第一話 異世界転移
懲りずにシリーズ三本目を書いてみました。プロットを書いていないので、この先どうなるのかは作者にもわかりません。それでもよろしければお読みください。
目が覚めると、森の中で寝ていた。起きてみると、どうやら今度は転生じゃなくて転移してきたようだ。でも、なんだか体が重い。どうなっているんだろう?試しにステータスを確認してみる。口に出して唱えようと思ったら、念じただけで出てきた。
名前 ユーロ
年齢 35歳
種族 人族
出身 ???
あれ?これだけ?スキルは?というか、35歳?あれ?こっちに来る前そんな歳になっていたかな?
こめかみを掻こうとしたら、何かに引っかかった。眼鏡をかけている・・・だと!?どういうことだろう?こっちに来る前は眼鏡なんてかけていなかったはずだが・・・
鏡ないかな?
そう思ったら、地面から何かが集まり始め、やがてそれは大きな鏡となった。全身が見られるような大きなものだ。その鏡を覗くと・・・
「え?何でこの姿なんだ?」
そこには、最初の人生で馴染みのある姿が映っていた。そう、日本人の時の姿だ。
「もしかして、今までの事は全部夢だったとか?」
いや、ステータス確認や目の前の鏡を作り出した力を持っていなかったのでありえない。
理由は全く分からないが、日本で生活していた姿に戻ったようだ。正直、この姿は今までの転生時の姿と比べると、悲しいくらい不細工だ。禿てこそいないが、身長はそんなに高くなく。167センチほどの体重95キロで眼鏡をかけたメガネデブだ。たしか、35歳で死んで転生する事になるまで、彼女なんて居なかったし、仕事もしていなかった気がする。いや、一度は社会に出たが、人間関係に嫌気がさして辞めてしまったんだっけかな・・・。まあ、いいか。すでに終わった人生だ。それよりも、これからの事を考えなくては・・・
周りを見渡しても、木々が生い茂っているだけで、近くに街や村どころか、人すらいない気がする。この世界の地図でもあればなぁ・・・。そう考えた瞬間に体から光があふれ出して、そのまま外に向かって広がって行った。まるで、私を中心に光の波動が発射されたかのように。
何が起きたのか分からずに佇んでいると突然頭の中に地図が浮かび上がった。そこには地球儀のような球体にひとつの大陸が浮かんでいるだけのものだった。しばらく見ていると、それが一枚の地図のように広がった。そして、その地図にただひとつだけ描かれた大陸に光の点が表示される。大陸の北東に位置する森の中にいるということなのだろうか?
「近くに村か、街は無いのかな?」
地図に村か、街の位置が表示されるんじゃないかと、しばらく地図を見ていたが、どうやら表示されないようだ。思ったことがすべて実行されるわけじゃないようだ。何が出来て、何が出来ないのだろう?
「でも、調べる前に生きるためには水が必要だな・・・」
日本で生活していた時の癖が復活しているようで、思ったことをつぶやいてしまう。とりあえず、ここに突っ立っていても、水が湧き出してくるわけでもないようなので、川か湖のような水場を探して移動することにした。
一応、迷わないように最初に居た場所に目印になりそうな・・・。鏡があったや。これをそのまま残して移動すればいいかな?地図をもう一度呼び出して、拡大してみると村や街の場所は描かれていないが、地形はちゃんと描かれているようだ。しかも、自分が向いている方向が二等辺三角形でわかりやすくなっている。
「えっと、地図からするにこっちかな」
地図を頼りに、川があるらしい東のほうに歩いてみる。折角なので、地図を常に表示できないか、イメージしてみる。すると、視界の左下に小さく地図が表示されるようになった。さらに、目的地まで矢印が表示されるようだ。
「矢印にしたがって歩いて行けば川があるってことか。なんか、ゲームみたいだな」
矢印の方向にしばらく歩いていると、川の流れる音が聞こえてきた。どうやら、この地図は妄想じゃなくてちゃんとしたもののようだ。でも、なんで村や街が表示されないのだろう?
