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クモをつつくような話 2026 その3

作者: 山崎 英明
掲載日:2026/10/31

 8月1日。晴れ時々曇り。最低24度C。最高33度C。

 午前9時。

 光源氏ポイントには体長18ミリクラスのジョロウグモが2匹いた。それぞれベッコウハゴロモをあげておく。

 コガネグモの20ミリちゃんの隠れ帯は相変わらず1本だけだった。そこで円網にアオドウガネを落とし込んでみたのだが、一呼吸分くらい反応が遅い。お尻が薄くなるまでは獲物をあげなくてもいいかもしれない。

 舗装路脇のコガネグモの上側の係留糸が黄色くなっていたので撮影しようと思ったのだが、これが難しい。糸だけ撮影してもそれが何なのかわからないのだ。

 その隣のオニグモの円網は張り直していない無こしき網になっていた。昨夜は獲物がかからなかったんだろう。

「そんなこともあるさ、オニグモだもの」

 観察を終えて走り出そうとしたら、ビンディングペダルにシューズのクリートが嵌まらない。降りてチェックすると、クリートに小石が挟まっていた。石は硬いので、足で踏んだくらいでは潰れないのである。これを中国の古いことわざでは「石強固」と言う。〔「意志強固」だ!〕


 午前10時。

 コガネグモの17ミリちゃんの卵のうの周囲には子グモが20匹くらい残っていた。卵のう回収用のプラスチック容器を持ってきたのだが、無駄になってしまった。

 水田脇の草地でオンブバッタを2匹捕まえたのでそこらにいたコガネグモたちにあげた。片方の子は捕帯を巻きつけようともせずに直接牙を打ち込んで仕留めてしまった。

 さらに体長50ミリほどのツチイナゴを捕まえようとしたら、自ら作者の右手の中に飛び込んできた。これもまたクモの神様のお導きであろう。近くにいたコガネグモの円網に投げ込んであげる。古いことわざにいう「ツチイナゴ、掌中に入らば、作者はこれをコガネグモに与える」である。〔そんなことわざはない!〕

 ツチイナゴに駆け寄ったコガネグモは、DNAロールで軽く捕帯を巻きつけると牙を打ち込んであっさり仕留めてしまった。「体長の4倍です!」というショウリョウバッタでさえ仕留めてしまうコガネグモにとって、この程度は「大型の獲物」ですらないのかもしれない。

 さてさて、そんなコガネグモが1分以上も捕帯を巻きつけるのがコガネムシの仲間である。何もそんなに仕留めにくい獲物を狙わなくてもいいだろうに……とは思うのだが、幼体で越冬して7月頃から産卵するためにはコガネムシの仲間を狙うしかなかったんだろう。成体のクモが狙う獲物は、産卵するのに十分な量を食べられるほどの存在量が必要なのである。


 午前10時。

 1匹のコガネグモがカブトムシの雌らしいものを食べていた。頭部は外されているが、胸部と腹部だけで40ミリはある。

 ああっと、ウィキペディアの「コガネグモ」のページに「カブトムシも捕食する」と書き込むのも面白いかもしれないなあ。嘘ではないのだし。

 ウルシの葉の下にコガネグモの卵のうがあるのに気が付いた。それがどうもグレーに見える。もしかすると、灰緑色というのはグレーのカビと緑色のカビが共生している状態なのかもしれない。こういうものはそのうちにカビの研究者が明らかにするだろう。


 午前11時。

 民家の庭先に置かれていた鉢植えのハイビスカスを撮影した。栽培種だろうが、直径25センチという巨大な花である。

 暑くてたまらん。今日はここまで。


 午後7時。

 後輪のタイヤの傷からゴムの下のコードが見えていたので交換した。それだけで汗をかいてしまう。


 午後8時。

 ガス漏れ警報器の前に体長5ミリほどの羽アリを落とし込んでみた。「体長の5倍です!」という大型の獲物なのだが、新ガス漏れ警報器ちゃんは果敢に獲物に駆け寄っていく。

 不規則網に引っかかった昆虫は、文字通り地に足が付いていない状態なので暴れにくいし、背面側からなら安全に近寄れるだろう。不規則網というのは比較的大型の獲物が多くなる小型のクモ向きのシステムなのかもしれない。


 8月2日。晴れのち曇り。最低24度C。最高28度C。

 午前1時。

 コンビニの店先でアオドウガネ5匹とドウガネブイブイ1匹を捕まえた。

 ついでに羽アリを数匹捕まえて、ヒメグモ2匹の不規則網に投げ込んでおく。2.5ミリちゃんの網には3匹、シート網を付けていない2ミリちゃんの網にも1匹かかったようだ。

 羽アリはさらに10匹くらい持ち帰って、玄関にいるマダラヒメグモたちに分配した。最近は右前隅ちゃんも右奥ちゃんも不規則網を補修しないので、ダンゴムシのような重い獲物は引っかからないのだ。左側にいる子たちは体長2ミリとか1ミリとかなので、ダンゴムシは仕留められそうにないし。


 8月3日。曇りのち晴れ。最低23度C。最高25度C。

 午前8時。

 路面が濡れている。予報では昼頃まで小さな雨雲が次々にやって来るのらしい。

 冷蔵庫にはアオドウガネとドウガネブイブイが合わせて15匹入っているんだが、今日は休んだ方がいいかもしれない。


 午前11時。

 スーパーの東側にナガコガネグモの幼体が2匹いた。体長はそれぞれ10ミリほどと7ミリほど。光源氏ポイントや用水路ポイントにいる個体と比べると明らかに成長が遅い。ナガコガネグモ向きの環境ではないということなんだろう。それぞれ体長5ミリほどのアリをあげておく。


 8月4日。晴れのち曇り。最低21度C。最高28度C。

 午前1時。

 マダラヒメグモの右前隅ちゃんのお尻が小さくなっていた。卵のうが重なっていて数えにくいんだが、産卵したんだろう。


 午前9時。

 コガネグモの20ミリちゃんのお尻が薄くなっていた。円網にも隠れ帯を付けていない。さらに、お尻の後端を太陽に向けている。産卵したんだろう。

 この子はクズの枝葉の前という、どう見てもコガネムシを捕捉するのには向かない場所に円網を張っている。さらにクズの枝葉は南北に延びているので、昼過ぎには陽が当たらなくなるはずだ。どうしてこんな場所に居続けているのかわからない。もしかすると、作者が1日か2日に一度コガネムシの仲間を投げ込むので「それで十分」と思っているのかもしれない。コガネグモには20匹に1匹くらい、こういう、よく言えば「足るを知る」タイプ、悪く言えば向上心が足りないタイプがいるような気がする。とりあえずドウガネブイブイをあげておく。

 スズミグモのスズちゃんのドーム絹網には体長17ミリほどのガを投げ込んだ……のだが、スズちゃんは絹網の端まで逃げてしまった。すぐに近寄って牙を打ち込んでいたが、投げ込み方に問題があったのかもしれない。絹網にも不規則網にも粘球はないようだから、そうっと投げ込むと逃げられてしまいそうな気がするんだが……。


 午前10時。

 用水路ポイントにいたコガネグモの17ミリちゃんの子グモたちはいなくなっていた。後で用済みの卵のうを回収しておこう。

 用水路の脇の狭い草地にいたコガネグモは18匹。向かい側の草地には5匹。奥の草地には成体とは言えないような体長の子が1匹だけだった。近くにいる子にはアオドウガネなどを配っておく。

 体長40ミリほどのキリギリス体型のバッタを見つけたのでロードバイクを降りて捕まえたのだが、噛まれた。

「そんなこともあるさ、人間だもの」

 しかも、よく見ると太めの腹部から産卵管が伸びている。雌はリリースしよう。〔噛まれ損じゃないか?〕

 今日配る獲物はあるのだし、バッタの仲間を冷蔵庫に入れても甲虫ほど長生きしてくれないのだ。無益な殺生はしない方がいいだろう。


 午後1時。

 舗装路にアブラゼミが転がっていた。これをイギリスの古いことわざでは「セミコロン」と言う。〔嘘つくな!〕

 鞘翅が茶色と白の縦筋模様という体長20ミリほどの甲虫も転がっていた。これは何者なのかわからない。

 アオドウガネが余ったので、コガネグモの20ミリちゃんにお代わりをあげておく。


 午後4時。

 2日間サボったので、今日は100キロ走った。コンビニで補給しながら無理のないペースで走ればどうということはないのだ。今日は割と涼しかったし。


 午後10時。

 マダラヒメグモの右奥ちゃんが卵のうを造っている。


 8月5日。曇り時々晴れ。最低22度C。最高28度C。

 午前6時。

 光源氏ポイントにいたコガネグモの20ミリちゃんはいなくなっていた。大穴の開いた円網しか残っていない。アオドウガネが1日に2匹もかかったので、もっと獲物が少ない場所へ引っ越すことにしたのかもしれない。陽当たりがいい場所なら食べ切れたんだろうけどなあ……。

 スズミグモのスズちゃんには玄関先で捕まえたクロゴキブリをあげた。かなり大型の獲物なのだが、スズちゃんは積極的に捕帯を巻きつけて牙を打ち込んだ。コガネグモ科のクモらしい狩りである。

 舗装路脇のコガネグモは隠れ帯を下側に2本付けていたのだが、かまわずにアオドウガネをあげてしまう。


 午前7時。

 コガネグモの17ミリちゃんの用済みの卵のうを回収した。

 コンクリートの電柱にはもっと赤茶色になっている卵のうがあるのだが、こちらはまだ子グモたちが出ていない。なお、どちらの卵のうも平らな面は白色だった。

 用水路脇の狭い草地では1匹のコガネグモがイナゴのようなものを食べていた。

 別のコガネグモは頭胸部を太陽に向け、脚を4本垂らして水平姿勢を取っていた。お尻は丸くないから産卵を終えた子だろう。ということは、コガネグモが日光浴で体温を上げるのは卵巣内の卵の発生(成熟?)を加速するためなのかもしれない。コガネグモはとにかく生き急ぐタイプのクモなのである。


 午前8時。

 堤防の上の舗装路には雄を背中に乗せたショウリョウバッタの雌がいた。


 午前9時。

 半月を撮影した。デジタルズームでめいっぱい引き寄せれば、なんとか撮れるのだ。画質はどうしようもないが。

 舗装路を走っていたらメタリックグリーンの何かが目に付いた。ロードバイクを降りて引き返してみると、潰れて内臓がはみ出しているタマムシだった。内臓が目立たない角度から何枚か撮影しておく。


 午前11時。

 ヒメグモの2.5ミリちゃんの卵のうは3個になっていた。

 2ミリちゃんは相変わらず、枯れ葉もシート網も付けていない。まあ、枯れ葉はなくても、暑かったらサザンカの葉の下に入り込めばいいわけだが……。

 ああっと、産卵もサザンカの葉の下でするつもりなんだろうか? もしもそういうことが起こって、なおかつ、そういう行動が次の世代にまで受け継がれていくならば、それは「進化だ」と言えるだろう。

 台所の床にいる体長4ミリほどの黒いクモがシンクから跳ねた水滴に口を付けている。クモも水分補給することがあるのらしい。


 午後5時。

 台所の床から1.2メートルくらいの高さの場所に体長3ミリほどのクモがいた。網を張っているようだから徘徊性のクモではないだろう。それはいいとして、ビニール傘を使って網を張っているらしいのが問題だ。もう1本買おうかなあ……。

 水分補給していた子はシンクの横にいる。床からの高さは10センチくらい。網は張っていないようだし、頭胸部も四角いからハエトリグモの仲間かもしれない。


 8月6日。曇りのち晴れ。最低22度C。最高31度C。

 午前3時。

 雨が降ってきた。もう少し寝よう。


 午前8時。

 ユニットバスの中に体長2ミリほどのユウレイグモかアシナガグモの仲間の幼体らしいクモがいた。

 4ミリちゃんと2ミリちゃんはどこかへ行ったようだ。


 午前11時。

 玄関の天井近くに体長4ミリほどのクモがいるのに気が付いた。ただし、網を張っているようだし、細めの体型だからシンクの横にいた4ミリちゃんではないだろう。

 体長5ミリほどのアリを少し弱らせてからマダラヒメグモの右前隅ちゃんの不規則網に落とし込んでみたのだが、下の方から近寄って牙を打ち込んだのは体長1ミリほどの子グモだった。繰り返しになるが、マダラヒメグモの場合、不規則網の中に子グモが居候していることは珍しくないのである。誰の子かはわからないが。

 右前隅ちゃんはどこかと思ってライトで照らしてみると、不規則網の端でダンゴムシを食べていた。獲物を仕留めるのはいいとして、ホームポジションまで運ばずに食べるのは、体力が低下しているということなのかもしれない。最近は不規則網の補修もしなくなっているし。


 午後10時。

 コンビニの店先に羽アリが群れていたので、ヒメグモの2.5ミリちゃんの不規則網に投げ込んだ。フェンス越しでも5匹くらい投げれば1匹は網にかかるのだ。なお、今の2.5ミリちゃんのお尻は黄土色。

 2ミリちゃんの姿は見えない。引っ越したかもしれない。

 残った羽アリは玄関の四隅にばらまいておく。食欲がある子は捕食するだろう。


 8月7日。晴れ時々曇り。最低26度C。最高33度C。

 午前9時。

 今日は採血の予定だったのでこの時間に家を出たのだが、ヒメグモの2.5ミリちゃんが不規則網の中で卵のうを造っているところだった。脚が短いだけに、ものすごい速さで第四脚を振り回している。なお、明るい時間帯に産卵というのは珍しいかもしれない。

 受付が10分遅れると医院を出るのが30分遅れるのだが……しょうがない。カメラを取りに自宅まで戻る。

 サザンカの植え込みでは、すでに2.5ミリちゃんが枯れ葉の下に戻っていたのだが、不規則網の中の卵のうと枯れ葉の下の母親という構図で撮影しておく。


 午前11時。

 舗装路にミンミンゼミがいたので捕まえた……と思ったら、すでに力尽きている子だった。せっかくなので持ち帰ってプラスチックケースに入れておく。


 午後3時。

 また失敗した。午前9時頃にヒメグモの2.5ミリちゃんの卵のうだと思ったものはダンゴムシだったのだ。まいったね。


 午後9時。

 マダラヒメグモの右前隅ちゃんの不規則網に体長4ミリほどの黒いクモが入り込んでいた。細めの体型だから雄かもしれない。で、このクモが右前隅ちゃんの最新の卵のうに口を付けているように見えるのだ。しかも右前隅ちゃんが追い出す様子もない。何なんだ、これは? 卵を食われたらまた産めばいいという考え方なのか? わからん。

 ヒメグモの2ミリちゃんはいなくなったようだ。


 8月8日。晴れ。最低26度C。最高32度C。

 午後3時。

 ヒメグモの2.5ミリちゃんの姿が見えない。シート網も破れているし、枯れ葉も外れている。今日はアパートの外壁洗浄だというので外に出ていなかったのだが、強い風が吹いたのかもしれない。


 8月9日。晴れ時々曇り。最低24度C。最高30度C。

 午前5時。

 今日はアオドウガネを23匹、ヒメコガネを1匹、体長20ミリほどの細め体型の甲虫を1匹、スジコガネを1匹、体長18ミリほどのガを1匹、ポケットに入れて自宅を出た。


 午前6時。

 スズミグモのスズちゃんのドーム絹網は横60センチ、奥行き40センチくらいになっていた。電柱とガードレールを利用して張った網なので円形にするのは難しいようだ。スズミグモは森の中にいるべきクモなんじゃないかと思う。

