一人だけダンジョンじゃない。ただの特訓をした伯爵令息の話
「ウワーン、ササキ!イジメられたよ!」
僕はダビデ13歳だ。伯爵家の息子である。
今日も侯爵家のダミアンにイジメられた!
屋敷に臨時雇いをされた女魔道師ササキに助けを求める。
便利な魔道具でやっつけるのだ。
「あら、坊ちゃん。イジメられたのですか?」
「そうだよ!雇われているのでしょう?何か便利な魔道具を出して!」
「旦那様に言えば良いじゃないですか?」
「ダメだよ。父上が抗議したら子供のことだからと取り合ってくれないよ」
すると、ササキは少し考えた後、道具を出してくれた。
「ジャジャジャーン!ボクシンググローブ!」
空間に穴が出来てそこからササキは手を突っ込んで出した。
『ジャジャジャーン』は詠唱らしい。
「これを手につけて殴れば威力が倍増ですよ」
「ようし!やってやる」
「ちょっと、待ちなさい。これを使うにはちょっとしたコツがありますよ」
「分かった!教えて!」
☆☆☆
何故か僕は水路工事に繰り出された。
「はい、坊ちゃん。穴を掘って」
「はあ、はあ、はあ」
「私は監督がありますからサボらずにやって下さいよ。親方さん。邪魔にならない所でやらせて」
「はい、監督」
「はい・・・」
手を抜こうと思ったら工事の人達に怒られた。
「おい、坊ちゃん。こちらは生活がかかっているのだ。しっかり働け!」
「はい・・・」
夕方迎えに来てくれた。
「さあ、坊ちゃん。走って帰りましょう」
「馬車は?」
「断りましたわ」
走って帰るはめになった。10キロはあるだろうか?
チャリン♪チャイン♪
「ササキだけ。その魔道具おかしいよ」
「自転車ですよ。これもボクシンググローブを使う特訓ですよ。ダミアン様にイジメられても良いのですか?」
ズルイ。父上も母上もササキの味方だ。
「うむ。しばらく特訓すれば良いだろう」
「まあ、ダビテ、こんなに食べて・・嬉しいわ」
「腹減ってんだよ。ペコペコだよ」
それから毎日工事をして10日経った頃。
「次は丸太運びです!」
「分かった。でも、ササキ手本を見せてよ!」
イジワルを言った。ササキは僕より少し年上のお姉さんだ。丸太を持てるはずが・・・
「よいしょっと」
「ズ、ズルいよ!その魔道具は何だよ!」
「運搬補助具、パワースーツですよ」
それからも作業が続いた。
「右肩で担いだら次は左肩に丸太を載せて下さい」
「はい・・・」
毎日、こんな感じだ。つまらない。
今日はサボった。
「おい、ダビデ!」
「ダミアン様・・・」
街を歩いていたらダミアンに出くわした。
デブでここら辺の子供の間ではボスだ。ガキボスと噂されている。
「ヒーヒヒヒヒ、ダミアン様、ダビデの屋敷に便利な魔道師が住み着いているらしいですよ」
これは取り巻きの商会長の息子のサミーだ。
「おう、そうか。なら寄越せよ。倍の給金を出すと母上に頼んでやるからよ」
「や、やめてよ」
胸ぐらを掴まされそうになったので手で払い・・・え、払えた。
「お、反抗するのか?ダビデのくせに生意気だ!」
僕は逃げた。いつもなら追いつかれるのに・・・
「ま、待て~!」
「はあ、はあ、ダビテのくせに!」
逃げ切られた。
これは効果があったのか?
そのまま工事現場まで行って特訓を続けた。
「ササキ~!やっぱり続けるよ!」
「フフフフ、そう」
おっちゃん達と工事を続けた。
「坊主、少しは休めよ」
「いえ、僕はタバコ休憩しませんので皆様休んで下さい」
「阿呆、水飲めってササキ様の指示だぜ。現場のルールを守りやがれ」
「はい!」
少し認められたらしい。
それからボクシンググローブの使い方を教えてくれた。
「まだ、ボクシンググローブをつけるのは早いです。まずはジャブを教えます」
「はい!」
「顎をさげて、打つとき顎が肩に付くように拳を前に出します」
「こう?」
「違います。打つとき拳を引かない」
「でも、威力ないよ」
「それで良いのです。これはけん制の技ですよ」
「はい!」
「一日ジャブ100回、左右です。それが終わったらボディジャブです。これも左右100回。必ず鏡の前でやって下さい」
「え、こんなもので良いの?」
「ダラダラやっても集中力が途絶えますよ」
それから街中を走るようになった。
チャリン♪チャリン♪
「はい、マイボーイ!ジャブ!ジャブ!」
「は、はい!」
途中で技を繰り出す。
あれ?
「ササキ、走りながらジャブをすると威力が増すよ!」
「マイボーイ!ナイス!だけど前を見て!」
「はい、師匠!」
街中を走ると馬鹿にする奴らがいた。
クスクスクスクス~~
「うわ。何だ!あれは!仕事でもないのに走っているぞ!馬鹿だ!」
「キャア、あの殿方汗だくで臭そうだわ」
「本当ね。みっともないわ」
とっぽい若者と街娘に笑われた・・・
「マイボーイ、ここでステイ!」
「はい・・・」
「ジャジャジャーン!非殺傷兵器テーザー銃!」
「ギャアアアアアーーーーーー!」
何か若者に雷魔法を放ったみたいだ・・・
「ヘイ、マイボーイを笑ったわね!次やったら電気按摩よ!」
「ヒィ、もう笑いません!」
街娘たちにも・・・
「な、何よ!臭そうだから笑って何が悪いの?」
「女ですけど、女に魔法を放つの?」
「ヘイ、マイボーイはスパダリヒーロになる途中よ。髪型白菜女に顔だけ白粉女!には防犯用スカンクスプレーよ!」
「「キャアアアーーーー!」」
「く、臭い!」
容赦なく魔法を放った。
それからワンツーを習った。
「突進力!ボクシングは突進力!前へ出ながらパンチ!」
「はい!」
また、下がる方法も教えてもらった。
「下がりながら左右のフック!」
「はい!」
「ジャジャジャーン!人型パンチングサンドバック!」
「これは・・・」
「ボクシング最大の攻撃、レバー打を教えます!」
「はい!」
それからミット打もやってもらった。
ササキは手にミットをつけてパンチを繰り出すのだ。
「はい、頭がら空き!」
「うわ!」
「男は悲鳴をあげない!」
パンチを打っている最中にミットで攻撃される。
攻防の訓練だ!