「おお。これは綺麗な川だなぁ・・・」
川に着くと、とてもきれいな水が岩から湧き出している水場に着いた。そこから流れる水が川になって流れて行っている。
「んぐ。んぐ・・・ぷはぁ!冷たくて美味しい水だなぁ」
湧きだしている水を手ですくって飲んでみると、今まで飲んだ水が何だったのかと思えるくらい美味しい水だった。
「よし。地図に水場のマーキングを付けて、ここを中心に周りを探索してみるかな」
やみくもに歩いてもただ疲れるだけになりそうなので、地図を確認してみる。すると、拡大率によって地形が簡略化されたり、詳細化されたりすることがわかった。そこで、詳細化された状態で周りを確認してみると、南のほうに行けば森が終わって平原が広がっていることがわかった。あと、川に橋のような物が架かっている場所があるようだ。橋があるってことは、近くに村か街があるかもしれない。次の目的地はその橋にすることにした。
川に沿って歩いて行けば、迷わずに橋まで行けそうだ。まあ、地図があるのでそんなことをしなくても迷わないのだが。
「それにしても、人どころか動物にも会わないなぁ」
こんな大きな森なら、動物がいっぱいいそうなのだが、鳥の声も聞こえない。ただただ自分の歩く足音と川の流れる音だけが聞こえてくる。そんな状態がどれくらい続いただろうか、どこからか何かが聞こえた気がした。
「きゃー!」
どうやら、悲鳴のようだ。声の感じは子供のようだが。どこだ?
そう思ったら、矢印が表示された。
「超便利な機能だな。これ」
感心している場合じゃなかったな。とりあえず。矢印に従って走って行く。しばらく走ると何やら道のような開けた場所に出た。そして、矢印が示す先には大きな黒い塊とそれよりも先で腰を抜かして倒れている女の子がいた。
「あれって・・・。熊だよな?」
私が知っている日本のテレビで見た熊って、こんな大きさだったかな?なんか5メートルはあるんだけど・・・
すると、女の子がこちらに気が付いたようで、震える声で助けを求めてきた。
「た・・・たす・・・けて・・・」
でも、どうすればいいのだろう?とりあえず大きな声を上げたら、熊の注意がこちらに向くかな?
「おーい!熊さんこちらー!」
なんとなく。さん付けしてしまったが、どうやら上手くいったようで熊はこちらに気が付いて、女の子から目を放してこちらに向いた。にしても、でけー!
「今のうちに逃げな!」
女の子に逃げるように指示をするも、女の子は動こうとしない。
「だ、だめ・・・。動けない・・・」
どうやら、腰が抜けて動けなくなってしまったようだ。つまり、ここで熊をなんとかしないと女の子は熊に食べられることが確定しているわけだ。さて、どうしよう?何も武器を持っていないし・・・。銃があればなぁ。たしか、普通の銃だと皮下脂肪で防がれちゃって、倒せないんだっけ?対戦車銃並みの貫通力でもあれば関係ないんだろうけど・・・。それよりも、そんな感じの魔法が使えないかな?
試しに、熊に向かって手をかざして念じてみる。光よ!貫け!みたいな感じで。声に出したほうが良いかな?
すると、手から光が発射されて、熊の上半身が消滅した。
「へ?」
何が起きたのかな?ああ、念じたとおりに光が出たけど、威力が凄すぎて熊の上半身が吹っ飛んだだけか・・・。なんか、今まで転生したところの魔法よりも威力がぶっ飛んでいるな・・・
まあ、何はともあれ。熊は死んだので、女の子は救われた。と、思って女の子を見ると。泡を吹いて気絶していた。どうやら、今の光景をばっちり目撃してしまったようだ。熊を超える化物に出会っちゃった感じかな?でも、どうしよう?ここに女の子を置いて行くわけにはいかないし・・・
しょうがないので、川まで運ぶことにした。水さえあれば、きっと何とかなる理論である。が、女の子は色々出しちゃっていて、すごく汚くなっていた。えっと、これ運ばないとダメなんだよね?