 体長18ミリほどのガをスズちゃんの網に投げ込むと、少々時間はかかったが、飛びついて牙を打ち込んだ。この辺りはコガネグモ科のクモらしい行動である。

 舗装路脇のコガネグモは円網を残して姿を消していた。産卵か引っ越しだろう。


 午前7時。

 今日は獲物が大量にあるので、用水路の水門の下という、いかにも陽当たりが悪そうな場所にいるコガネグモの円網めがけてアオドウガネを投げてみた。

円網まで2メートルもあるので、翅を広げたアオドウガネはカーブして外れてしまうのだが、3回目にやっと円網に投げ込むことができた。「ツーボール、ワンストライク」である。〔…………〕

 用水路脇の狭い草地にいるコガネグモたちには片っ端から獲物を投げ込んだのだが、珍しいことに隠れ帯を右下に1本、左上にハーフサイズを1本付けている子がいた。お尻も丸いので産卵前だろう。獲物はあげないでおく。

 ここにはナガコガネグモもいたので、アオドウガネを1匹お裾分け。ナガコガネグモも当たり前のように捕帯を巻きつけて牙を打ち込むのだ。ただし、円網が小さいので、コガネムシが突き抜けてしまわないように浅い角度で落とし込む必要はある。


 午後11時。

 ロードバイクの変速ワイヤーを交換した。そこで気が付いたのだが、後輪のスプロケットが緩んでいた……というか、組み立てミスだな。それでもちゃんと走れるというのが日本製のいい所だ。


 8月10日。晴れ時々曇り。最低24度C。最高29度C。

 午前9時。

 光源氏ポイントには雄と同居しているジョロウグモが2匹いた。

 体長20ミリほどのジョロウグモには同じくらいの体長のバッタをあげてみた。獲物に駆け寄った20ミリちゃんは慎重に安全確認をした後、素早く踏み込んで牙を打ち込んだ。これくらいの体長になると「小型の獲物がいい」などと贅沢なことは言えないのらしい。

 この時期には珍しく、円網の半分だけを張り替えたらしい体長10ミリほどのジョロウグモもいた。一時的に大量の獲物を食べられたんだろう。

 スズミグモのスズちゃんには今日も体長18ミリほどのガをあげた。一度バッタをあげてみる必要があるなあ。


 午前10時。

 舗装路をイラガの幼虫が歩いていた。助けてあげるべきかとも思ったのだが、毒棘が怖い。

 用水路の水門の下にはコガネグモの他にオニグモのものらしい円網が5枚残されていた。無責任な論文屋さんなら「オニグモは日陰を好む」というような論文を書いてしまうところだが、これはただ単に円網を張りやすかったというだけのことだろう。

 今日もアオドウガネ8匹を用水路脇の狭い草地にいるコガネグモたちに配って歩いた。


 午後3時。

 明日は暴風雨。明後日も雨らしい。今日の内に食料を備蓄しておこう。

 

 午後4時。

 行き倒れのアブラゼミを拾った。


 8月11日。暴風雨。最低21度C。最高24度C。

 午前9時。

 雨が降っている。夕方には「風速11メートルの風」が吹くのらしい。


 午前11時。

 ガス漏れ警報器の前に体長2ミリほどのマダラヒメグモの幼体(多分)がいたので、そこらで捕まえた体長4ミリほどのワラジムシを落とし込んでみた。「体長の2倍です!」という大物だが、2ミリちゃんはためらいもせずに糸を巻きつけている。

 もしも体長5ミリのジョロウグモの幼体の円網に体長10ミリのアリを投げ込んだら、間違いなく逃げるだろう。不規則網は比較的大型の獲物向きの網なのである。逆に言えば、大型の獲物向きの網を獲得できたからこそ、ヒメグモ科のクモは小型化できたのかもしれない。


 午後6時。

 風が強くなってきた。


 8月12日。雨時々曇り。最低22度C。最高29度C。

 午後2時。

 体長5ミリほどと8ミリほどのアリを捕まえたので、少し弱らせてからガス漏れ警報器ちゃんと左奥ちゃんにあげた。


 午後9時。

 民家の塀の前に体長15ミリほどのオニグモの仲間(多分)が円網を張っていた。白い塀なので円網が見えないのだが、だいたいこの辺りまでは円網だろうという位置に体長5ミリほどのアリを投げ込んでおく。


 8月13日。曇り時々雨。最低23度C。最高28度C。


 8月14日。雨のち曇り。最低24度C。最高27度C。

 午前11時。

 雨はやんだ。雲の間からは青空も見えている。

 スーパーの東側にいた体長10ミリほどのジョロウグモの円網に、冷蔵庫に入れてあった体長30ミリほどのオンブバッタの雄を落とし込んだ。「体長の3倍です!」という大物なので、当然10ミリちゃんは円網の端まで逃げた。まあ、食欲があるなら捕食するだろう。

 買い物を済ませてから確認すると、10ミリちゃんは第一脚で獲物をチョンチョンしたり、その上で円網を切り開いたりしている。そのうちに、さっと踏み込んで牙を打ち込んだ。ただし、それはオンブバッタが自切した後脚だったが。

 ブロック塀の上を歩いているイラガの幼虫を見つけた。体長は20ミリほど。

 マダラヒメグモの右奥ちゃんには、体長5ミリほどのアリを少し弱らせてからあげた。

 

 午後10時。

 冷蔵庫に入れてある獲物をチェックしたらアオドウガネとドウガネブイブイが合わせて38匹と体長15ミリほどのガが1匹だった。明日は出かけなくてはいかんなあ……。


 8月15日。晴れ時々曇り。最低23度C。最高29度C。

 午前7時。

 半数くらいの水田では稲穂が黄色くなり始めている。

 スズミグモのスズちゃんは体長20ミリほどになっていた。新海栄一著『日本のクモ』によると、スズミグモの雌成体の体長は「14~23ミリ」らしい。というわけで、スズちゃんはもうオトナなのかもしれない。交接できているといいなあ。体長15ミリほどのガをあげておく。


 午前8時。

 用水路脇の狭い草地にいたコガネグモは11匹だった。向かい側の草地にいたコガネグモは5匹。奥の草地には2匹だ。もうコガネグモのピークは過ぎたのかもしれない。

 できる範囲でアオドウガネなどを投げ込んで、余ったアオドウガネなどは広葉樹の枝葉の上にばらまいておく。

 奥の草地で体長25ミリほどの黒いバッタの子虫を2匹捕まえた。1匹はそこらにいたナガコガネグモの円網に投げ込んで、もう1匹は光源氏ポイントまで持ち帰る。

 今日もコガネグモの子グモのまどいを見つけた。近寄っても逃げないのをいいことに、思い切りアップで撮影しておく。

 自販機の近くに咲いている花にクマバチが5匹やってきていた。こいつらはとにかく動きが速くて、ピントが合った時にはもう次の花目指して飛び去っている。しょうがない。適当なところで諦める。クモじゃないしな。


 午前9時。

 スズミグモのスズちゃんの不規則網に黒いバッタの子虫を投げ込んだ……のだが、不規則網に引っかかったせいか、スズちゃんが寄って来ない。そこで、枯れ草の茎でバッタをツンツンしてドーム絹網の上に落とす。こうすれば捕帯を巻きつけてもらえるのだ。

※今のところ、スズミグモが狙っている獲物は何なのかよくわからない。ドーム絹網の高さはコガネグモの円網とほぼ重なるのだが、どうもコガネムシの仲間は苦手らしいのだ。となると、チョウ目やカメムシ目のような比較的体重が軽い飛行性昆虫だろうか。しかし、その場合はまた、どうして粘球付きの円網ではないのかという疑問が生まれてしまう。南の方で生まれたクモらしいから、ふるさとの森にどんな獲物がいるのかを確認してみたいものだな。


 午前11時。

 堤防の上の舗装路をカナブンの仲間の幼虫が背面歩行していた。放っておくと熱中症になってしまいそうなので、草地に放り込んでおく。

 光源氏ポイントまで戻ると、クズの枝葉の中に体長20ミリほどのナガコガネグモが円網を張っているのに気が付いた。「やあやあ、ここで会ったが百年目」である。近くの草地で捕まえた体長20ミリほどのオンブバッタの雄(多分)を円網に投げ込んであげる。それなのに円網を揺らすんだ、こいつは! 食欲がないのかもしれないが、せっかく捕まえた獲物に逃げられるのも面白くない。オンブバッタをツンツンしてその気にさせてしまう。そうしたら、円網を揺らしながら獲物に近寄って、捕帯を巻きつける時も円網を揺らしながら巻きつけるのだった。器用な子である。

 ジョロウグモもそうなのだが、気温が高い時間帯のナガコガネグモは獲物に対して積極的になれないことがあるようだ。

 水田にはイナゴが群れていたのだが、水田の中まで踏み込むわけにはいかない。なお、イナゴを捕まえるのなら早朝がいい。体温が上がる前なら動きが鈍いし、陽当たりのいい場所にいるから捕まえやすいのだ。


 午後1時。

 前輪の空気圧が下がっている。スローパンクチャーというやつだ。こういう小さな穴を探すのはめんどくさい。タイヤとチューブをまとめて交換してしまおう。


 8月16日。晴れ時々曇り。最低22度C。最高28度C。

 午前10時。

 マダラヒメグモの右前隅ちゃんの姿が見えない……と思ったら、コンクリート面に落ちていた。いいクモ生だったと思いたい。合掌。

 いい機会なので玄関の掃除をした。もちろん作者はクモが好きなのだが、いかにもダンゴムシだとか、一目でガガンボだなとわかるような食べかすは気になるのだ。

 スーパーの南側にイナゴが1匹いたので捕まえた。コガネグモとコガネムシのシーズンが終わりに向かっているということは、ナガコガネグモとイナゴのシーズンがやって来るということなのだ。


 午前11時。

 スーパーの東側では体長12ミリほどのナガコガネグモの幼体が円網を揺らしながら捕帯を巻きつけた獲物をホームポジションに持ち帰るところだった。円網には獲物がもう1匹取り付けられている。


 午後1時。

 スズミグモのスズちゃんのお尻はニワトリの卵のような形になっていた。アオバハゴロモを不規則網に投げ込むと、ドーム絹網の上に落ちた獲物に素早く近寄って牙を打ち込んだ。やはり、スズミグモは小型の飛行性昆虫狙いのようだ。ただし、スズミグモを観察するのはは2匹目だし、先代のスズちゃんは上から落ちてきたイモムシも捕食していた。まだまだデータが足りないなあ。

 光源氏ポイントには隠れ帯をホームポジションの上に2本、下に1本付けているナガコガネグモの幼体がいた。それほど食欲がないということは脱皮が近いのかもしれない。

 円網の横糸を黄色くしているジョロウグモも1匹だけいた。


 午後2時。

 用水路脇と向かい側の草地と奥の草地に、それぞれ体長17ミリほどのコガネグモが1匹ずつ現れた。オトナになるのが遅れた子たちだと思う。まだ間に合う……といいんだが……。

 15日に見つけたコガネグモの子グモたちは3個の密集したまどいを形成していた。大穴が開いている卵のうは回収する。膨らんでいる面は少し灰緑色のカビが生えているようだが、平らな面はほとんど白色のままだ。

 電柱に取り付けられていた卵のうも回収した。出のうしていないような重さなのだが、1本の糸でぶら下がっているような状態なのだ。落ちてしまったら見つけられないと思う。なお、赤茶色だった部分は濃い茶色になっていて、黒い斑もいくつか現れている。これは黒いカビだろう。今まで見てきた卵のうの中で最も見た目が汚い卵のうだなあ。

※この卵のうの中の卵は無精卵だったようだ。


 午後6時。

 電柱から回収したコガネグモの汚い卵のうをベランダにぶら下げた。2週間くらい様子を見てから保管しようと思う。

 台所のシンクの上に体長3ミリほどのアシナガグモの幼体がいるのに気が付いた。円網を張ろうとしているようだ。動きが速くて撮影し難い。フラッシュを使うと黒っぽいお尻が真っ白になってしまうし。


 午後9時。

 台所のアシナガグモは水道の蛇口のレバー部分に落ち着いたらしかった。円網の大きさが制限されると思うんだが……。


 8月17日。曇りのち晴れ。最低22度C。最高29度C。

 午前5時。

 アオドウガネなどを19匹、イナゴ2匹、ショウリョウバッタの雌1匹、体長15ミリほどの甲虫1匹(ヒメコガネだと思う)をポケットに入れてロードバイクに乗った。


 午前6時。

 スズミグモのスズちゃんの不規則網にはヒメコガネを投げ込んだ。スズちゃんはドーム絹網の端まで逃げたのだが、ヒメコガネが絹網の上に落ちると、近寄って捕帯を巻きつけ始めた。この辺りがスズちゃんの限界なんだろう。

 光源氏ポイントにいる体長20ミリほどのナガコガネグモはホームポジションにもやもや型の隠れ帯を付け、その上下にもジグザグ型の隠れ帯を付けていた。かなり食欲がないようだ。

 雨が降ってきた。天気予報は「曇り」でも、光源氏ポイント辺りから先は雲が厚くなって雨が降っているということがよくあるのだ。海に近いせいだろう。とはいえ、アオドウガネなどを持ち帰る気にもなれないので、雨に濡れながら用水路ポイントに向かう。


 午前7時。

 水門の下にいるコガネグモの円網に向けてアオドウガネを投げる。1匹目は翅を広げると右へカーブして円網を避けた。2匹目は左。3匹目は上昇しようとしたのだが、避けきれずに円網に突っ込んだ。

 というわけで、アオドウガネは少なくともコガネグモか円網が見えていて、避けようとしたような結果が出た。そらまあ、障害物があれば避けるのが当たり前だわなあ。避けるのが下手なドジっ子だけがコガネグモの円網にかかってしまう。それくらいがちょうどいいんだろう。

※アオドウガネは、投げられるとカーブしたくなるという可能性もあるかもしれない。どういう実験をしたら検証できるんだろう? 


