが、何なのだろう?
果たして、召喚された理由は!?
次回。やり過ぎた結果