わかってはいるが、これを手に持って運んだり、背負ったりするのはちょっと・・・。あ、魔法で運べばいいか。えっと、女の子を浮かせるイメージを・・・。
すると、女の子が浮き上がった。原理はさっぱりだし、スキルも無いはずなのだが・・・
「まあ、便利だからいっか!」
深く考えないことにした。とりあえず川に戻りたいと思ったら、矢印が出てくれたのでそれにしたがって、さっきまでいた場所に戻る事にした。
「あっ!熊持って行った方が良いかな?食べられるかわからないけど、焼いたら何とかなるんじゃない?」
焼いたら何とかなる理論である。
女の子と一緒に浮かせて運ぶことにした。残念ながらアイテムボックスは使えないようだ。
女の子と、下半身だけ残した熊が前を浮いている。シュールな光景だな・・・
特に別の熊に遭遇することもなく。川に着いた。すると、さっきまで聞こえなかった鳥の声が聞こえる事に気が付いた。
「もしかして、この熊が居たから鳴かなかったのかな?」
つまり、それだけヤバいヤツだったのね・・・。魔法が使えて良かったぁ~!!さて、とりあえず。熊の皮を魔法でちょちょいと剥いじゃって、肉を焼くか。
念じるだけで、だいたいのことは出来てしまうようだ。たぶん魔法だと思うのだが、詠唱なしって便利だなぁ。ああ、熊の肉。良い匂いだな。あ、女の子どうしよう。このままだと色々アレだし・・・。洗っておくかな?
洗浄魔法が使えるか試してみるも、なぜか発動しない。女の子の服を脱がして川で洗うしかないかな?今、女の子が起きたら完全に誤解されるよな・・・
起きないように祈りながら、女の子の服を脱がすと、ワンピースのような一枚布だけであとは何も着ていない。13~15歳くらいかな?立派に毛が生えている。まあ、一応これまでの人生で割と見慣れているので、特に動揺することも、じっくり観察することもなく。服を洗い。女の子の水を汲んで来て下半身を洗ってあげた。水をかけても目が覚めない。指でこすってしっかり汚れを落としてあげたほうが良いのかな?いや、さすがにそれをすると問題ある気がするな・・・
「目が覚めたら、自分で洗わせるか・・・」
そうと決めたら、洗った服を魔法で乾かして着させる。まだ起きない。しょうがないので、熊肉の焼き加減を確認する。良い感じに焼けてきた。
「起きないなぁ・・・」
女の子が起きるのをしばらく待ってみるも、起きる気配がない。しょうがないので先に食事をしておくか・・・。熊の肉を魔法で一口サイズにして目の前に浮かせる。そして、一個ずつ口の中に移動させた。
「うまっ!熊肉ってこんなに美味いんだ・・・」
これまで3回あった人生でも、初の熊肉はとても美味しかった。ひとりでもしゃもしゃと食べていると女の子の目が覚めたようだ。
「・・・ん?あれ?ここどこ?」
そういって、周りをきょろきょろして、こちらと目が合う。
「やあ。君も食べる?」
「え?誰?」
「覚えてないの?」
「え?何を?」
「熊に襲われていたところを助けてあげたんだけどなぁ」
「え?く・・・ま・・・?」
「ん?熊じゃわかんない?んっと、黒くて大きな獣?」
「いえ。熊はわかりますけど、え?熊が出たんですか?ど、どこに!?」
「いやいや。君の目の前で倒したじゃん」
「倒した?誰が?」
「君が倒せるわけがないよね?」
「え?じゃあ、あなたが?」
「本当に覚えてない?」
「何をです?」
「おしっことか、うんことか。思いっきり漏らしていたんですけどね・・・」
「え?誰が?」
「いや。君しかいないでしょ?」
「なっ!し、失礼な!わ、私これでも成人しているんですよ!いくら熊に襲われたからって、漏らしたりしません!」
「いや。まあ、確かに。熊で漏らしたんじゃないかも知れないけどさ・・・」
「それに!どこが汚れているんですか!」
「いや。それは、私が洗ったから・・・」
「え?洗った?」
「うん。まあ、そのままだとさすがにね・・・」
洗ったということは、裸にされた?その事に思い至ったのか、女の子の顔が真っ赤になる。
「な、な、何をしたんですか!?」
「いや。だから、汚れた服を洗って着せたんだけど、体のほうはさすがにしっかり洗えなかったから、そこの川でちゃんと洗った方が良いと思うよ?」
そう教えてあげると、股間を慌てて押さえる女の子。
まあ、遅いんだけどね・・・
「嘘・・・だよね?」