 ショウリョウバッタは体長20ミリほどのコガネグモの円網に投げ込んでみた。すると20ミリちゃんは第四脚2本の間に引き出した捕帯を体ごと投げ出すように獲物に投げつけ始めた(これはうちのマダラヒメグモたちと同じやり方だ)。

 しかし、ショウリョウバッタは強力な後脚で捕帯をはねのけてしまう。やがて20ミリちゃんは諦めて円網の端まで逃げてしまった。DNAロールまで使う気にはなれなかったのらしい。コガネグモの限界が見えてきたな。

 残ったアオドウガネなどは他のコガネグモたちに手当たり次第に配ってしまう。なにしろ雨が降っているので、とっとと終わらせてしまいたいのだ。

 昨日見つけたコガネグモの子グモたちは、1個の隙間の多いまどいを形成していた。明日辺りから順に旅立っていくんじゃないかと思う。


 午前8時。

 光源氏ポイント辺りまで戻ると、路面も乾いていた。


 午前11時。

 スーパーの西側で体長3ミリほどのヒメグモを見つけた。まったくいないということはないわけだ。


 午後9時。

 スーパーの西側にいるヒメグモの不規則網に羽アリを2匹落とし込んでから買い物をした。ついでにそこらにいたアブラゼミ、アオドウガネ、イナゴ、体長40ミリほどの茶色のバッタ、それに体長20ミリほどのアブ(多分)を捕まえた。

 帰りに立ち寄ったコンビニの店先ではアオドウガネを4匹とイナゴと体長20ミリほどの太めのガを捕まえてしまった。明日は休むつもりでいたんだけどなあ……。

 なお、コンビニの店先に現れるアオドウガネやイナゴは近所の50メートル四方くらいの草地からやって来るんじゃないかと思う。スーパーの近くにも池と広い草地があるから、クモ好きにとっては恵まれた環境と言えるかもしれない。ここに住むことになったのもクモの神様のお導きなのだろう。


 8月18日。曇りのち晴れ。最低23度C。最高30度C。

 午前9時。

 今朝は起きられなくて、光源氏ポイントに着いた時にはこんな時間になってしまった。

 スズミグモのスズちゃんの不規則網に体長22ミリほどの太めのガを投げ込んだ。スズちゃんはドーム絹網の端まで逃げたのだが、ガが絹網面まで落ちると、駆け寄って牙を打ち込んだ。もっと優しく獲物を投げ込むべきなんだろうが、不規則網の糸にはじき返されても困るのだ。

 クズの枝葉の奥にいるナガコガネグモはホームポジションの上下のジグザグ型隠れ帯だけを外していた。やっと空腹になったわけだ。イナゴを1匹投げ込んであげる。ナガコちゃんはDNAロールまで使って捕帯を巻きつけた。

 横糸が黄色いジョロウグモの円網には大量の鱗粉が付いたままだった。張り替えていないんじゃないかと思う。

 体長17ミリほどのジョロウグモには体長20ミリほどのアブ(多分)をあげた。飛行性昆虫であれば、こんな大物でもためらわずに飛びついて牙を打ち込んでもらえるのだ。体長10ミリほどのアリなら慎重に安全確認をするのにね。


 午前10時。

 用水路の水門の下では体長20ミリほどのオニグモが残業していたので、円網にアオドウガネを投げ込んであげたのだが、オニちゃんはアオドウガネの腹面側から捕帯を巻きつけようとするので脚ではねのけられてしまう。DNAロールかバーベキューロールを使えばいいだろうに……と思ったのだが、もしかすると、大きなお尻が重くて思うように動けないのかもしれない。

 見ているうちにオニちゃんとアオドウガネはもつれ合ったまま1本の糸にぶら下がった状態になってしまった。これはもうダメだろう。

 少し経ってから確認すると、予想通りオニちゃんだけがホームポジションに戻っていた。作者には獲物を投げ込んだ責任があるので、そこらの草地で捕まえた体長20ミリほどの細身のバッタを投げ込んであげる。なお、この季節にこんな時間までオニグモが残業しているのを観察するのは初めてかもしれない。何があったんだろう? 

※休眠に入る前の食い溜めだったようだ。


 アブラゼミは体長18ミリほどのコガネグモの円網に投げ込んだ。アブラゼミに駆け寄った18ミリちゃんは捕帯を投げかけ始めたのだが、アブラゼミが羽ばたくとホームポジションまで逃げてしまった。それでもセミの翅は大きいので円網から脱出することはできない。しばらくしてから確認すると、ちゃんと牙を打ち込んでいた。

 昨日、密集していないまどいを形成していたコガネグモの幼体たちは2個のまどいに分かれていた。

 そこから1.5メートルくらいの場所にも密集していないまどいがあったのだが、卵のうが見当たらない。コガネグモの子グモたちがまどいのまま移動したとも思えないから、見えにくい位置にあるんだろう。

 奥の草地にいた体長17ミリほどのコガネグモはホームポジションの下側に2本、左上にハーフサイズの隠れ帯を付けていた。いかにも食欲がなさそうなのだが、念のために円網にイナゴを投げ込むと、駆け寄って捕帯を巻きつけたものの、食べずにホームポジションに戻ってしまった。死海文書の記述通りの反応である。〔嘘つくな!〕

 用水路脇の狭い草地にはコガネグモが14匹いた。草刈りされてしまった向かい側の草地には4匹、奥の草地には2匹だった。


 午前11時。

 自販機休憩をしていて、ふと気が付くと、太陽の周囲に円形の虹が出ていた。一応カメラを向けたのだが、マイナス側への露出補正が2EVまでなので、虹が白くなってしまう。マニュアル露出ができるといいんだが……。


 8月19日。晴れ時々曇り。最低22度C。最高32度C。

 午前1時。

 アオドウガネ11匹、イナゴ3匹、体長25ミリほどの太めのガ、体長15ミリほどのガを捕まえた。その他に、冷蔵庫には昨日のうちに捕まえたアオドウガネが14匹とイナゴが5匹入っている。休みたいというのに……。〔夜中に散歩しなきゃいいだろが!〕

 体長30ミリほどのクワガタもいたのだが、この子はリリース。


 午前6時。

 光源氏ポイントにいるナガコちゃんは円網を張り替えなかったようだ。陽当たりが悪い場所だから、体温が上がらない分、獲物を消化するのに時間がかかるんだろう。

 横糸を黄色くしていたジョロウグモは無色の糸で円網を張り替えていた。空腹になったんだろうが、手が届かない。

 スズミグモのスズちゃんの不規則網には体長25ミリほどの太めのガを投げ込んだ。スズちゃんは知らん顔をしていたのだが、ガが羽ばたいて絹網の上に落ちると、駆け寄って牙を打ち込んだ。


 午前7時。

 今日はアオドウガネなどを20匹とイナゴを8匹持ってきたので、用水路周辺のコガネグモとナガコガネグモに配って歩いた。

 昨日アブラゼミをあげた子はまだ食べ終えていなかった。アオドウガネよりは可食部分が多いんだろう。

 またコガネグモの密集したまどいを見つけた。その近くにある卵のうは下側の合わせ目が開いている。

 奥の草地にいる体長17ミリほどのコガネグモは隠れ帯を3本半にしていた。ちなみにお尻はまん丸。体長がやや短めなので、その分獲物を消化するのに時間がかかるようだ。

 小さめのアケビを30個くらい見つけた。アケビは食べ頃の判断が難しいのだよなあ……。


 午前8時。

 舗装路脇の分離ブロックの穴に甲長200ミリほどのカメが挟まっていた。引き抜いて近くの休耕田にリリースしておく。今夜辺り、甲冑を着込んだ美女が訪ねてきて「私はあの時助けていただいたカメです。お礼に竜宮城へご案内いたしましょう」と言ってくれるに違いない。〔浦島太郎が助けたのはウミガメだぞ〕

 自販機の赤い壁面にグレーのまだら模様のアマガエルがとまっていた。赤い壁の前では緑色のままというわけにもいかないんだろう。なお、この自販機には緑色のアマガエルも2匹とまっていたから、緑色からグレーのまだら模様に変えるのには時間がかかるようだ。


 午前9時。

 オオミズアオの死骸を見つけた。頭部と腹部はなくなっているが、翅がほとんどそのまま残っている。

 スズミグモのスズちゃんは捕帯を巻きつけて棒状に成形したガを食べている。このやり方はオニグモと共通だ。


 8月20日。曇りのち雨。最低23度C。最高32度C。

 午前1時。

 コンビニの店先でアオドウガネを7匹、イナゴを2匹、体長20ミリほどのクロゴキブリの子虫を1匹捕まえた。夏はまだ続くようだ。


 午後1時。

 スーパーの西側にいるヒメちゃんは長さ5センチくらいの細長い枯れ葉を不規則網の中に固定して、その下にいた。

 

 8月21日。曇りのち雨。最低24度C。最高30度C。

 午前5時。

 アオドウガネなど(夜の間は同じように見えていたんだが、ドウガネブイブイが少なくとも2匹混じっていたようだ)を20匹とイナゴを10匹、クロゴキブリの子虫を1匹持って自宅を出た。


 午前6時。

 光源氏ポイントにいるナガコちゃんは円網を張り替えていなかったので遠慮する。

 体長20ミリクラスのジョロウグモは3匹いたのだが、アオドウガネやイナゴのような比較的大型の獲物は迷惑だろうから、そこらで捕まえたアオバハゴロモをあげておく。

 スズミグモのスズちゃんの不規則網にはゴキブリの子虫を投げ込んだのだが、スズちゃんは絹網の端まで逃げてしまった。「こんな大っきいの無理!」行動である。

 もがき続けていたゴキブリの子虫は絹網を突き破って地面まで落ちてしまった。しょうがないので、小さめのイナゴを少し弱らせてから投げ込んでみた。これはちゃんと不規則網に引っかかったのだが、スズちゃんは逃げたままである。お尻もかなり膨らんでいるから食欲がないのだろう。気が向いたら食べてくれればそれでいい。

 アオドウガネが余ってしまいそうなので、森に向かって1匹ずつ投げてみた。すると、7匹中5匹が4メートルくらい先で急旋回したのだった。1匹はなんと、180度旋回まで見せてくれた。

 アオドウガネの鞘翅は湾曲しているので、広げた状態で前方からの風を受けると揚力を発生しやすいはずだ。さらに、後翅を航空機でいう補助翼の代わりに使って左右の揚力のバランスを崩すと、ロールする力が働く。ロールした状態で、左右の後翅の後ろ側を上に向ければ、揚力が働く方向が斜め上になる。その結果、急旋回することになるのだろう。しかも斜め下方向に投げると1.5メートルくらいで旋回に入るのに対して、水平方向に力を入れて投げると4メートルくらいになるということは、急旋回に適した速度域というものがあって、そこに入ったところで後翅を操作している可能性もあるかもしれない。

 というわけで、アオドウガネはコガネグモやその円網を避けていたのではなく、投げられたのが気に入らないので、とりあえず急旋回していただけのようだ。それは確かに正解である可能性が高いだろう。ただし、実験を進めて行くと新たな仮説が必要になる可能性もあるからそのつもりで。

※アオドウガネは、投げられるとたたんでいた翅を展開する。すると、横幅が数倍になって円網にかかりやすくなるわけだ。アオドウガネをより確実にコガネグモに与えるのには、翅は広げるが急旋回はできないという距離から投げ込むのがいいだろう。


 午前7時。

 用水路脇の狭い草地に、ホームポジションの上下にジグザグ型の隠れ帯を付けているナガコガネグモがいたので、あえて円網にイナゴを投げ込んでみたのだが、知らん顔をされてしまった。当たり前だな。まあ、気が向いたら食べてくれればいいや。

 コガネグモの密集したまどい1個と密集していないまどい3個はなくなっていた。1日でも観察をサボるとこういうことになるのである。

 下側の合わせ目が開いている卵のうは回収しておく。珍しいものではないらしいのだが、作者がこういう出のうのやり方を見たのは初めてなのだ。

 奥の草地にいるコガネグモの17ミリちゃんは隠れ帯を下側2本にしていた。少しは食欲が回復したのらしい。しかし、イナゴは暴れるから無理だろう。オンブバッタの雌をあげておく。

 その近くには体長10ミリほどのコシロカネグモの幼体(多分)がいたので、その円網に同じくらいの体長のガを落とし込んでみた。すると、この子はなんと捕帯を巻きつけたのだった! そこは牙を打ち込むのが正解だ。捕帯なんか巻きつけていたら逃げられてしまいかねないじゃないか。というわけで、コシロカネグモの狙いはガではないかもしれない。データは少ないので断言はしかねるが。

 その時、右のふくらはぎにチクッという痛みを感じた。見ると、アブが食いついている。すかさずひっぱたいてやった。

 地面に落ちたアブはポリ袋に入れておく。作者の血を吸うようなやつはコガネグモの生け贄にしてやる。


 午前8時。

 アブは体長16ミリほどのコガネグモにあげた。

 その近くにはコガネグモの新たな卵のうもあった。地上30センチくらいの草の間に固定されている。もちろん平らな面は白色で、膨らんでいる面の一部は薄い灰緑色になっている。

 オニグモが2匹残業していた。1匹は獲物を食べているようだ。


 午前9時。

 自販機の赤い壁面には今日もグレーのまだら模様のアマガエルと緑色のアマガエルがとまっていた。この自販機は側面が結露するタイプらしいので、アマガエルにとっては快適な環境なのかもしれない。

 光源氏ポイントまで戻ると、スズちゃんがイナゴを食べていた。産卵するまでは獲物をあげなくてもいいかもしれない。最悪の場合、まだ交接していないという可能性もあるんだが……。

 なお、そのイナゴにはシロカネイソウロウグモも2匹取り付いていた。スズちゃんが時々糸を弾くのはそのせいだろう。

 予報では午前11時頃から雨が降るらしいので、今日はここまで。


 8月22日。曇り時々雨。最低23度C。最高29度C。

 午前3時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんが住居から出ていた。体長は4ミリほどになっている。脱皮したんだろう。

 外に出ると路面が濡れていた。二度寝できるな。

 コンビニの店先ではアオドウガネを6匹とイナゴを1匹捕まえた。

 その他に体長5ミリほどのガを1匹捕まえたので、左前隅ちゃんの不規則網に落とし込んだのだが、左前隅ちゃんは知らん顔をしている。少し弱らせ過ぎたかもしれない。とはいえ、まったく弱らせないと逃げられてしまいそうなんだが。まあ、気が向いたら捕食してくれればそれでいい。

 

 午後11時。

 コンビニの店先にいたアオドウガネは2匹だけだった。雨が降ったせいか、気温が低いせいか、あるいはアオドウガネのシーズンは終わりつつあるのかもしれない。


 8月23日。曇り時々晴れ。最低23度C。最高29度C。

 午前6時。

 アオドウガネを9匹、イナゴを2匹、体長10ミリから15ミリくらいのガを3匹、ポケットに入れてロードバイクに乗った。


 午前7時。

 光源氏ポイントには体長20ミリクラスのジョロウグモが3匹いた。持ってきたガも3匹なので、それぞれ1匹ずつあげておく。

 ナガコちゃんはいなくなっていた。産卵なら戻ってくるだろうし、戻ってこないようなら引っ越しだな。

 スズミグモのスズちゃんは絹網を外していた。「獲物お断り」というわけだ。これは本当に交接していないのかもしれない。

 用水路の向い側の草地では1匹のナガコガネグモが脱皮していた。脱皮殻の下で風に吹かれて揺れている。

 アオドウガネは例によってコガネグモたちに配って歩く。

 また草刈りされてしまった。コガネグモ2匹が行方不明である。

 刈り倒された草の中にコガネグモの卵のうがあったのだが、卵のうの合わせ目が開いていて、内部の子グモたちが見えている。とりあえず、卵のうが取り付けられている草の茎をフェンスに差し込んでおく。

※草の生えていない場所のフェンスにするべきだったかもしれない。もう遅いが。


 午前8時。

 光源氏ポイントまで戻ると、ジョロウグモのカップルが向き合って1匹のガを食べていた。「仲良きことは美しきかな」である。実際には獲物を盾にしないと雌に食われてしまうというだけの話なんだがね(雌が第二の獲物を仕留めている間に、雌が食べていた獲物を盗んでいった雄や雌が回収した古い網を食べている雄を観察したこともある)。

 おおっと、リヤブレーキのリターンスプリングが折れてしまった。かなり錆びていたから寿命だな。

 ブレーキ本体はアルミ製なので基本的に錆びないのだが、スプリングだけは鉄にせざるを得ないのだ。走れないことはないのだが、ごくわずかではあるものの、ブレーキを引きずっている状態である。帰宅して前後とも予備のブレーキに交換しよう。


 午後7時。

 賀東昭二著『機動転生』を読み終えた。これは面白いよ(男性に限定すれば、だが)。あえて分類するなら異世界転生ものになると思うのだが、ただのサラリーマンが転生した先が巨大人型ロボットというのが新しい。

