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その1 愛されボーイ

俺は榊原 一馬。ゆるふわモテカワを目指すスピリチュアルボーイだ。

意味はよく分からないが、最近女性に人気がある言葉らしい。

スピリチュアル。語感が良いし、皆が知らなさそうな言葉というのも良い。

中学生になった今は勉強が出来るというのも大事な要素だ。

しかし、モテる為にはなにより女子受けしないと駄目だ。

今女子の間ではゆるふわモテカワというのが流行っているらしい。

無駄に見てくれが良い姉の部屋に有った雑誌に書いていたんだ、間違いないだろう。

決死の思いで侵入した成果があったということだ。

散って行った戦友『英世』にもこれで顔向けが出来る。

だからお姉様、これ以上ハーゲンダッツは勘弁してください。


さて、どうすれば『ゆるふわモテカワ』になれるのだろうか。

英世二人分のハーゲンと引き換えに姉ちゃんから協力を得ることが出来たわけだし、聞いてみることにしよう。

「それにはスイーツ(笑)になることね」

「すいーつ?」

半笑いの姉ちゃん曰(笑)を付けるのが作法らしい。

「スイーツ(笑)になればゆるふわになるわ」

「スイーツ(笑)て食べ物じゃねえの?」

「まじ一馬スイーツ(笑)」

意味がわからないけどなんか腹が立つ。

でも、今頼りになるのは姉ちゃんだけだ。

「まあ今すぐにスイーツ(笑)になるのは無理ね」

「そこをなんとか……!」

モテたいんです!

そしてあんなことやこんなことを……

「顔がキモい」

……はっ!

「ま、とりあえず見た目だけでもスイーツ(笑)にしてあげる」

「まじで?」

「本気と書いてlieよ」

「よくわからないけどカッケェ!」

今の俺には姉ちゃんが輝いて見える!

「このお姉様に任せなさい」

「ありがとう姉ちゃん、伊達に年増になってねえな!」

殴られた。何故だ。


あれから年増という言葉の意味を説明され謝罪の為に最後の英世が散った。

どうにか機嫌を直してくれた姉ちゃんは約束通りに俺をゆるふわもてかわな見た目に改造してくれた。

「姉ちゃん」

「いやー我ながら上出来だわ」

なんかふわふわした髪にびっくりするくらい白い肌。

めちゃくちゃくすぐったい上に恐い思いをした目元はぱっちりと開いてて微妙にキラキラしてる。

リップクリームすら塗った事がない唇は薄紅色に染まっていた。

「うーん、カワイイわ。あんたいっそ一子になれば?」

「うーひどいよ……」

顔だけなら良い。顔だけなら。

今俺はワンピースを着ている。しかも妹の。

姉ちゃんのスカートはでかかった。そう言ったら殴られた。ひどい。

「元々中性的、というよりまだガキの顔してるからイケると思ったけど」

「うそだ!」

ラメの付いた俺の目元以上に眼を輝かせて、撫で回してくる姉ちゃん。

ピンポーンg

インターフォンが鳴る。

嫌な予感も鳴る。姉ちゃんの顔がいじわるな笑顔に変わる。

「嘘だと思うなら!」

首を掴まれて玄関まで引きずられていく。

暴れても良いのだけど、今着てる空色のワンピースは妹の物だ。

破れたりしたら……。

そもそも姉ちゃんから逃げられるわけがない。

「やっほ、雪。見せたい物ってなに?」

玄関先に立って居たのは姉ちゃんの友達っぽい人。

ジーンズに白のTシャツという男らしい格好。加えてさっぱりした短髪なのに、一目で女性とわかる。

姉ちゃんと比べると……

比べる物がなかった。

ゴン

「なくて悪かったわね」

「まだ何も言ってない!」

「まだ……?」

墓穴を掘りました。

「まあお仕置きは後にするとして……とりあえず入って。薫」

「お邪魔するよ」

薫と呼ばれた姉ちゃんの友達は凄く可愛いサンダルを脱いで家にあがる。

一瞬だけぶつかった視線はやたらと勝ち気に見えた。

ちょっと釣り眼ぎみなせいかもしれない。

ガチャ

パタン

カチリ

上から姉ちゃんの部屋が開く音。閉まる音。最後に鍵が閉まる音。

「この子どう思う?」

後ろ手に鍵まで閉めた体勢で、薫さん? に問い掛ける姉ちゃん。

「可愛いね、これが妹さん?」

勝ち誇った様に見えたのは錯覚であって欲しい。

「ふふん」

錯覚であって欲しかった。

「弟よ!」

「うそ!?」

嘘であったらどんなに良かったか!

