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その5 り・すたーと

俺は榊原 一馬。ゆるふわモテカワプリティキュアを等身大のままクールに目指す、無理が出て来た男だ。

もう何がなんだかわからない。

見た目が良いのにどこかズレてる兄姉妹両親の影響か。

結局モテモテになれないどころか、変なキャラとトラウマばかり出来てしまった。

これはもう一旦リセットしてしまおう。そして家族を頼るのはやめよう。

「そういうことだ」

「どういうこと?」

やはり頼るべきはカッコイイ友達だ。

「拓也、お前だけが頼りなんだ」

「脈絡がないんだけど……」

6時間に渡る授業が終わり、心身共に解放された瞬間、俺は心当たりを捕まえる。

「かくかくしかじか」

「伝わるか!」

スパンと後頭部に一撃。この無駄にキレのある割に痛くない突っ込みは……。

「友達B!」

「誰がBだ! せめてAにしろ」

「それでいいの……?」

いいのだ。

「で、一馬。何がどうした」

「やたらノリが良く突っ込み上手なこいつは早乙女 純。無駄にデカイ」

「お前がちっさいだけだ。あと、安いボケするな」

「安くないボケは買わないくせに」

「そもそも売り物じゃねえ」

「滅多に出ないしね」

手厳しい。

ちなみにオチを担当するのは『鈴木 拓也』心当たり本人だ。

癖の強い茶髪の猫っ毛にぱっちり二重。いつもにこにこと人当たりが良い奴だが、たまにどす黒い。

我が家の姉ちゃんには『現実にはありえないかわいいショタ』と良くわからない評価をもらってる。

「そしてモテる」

「まあな」

「そしてこの勘違い甚だしいデクの棒は黒い以外に特徴がないのが特徴の野球馬鹿だ」

「一馬は時々難しい言葉を知ってるよね」

「否定かフォローする間をくれよ……」

野球馬鹿が煩いが、俺にはアウトオブ眼中。

用があるのは拓也の方だ。

「単刀直入に問う、どうすればモテる?」

「そういうのはお兄さんに聞けば?」

「兄貴は当てにならない。というか、酷い目にあった」

「まぁ、零夜さんだからな……」

拓也も純も小学校からの友達だ。なんどか家に来たことがある。

そしておもちゃにされたことがある。

辛い記憶を共有しているというのは、そのまま強い絆になる。

「わかったよ、何か考えてみる」

「俺も手伝おう」

「恩に着るぜ拓也」

「俺は?」

強力な協力者が出来た。しかも真面目な。

これは次回あたり期待出来そうな気がするぜ!

「俺も手伝うって!」

「じゃ、また明日な」

「おーい俺も……」

「一馬」

軽く咎めるような拓也の声。

大丈夫。分かってる。だから俺は頼ることにしたんだ。

「頼んだぜ、親友二人!」

「おうよ!」「うん」

軽く手を挙げて、意気揚々と教室を出た。




学校からの帰り道。家とは反対方向へ。

さっきのやり取りを振り返る。

……冷静になると少し恥ずかしい気がしてきた。

最近いろいろあったから羞恥心というものが麻痺している。

問題なのは、まあいっかと開き直りかけていることだ。

どうしたもんかな……

などなど考えながら歩くこと10分。目的地に到着。ちょっとぼろい定食屋。

結論が出る前に着いてしまった。まあいいか。

考えるのをやめちゃいけない気がするけど、まあそれもいいか。

緩い空腹に背を押され、自動じゃないドアに手をかける。

ゆっくりと体を押し込むと、定形句が降って来た。

「いらっしゃいませ、御主人様」

「ちょっと待った」

ここはいたって普通の定食屋の筈だ。その筋の店じゃあない。

実際内装はこの前来た時と何も変わっていない。

つまりはありえない。

「放置プレイとはレベルが高いね一馬君」

「意味がわかりません、薫さん」

中学生にはまだ早いか。そう呟く薫さんは相変わらずよく分からない

そう、薫さん。なんだかふりふりしたエプロンを着て豊満な胸を隠すようにトレイを持っている。

「なんでいるんですか」

「当然じゃないか、家の店だぞ?」

確かにそこに不自然はないが……

「今日平日ですよ? 姉ちゃんなら絶対家に居ませんけど」

「だが私は居る。大学生とはそういうものだ」

……そうなのか。

考えたところで中学生の俺に分かるはずがない。

「本当に来てくれたんだね」

「あーまあ、約束ですし」

美人の微笑はずるい。なにもかも流されてしまう。

「それでは、奥の席にどうぞ」

言われるがまま席に着き、メニューを手にとる。

「ご注文が決まりましたらお呼びください」

「ども」

前と同じ、手頃な値段の軽食とドリンクが並んでいる。

今日からは当然自腹だからありがたい。

二、三度目を通して注文を決める。やっぱり前食べたサンドイッチにしよう。

薫さんを探すために視線を上げ、店内を見回す。

時間が時間なためか、お客さんは少ない。

今度来る時は拓也と純も一緒に…

「えっ」

無意識に声が漏れる。

胃の辺りが跳ね、座っているのに浮遊感で叫びそうになる。

全身に痺れるが走り、不意打ちに止まっていた感情が爆発する。

声をかけたい。気付いてほしい。怖い。気付かないでくれ。

ぐちゃぐちゃに混ざった心の声は、喉の奥に詰まって出てこない。

伸ばそうと持ち上げた手が震えている。

「神崎さん?」

飛ばした筈の声はか細くて、何処にも届かないで地に落ちた。

……違う。

届かないのは届けようとしないからだ。

分かってる。自分で声を絞って、届かなくしている。

怖いから。恥ずかしいから。嫌われたくないから。

自分勝手な恐怖に縛られているだけだ。

動け!

「神崎さん」

「御呼びですか御主人様」

精一杯吐き出した声は、予想外の人に拾われた。

ぱたぱたと小走りで近寄ってくる薫さん。

「注文は決まったのかな?」

「あ、はい。この前のサンドイッチで」

「承りました」

注文をメモし、来るとき同様小走りで去っていく薫さん。

呆気に取られているうちに、神崎さんは見えなくなった。

店の中に居たのにどこへ? わからない。

分からないけど、いないんだ。

どっと、力が抜ける。

今更ながら心臓が五月蝿い。

声をかけれなかった後悔と安堵がぐるぐる回る。

しばらくして運ばれてきたサンドイッチ味も、この前よりわからなかった。



「薫さん?」

「はいこれ」

「なんですかこれ?」

「サービスのドリンク」

「サービスって……なんでですか?」

「なに、ちょっとしたお詫びとお礼と」

「なにかありましたっけ?」

「ふふ、面白くなりそうだよ」

なにかあるのだろうか……

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