 内容まで説明するのはめんどくさいので、サブタイトルをいくつか並べておく。

 第2話「(太ももの良さを力説したい機動兵器)」

 第5話「望遠、拡大、美人だ。《Yes》」

 第8話「まさしくこれは、おっぱいがいっぱい」

 第11話「復ッ! 活ッ! 太ももアビー復活ッッ!」

 第13話「味方? ……そんなタイプ見たことないわよ?」

 第16話「これは宿命への抵抗なのだ。決してスケベ心では以下略」

 ここまで読んでこの本を買う気になったなら……おめでとう。君は男だ。

 クモ関係の論文や解説書は、常に「非論理的な記述はないか?」「実験に不備はないか?」と疑いながら読む必要がある。たまにはこういう、ただひたすらに楽しい小説も読みたくなるのだよなあ。


 午後9時。

 ガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に弱らせたアリを落とし込んだ。コンビニの店先には羽アリが1匹もいなかったのだ。

 アオドウガネもいない。イナゴとガが2匹ずつだけだった。


 8月24日。晴れ時々曇り。最低24度C。最高33度C。

 午前1時。

 西の空に赤い半月が浮いている。

 コンビニの店先でアオドウガネを2匹だけ捕まえた。その他に踏み潰されていた個体が1匹。『昆虫エクスプローラ』というサイトによると、アオドウガネの出現時期は「6月~8月」らしい。「飛んでコンビニ、夏の虫」だったのだなあ。〔…………〕


 午前3時。

 スーパーの西側にいるヒメグモの不規則網に体長10ミリほどのガを投げ込んでみたのだが、ヒメちゃんは逃げてしまった。「こんな大っきいの無理!」ということらしい。弱らせたアリにするべきかもしれない。

 イナゴを1匹捕まえた。


 午前9時。

 一部の水田ではコンバインによる稲刈りが始まっていた。

 3匹のガは光源氏ポイントにいるジョロウグモたちに配る。

 スズちゃんは絹網を外したままだった。


 午前10時。

 用水路脇の狭い草地にいたコガネグモは10匹だけだった。ナガコガネグモはお尻がまん丸になっている子も含めて3匹。

 向かい側の草地にいたコガネグモは2匹。ナガコガネグモは脱皮したばかりの子も含めて2匹。

 奥の草地にいたコガネグモも2匹。お尻が丸くなっている17ミリちゃんは隠れ帯を3本半にしていた。実にわかりやすい。

 ちょっと思いついたので、1匹のコガネグモがイナゴに捕帯を巻きつける時間を計ってみたら、なんと、10秒もかけずに牙を打ち込んでしまった。楽に仕留められる上に、可食部分はおそらくアオドウガネなどよりも多いだろう。イナゴ狙いのナガコガネグモが繁栄するわけだ。というか、コガネグモはどうしてコガネムシの仲間を狙うという不器用な生き方を選んでしまったんだろう? 

 昨日フェンスに差し込んでおいたコガネグモの卵のうは無事だった。合わせ目は2ヶ所で開いていて、くすんだピンク色の中身が見えている。ただし、子グモは見当たらない。草が生えていない場所のフェンスに移しておく。


 午後1時。

 今日もレジ袋1個分のゴミを回収した。今日は特にウズラの卵のキムチを含む袋入りのキムチ3個とエビのキムチ入りの円筒形の容器という生ゴミが重くて大変だった。なお、袋入りのキムチにはセブンイレブンひたちなか市毛(いちげ)店のレシートも入っていたのだが、その裏には日本語でメモが書き込まれていた。まあ、どこの国の猿であっても猿には違いない。


 午後5時。

 郵便受けに家主からの『無断駐車についてのご注意』と書かれた紙が入っていた。

「最近、近隣店舗の駐車場に無断で駐車されているとのご指摘がございました」

 中略。

「皆様が気持ちよく生活できる環境を維持するため、ルールを守っていただきますよう、ご理解とご協力のほど、よろしくお願いします」だそうだ。

 何を言ってるんだろうね、この家主は。無断駐車をしなければならなくなったのは、壁の塗装のための足場を組まれたので、借りている駐車スペースが使えなくなったからだろう。この場合、駐車スペースを貸している立場である家主は代わりの駐車スペースを用意する義務がある。つまり、ルールを守っていないのは家主の方なのである。

 やれやれ……家主が無能だと入居者は苦労するのだなあ。


 午後6時。

 スーパーの西側にいるヒメちゃんの不規則網に体長4ミリほどのアリを弱らせてから投げ込んでみた。これくらいの獲物なら捕食できるようだ。マダラヒメグモなら「体長の3倍です!」という大物でも捕食できるというのに……。それだけ吊り上げ式の狩りは優れたシステムなのだな。


 8月25日。晴れ。最低24度C。最高36度C。

 午前6時。

 眠い。今日は休み。


 8月26日。晴れのち曇り。最低25度C。最高35度C。

 午前5時。

 アオドウガネを8匹、ドウガネブイブイを2匹、イナゴ(ハネナガイナゴとコバネイナゴが混じっているかもしれない)を6匹、ガを5匹、ポケットにれてロードバイクに乗った。


 午前6時。

 センニンソウの白い花が咲き始めている。

 光源氏ポイントにいる体長20ミリから15ミリくらいのジョロウグモたちに同じくらいの体長のガを配って歩いた。ガならこれほどの大物でも飛びついて牙を打ち込んでもらえるのだ。楽でいい。

 スズミグモのスズちゃんは不規則網の中に卵のうを吊していた。少しカビが生え始めているから2日前くらいに産卵したんだろう。お尻も小さくなっているが、絹網の直径は18センチくらいだ。絹網をもう少し大きくしたら獲物をあげようかと思う。


 午前7時。

 用水路脇の狭い草地にいたコガネグモは10匹、ナガコガネグモは3匹だった。水門の下にいたコガネグモは見当たらない。

 これらのコガネグモの円網にはイナゴを優先的に配って歩く。

 1匹のナガコガネグモの円網にはあえてアオドウガネを投げ込んで、捕帯を巻きつける時間を大ざっぱに計ってみた。結果はなんと、約7秒! コガネグモとナガコガネグモがアオドウガネに捕帯を巻きつける時間には大きな差があるのだ。

 向かい側の草地にいたコガネグモは2匹、ナガコガネグモは3匹だった。

 奥の草地にいたコガネグモ2匹はいなくなっていた。

 2日前に見つけた、合わせ目が2ヶ所剥がれているコガネグモの卵のうの近くでは子グモたちが密集していないまどいを形成していた。


 午前8時。

 自販機休憩をしていてふと気が付くと、ハンドルにコクサグモの幼体らしいクモが乗っていた。面白そうなので指を差しだしてみたら飛び乗ってきた! 

「ちょ、ちょっと待って。まだ心の準備が……」〔やめろ。気持ち悪い〕

 ノリのいい子は好きなんだが、連れて帰るわけにもいかない。草地にリリースしておく。

 自販機の濡れた側面にはアマガエルが4匹いた。体色がグレー基調になっている子は1匹だけで、他の子は緑色。そういえば、甲府盆地の自販機にも多数のアマガエルがとまっていたなあ……。


 午前11時。

 帰宅してから血圧を測ってみたら、91と46だった。気温が高い時間帯にサイクリングしてはいかんなあ。


 8月27日。雨のち曇り。最低23度C。最高31度C。

 午前11時。

 スーパーの西側にいたヒメグモがいなくなっていた。暑さのせいか、あるいは作者が手を出しすぎたせいかもしれない。


 8月28日。曇り時々晴れ。最低21度C。最高33度C。

 午前8時。

 アオドウガネを3匹、ドウガネブイブイを1匹、イナゴを1匹、ガを2匹、体長25ミリほどのセミを1匹、ポケットに入れてロードバイクに乗った。


 午前9時。

 光源氏ポイントにいた体長20ミリクラスのジョロウグモたちは全員、最大1メートルくらいの範囲で引っ越をしていた。雨の後にはこういうことがよくある。

 体長20ミリほどでお尻が頭胸部より細いジョロウグモの円網には同じくらいの体長のガを投げ込んだ。ガならば、こんな大物でも飛びついて牙を打ち込んでもらえるのである。活きのいいアリだと体長の3分の1くらいかなあ……。

 他のジョロウグモ3匹にはオンブバッタの雌や雄をあげた。オンブバッタはイナゴのように暴れたりはしないのだが、それでもジョロウグモたちは牙を打ち込む前に慎重に脚先でチョンチョンして安全確認をする。もっと楽に仕留められる獲物をあげた方がいいのはもちろんだが、体長3ミリクラスの獲物を捕まえるのは大変なのだ。

 交接しているジョロウグモのカップルもいた。ジョロウグモの交接を観察したのは今シーズン初である。

 スズミグモのスズちゃんは直径25センチくらいの絹網を張っていた。糸の束が細いので円網のように見える。コガネグモ科のクモなんだから円網を張ってもおかしくはないかもしれない。

 その不規則網には体長15ミリほどのガを投げ込んだのだが、知らん顔をされてしまった。絹網を張っていない時は食欲がないと判断していいだろう。

 森の中にも体長20ミリほどのお尻が細いジョロウグモ(「森の20ミリちゃん」と呼称する)がいたので、その円網に落ち葉の下にいた細め体型の昆虫を投げ込んでみた。森の20ミリちゃんは獲物に駆け寄ったのだが、獲物が暴れるとホームポジションまで逃げ帰ってしまう。その間に昆虫は外れて落ちてしまった。

 気の毒なので、体長15ミリほどのダンゴムシを開きにしてからあげる。森の20ミリちゃんは今回も駆け寄ってきたのだが、ダンゴムシの背面側に牙を打ち込もうとしたので牙が滑ってしまう。2回ほど試した後、ダンゴムシをひっくり返して腹面側に牙を打ち込んだらしかった。頭がいい……もとい、クモだから「頭胸部がいい」と言うべきだな。〔そうかあ?〕

 その近くにいた体長17ミリほどの子にもダンゴムシの開きをあげた。


 午前10時。

 サワガニを轢いてしまった。舗装路の左側から出て来たサワガニが立ち止まって左へ戻る素振りを見せたので、そのまま通過しようとしたら、また右方向へ歩き始めたのだ。

 グシャッ。公称26ミリの幅しかないタイヤで直撃である。

「ええい、連邦軍のサワガニはバカ者か!」〔…………〕

 用水路の水門の下では2匹のオニグモが残業していた。大きい子は体長25ミリほどで、もう1匹は体長15ミリほどだ。

 25ミリちゃんの円網にイナゴを落とし込むと、いきなり牙を打ち込んだ。

「こんな小さな獲物に捕帯なんかいらないわよ!」ということらしい。イナゴに対してはコガネグモでさえ捕帯を巻きつけるというのに……。

 15ミリちゃんにはアオドウガネをあげる。この子はちゃんと捕帯を巻きつけた。

 水門の近くには蓑の長さで50ミリほどのかなり大型のミノムシが広葉樹の葉を食べていた。

 用水路脇の狭い草地にいたコガネグモは8匹。ナガコガネグモは3匹だった。

 向かい側の草地にはコガネグモが2匹。

 合わせ目が2ヶ所剥がれている卵のうから出のうした子グモたちは、10匹から20匹くらいの密集していないまどいを多数形成していた。気温が高いので風通しのいいまどいにしているんだろう。

 そして、この1ミリほどしかない子グモたちのお尻にも、白と茶色が2本ずつの横縞模様があるのだった。


 午前11時。

 スズミグモのスズちゃんがガを食べていた。

 自販機の側の花に全身黄色のハナグモの仲間がいた。

※新海栄一著『日本のクモ』にはそれらしいクモが載っていなかった。尖ったサングラスをかけていたからハナグモの仲間だと思うんだが……。


 堤防の上の舗装路を体長100ミリほどのセスジスズメの幼虫がお尻のトゲをピコピコと振りながら歩いていた。暑いだろうと思って、拾い上げて草地にリリースしてあげたのだが、余計なことだったかもしれない。


 午後11時。

 コンビニの店先でアオドウガネを2匹とガを2匹捕まえた。


 8月29日。雨時々曇り。最低21度C。最高23度C。

 午前4時。

 雨が降り始めている。

 コンビニの店先でアオドウガネを3匹捕まえた。気温が低めのせいか、イナゴはいなかった。 


 8月30日。曇りのち晴れ。最低19度C。最高28度C。

 午前4時。

 まだ雨が降っている。寝よう。


 午前6時。

 玄関の右前隅にいる体長2ミリほどのマダラヒメグモの幼体に体長7ミリほどの緑色のカゲロウの仲間をあげた。空き家が出てもすぐに次の入居者が現れるのだ。おかげで先代の右前隅ちゃんの卵のうを回収できない。まいったね。


 午前11時。

 玄関の左奥に体長4ミリほどのマダラヒメグモの幼体がいたので、その不規則網がありそうな位置にコンビニの店先で捕まえた体長7ミリほどの羽アリを落とし込んだ。4ミリちゃんは玄関のドアを開けた時に住居に戻ってしまっていたのだが、羽アリは不規則網に引っかかっているので、いずれは食べてもらえるだろう。


 午後5時。

 朝野維起著『昆虫はなぜ海にいないのか』を読み終えた。

 この本の「はじめに」には「都立大のプレスリリース」というのが掲載されていて、その「ポイント」には以下のように書かれている。

「昆虫起源・進化に関する議論の中で、かつては「多足類(ムカデ/ヤスデ)と昆虫が近縁である」という形態学に根ざした考えが主流でした。これに対して、遺伝子の配列情報を元に「甲殻類と昆虫が近縁関係にある」という説が1995年付近に提唱されました。ここからさらに解析が進み、今では「甲殻類と昆虫(六脚類)は同格の分類群(姉妹群)である」という一般的解釈もほぼ否定されている状況です」

「現在、甲殻類と昆虫類を併せて汎甲殻類(Pan-crustacea)と呼ぶようになっていますが、最新の学説では「昆虫は汎甲殻類を構成するごく一部の分類群に過ぎない」とされています」

 要するに、甲殻類と昆虫は主に海中に住むか、陸上に住むか程度の違いでしかないということになってしまったのらしい。とは言っても、海中と陸上では環境に大きな差があるので、甲殻類は海水中に豊富に存在するカルシウムを使って外骨格を硬化させているのに対して、昆虫は空気中の酸素を使って硬化させている。そのために昆虫は海中では暮らしにくいということらしい。

 いやはや、反論のしようがないほど論理的・科学的である。「ショウジョウバエ」を使って実験しておきながら、論文ではそれを「昆虫」にすり替えることが許されているクモの生態学とは大違いだ。

 しょせん、クモの生態学なんてのは昆虫学の世界では通用しなかった落ちこぼれの吹きだまりなんだろうかなあ……。


 8月31日。曇りのち晴れ。最低21度C。最高27度C。

 午前6時。

 アオドウガネを7匹、ガを4匹、体長15ミリほどのコオロギ(多分死んでいる)をポケットに入れてロードバイクに乗った。


 午前7時。

 光源氏ポイントにいたジョロウグモ3匹にはガを1匹ずつあげた。一番大きい子は体長20ミリを超えている。ただし、お尻は頭胸部より細い。

 舗装路を渡って反対側にいるスズミグモのスズちゃんの不規則網にもガを投げ込む。スズちゃんは飛びついて牙を打ち込んだ。食欲が回復したようだ。

 なお、スズちゃんのドーム絹網は横40センチ、奥行き20センチくらいで斜めに張られていた。電柱とガードレールだけでは水平にできないようだ。本来は樹木の多い森の中でガなどを狙うクモのような気がする。

