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「今回の目標は鶏グリフィンの卵を一つ持ち帰ること。卵は孵化させて科学者が生態を調べるらしい。今から行く鶏グリフィンの巣には卵が4個。そのうち一つをとって逃げ帰れば俺たちの任務は終わる」
颯爽とあるくミオーネは淡々と言った。
俺が鶏を引きつけるからお前たちが卵を取り、そして森の入り口で落ち合おうと。
そこでネキアが険しそうな顔をして言った。
「…………鶏グリフィン?」
ミオーネがバカにしたような顔でネキアを見る。それに気づいたネキアが無言で大きな釜に手をかけたが…リリィが説明した。
「鶏グリフィンは大きな鶏よ。森に直径15メートルの巣を作って、卵を温めつつ、途中餌を取りに卵から離れるの」
「へぇー、大きいね」
ネキアが涼しい顔で答える。
「卵の大きさは確か、一つ1.5メートルじゃ無かったかしら」
リリィがそう言うと、ミオーネが頷いて続けた。
「だから、三人で持ってにげろ」
ナズナは卵の大きさに愕然とした。
自分より大きいではないかと………。
ーーーーー学園、校長室ーーーーー
カタカタとパソコンを打つ音だけが響く部屋に突然ノックの音が響く。
パソコンの手を止めたのは学園長の秘書だった。学園長は読んでいた書類からめをはなし、秘書に入れてやるように促す。
秘書が扉を開くと、そこには生徒指導でありヤンキー先生の同期でもあるヒイラギ先生が立っていた。
「どうしました?ヒイラギ先生」
学園長はゆっくりほほえむ。
ヒイラギ先生は秘書が扉を閉めた後、学園長の前まで歩き質問に答えた。
「どうもこうもアルカロイドですよ。まだ彼女達は1年生にも関わらず、実戦に出て行きました。それが鶏グリフィンの卵を取るような簡単なものでも」
学園長はそうですね、と笑った。
「そうですね、じゃありません!2年の彼のチームならば安心して任せられますが、アルカロイドには実践自体早いのですよ?授業も最初のあたりしか習っていない。何より彼女達は一歩間違えれば命を落としてしまう」
ヒイラギ先生はまくし立てて、息をついた。
学園長はそうかもしれません。と頷いた。
ヒイラギ先生は「ならば、何故?!」となお食い下がる。
学園長は軽く笑って窓の外に浮かぶ月を見ながら言った。
「これは、賭けです」
ヒイラギ先生が首を傾げる。
学園長は笑って言った。
「彼女達は、この学園きってのはみ出しものと言われています。授業はサボる。外には脱走する。先生の言うこともこれっぽっちも聞かない」
ヒイラギ先生はじっと校長を見る。
「知っていますか?昔、初めて夢の住人がこの世界に来た時の事を。誰がそれを退治したかも」
校長はヒイラギ先生に尋ねる。
「確か、科学者が夢の世界とのゲートを開けてしまって。そして国が自衛隊に任命した……と?」
校長はヒイラギ先生の答えに微笑んだ。
「はい、おおまかには。しかし、詳しく言うと救ったのは自衛隊の中でもはみ出しもの扱いされていたチームだったようです。彼らはたった3人で立ち向かい勝利を収めました。3人は、それぞれ国からの褒美として。それぞれ好きな地位に就いたのですよ」
ヒイラギ先生が目を見開く。
「1人は警察官のトップになりました。もう1人は科学大臣のトップに。そして3人目は……学園のトップに」
ヒイラギ先生は今度は口をも開けて、驚く。
校長はその様子を見て、くすりと笑った。
「この世は今、はみ出しものによって救われはみ出しものによって構成されつつあります。面白くはありませんか?夢の住人を倒し英雄とされた自衛隊の3人の次世代になるかもしれないチームを探り当てるのは」
今回の話は実際問題、1年生ならば100%死んでしまうような実践だ。鶏グリフィンは足が速く、くちばしでつつく。一度でも触れたら最後死んでしまう。ゲームオーバーだ。
これで、3人と先輩が無事卵を持って帰ってきたら。アルカロイドは次世代候補に入るのだろう。
ヒイラギ先生は突然汗だくになってしまった。
もしかすると、自分が今関わっているのは歴史をも左右する大きな流れに立たされている気がしたからだ。校長はヒイラギ先生にハンカチをそっと渡す。
「あくまでも、仮の話ですけれど…ね?」
カチカチとパソコンに文字を打ち込む音だけが部屋に響く。ヒイラギ先生は失礼しますと告げて部屋を出た。
「ぎゃあああぁぁああ!!!!!」
夜も更けた頃、森に響くナズナの悲鳴。
ナズナは懸命に後ろから迫ってくる鶏と追いかけっこをしていた。
「なにこれ!!!でかすぎる!恐竜の鶏版じゃん!!ティラノサウルスくらいあるじゃん!!この鶏!!!」
涙目である。
鶏は木々を揺らし、途中途中くちばしでナズナを突こうとしながら走っていた。くちばしの跡が地面に残り大きい穴が空いている。
リリィとネキアは卵を抱えていた。
そして鶏とナズナを追ってミオーネ先輩が走っていくのを2人は眺めていた。
「「どんまい、ナズナ」」
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