命の選別
夜中、暑くて目を覚ますと靴を履いていた。
(あれ?通勤靴だな。とりあえず脱いで寝よ)
『うーん』とゴソゴソして、いつもの自分の靴だから脱ぐのも容易く、ササッと脱いで、また眠った。
朝、起きて(え?!靴履いてなかった?)と、自分の眠りへの渇望、不自然への無断着を嘆きながら、ベッド周りで靴を探したが、靴はちゃんと玄関にあった。
(夢?・・靴を履いて寝る夢?か・・・)
次の日、夜中、寝返りが難しくて目が覚めると、通勤のリュックを背負って寝ている。
(えぇ?寝るのにリュック?)
『うーん』と、真っ暗な部屋の中で上半身をモゾモゾして、肩紐を外してリュックをベッドの向こうにブン投げた。それで、楽になりリラックスしてまた眠った。
朝、起きて(2日連続だからってオカシイじゃん?!夢じゃないかもじゃん!)と、自分に怖くなったが、リュックがベッド脇にあるか確認し、帰った時と同じくリビングに置いてあった事で、やはり夢だと判断した。
(疲れてんのかな?・・・)
また次の日、夜中に木?を踏む『ペキッ』という音で目を覚ました、
(泥棒か!鍵は全部閉めて寝たのに!)
『うーん』と、真っ暗な部屋中を見渡すが、暗闇に慣れている目に何も映らないので、(もうホントに自分の眠りへの欲求に嫌になるが)、安心してまた眠ろうとすると、
【ダメよ、起きて。早く、出るの】
おばあちゃん?あれ?
おばあちゃんの声?なんで?
ゆっくりと起き上がると、靴を履いて服も来てリュックを背負っている。
(?、なに?やっぱり夢なのかな?)
寝てたら、服に靴にリュックてwww
んな、バカなwww
寝起きと服装の整合性の無さで笑い声が出そうになった時、周りの喧騒に気づいた。
消防の音、火事に気づいた人たちの大声、周りの空気が非常事態に染まっていることに気づく。
(うわあ!ヤバい!)
もう速攻で部屋を飛び出し、全力で階段を降りる。足が千切れそうでもやるしかない!
周りにも着の身着のまま逃げてきた人、顔を黒く塗っているように煤けても逃げてきた人がいる。
消防や警察や野次馬で、マンションの前は大混乱に陥っている。
(ああ。な、何とか、何とか助かった)
と思ったら、体がブルブル震え涙があふれて来た。
それほどの大きな火災だった。
もし、起きてなかったら?
あの後、1分でも遅かったら建物と一緒に焼け焦げただろう。
もし、靴を履いてなかったら?
走れなかったし、階段とかに転がった物でケガをするか、焼けた物を踏んで逃げられなかっただろう。
もし、リュックが無かったら?
なぜか携帯や財布とか貴重品や、お気に入りの服などが、リュックには詰めてあった。
おかげで火事の後でも生活は何とか出来た。
(きっと、おばあちゃんが助けてくれたんだ。
おばあちゃんありがとう。守ってくれてありがとう。)
後日、おばあちゃんの家に行き、直接ありがとうを伝えに行くと、おばあちゃんは
『良かった、良かった、ホントに良かった』
と、何度も何度も無事だったことを喜んでくれた。
ーーーこの話には続きがある。
私にはイトコが2人いて、もう1人も同じように、この時期におばあちゃんの声を聞いて助かっている。
しかし、イトコの男の子は水の事故で亡くなってしまった。
確か一番下のオジサンの子供だったように思う。
オカルト好きで、犬のようなクリクリ目玉の元気な男子だった。
そして、あれこれの事件の影響も落ち着いて来た秋口、寒くて夜中に目を覚ますと、イトコの男の子がベッドの脇に立っていた。
唐突過ぎて、怖いというより固まった。
(ああ、また夢だろうな)と、自分でオチをつけようとすると、
『お姉ちゃんは何でまだ生きてるの?』
(え・・・なんて答えたら良いんだろう)
「お、おばあちゃんが助けてくれたんだよ」
『僕は?僕は何で生きれなかったの?』
(いや、おばあちゃんだって・・・・ん?)
(ん?・・・ん!・・・あれ?!・・あ!)
「もしかして、ねえ!ねえ、待って!」
『いいなあ・・・じゃあね、お姉ちゃん』
朝になって目が覚めると、今までの夢とは違い、イトコの男の子がいた所が濡れていた。
(夢じゃ、なかったんだ・・・)
その年の年末におばあちゃんチに行き、悲しい話を避けて団欒をしていると、オバさんが・あの男の子のお母さんが来た。
(人間ってこんなに恐ろしい顔が出来るんだ)って顔をして。もう地獄に住んでそうな顔。
その人が怒鳴りながら玄関を開けた。
直ぐにお父さんたちが出て行って、オバさんをなだめて止めるんだけど
「オマエがやったんだ!クソババア!」
「ぶっコロしてやるからな!」
って、恐ろしい声までする。
もう怖くて怖くて小さくなってたら、おばあちゃんが立ち上がって玄関に行った。
おばあちゃんの目からは感情が消え、黒目が小さくなったのがチラッと見えた。
あんなおばあちゃんの顔も初めて見た。
『何の用なの?話はもう終わったでしょ?』
「テメえ!くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
オバさんは興奮し過ぎて言葉になってない。
羽交い締めにされてジタバタしているオバさんにおばあちゃんが近づいて行き、耳元でささやいた。
地獄から聞こえるような声で、
『オマエを選んでもいいんだぞ?』
その瞬間にオバさんは白目を剥いて意識を無くし、お父さんたちに運ばれて行った。
【選んだ?】
何を?
選んだら、どうなるの?
オバさんに言うってことは、あの男の子の事で・・・
【選んだ?】
誰を?
どうやって、選んだの?
選ばれたのが、あの男の子なの?
選ばれなかったから・・事故で、亡くなったんじゃないの?
【選んだ?】
この人、『命』を『選ぶ』って言ってるの?
え?なにソレ?選ぶ?命を?
なんなの?ナニ様なの?
おばあちゃん・・・だよね?
【オマエは助かったのではない、選ばれなかったのだ】神様的なモノにそう言われている気がした。
そんな騒動も忘れるように努めて明るく、みんなで紅白を見ていたら、おばあちゃんの好きな歌手が【今年は落選した】という話題になった。
でも、ソレが紅白の醍醐味でもあるし、今年は違う人の歌が聴けるね!って、みんなで言っていたら、少しおばあちゃんの黒目が小さくなって
『そうね。選ばれなくても次があるからね』
私は何のことか分からないような顔でソコにいたかったが、怖気が止まらなかった。