 スズちゃんの近くにいる体長15ミリほどのジョロウグモの円網には死んでいるコオロギを投げ込んだ。もちろん、この子は円網の反対側まで逃げた。まあ、安全だとわかれば食べるだろう。


 午前8時。

 用水路の水門の下でオニグモの25ミリちゃんが残業していた。とは言っても、円網の下半分がなくなっているから、閉店の準備中だったのかもしれない。アオドウガネを投げ込むと、ちゃんと捕帯を巻きつけていた。

 用水路脇の狭い草地ではコガネグモが1匹いなくなっていた。産卵だと思う。

 1匹のコガネグモの円網にはオンブバッタの雌を投げ込んでみた。捕帯巻きつけ時間は約13秒。バッタは初めてだったのか、ちょっとぎこちない仕留め方だった。

 体長17ミリほどのコガネグモには体長15ミリほどのバッタの子虫をあげた。捕帯巻きつけ時間は約7秒。やはり、獲物がどれくらい暴れるかによって捕帯巻きつけ時間を調節しているような気がする。

 合わせ目が2ヶ所剥がれていた卵のうから出のうした子グモたちは4個の密集したまどいを形成していた。なお、今日は風が強いので、風で揺られる度に小規模な「クモの子を散らす」行動を繰り返している。

 用水路脇の狭い草地にいたコガネグモは8匹。向かい側の草地には2匹だった。


 午前10時。

 新たなコガネグモのまどいを見つけた。卵のうの近くで1個の密集したまどいを形成している。

 水田脇の草地でイナゴを3匹捕まえた。


 午前11時。

 スズちゃんの近くにいるジョロウグモはコオロギを食べている。死海文書の記述通りである。〔…………〕

 堤防の上の舗装路ではセスジスズメの幼虫が少なくとも7匹歩いていた。轢いてしまいそうなので今日はここまで。


 9月1日。曇り時々晴れ。最低22度C。最高27度C。

 午前2時。

 コンビニの店先でアオドウガネを2匹とガを1匹捕まえた。季節というものは「今日から秋」というような変わり方はしないのらしい。


 午前10時。

 小雨が降ってきた。路面はまだ濡れていないが、今日は休もう。


 9月2日。曇り時々晴れ。最低23度C。最高30度C。

 午前6時。

 路面はまだ乾いていないが、ロードバイクに乗った。

 ポケットにはアオドウガネを4匹、イナゴを3匹、体長10ミリから15ミリくらいのガを6匹、体長25ミリほどのセミを1匹、体長17ミリほどのアブ(多分)を1匹。


 午前7時。

 光源氏ポイントではジョロウグモのカップルが交接しているところだった。円網を張っていないから、体長18ミリほどの雌は脱皮したばかりかもしれない。

 体長15ミリほどで左の第四脚を失っているジョロウグモがいたので、その円網に同じくらいの体長のガを投げ込んでみた。ガに駆け寄った15ミリちゃんは牙を打ち込んで仕留めると、口に咥えたままホームポジションに持ち帰った。

 さて、問題はそこからだ。15ミリちゃんは右の第四脚をメインに、たまに左の第三脚も使って捕帯を巻きつけたのだった。このことから、ジョロウグモの場合は捕帯を巻きつけるのに主に第四脚を使うということと、第三脚で捕帯を巻きつけることもできなくはない可能性があると言えると思う。

 体長22ミリほどのジョロウグモの円網には体長30ミリほどのオンブバッタを投げ込んでみた。さすがに獲物がバッタ(一般的には翅がチョウ目昆虫ほど大きくない獲物)だと、慎重に第一脚でチョンチョンとつついてから円網の糸を噛み切り、またチョンチョンというのを繰り返しながら少しずつ近寄り、パッと踏み込んでオンブバッタの後脚に牙を打ち込んで跳び退いた。まあ、仕留められるだけたいしたものである。

 持参したガの残りは他のジョロウグモたちに配っておく。

 スズミグモのスズちゃんの不規則網には体長17ミリほどのアブ(多分)を投げ込んだ。アブが絹網まで落ちなかったせいか、あるいはチョウ目昆虫ではなかったせいか、スズちゃんはためらっていたが、隣のジョロウグモの網にガを投げ込んでいるうちにちゃんと捕帯を巻きつけていた。


 午前9時。

 用水路脇の狭い草地にはコガネグモが8匹いた。向かい側の草地には2匹。

 向かい側の草地にいる体長25ミリほどのコガネグモは隠れ帯を1本半にしていたのだが、あえて同じくらいの体長のセミをあげてしまう。25ミリちゃんは隠れ帯1本半にしては積極的に捕帯を巻きつけて牙を打ち込んだのだが、セミが羽ばたき始めると円網の端まで逃げて、さらにそこからホームポジションに戻ってしまった。毒が効いて獲物が動けなくなるまで待つつもりなんだろう。さすがは大物狙いのコガネグモ。手慣れたものである。

 もう1匹のコガネグモは25ミリちゃんの円網のすぐ後ろに円網を張っているので、近寄るのも難しい。

 残ったアオドウガネやイナゴは用水路脇の草地にいるコガネグモたちに配って歩いた……のだが、アオドウガネとイナゴが1匹ずつ円網を突き抜けてしまったので、最後の体長17ミリほどのコガネグモにあげる獲物が足りなくなってしまった。しかも、この子は円網に隠れ帯を付けていないのである。失敗だ。すべてのコガネグモの隠れ帯を確認してから、どの子に獲物をあげるかを決めるべきだったのだな。

「そんなこともあるさ、人間だもの」

 しょうがない。奥の草地まで出向いて体長25ミリほどのキリギリス体型のバッタを捕まえて、少し弱らせてから17ミリちゃんの円網に投げ込んだ。「体長の1.5倍です!」という大物に対しても捕帯を約17秒間しか巻きつけずに牙を打ち込んでしまう17ミリちゃんだった。

 合わせ目が2ヶ所剥がれていた卵のうから出のうした子グモたちの姿はなかった。

 卵のうの側で密集した大きなまどいを形成していた子グモたちは3個の密集したまどいに変えていた。なお、その卵のうには穴が2つ開いている。コガネグモの子グモたちが出のうする時には、必ず合わせ目を剥がすとは限らないようだ。ナガコガネグモの子グモたちは卵のうに穴を開けて出のうするしな。

※この卵のうも回収してみたら剥がれている部分があった。よく観察しなくてはいかんのだなあ。


 午前10時。

 光源氏ポイントの奥の森の中にはお尻が膨らみ始めているジョロウグモが1匹いた。ただし、体長は20ミリ弱だ。

 ここには体長22ミリほどのジョロウグモもいた。この子には体長7ミリほどのワラジムシをあげておく。


 午前11時。

 堤防の上の舗装路ではセスジスズメの幼虫が大小合わせて7匹歩いていた。


 午後10時。

 コンビニの店先でアオドウガネを3匹と体長20ミリほどのキリギリス体型のバッタを1匹捕まえた。秋の虫も鳴いているから、季節は間違いなく秋に向かっているんだろう。

 

 9月3日。曇り時々雨。最低24度C。最高30度C。

 午前4時。

 小雨が降っているが、路面はまだ濡れていない。しかし、肩が痛い。技あり2つで1本。今日は休み。


 9月4日。曇り時々雨。最低21度C。最高27度C。

 午前6時。

 アオドウガネを12匹、イナゴを1匹、体長20ミリほどの細め体型のバッタを1匹、体長18ミリほどのアブ(多分)を1匹、ガを1匹、ポケットに入れてロードバイクに乗った。


 午前7時。

 スズミグモのスズちゃんのお尻はニワトリの卵形になってきている。

 その不規則網にアブを投げ込むと、スズちゃんは今回も逃げたのだが、アブがもがき始めると近寄って牙を打ち込んだ。

 光源氏ポイントには新たに体長10ミリほどのジョロウグモが現れていた。よほど獲物が少ない場所で生きてきた子なんだろう。

 9月2日に交接していたジョロウグモはちゃんとした円網を張っていたので、ガをあげておく。

 ジョロウグモの22ミリちゃんは縦20センチ、横15センチくらいの円網を張っていた。しかも、古い円網を回収する時に手抜きをしたらしくて、細い紐状の隠れ帯になっている。ここまでしてくれると実にわかりやすい。もちろん、獲物はあげないでおく。


 午前8時。

 水門の下にいるオニグモの25ミリちゃんが小さな羽虫だらけの円網で残業していた。体長20ミリほどの細め体型のバッタをあげておく。

 もう1匹、体長15ミリほどのオニグモも残業していたから、曇りで明るくない日には残業したくなるんだろう(もちろん、空腹度にもよるだろうが)。

 用水路脇の狭い草地にはコガネグモが7匹いた。向かい側の草地には2匹。

 9月2日にセミをあげた体長25ミリほどのコガネグモは円網を張り替えていなかった。これもわかりやすい。

 その他にコガネムシサイズの獲物を食べていた子が2匹いたので、残りの7匹にイナゴとアオドウガネを配って歩く。残ったアオドウガネはそこらにリリース。


 午前8時。

 雨雲が接近中らしいので、急いで帰ろうとしたら後輪がパンクしてしまった。あわててタイヤとチューブを交換したのだが、結局、雨は降らなかった。雨雲が北か南へ逸れたのか、あるいは消滅してしまったのかもしれない。

「そんなこともあるさ、雨雲だもの」


 9月5日。雨のち晴れ。最低20度C。最高27度C。

 午前5時。

 雨が降っている。天気予報によると昼頃から晴れるのらしい。


 午前9時。

 体長4ミリほどになったマダラヒメグモの左前隅ちゃんが住居から出ていた。今の室温は24度Cくらいだから、今までは室温が活動限界を超えていたのかもしれない。体長3ミリ以下の羽虫も夏の日中は飛ばないしな。

 4ミリちゃんの不規則網には体長5ミリほどのダンゴムシを落とし込んであげる。宙吊りになったダンゴムシがもがき始めると、近寄って糸を巻きつける左前隅ちゃんだった。


 9月6日。曇りのち雨。最低21度C。最高24度C。

 午前5時。

 天気予報では午前7時頃から雨が降るのらしい。

 なんと、9月10日まで傘マークが出ている。雨が降りやすい日が続くようだ。


 午後6時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんはダンゴムシの食べかすをコンクリート面に落としていた。確認はできていないが、マダラヒメグモは食欲がなくなると食べかすを不規則網にかかったままにするようだ。そういう時には不規則網の補修もしなくなる。


 9月7日。雨時々曇り。最低23度C。最高27度C。

 午前2時。

 天気予報によると、今日は22時間雨が降るのらしい。


 午後2時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんとガス漏れ警報器ちゃんが住居から出ていた。気温が下がったので活動を再開したようだ。小型変温動物の場合、気温が0度Cまでなら活動できなくなるだけで済むだろうが、体温が上がりすぎるとタンパク質の変性によって生命活動が停止することになるはずだ。


 午後7時。

 マダラヒメグモの右奥ちゃんが力尽きていた。合掌。

 なお、うちの玄関には今、左前隅ちゃんを含めて3匹のマダラヒメグモがいる。うちでは通常のクモ口密度だ。掃除をすれば、部屋の隅とか、しばらく動かしていない荷物の裏などで体長2ミリ以下の子グモたちも何匹か見つかると思うが。


 9月8日。曇り時々雨。最低22度C。最高27度C。

 午前11時。

 マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんと左前隅ちゃん、それに体長2ミリほどの子グモが2匹住居から出ていた。さてどうしよう? 来年から産卵する子を確保するために食事制限をするか、それとも食欲がある限りは獲物をあげ続けるべきか……。

 路面が乾き始めている。午後からなら走れそうだ。


 午後1時。

 光源氏ポイント周辺ではオオハンゴンソウとヒガンバナが咲き始めていた。

 スズミグモのスズちゃんには体長20ミリほどのガをあげた。チョウ目昆虫が網にかかった場合は素早く近寄って、逃げられる前に牙を打ち込んでしまうのがコガネグモ科のクモとジョロウグモの基本技術である。スズミグモは粘球付きの円網を張らないのだが、少なくともスズちゃんは基本に忠実な狩りをするようだ。

 ジョロウグモの22ミリちゃんは縦横30センチくらいのわずかに黄色い円網を張っていた。食欲はなさそうだ。それでも、そこらで捕まえたアオバハゴロモを円網に投げ込むと、素早く駆け寄って牙を打ち込んだ。

 そして、22ミリちゃんがホームポジションでアオバハゴロモを食べ始めると、同居している雄がそろそろと近寄って交接した。決定。22ミリちゃんはオトナである。

 体長22ミリほどのジョロウグモはもう1匹いるのだが、この子は円網を張っていなかった。これはやはり、作者がガを与えすぎているのかもしれない。体長3ミリ以下の羽虫なら食べたいだけ食べることができるんだろうが、チョウ目昆虫は1匹まるごと食べてしまうから気が付いた時には食べ過ぎていて、しかたなく円網を黄色くしたり、張るのをやめてしまったりすることはあり得るだろう。

 残りのガはそこらにいたジョロウグモたちに配ってしまう。ついでに落ち葉の下にいたワラジムシや体長15ミリほどのオオヒラタシデムシの幼虫も配る。大暴れしない獲物なら問題なく捕食してもらえるのだ。

 ここには体長12ミリほどのコガタコガネグモ(多分)もいた。コガタコガネグモは近寄っただけで逃げるので撮影し難い。


 午後2時。

 水門の下にいるオニグモの25ミリちゃんは今日も残業していた。ただし、お尻がだいぶ小さくなって、体長20ミリほどになっている。産卵したんだろう。おめでとう。アオドウガネを円網に投げ込んであげる。そしたらなんと、ろくに捕帯を巻きつけずに牙を打ち込もうとするんだ、この子は! ダメだろ、それは。甲虫に対しては優しく捕帯で包み込んでから、そっと牙を打ち込まないと。〔あまり調子に乗ると18禁指定になるぞ〕

 用水路脇の狭い草地にいるコガネグモは5匹だけだった。向かい側の草地には2匹。

 アオドウガネの残りは投げ込める距離にいるコガネグモたちに配って歩く。

 新たなコガネグモの卵のうを1個見つけた。膨らんでいる側はモスグリーンで平らな側は白地にモスグリーンと薄い赤茶色の斑模様。もしかすると出のう済みかもしれない。

 ここにいるナガコガネグモの1匹はイナゴらしい獲物を食べていた。

 別のナガコガネグモにはオンブバッタの雌をあげておく。

 向かい側の草地にいるコガネグモの25ミリちゃんは今日も円網を張っていなかった。お尻の大きさも変わっていない。これはもしかして、交接していないので産卵できないという状況かもしれない。

 もう1匹のコガネグモは2メートルくらい引っ越していた。前には25ミリちゃんがいて、後ろには幅1.5メートルくらいの用水路と急斜面とガードレールがある。これではアオドウガネを投げ込めない。


 午後3時。

 民家のブロック塀を殻の直径が最大30ミリほどのカタツムリが6匹這っていた。

 光源氏ポイントに戻ってみると、イナゴが1匹いたので捕まえた。これは常備しているポリ袋に入れて持ち帰ることにする。冷蔵庫に入れておこう。


 午後8時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんの隣にやや細め体型のクモがいる。これが雄なら左前隅ちゃんはもうすぐオトナになるのかもしれない。


