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第一話 最後の夏



「あたしには先輩が必要なんです…!」





放課後。

夕日に照らされ、夏特有の爽やかな風が流れる教室に、俺、柊哉太は1ヶ月後に迫った部活の大会に興奮と緊張を感じ、そして机に置かれている紙っぺらをどうしようかとも思いながら椅子に座っている。


そんな俺の目の前に後輩だと思われる女子が一人。

顔を赤らめながら俺を見つめている……のではなく。

女子が見つめているのは机に置いてある俺のメガネだった。





「…は?」





俺の間抜けな声は夏の風に流されていった。









事の発端は約30分前。



「おい哉太。」

「なんだよ綾人。」

「お前今日提出締切の古典のプリント出さなかっただろ。」


6限が終わり、クラスメイトがぞろぞろと部活に行こうとしたり帰ったりする中。俺の所属するバスケ部キャプテンの中矢綾人が部活に行こうとしていた俺の足を止めた。


「んだよ、いいじゃねーか。大会近いんだし。」

「学校は勉強が第一だ。たとえ部活の大会が近くてもプリントは出せ。」


そう言うと綾人は勝手に俺のリュックを漁り始め、数秒後に名前すら書いてない真っ新なプリントを俺の顔に押し付けた。

どうやらこいつはこのプリントを先生に提出するまで部活に出してくれないらしい。


「ハイハイワカリマシタキャプテンサマ。」

「馬鹿なこと言ってないで早くやれ馬鹿。」

「なかやーん!かなたー!部活行こー!!」


この場の雰囲気に合わない声の主は同じバスケ部の望月翔。とても元気なやつだ。ちなみに「なかやん」ってのは綾人のあだ名でもある。


「ああ、翔か。ちょっと待ってろ。」

「なにやってるの二人とも…。」


翔はおかしな光景を目の当たりにし、「またか…。」と言うような呆れた顔をした。まあさっきから綾人にプリント押し付けられてる俺には見えないんだけどたぶんそんな顔をしてるはずだ。


「綾人に襲われてるなう。」

「馬鹿なこと言ってないで早くやれ大馬鹿。」

「お前が顔にプリント押し付けてるからできないんだろーが!」


俺が顔からプリントを引き剥がすと綾人はエナメルバッグを肩にかけ翔のもとに向かった。


「早く終わらせて来いよ。」

「お先ー!」


…この時翔のやたら爽やかな笑顔に無性に腹が立ったが、あえて口に出さなかった。誰か俺を讃えてくれ。


一人取り残された俺は渋々椅子に座る。


「チッ、たかが1枚の紙っぺらだろ…。」


目の前にあるプリントを凝視するが…俺にはそのたかが1枚の紙っぺらに書いてあることがさっぱり理解できない。悔しい。

なぜ漢文なんかやらなきゃならないのか、俺は中国人じゃねーんだぞ。


「あ``ー、わっかんねぇ…。」


俺はそのまま机に突っ伏す。その時机に自分のトレードマークとも言える黒縁メガネがぶつかり、カチッと音がした。


そういえばこのメガネとも結構長い付き合いになるな…中3の頃からだっけか。

中3の秋頃、どんどん視力が落ちていった俺はこの黒縁メガネのお世話になることになった。まあ最初は鼻がくすぐったくなったり、マスクしてると曇ったり……今も曇るけど。当時慣れなかったこいつは今や相棒と化している。卒業するまでは壊れないでほしい。


そんなことを考えていると急に眠気が襲いかかってきたので、俺はメガネを外して仮眠を取ることにした。


…まあその仮眠は数分後に妨げられることになったのだが。





「あ、あのー…。」

「…あ``?」


突如かけられた声に反応して顔を上げれば、俺の目の前には女子が立っていた。

見たことのない顔だから…たぶん後輩だろう。


「柊哉太先輩ですよね…?」

「…そうだけど…何?」


目の前の女子はキョロキョロと周りを見渡し、覚悟を決めたように俺の目を見た。

そしてその女子の口から発せられた言葉は…。





「つ、付き合ってください!!」







なんともベタな少女漫画にありがちな台詞だった。



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