「残念ながら、本当です。早く洗わないとかゆくなっちゃうよ?」
「・・・」
見られたことにショックを受けたのか、漏らしたことにショックを受けたのかはわからないが、かゆくなってきたようで、しぶしぶ川に歩いて行った。
「こっち見ないで下さいよ!」
「もう見ちゃったんだけどね・・・」
女の子に聞こえない声で返事をする。
「見ないでよ!」
「あー。はいはい。見ませんよー!」
一枚布だから、腰までたくし上げて洗っているのかねぇ。ぱしゃぱしゃと洗う音が聞こえてくる。しばらくすると、若干震えながら女の子が戻ってきて、火に当たる。
「熊肉だけど。食べる?」
そう言って、熊肉を切り分けて目の前に浮かせる。
「え?何これ!ど、ど、どうなってるの!?」
「食べるの?食べないの?」
魔法を知らないのかなぁ。でも、さっさと食べてもらって、村か街に案内して貰わないと。
「た、食べます」
「じゃあ。あーんして」
「あ、あーん」
口を開けさせて、そこに熊肉を放り込む。
「な、何これ美味しい!」
「いや。熊肉だけど。もしかして、初めて食べるの?」
「そ、そりゃあ。熊なんてどう頑張っても狩れないでしょ!」
「いや。知らないし」
「そ、そういえば。あなた。どこから来たの?」
「どこから?それは・・・私にもわからないかなぁ」
「え?どういうこと?記憶が無いって事?」
「いや。無いわけじゃないけど。説明するとややこしい所?」
「・・・もしかして、勇者様?」
「ん?何それ?」
「女神様たちが100年に一度、100人の勇者様を召喚するって、村長が子供たちに話していたけど、まさか本当に?」
「うーん。女神様たちとやらは、私が知っている女神様ではない気がするからぁ。たぶん。その勇者というやつではないと思うんだけど・・・。まあ、異世界を知っているなら、説明しなくてもいいか。私はその女神様たちとは別の女神様にこの世界送られて来たんだよね」
「勇者様じゃないの?」
「異世界から来た奴が勇者ということなら、そうかも知れないけど。女神様たちとやらに呼ばれた存在ということなら、違うかな」
「で、でも。勇者様じゃないなら、これは何?お肉が浮いてるんだけど」
「ん~。たぶん魔法かな?」
「魔法?」
「知らない?こう。炎を出したり、水を出したり出来るんだけど」
目の前で小さい炎や水を出して見せる。
「な、何これ!や、やっぱり勇者様じゃないの?たしか、勇者様は特別な力を女神様たちに与えられているって言うし」
「どうだろうね?私も実はこれを魔法と思ってるんだけど、本当にそうなのかはわからないんだよねぇ。一部使えないものもあるみたいだし」
「異世界から来たなら、言葉は!?今、私と普通に喋ってるよね!?」
「そういや。普通に喋れてるね。でも、特に魔法は使ってないから、たぶん日本語を使ってると思うんだけどな・・・」
「日本語!あなた、日本語を知ってるの!?」
「ん?知ってるも何も。最初の人生は日本人だったよ?」
「凄い!確か日本って、勇者様たちが来るところじゃない!やっぱり、あなたは勇者様なのね!」
「ん?そうなの?と、いうことはこの世界の言葉は日本語が共通語だったりするのかな?」
「きょうつーご・・・?それは良くわからないけど、最初に召喚された勇者様が日本語を世界に広めるように女神様たちにお願いしたって、昔話で聞いたことがあるわ」
「もしかして、勇者って日本人限定なのかな?」
「それは・・・。わからないけど、日本って国から召喚されてくるって話だよ?」
「う~ん。それはまた。女神様たちに会えたら理由を問いたい話だね・・・」
とりあえず。熊肉をある程度食べた後。女の子の村に案内して貰うことになった。女の子はメルというらしい。歩きながら話をしたら、今年18歳になるそうで、この世界は18歳になったら大人として認められて、結婚できるようになるらしい。あと、税を払わないといけなくなるのも18歳からだそうだ。
「18歳って、みんな君みたいな感じなの?」
どう見ても、13~15歳にしか見えないので聞いてみたら、みんな自分と変わらないと思うと答えられた。もしかしたら、食糧事情的な奴で発育が遅いのかも知れない。
そんなこんなで、村に着いたら地図に村が記された。橋は村をさらに南に行ったところに架けられているようなので、メルに会わなくても村には行けたみたいだねぇ。
感想を受け付けてます。あと、活動報告もたまに更新してます。