 9月9日。雨時々曇り。最低24度C。最高31度C。

 午前11時。

 雨は降っていない。ただし、12時頃から降りだして、午後3時頃には「豪雨」の予報が出ている。

 買い物のついでに捕まえた体長4ミリほどのアリを左前隅ちゃんの不規則網に落とし込んだ。ちなみにもう1匹の姿は見えない。

 しかし、左前隅ちゃんは積極的に捕食しようとしない。糸を巻きつけたから食べないということはないと思うが、どうなっているのかわからない。交接直後には食欲が減退するのか、最後の脱皮を終えたばかりで外骨格が硬化しきっていないのか、あるいは、そもそも同居していたのは雄ではなくて、ただの侵入者だった可能性もあるかもしれない。マダラヒメグモは自分の不規則網に侵入してきた他の個体を追い出すような行動はしない平和主義者らしいのだが、心理的なストレスは感じていたはずだ。

 残ったアリはガス漏れ警報器ちゃんと玄関の右前隅にいる体長2ミリほどの子に、体長4ミリほどのダンゴムシは玄関の左奥にいる体長4ミリほどの子にあげた。この3匹は積極的に獲物に近寄ってきたから、左前隅ちゃんだけが何か特別な事情を抱えていたのは間違いないだろう。


 午後3時。

 ガス漏れ警報器ちゃんと左前隅ちゃんはアリを食べ終えていた。

 左奥ちゃんの不規則網の中に細め体型のマダラヒメグモがいる。繰り返しになるが、マダラヒメグモの雄は徘徊しながら複数の雌と交接するのらしい。


 9月10日。曇り時々雨。最低18度C。最高22度C。

 午後1時。

 路面が乾いた……と思ったらまた雨。嫌な天気だ。


 9月11日。雨のち曇り。最低18度C。最高21度C。

 午前2時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんの不規則網に細め体型のマダラヒメグモ(多分)が侵入していた。しかも、左前隅ちゃんは不規則網の端まで逃げている。侵入者が近寄れば逃げ、離れれば追いかけているようだ。これはいかにも求愛行動という感じがする。

 では、昨日の子は何なんだということになるわけだが……体型から推理すると、別の雌が引っ越しの途中で立ち寄っただけかもしれない。


 午前2時30分。

 侵入者は住居にこもった左前隅ちゃんから1センチ以内というところまで近寄って、また5センチまで離れ、またまた2センチまで近寄るということをしている。


 午前2時45分。

 5ミリまで近づいた。観察はここまでとする。「マダラヒメグモの恋路をじゃまするヒトはクルマにはねられて死んじまえ」ということわざもあるしな。〔嘘つくな!〕


 午前5時。

 マダラヒメグモの侵入者は左前隅ちゃんに脚先が届く距離まで近づいていた。あわてず騒がず諦めず。雌が受け入れてくれるまで口説き続ける。これこそ雄のあるべき姿である。


 午後1時。

 左前隅ちゃんは1匹だけで住居にこもっていた。侵入者君の姿は見当たらない。


 午後5時。

 今日は診察日で、先月の血液検査の結果を受け取った。「LDLコレステロール」の値が高いくらいで大きな問題はなかったのだが、よく見ると「赤血球数」と「血色素」と「ヘマトクリット」が基準値の範囲内で低めギリギリだ。これは酸素を運ぶ能力が低いことを意味している。さらに、自宅で計測しても酸素飽和度(酸素を運んでいる赤血球の数を全赤血球の数で割った数字)が基準値まで上がらない。つまり、作者はスポーツに適した血液を持っていないのらしい。降圧剤を飲むと脳貧血を起こすのは当たり前だったのだなあ。


 9月12日。雨のち曇り。最低20度C。最高24度C。

 午前10時。

 スーパーの西側のガラス面の前に体長7ミリほどのジョロウグモの幼体がいた。灯火に寄ってくる昆虫を捕捉するのに適した場所だが……9月12日では遅すぎる。どうしてここまで成長を遅らせてしまったのやら……。


 午前11時。

 体長3ミリほどになっているマダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃんの不規則網に体長7ミリほどの弱らせたアリを落とし込んだ。ジョロウグモなら間違いなく逃げるような体格差だが、駆け寄ったガス漏れ警報器ちゃんは糸を巻きつけて牙を打ち込んだ。

 念のために用意しておいた体長6ミリほどのアリが余ってしまったので、これも弱らせてから体長2ミリほどになっている右前隅ちゃんにあげた。これも「体長の3倍です!」という大物なのだが、右前隅ちゃんはためらう様子も見せずに仕留めていた。「暴れなければどうということはない!」のである。活きのいいアリだったならば途中で諦めただろうけど。


 午後1時。

 アオドウガネとイナゴを1匹ずつポケットに入れてロードバイクに乗った。雨続きで獲物がコンビニの店先まで飛んで来られないのだ。気温も低いし。


 午後2時。

 光源氏ポイントでは、今日も体長22ミリクラスのジョロウグモ2匹が縦20センチ、横15センチくらいの円網にしていた。気温が下がった分、食欲も減退しているようだ。

 スズミグモのスズちゃんの不規則網にはオンブバッタの雄を投げ込んでみた……のだが、スズちゃんは不規則網の端まで逃げてしまった。しかし、こんなこともあろうかと、そこらで捕まえておいたアオバハゴロモを投げ込むと、これには素早く駆け寄って牙を打ち込むスズちゃんだった。

 スズちゃんの不規則網は地上120センチくらいの高さにあるから、バッタが跳び込んでくる可能性は高くないはずだ。やはり、この網はガのような軽量級の飛行性昆虫を捕捉するための網なんだろう。となると次に問題になるのは、なぜオニグモのような粘球付きの円網にしないのかということになるわけだが……もしかすると、スズミグモは粘球用の粘液を造る能力を失っているんじゃないだろうか? まあ、こういうのはそのうちに論文屋さんが遺伝子を解析して明らかにするだろう。作者がやるべき仕事ではあるまい。


 午後3時。

 用水路脇の狭い草地にいたコガネグモは4匹だけだった。向かい側の草地には1匹もいない。コガネグモのシーズンは終わりに向かっているようだ。

 近いところにある円網を選んでアオドウガネとイナゴを投げ込んであげる。

 水門の下にいたオニグモの25ミリちゃんは円網を残したまま住居へ戻ったらしかった。それはいいのだが、その円網はなんと「張り直していない無こしき網」だったのである! おそらく、雨が降ってきたとかで、こしき部分に取り付けておいた古い円網の糸を食べられなかったんだろう。オニグモの円網は張り直す閉こしき網が標準なのだが、生物の場合はこういうこともあるから油断できない。

 有料道路の橋脚の下のアーチ部分でオニグモの卵のうを見つけた。確かにガウス曲率はわずかに負なのだが、よくもまあ、こんな場所を見つけたものだ。

 その近くにはコガネグモの卵のうもあったし、不規則網の中に卵のうを2個取り付けているオオヒメグモも1匹いた。

 奥の草地では立派なアケビが紫色になっていた。まだ皮が裂けていないから渋いだろうが。

 そろそろ帰ろうと思ったら、オニグモの25ミリちゃんが縦糸を張っているところだった。このところ雨続きで十分な量の獲物を食べていないのと、曇っていて明るくないので、こんな時間帯に張り替えることにしたんだろう。その近くにいる同じくらいの体長のオニグモも円網を張り替えようとしている。

 そこらで捕まえたイナゴが2匹残っているし、暗くなるまでには帰れそうだから、そこらを走りながら円網が完成するのを待つことにする。暗くなってもライトはあるしな。 


 午後4時。

 オニグモの25ミリちゃんがやっと横糸を張り終えてこしき部分に固定してあった古い糸を食べ始めた。縦が1メートルもある円網なので張り替えるのにかかる時間も長くなったようだ。

 イナゴを投げ込むと、25ミリちゃんは今回もろくに捕帯を巻きつけずに牙を打ち込んだ。この子はオニグモの中でも特にガを狙う傾向が強いタイプのようだ。食べてもらえるなら文句はないけどさ。

 その近くにいるオニグモの円網にも残っていたイナゴを投げ込んであげた。


 9月13日。曇り時々晴れ。最低20度C。最高25度C。

 午前10時。

 マダラヒメグモの右前隅ちゃんの不規則網に体長4ミリほどのアリを落とし込んでみた。アリはコンクリート面まで落ちてしまったのだが、素早く駆け寄った右前隅ちゃんはあっという間にアリを吊り上げてしまった。


 午後1時。

 細かい雨が降っているのだが、この雨を降らせている雲は雨雲レーダーに映っていないのらしい。科学技術などその程度のものなのだな。


 午後7時。

 ノートパソコンの右向き矢印キーが作動しなくなってしまった。外付けキーボードを買うか、買い換えるかだろうなあ。


 9月14日。晴れ時々曇り。最低22度C。最高34度C。

 午前5時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんが住居から出ていたので、その不規則網に体長15ミリほどのダンゴムシを落とし込んだ。


 午前9時。

 路面がだいぶ乾いたようなので、ドウガネブイブイ(多分。鞘翅の緑色がアオドウガネほど鮮やかではない)を4匹、ポケットに入れてロードバイクに乗った。


 午前10時。

 光源氏ポイントには円網をわずかに黄色くしているジョロウグモが3匹いた。3匹とも体長20ミリ以上だ。ただし、9月8日に黄色くしていた体長22ミリほどの子の円網は無色だった。

 スズミグモのスズちゃんの不規則網に体長15ミリほどのワラジムシを投げ込んでみた。しかし、スズちゃんは駆け寄ったものの、直前で立ち止まってしまった。「何これ? 獲物? それともゴミ?」という様子である。

 いままでに観察できたスズミグモはスズちゃんを含めても2匹だけだが、おそらく、ワラジムシはスズミグモが狙う獲物に含まれていないのだろう。

 その隣にいるジョロウグモが脱皮していて、同居していた雄が交接していたので、それを先に撮影していたら、いつの間にかスズちゃんはワラジムシを仕留めていた。


 午前11時。

 用水路脇の狭い草地にいたコガネグモは1匹だけだった。余ったドウガネブイブイはリリースしておく。また来年、コガネグモの獲物が現れますように。

 水門の下でオニグモの25ミリちゃんが残業していた。産卵してお尻が小さくなった分だけ食欲があるということなのか、水門の下というのは獲物が少ないのかだろう。越冬前の食い溜めをするような時期ではあるまい。


 午後1時。

 堤防の上の舗装路には多数のトノサマバッタがいた。久しぶりの日光浴だろうな。


 午後6時。

 またサイクリングシューズの滑り止めが剥がれてしまった。踵もすり切れている。イナゴを捕まえるのがよくないんだろう。それはわかっているんだが……。


 9月15日。雨時々曇り。最低22度C。最高23度C。

 午前1時。

 今日から9月25日までは傘マークが出ている(開いたり閉じたりだが)。まいったね。


 午前5時。

 最近の作者は『出塞曲』や『戦旗揚』などのAI動画をBGMにして作業することが多いのだが、これらの動画がすごい。イヤリングがごく自然に揺れているし、顔にピントが合っている時に前に伸ばした手はボケているのである。AIはここまでできるようになったのだなあ。素晴らしい。

 ただし、そのイヤリングの形が1曲の間に変わってしまったり、太鼓の横の何もない空間を叩いている女性がいたり、「く」の字に曲がっていた槍の柄が真っ直ぐになってしまったりはする。AIには眼も手も心もないのだから、こういう間違いは人間が指摘してやらなければいかんだろう。それとも、AI動画だとわかるようにわざとミスを残しているんだろうか? 


 午前10時。

『戦国小町苦労譚 十一 安土時代の幕開け』を読み返していて「研究者は自分が立てた仮説に執着し、自分の見たい結果のみを見ようとする傾向がある」という文章を見つけた。クモの生態学で言えばクレイグとバーナード著『紫外線を反射するクモの網と網の飾りは昆虫を誘引する』論文(1990年発表)が典型的な例だろう。

 とはいえ、こんな論文でも「リンネ式階層分類体系を無視している点で非科学的だ」と批判することはできる。どうしようもないのは『〇〇で採集したクモ』という夏休みの小学生レベルの論文モドキだ。おそらくは論文の書式で書かれた文書を発表すれば「仕事をしてました」というアリバイ工作ができるんだろう。

 どうしても『〇〇で採集したクモ』という論文を書きたいのなら、例えば、5メートル×5メートルの範囲にどんなクモが何匹いたかと周囲の環境(街中とか、丈の低い草地とか、丈の高い草地とか、森の中とか、さらに何メートル先に水田や川があるとか)も記載しておいて欲しいと思う。それなら作者の縄張りと比較できるからね。まあ、クモの論文屋さんはその程度のことすらできないほど忙しいんだろうけど。

 作者はアマチュアなので、意味のある論文を書けないのなら論文屋などやめてしまえばいいのにと思ってしまうんだが、論文屋でいさえすれば、それだけで補助金がもらえるのかもしれない。やれやれ……このままでは日本におけるクモの生態学は何百年経っても科学にはなれないだろうな。いやいや……論文屋さんにとっては科学にならない方が都合がいいわけだ。


 午後1時。

 玄関の左奥にいる体長4ミリほどのマダラヒメグモの不規則網にやや小さめの子が入り込んでいた。お尻は細くないから雌だろう。気温が下がったので引っ越しをする気になったのらしい。


 9月16日。雨時々曇り。最低20度C。最高21度C。

 午前1時。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんの不規則網に体長5ミリほどのガを落とし込んであげた。ガはコンクリート面まで落ちてしまったのだが、右奥ちゃんはそれを追いかけていって吊り上げた。


 午前10時。

 ガは左奥ちゃんの不規則網から脱出していた。それをまた捕まえて、少し弱らせてから、もう一度左奥ちゃんの不規則網に落とし込んだ。マダラヒメグモの不規則網はチョウ目昆虫向きではないようだ。


 午前11時。

 左奥ちゃんはガに食いついていた。


 9月17日。雨のち晴れ。最低18度C。最高24度C。

 午前10時。

 アオドウガネとドウガネブイブイを2匹ずつと体長5ミリほどのガを3匹、ポケットに入れてロードバイクに……乗ろうとしたところで、マダラヒメグモの左奥ちゃんが産卵しているのに気が付いた。しょうがない。撮影してから出発する。


 午前11時。

 光源氏ポイントにいるジョロウグモたちのうち、円網を黄色くしていたのは3匹だった。

 無色の円網を張っている体長20ミリクラスのジョロウグモ2匹を選んで、その円網に余計めに弱らせた上に鞘翅も外したアオドウガネを投げ込んでみた。すると、1匹はすぐに駆け寄って牙を打ち込み、もう1匹もいったんはホームポジションまで戻ったものの、そろそろと近寄って脚先でチョンチョンした後、牙を打ち込んだ。要するにジョロウグモは暴れない獲物なら積極的に捕食するというわけだ。コガネグモ科のクモのように捕帯を使って獲物の抵抗を封じるということができないと、暴れる獲物は危険なのである。

「はっはっはっはっは。じっちゃんの初歩的な脳細胞だよ、明智君」〔…………〕

 なお、片方のジョロウグモはお尻から引き出した糸でアオドウガネをぶら下げてホームポジションに持ち帰る時にカクンと数ミリ落下することがあった。これは爪を引っかけた横糸が荷重に耐えきれずに切れていたのではないかと思う。

 ジョロウグモにとっては迷惑だろうし、めんどくさいので追試をする気にもなれないんだが、もしも本当に横糸が切れていたのだとしたら、それもまたジョロウグモの狙いは小型の獲物であって、アオドウガネクラスの大型の獲物がかかることは想定していないということになるだろう。