や、妹でいたかったとかじゃなく。

「これはもはやおもうとと言っていいレベルでしょ?」

「この子が男の娘……」

薫さんが恐い。焦点が合っていない。嫌な予感しかしない。

「薫、この部屋には私しかいないわ」

意味が分からない。

困惑しっぱなしで一言も喋ってないけど俺もいるよ?

ガバッ!

「ひゃうっ!?」

「あー可愛いかわいいかわゆいー」

ぐりぐりくりくり

人形にするように容赦なく抱きしめてくる薫さん。

「柔らかいし良いニオイだしちっちゃいし」

「そうでしょうそうでしょう!」

「でも少年なのよね?」

「そうなのよそうなのよ!」

始めに感じた勝ち気な印象はどこへやら。

とろっとろになった目のまま撫でるわ嗅ぐわほお擦りするわ。

「あ、あの……」

「やーん声もかわいいー」

なんもいえねぇ……

「現実にこんな女装美少年がいるなんて……持って帰っていい?」

良い訳ねえだろ!

「良いわよ」

「姉ちゃん!?」

俺の意思……意志? は無視ですか!

「まあ冗談はこれくらいにして、今日はこいつで遊びましょう」

「それも冗談だよね!?」

「本気と書いてtrueよ!」

さっきとなんか違うくない?

「ねー君、名前なんて言うのー?」

薫さんは薫さんで猫撫で声のマイペース。

印象って当てにならない。

「一子よ」

「一馬だよ!」

「一子ちゃんかー」

「一馬です!」

「じゃーかずちゃんだねー」

「やめてください」

聞いてるの? 聞いてないの?

「ねーかずにゃんー?」

うわ、悪化した。

「確かここに……あった。これつけて?」

なんかふりふりしたなにかにふわふわした何かが付いたもの。

それをタンスから取り出した薫さん。

ここ姉ちゃんの部屋だよね?

「イヌミミメイドのカチューシャとは……渋い選択するじゃない」

渋いの? これ渋いの?

「それと……これも」

「それは駄目!」

なんか肌色っぽい物が一瞬見えたけど……

「えーどうして?」

「や、ほらやっぱり膨らみがないからこそ男の娘というか……」

なんだか知らないが、これ以上男の尊厳を奪われるのは堪らない。

逃げる。

部屋の鍵なんて内側から普通に開く。

大事なのはタイミング。

「ふーん? 恥ずかしいと」

「や、そんなことナイケド……」

「じゃあかずにゃんに付けてもいいじゃん」

「弟はいえ異性に普段自分が肌に付けるものを…」

「今はおもうと、男の娘でしょ!」

「そういう問題じゃないでしょ!」

今だ!

すかさず両手を床にたたき付け、反動で一気に立ち上がる。

一歩目の踏み込み。姉ちゃんと薫さんを避け体を沈ませる。

二歩目の蹴りだし。呆気に取られる二人を尻目に体を扉へと跳ばす。

なんかすーすーする!

違和感を噛み殺し右手でドアノブを回し、引く。

勢いそのまま体を捻り、廊下へと踊り出る。

目の前には、眼を丸くした妹、雫が立っていた。

「へ」

「へ?」

「変態!!」

ドグ

お、う、あ、あ

急所への蹴りは鈍い音がしました。


その後はてんやわんや。

雫に泣かれ姉ちゃんに叩かれ兄ちゃんに笑われ薫さんに連れ去られかけた。

もう薫さんがどんな人なのかさっぱり分からない。

幸い両親にはバレなかったけど、俺の心は深い傷を負った。

でも、へこたれない!

俺はモテることを諦めない。

俺の戦いはまだまだこれからだ。



「一馬ー現像出来たよー」

「なんの?」

「ほら、可愛いでしょ」

「それこの前の!」

「なになにどうしたの?」

「母さんはちょっとあっちに!」

「どうした?」

「父さんもこないで! ああもう! しょんぼりしないで!」

「あーあれか」

「兄ちゃんも笑ってないで助けてよ!」

「えいっ!」

「雫!?」

「「「あ」」」

「「ほほぅ」」

ま、負けないもん!

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