段々とコツが分かってきた。
そして、ササキの攻撃を見切れるくらいになったら工事も終わった。
「開門!」
「「「「オオオオオオオーーーーー」」」」
「これで水やりに苦労はしないぞ」
「領主様のおかでだ!」
「おい、坊主も輪に入れ!」
「はい!」
皆で喜び屋敷に戻ったら・・・
「え、ササキはやめたの?」
「そうだ。契約終了だ。ササキは黒髪族だったのだ」
「黒髪族?」
遠い異国からやって来た種族、不思議な技能を身につけているから荒唐無稽にも異世界から来たと云う人もいる。
「無理を言って来てもらったのだ。灌漑施設があれば収穫量が増えて農民も困らないからな」
「な、何だよ。挨拶くらいあってもいいのに・・・」
「そうだ。ダビテ、婚約者候補が来るぞ」
「父上、それどころではないよ!」
ササキの部屋に行ったらボクシンググローブと手紙が置いてあった。いや、賞状か?
『貴方は独りでやれる技能が身につきました。ボクシングは世のため人のために使いなさい。スパダリヒーロ認定書!魔道師、アズサ・ササキ』
「な、何だよ。これじゃただの特訓じゃないか?もっと、こう、黒髪族らしくチートな特訓だとか一人だけダンジョンとか・・・」
グスン、涙が出てきた。
「ダビテ、マリーナ嬢が来るから支度しなさい」
「マリーナ嬢って、近隣で一番美人と評判の子爵令嬢・・・」
「そうだ。今まで黙っていた。さあ、お茶会だ」
マリーナ嬢は僕と同じ歳だ。
せっかくのお茶会でもササキの顔が浮かんでくる。
「さあ、ここは若い者同士で」
お互いの両親が席を立とうとしたら、ダミアンとその父上がやってきた。
使用人の制止を振り切りガゼボまでやって来た。
「困ります!今、お茶会です」
「お~い、ダビテ、マリーナ嬢は俺と婚約するんだぜ!譲れ!」
「ダミアン・・・」
あれ、いつもは怖いと思ったダミアンがただのデブにしか見えない。
「侯爵殿、これは許されませんよ!」
父上が抗議をしてくれたが、侯爵は・・・
「まあ、まあ、子供のやることですから・・」
いつもの決まり文句だ。
「おうよ。ササキって魔道師が俺に雷神魔法をかけやがった!いなくなったら怖くねえ。お前などササキがいなくなったらただの弱虫だ」
そうか、特訓中にダミアンからイジメられなかったのはそういう事か・・・・
「キャア!」
「こっちに来いよ。こっちは侯爵家だぜ。ダビテは俺の家来だ」
ダミアンがマリーナ嬢の肩に手をかけようとしたのでパンチで払った。
「な、何だ。ダビテのくせに生意気だ!」
大ぶりのパンチが飛んできた。ササキよりも遅い。
だからよけて、ジャブを顎にたたき込んで・・・・次は・・・
と思ったら。
ダミアンはジャブで既に腰を地面に落していた。
「あれ、あれ、立てない!ダビテ!何かやったか?」
「令嬢の肩を掴んだらいけないよ。それは紳士のやることではない」
ジャブから顔面にストレートからのレバーブローをやろうと思ったらダミアンは起きてこられなくなった。これが脳しんとうという奴か・・・
「こ、こちらは侯爵令息だぞ!暴力に抗議する!」
侯爵が抗議をしたが・・・
今度は父上が。
「まあ、まあ、子供のやることですから」
と返してくれた。
その時。
【あんた!何勝手に他所様のシマに乱入しているだい!】
まるでビア樽のような侯爵夫人がやってきた。
「母上・・・」
「ハリナ・・・」
「全く、親子してどうして殿方は悪い所は似るんだい!」
「じゃあ、失礼するよ」
侯爵夫人はダミアンの首根っこを掴んで引きずって退場した。怪力だ。世の中広い。
そう言えば侯爵夫人は市場の商会出身だと聞いた。
ダミアンの外見は夫人似、性格は侯爵似か・・・
侯爵はその後をスゴスゴと付いていく姿が家庭内の権力図を物語っている。
「あんた。帰ったら説教二時間だよ!」
「はい・・ハリナ・・・」
「ダミアンもだよ!」
「母上~」
マリーナ嬢の両親から・・
「娘をよろしくお願いします」
「ええ、マリーナを任せて大丈夫だわ」
そう言われて。父上からエスコートをしろと提案をされた。
「そうだ。せっかくだからエスコートをして庭園を案内してあげなさい」
「ダビテ様・・・」
マリーナ嬢の腕を取り見上げると。
大空いっぱいに微笑んでいるササキの顔が浮かんだ。
そうか、僕は知らずのうちにササキに恋をして失恋をしたのだ。
マリーナ嬢とこれから歩んで行こうと思う。
最後までお読み頂き有難うございました。