※ウィキペディアの「ジョロウグモ」のページには「獲物は多岐にわたり、バッタ類、コオロギ、トンボ、カマキリ、大型のセミやスズメバチも捕食する」と書かれているのだが、どうして体長3ミリ以下の小型昆虫を虫……もとい無視するんだろう? 円網を張る高度とその横糸の間隔が狭いことは小型の飛行性昆虫を狙っていることを表しているし、本数の少ない捕帯は大型の獲物の抵抗を封じる目的では使えないのだ。

 ただし、円網から脱出できないまま力尽きた獲物ならヘラクレスオオカブトでも捕食できるだろう。「暴れなければどうということはない!」である。しかし、それは事故のようなものであって、ジョロウグモは大型の獲物を狙うクモであるとは言えないだろう。

 いい機会だから、作者の観察結果を基に順にウィキペディアの記述にクレームを付けておこう。

 まずはコオロギ。コオロギは基本的に地上を歩く飛べない昆虫である。さらに、捕まえてみればわかるのだが、コオロギの腹部には中身がみっしり詰まっていてイナゴなどよりはるかに重いのだ。ジョロウグモの円網がある高度までジャンプできるコオロギがいるとは思えない。もしも作者が「コオロギを補食するジョロウグモ」の写真が欲しいと言われたら、コオロギを飢えたジョロウグモの円網に投げ込んで撮影するしな。

 トンボは翅が大きいだけにジョロウグモの円網にかかってしまうと脱出できないようだ。ただし、元気に羽ばたくトンボだとジョロウグモは逃げることが多いような気がする。

 カマキリはというと、クルマに轢かれたオオカマキリの死骸を体長20ミリほどのジョロウグモの円網に投げ込んだことがあるのだが、この子は円網の端まで逃げた。そのうちに食べるだろうと思っていたら、数日後にはすぐ側に新たな円網を張っていたという観察結果がある。死んでいるカマキリさえ恐れるのがジョロウグモなのである。

 セミも翅が大きいから、いくら暴れても脱出できないだろう。疲れて動けなくなってから牙を打ち込めばいい。

 スズメバチはやっかいだぞ。飛ぶことも歩くこともできないほど弱っているスズメバチをジョロウグモの円網に投げ込んだことが一度だけあるのだが、そのジョロウグモはスズメバチの背面側から近寄って、翅の付け根辺りに牙を打ち込んだらしかった。しかし、それから約45分経ってもスズメバチは抵抗し続けていたのだ(日没が近かったので観察を打ち切った。翌日にはスズメバチの頭部を外していたが……)。

 さらにジョロウグモの円網に投げ込んだイナゴをスズメバチが完食してしまったという観察例もある。その途中でスズメバチの翅の端が円網に触れてしまったのだが、そのスズメバチは強引に翅を引き抜いて飛び去ったのだ。

 ウィキペディアは無記名で何でも書き込める。責任を持たなくてもいいのならどんなデタラメでも書き込み放題だろう。よい子のみんなはウィキペディアなんかを信じちゃだめだぞ。


 スズミグモのスズちゃんの卵のうは2個になっていた。お尻も小さくなっている。ただし、絹網には大穴が2個開いているから食欲はなさそうだ。

 その隣にいるジョロウグモの円網には、ほとんど力尽きているイナゴを投げ込んだ。もちろん、この子は円網の端まで逃げてしまったのだが、安全に仕留めることができると判断すれば食べるだろう。

 コガタコガネグモには今日も逃げられた。しょうがない。下側2本の隠れ帯だけを撮影しておく。


 午後1時。

 用水路脇の狭い草地にはコガネグモが1匹もいなかった。コガネグモの季節は終わったようだ。余ったドウガネブイブイは2匹のナガコガネグモの円網に投げ込んでおく。

 繋ぎ目が開いているコガネグモの卵のうをまた見つけた。出のう済みだと判断して回収しておく。

 堤防の上の舗装路ではセスジスズメの幼虫が歩いていたので、そのお尻のトゲをツンツンしてみた。すると、これが意外に硬いのだ。このトゲはうかつな脊椎動物の口の中に刺さるという機能を持っているのだな。


 午後2時。

 スズミグモのスズちゃんの隣にいるジョロウグモは死にかけのイナゴに食いついていた。


 午後3時。

 光源氏ポイントの数十メートル先で体長20ミリほどのジョロウグモがアオスジアゲハを食べていた。そのお尻はすでにボンレスハム形になりつつある。その近くにもボンレスハム形の子が2匹いた。たったの数十メートルなのだが、獲物の量に大きな違いがあるようだ。


 午後5時。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんは卵のうを10ミリくらい出っ張っている板の下まで持ち上げていた。

 近所の草地を潰して住宅地にするのらしい。アオドウガネやイナゴが手に入りにくくなるかもしれない。


 9月18日。曇り。最低19度C。最高23度C。

 午前1時。

 コンビニの店先でアオドウガネを2匹、体長17ミリほどのガを2匹、体長17ミリほどの細め体型のハエ(多分。刺されなかったし)を捕まえた。コガネグモはもういないのだからアオドウガネもいらないのだが、踏み潰されると無益な殺生になってしまう。用水路脇の草地にリリースしようと思う。


 午前8時。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんらしいクモが玄関のセンサーライトの下から脚を出していた。センサーライトの下に折りたたんだ紙を挟み込んでいるので、コンクリート面との間に隙間ができている。そこに入り込んでいるのだ。センサーライトの明るさを嫌ったのかもしれない。「頭胸部隠して脚隠さず」である。〔そんなことわざはない!〕


 午前9時。

 スズミグモのスズちゃんは絹網に穴を開けて、1個目の卵のうを抱えるような姿勢を取っていた。これも食欲がないというサインだろう。先代のスズちゃんは最初と2回目の産卵後に絹網に隠れ帯を付けていたのだが……先代は森の中にいたのに対して、今年のスズちゃんは水田と舗装路の間という陽当たりのいい場所に網を張っているからそのせいかもしれない。いろいろな環境に合わせた複数のやり方が用意されていて、どれを選ぶかは自分で判断しているという可能性はあるだろう。

 ガとハエはジョロウグモたちに配ってしまった。


 午前10時。

 用水路の奥の草地では数個のアケビの果皮が裂けていた。できれば明日にでも収穫して、渋みが消えるまで保管しておきたいものだ。

 民家の庭先で濃い赤紫色のアサガオが咲いていた。


 午後8時。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんの不規則網に体長7ミリほどのダンゴムシを落とし込んであげた。産卵祝いである。


 9月19日。曇り一時雨。最低20度C。最高24度C。

 午前8時。

 夜明けが遅くなったので、少し遅めに家を出た。ポケットにはドウガネブイブイが1匹、体長30ミリと20ミリのバッタが1匹ずつ、体長20ミリほどのガが1匹、体長15ミリほどのコオロギも入っている。


 午前9時。

 スズミグモのスズちゃんのお尻はしわしわになっていた。その不規則網に体長20ミリほどのバッタを投げ込んでみたのだが、反応がない。1個目の卵のうを確認したのが8月26日だし、子グモが出のうした様子もないから交接していないのかもしれない。過去に観察した交接していないナガコガネグモも食欲をなくしていたしな(このナガコガネグモも無精卵を産んだらしかった)。

 体長22ミリほどのジョロウグモの円網には体長20ミリほどのガを投げ込んであげた。この子はすぐに駆け寄って牙を打ち込んだのだが、その後、ガの頭部辺りを咥えてホームポジションに運ぼうとしたらしくて、翅の後端を円網から引き抜くのに苦労していた。こういうのも何回か繰り返せば、もっと手際よく作業できるようになるかもしれない。興味がある人は実験してみたらいい。なお、作者はやらない。適当な大きさのガを集めるのはめんどくさいからね。

 同じくらいの体長の別のジョロウグモには体長15ミリほどのコオロギをあげた。ウィキペディア風の「コオロギを捕食するジョロウグモ」の写真が撮れたぞ。

 体長20ミリほどのジョロウグモには同じくらいの体長のバッタをあげた。この子はバッタの上方に占位すると、円網の糸を噛み切りながらバッタに近づいていって、第一脚の先端で何回かチョンチョンしてから前脚に牙を打ち込んだ。「暴れなければどうということはない!」を裏返すと「暴れる獲物を仕留めるのは大変だ」になるのである。ここでケガをしたりすると、獲物を仕留める能力が低下する。その結果、産卵が遅くなってしまうだろうし。

 体長18ミリほどのジョロウグモには体長17ミリほどのバッタの子虫をあげた。この子も第一脚でチョンチョンしてからパッと踏み込んで牙を打ち込んだ。小型昆虫とチョウ目昆虫以外の獲物を仕留めるのは大変なのである。


 午前10時。

 用水路の奥の草地で6センチから8センチくらいのアケビを3個採集した。問題は渋くなくなったことをどうやって確認するかなんだが……少しずつ試食するしかないかなあ……。

 話は変わるのだが、アケビの種はトノサマガエルの卵に似ていると作者は思う。〔それを食べるのか?〕

 日向夏著『薬屋のひとりごと』にはおっぱいを大きくするためにカエルの卵を食べさせる話も出てくるのだ。もちろん、本人には内緒で。

 アケビと、ついでに捕まえた体長20ミリほどのバッタの子虫を2匹、ナップザックに入れて光源氏ポイント方面に向かって走り出したら、ハチ体型のハエ(多分)がヘルメットの穴から飛び込んできた。しばらくの間そのまま走り続けたのだが、出て行こうとしない。しょうがないのでロードバイクを停めてヘルメットを外しても逃げない。内装のスポンジを舐めているようだ。

「舐めてんのか、お前」〔…………〕

 サドルバッグに常備しているポリ袋を取り出しても、まだ逃げない。結局、捕まえてしまった。後でジョロウグモにあげよう。

 しかし、好事魔多し。作者はサドルバッグのジッパーを開けたまま走り出してしまったのだった。ガツンという音がしたのでロードバイクを停めてみると、サドルバッグに入れておいたカメラがない。また落としてしまったのだ。これはアケビの神様がお怒りになっているのに違いない。

「アケビ様。アケビ様。怒りをお鎮めください」〔今時の子は知らないぞ、『大魔神』なんか〕

 カメラは道路脇の草の中に落ちていた。WGー6は落としたくらいで故障するようなカメラではないのだが、ストラップを取り付ける金具が外れている。しかもそのストラップも見当たらない。しばらく探しているうちに後輪のギヤに巻き付いているのに気が付いた。力任せに引き抜いたのだが、泥混じりのオイルで真っ黒である。しょうがない。持ち帰って食器用洗剤で洗おう。

 捕まえた獲物は光源氏ポイントまで戻ってジョロウグモたちに配ってしまった。明日から3日間は傘マークが出ているのである。

「今食べさせずにいつ食べさせると言うのだ!」〔…………〕


 午後2時。

 舗装路脇にクルマにはねられたらしいオニヤンマが落ちていた。まだ生きてはいるのだが、ジョロウグモが捕食できるようなサイズではない。残念。

 スズちゃんはバッタに捕帯を巻きつけていた。ただし、食べてはいない。クモの場合、食欲がなくなると寿命ということが多いんだが……。


 午後5時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんが住居から出ていた。食欲が回復したようだ。


 9月20日。雨時々曇り。最低21度C。最高22度C。

 午前10時。

 マダラヒメグモのガス漏れ警報器ちゃん、左前隅ちゃん、左奥ちゃんが住居から出ていた。現在の室温は24度C。マダラヒメグモにとっては快適な気温の範囲内なんだろう。


 午後1時。

 果皮が裂けているアケビを試食した。最後まで渋いのはツルが付いている側らしいので、そこをスプーンですくって食べてみる。結果、渋くはなかったので、すべて食べてしまった。種は多いし、たいして甘いものでもないのだが、なんとなく1年に1度は食べたくなるのだ。

 台風が来ている。関東地方に最接近するのは明日の夜らしい。強い風が吹くとジョロウグモの脚がもげてしまうことが多いのだが、作者にできることは何もない。

※脚を何本か失ったジョロウグモを見かけることはよくある。次に多いのはコガネグモやナガコガネグモで、オニグモやゴミグモが脚を失うことはほとんどないようだ。

 こういう差が生まれる要因は、円網で待機している時に脚を延ばしているか曲げているかではないかと作者は思う。確認はしていないが、円網を張るクモは円網の糸に脚先の爪を引っかけて待機しているのだろう。そこに強い風が吹いて円網が暴れると、脚を引き抜く方向へ大きな力が働くことがあるのではないかと思う。オニグモやゴミグモはネコの香箱座りのように脚を曲げた状態で待機しているので、脚を引っ張る力を受けても関節を伸ばすことでその力を吸収することができる。それに対して脚を伸ばしているクモの場合は、引張り力に耐えられずに脚の付け根辺りで自切することになってしまうのだろう。

 それなら円網を張るすべてのクモが香箱座りをすればいいということになるわけだが、クモが香箱座りをすると放熱し難くなるというデメリットが生じるのではないかと作者は思う。なお、香箱座りで待機しているゴミグモも、気温が高い時には左右の第一脚の間に隙間を空けるようだ。逆にジョロウグモは、気温が氷点下に下がることもある真冬でも脚を伸ばしっぱなしにしている。これについては、ジョロウグモはもともと南方系のクモらしいので、脚を伸ばしているのが基本姿勢なのではないかと思う。そして、たまたま氷点下の冷え込みにも数回は耐える能力を持っていたので、本州までは進出できたということなんだろう。


 9月21日。雨。最低22度C。最高24度C。

 午前6時。

 台風が関東地方に接近中。雨が止むのは日付が替わってからになるのらしい。


 9月22日。曇りのち晴れ。最低23度C。最高31度C。

 午前7時。

 路面は乾いているんだが、ひどく眠い。朝食も食べずに二度寝する。


 9月23日。曇り。最低20度C。最高23度C。

 午前9時。

 今日も眠かったのだが、とにかくロードバイクに乗った。ポケットにはアオドウガネが1匹、ドウガネブイブイが1匹、体長20ミリほどの細身の甲虫が2匹、体長22ミリほどのバッタが1匹、体長20ミリほどの細身のハエ(多分)が1匹。


 午前10時。

 スズミグモのスズちゃんの不規則網は部分的に垂れ下がっていた。台風で糸が切れてしまったのを補修していないようだ。「いいクモ生だったわ」状態のような気がする。

 光源氏ポイントでは体長22ミリほどのジョロウグモがアブラゼミの胸部を食べていた。翅は背面側のバリアーに取り付けられているが、頭部と腹部は見当たらない。論文屋さんには見せたくない光景だな。

 アオドウガネとドウガネブイブイは十分に弱らせてから、それぞれ体長20ミリほどでお尻がボンレスハム形のジョロウグモとソーセージ形のジョロウグモの円網に投げ込んだ。この2匹はどちらも獲物の上で円網の糸を噛み切りながら近寄って牙を打ち込んだ。

 体長20ミリほどの別のジョロウグモの円網にはオンブバッタの雌を投げ込んだ。この子も必殺の円網切りを使って獲物を仕留めた。

 甲虫やハエも他のジョロウグモたちに配ってしまう。

 ここにはお尻がボンレスハム形になっているジョロウグモが少なくとも4匹いる。もうサポートを終了してもいいかもしれない。


 9月24日。曇りのち晴れ。最低20度C。最高28度C。

 午後1時。

 光源氏ポイントではアオバハゴロモを4匹しか見つけられなかった。ジョロウグモが飛びついて来る獲物なんだけどねえ……。

 オンブバッタの雌を2匹捕まえたので、お尻が細めのジョロウグモの円網に投げ込んだ。円網を噛み切った子は1匹だけだったが、2匹とも慎重に慎重に安全確認をしながら近寄ってきた。あまり暴れないタイプのバッタでもこれである。イナゴは暴れるので安全確認にもっと時間がかかる。そのため、牙を打ち込む前に円網から外れてしまうこともある。まあ、作者は少し弱らせてからあげるけどね。

 昨日アオドウガネをあげた子は円網を黄色くしていた。

 ドウガネブイブイをあげた子の円網は無色のままのようだ。


 午後7時。

 買い物の帰り道で体長15ミリほどのコオロギを捕まえた。


 9月25日。晴れ時々曇り。最低20度C。最高27度C。

 午前3時。

 コンビニの店先でアオドウガネとドウガネブイブイを1匹ずつ捕まえた。


 午前7時。

 路面が濡れている。今日も二度寝。


 午前10時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんが住居から出ていた。そうか、空腹かあ……。


 午前11時。

 コスモスが見頃になっていた。

 光源氏ポイントにいる体長20ミリほどのジョロウグモの円網に体長40ミリほどのイナゴを投げ込んだ……のだが、この子はいったんは近寄ったものの、後ずさりしてホームポジションに戻ってしまった。しばらくしてから確認すると、イナゴが自切した後脚を咥えている。もがき続けているイナゴは落下してしまった。ジョロウグモはイナゴのように大暴れする獲物は苦手なのである。体長3ミリ以下の羽虫ならすぐに牙を打ち込むのだが、オンブバッタの雌のように大型だがおとなしい獲物や暴れ疲れて動けなくなった獲物は、納得いくまで安全確認をしてから仕留めるのである。

 コオロギは別のジョロウグモの円網に投げ込んだのだが、バリアーに弾かれてしまった。しょうがない。この子にはそこらで捕まえたワラジムシをあげておく。

 二階屋の屋根くらいの高さにある電線の間に円網を張るジョロウグモが現れた。ただし、今のところは3匹だけ。

 体長15ミリほどのオニグモが残業していた。この場合は休眠前の食い溜めだろう。オニグモは基本的に1年のうち6ヶ月くらいしか働かないのだ。「後の半年ぁ~寝て暮ら~す~」である。ああ、私はオニグモになりたい。〔…………〕

※帰宅してから画像をチェックしてみると、このオニグモは脚を伸ばしていた。ただし、ジョロウグモやコガネグモとは違って、第一脚と第二脚はわずかに、第三脚と第四脚は大きく曲げている。昼間は脚を伸ばした方が有利になるのかもしれない。ただし、ゴミグモは昼間でも香箱座りをしている。やっぱりわからん。


 午後1時。

 用水路脇の狭い草地には体長17ミリほどのコガネグモが円網を張っていた。『日本のクモ』の記述通りだが、この時期にはもう雄がいないぞ。

 この子にはとりあえずアオドウガネをあげておく。残ったドウガネブイブイはリリース。明日は雨らしいからね。

 奥の草地でイナゴを5匹捕まえた。


 午後2時。

 光源氏ポイントまで戻って、まだ残業していたオニグモの15ミリちゃんの円網に後脚を外したイナゴを投げ込んだ。もしかしたら、この子は24時間営業をしているのかもしれない。しかもワンオペだ。休眠前とはいえ、ブラックな職場だなあ。やっぱり人間は人間でいるのがいいのかもしれない。

 外した後脚は近くにいたジョロウグモにあげた。イナゴの後脚ならほとんどのジョロウグモが飛びついてくるのだ。

「ジョロウグモにはイナゴの後脚がよく似合う」

 残ったイナゴは光源氏ポイントの少し先にいるジョロウグモたちに配ってしまう。もちろん、後脚は外して小さめのジョロウグモたちの円網に投げ込んでおく。

 森の中にいた体長20ミリほどのジョロウグモの円網にはワラジムシを投げ込んだのだが、腰を振られてしまった。すがすがしいまでの拒否である。円網は無色だったんだけどなあ……。

※今年の光源氏ポイントにはナガコガネグモが少ないようだ。環境の問題なのか、作者の観察力が不足しているだけなのかはわからないが。 


 午後4時。

 オニグモの15ミリちゃんはまだイナゴを食べている。


 午後7時。

 買い物のついでに捕まえたダンゴムシをマダラヒメグモの左前隅ちゃんと左奥ちゃんにあげた。


 9月26日。雨のち曇り。最低18度C。最高19度C。

 午前1時。

 玄関先で体長30ミリほどのケラを捕まえた。ジョロウグモの手に負える大きさではないんだが、雨が止んだ後もオニグモの15ミリちゃんが残業している可能性があるので冷蔵庫に入れておく。


 午後5時。

『日経サイエンス』202610号に「スーパー熱伝導体」という記事が載っていた。

「銅は世界の熱を動かしている。1世紀以上にわたり、銅は自然界で最も優れた熱伝導体のひとつであると認識されており、この特性から電子機器や産業機器、でーたセンター、電力システムを冷却するための定番の選択となっている。だが、記録を塗り替えるクールな金属が新たに登場した」と書かれている(好きだなあ、こういう言い回し)。

 詳しく知りたい方は『日経サイエンス』を読んでもらいたいのだが、θ相窒化タンタルという金属材料の熱伝導率が銅の約3倍だったのだそうだ。さらに「それはこれまで科学的に知られていなかった仕組みによる」のらしい。つまり赤いザクが熱を運んでいたというわけだ。〔違うわ!〕

 冗談はともかく、これは超伝導現象の発見のような科学的・技術的なブレークスルーになるかもしれない。

「熱伝導の記録が破られたのだから、材料物理学で当然とされてきた他の限界も突破できるのではないかと考えるようになっている」と論文の上席著者は述べているそうだ。

 何であれ「これが限界に違いない」と思い込んでしまってはいけないのだなあ。


 9月27日。曇り。最低18度C。最高25度C。

 午前10時。

 ドウガネブイブイを1匹、体長17ミリほどのキリギリス体型のバッタを1匹、体長15ミリほどのガを2匹、体長40ミリほどのケラを1匹、ポケットに入れてロードバイクに乗った。


 午前11時。

 スズミグモのスズちゃんは不規則網を補修していた。ただし、絹網には大穴が開いたままだ。それは居心地を良くするための補修であって、獲物を捕食したいわけではあるまい。念のために体長15ミリほどのガを投げ込んでみたのだが、まったく反応しなかった。

 その近くには背甲の幅が50ミリほどのサワガニ(多分)がいた。背甲の色はグレー基調のまだら模様で鋏は茶褐色。サワガニ(多分)は梅雨の頃と秋に舗装路に現れるようだ。

 オニグモの15ミリちゃんは円網ごと姿を消していた。安らかな眠りについたんだろう。〔「休眠」と言え!〕

 今日は円網を黄色くしているジョロウグモが多かったので、無色にしている子2匹に体長15ミリほどのガと体長17ミリほどのキリギリス体型のバッタをあげた。

 体長20ミリほどの子の円網にはケラを投げ込んだのだが、暴れているうちに円網から外れて落ちてしまった。それを拾って、少し弱らせてからまた投げ込む。ジョロウグモに対してこういうことをすると知らん顔をされてしまうのだが、しばらく待っているとちゃんと仕留めてもらえる。獲物が大型だと近寄るだけで疲れてしまうのか、失敗するとやる気をなくすのか、恐怖を克服するのに時間がかかるのかだと思う。

 ドウガネブイブイも十分に弱らせてから体長22ミリほどのジョロウグモの円網に投げ込んだ。もちろん、この子も飛びついて牙を打ち込んでくれた。ドウガネブイブイやイナゴを食べてもらえるのは楽でいいなあ。


 9月28日。曇りのち雨。最低20度C。最高24度C。

 午前6時。

 トイレットペーパーホルダーの近くに体長2ミリほどの脚の長いクモがいた。もちろん、何グモなのかはわからない。


 9月29日。雨時々曇り。最低20度C。最高22度C。

 午前10時。

 玄関先でドウガネブイブイを1匹捕まえ……もとい、拾った。もう歩くこともできないほど弱っていたのだ。


 午前11時。

 今日も雨。食事量を減らさないと太りそうだ。なお、台風が関東地方に最接近するのは10月1日らしい。


 9月30日。曇り時々晴れ。最低17度C。最高23度C。

 午後1時。

 光源氏ポイントにいるジョロウグモたちのうち、お尻がボンレスハム形になっている子は6匹だった。ただし、近くの森の中には作者のサポートなしでもボンレスハム形になっている子もいる。獲物の存在量にはかなりのばらつきがあるようだ。

 ドウガネブイブイは弱らせてから体長22ミリほどでお尻がまだソーセージ形のジョロウグモの円網に投げ込んだ。もちろん仕留めてもらえた。 

 スズミグモのスズちゃんは不規則網の底まで落ちていた。念のために草の茎でツンツンしてみたのだが、反応がない。力尽きたのだろう。合掌。

 体長17ミリほどのナガコガネグモ(まだ幼体だろう)がいたので、そこらで捕まえた体長25ミリほどのイナゴを円網に投げ込んだ。イナゴの下に入り込んだ17ミリちゃんは1度だけ捕帯を投げ上げると、円網の糸を噛み切ってスペースを作り、DNAロールまで使って捕帯を巻きつけたのだった。

 これほどの大きさで、しかも強力な後脚を持つ獲物の場合、ジョロウグモだと近寄ろうとさえしないことが多いのだが、バッタ狙いのナガコガネグモなら仕留められるのだ。


 午後2時。

 用水路脇にいるコガネグモの17ミリちゃんには光源氏ポイントで捕まえた体長35ミリほどのバッタ(ツチイナゴ?)をあげた。コガネグモにとってはアオドウガネなどよりも楽に仕留められる獲物である。

 ここにはナガコガネグモが3匹いた、去年よりは少ないかもしれない。


 午後3時。

 光源氏ポイント近くの森の中には体長17ミリほどでお尻がラグビーボール形のジョロウグモがいた。これくらいの体長がラグビーボールとボンレスハムの分かれ目になるようだ。


 午後4時。

 マダラヒメグモの右前隅ちゃんと左前隅ちゃん、そして左奥ちゃんが住居から出ていた。マダラヒメグモにとって快適な気温なのか、ダンゴムシなどの活動が活発になる気温なのだろう。


 午後8時。

 スーパーの近くでダンゴムシを3匹捕まえた。うちのマダラヒメグモたちにあげようと思う。

 コンビニの店先では体長15ミリほどのガを捕まえた。これはジョロウグモにあげよう。


 10月1日。曇りのち晴れ。最低18度C。最高26度C。

 午前11時。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんがまた産卵していた。ただし、卵のうはまだ不規則網の中にある。


 午後1時。

 近所のツゲに体長7ミリほどのジョロウグモが2匹いた。もう10月だというのに……。


 10月2日。雨時々曇り。最低19度C。最高22度C。

 午前11時。

 路面はまだ湿っている。

 近所のツゲのジョロウグモは1匹だけになっていた。雨が直接当たる子がいなくなって、ツゲの枝葉の下にいる子が残ったようだ。この子には体長5ミリほどのアリを弱らせてからあげておく。

 この子を至近距離から観察すると、お尻の中央に黒い縦帯が1本あって、その両脇は黒と白のまだら模様。さらに、お尻の後ろ半分に黄色い斑が左右に2個ずつあった。つまり成長するにつれて黄色の斑が増え、白い斑は小さくなっていくのらしい。

 さらに成長すると黄色の斑が大きくなって白い斑は消え、一見黄色と黒のまだら模様に見えるようになっていく。これくらいの段階までは体長が伸びる方向へ成長していくのだが、最後の脱皮を終えると腹部が太くなる方向へ成長するようになる。すると、お尻の中央の黒い縦帯が左右の黄色い斑に押しつぶされるように細くなり、ついには左右の黄色い斑が繋がって黄色い横帯になる。同時にお尻の左右にあった黒い斑も繋がって幅が広くなり、黄色と青灰色の横帯模様になっていくのである。

 つまり、ジョロウグモのお尻の黄色い横帯はオトナの印なのである。ただし、お尻が小さい子の場合は左右の黄色い斑が繋がりきらないために、お尻の中央に青灰色の細い縦帯や細長い三角形、あるいは台形の出っ張りが残っていることもある。

※文章だけではわかりにくいと思う。『そよ風の中で パート2 ジョロウグモの体の模様の変化』というサイトも参照してください。一番いいのはジョロウグモを自分の眼で観察し続けることだけどね。


 午後6時。

 ユニットバスの排水口の蓋に体重をかけたら割れてしまった。もともとクラックが入っていたのだが、57キロの荷重によってクラックが成長してしまったのだ。とりあえず瞬間接着剤で補修して、さらに新品を発注した。  


 10月3日。曇りのち晴れ。最低16度C。最高23度C。

 午前4時。

 血圧が175と90だ。まずいなあ。暖かくなるまで降圧剤を服用するべきかもしれない。


 午前10時。光源氏ポイントにいたジョロウグモの22ミリちゃんが姿を消していた。もう10月だから産卵だと思う。その円網には雄が1匹、留守番していた。

 22ミリちゃん用に持ってきたガは他のジョロウグモにあげておく。


 午前11時。

 用水路脇にいるコガネグモの17ミリちゃんのお尻はほぼ球形になっていた。しかも捕帯を巻きつけたイエバエサイズの獲物を2匹束にして口を付けている。サポートを停止しよう。


 午後1時。

 昼食と買い物のためにいったん帰宅すると、マダラヒメグモの左奥ちゃんが住居から出ていた。ダンゴムシを探そう。

 近所で体長10ミリほどのジョロウグモの幼体を見つけた。近寄れないのだが、そのお尻は中央に黒い縦帯があって、その左右が黄色になっているようだ。個体差もあると思うが、ジョロウグモのお尻の模様は脱皮する度に少しずつ変化するものなのかもしれない。


 午後2時。

 スーパーの東側で捕まえた体長10ミリほどのダンゴムシを左奥ちゃんの不規則網に落とし込んだ。左奥ちゃんは不規則網に引っかかったダンゴムシを仕留めると、コンクリート面とセンサーライトの間にある住居の近くまで引き下ろして食べ始めた様子だった。

 住居の近くで食べるという意味では何も問題はないんだが、いままで観察してきたマダラヒメグモたちは全員、より高い位置にある住居まで引き上げて食べていたんだよねえ……。もっとも、こういう変わり者がいないと進化は起こらないわけだ。もしも低い位置にある住居が有利になるような環境が存在したならば、左奥ちゃんタイプのマダラヒメグモが個体数を増やしていくこともあり得るだろう。


 午後4時。

 血圧は112と72。90キロも走るとこんなもんである。当分の間は降圧剤を服用しないことにしよう。診察の前だけは服用してごまかすけどね。

 作者にとっては、何年か何十年後かに起こるかもしれない脳溢血よりも明日確実に起こる脳貧血の方が危険なのだ。


 10月4日。晴れのち曇り。最低16度C。最高23度C。

 午前10時。

 光源氏ポイントにいるジョロウグモたちのうち、円網を黄色くしていた子は6匹、無色の子は10匹だった。

 その30メートルくらい先にはジョロウグモが33匹いた。ここには樹木が多いから円網を張りやすいんだろう。光源氏ポイントは草地が比較的多いのである。

 ここでは体長17ミリほどのジョロウグモに体長35ミリほどのバッタを少し弱らせてからあげた。この程度なら問題なく仕留められるようだ。

 さらにその先の十字路ポイントにもジョロウグモが20匹いた。


 午前11時。

 用水路脇にいるコガネグモの17ミリちゃんは獲物を食べ終えていた。お尻は相変わらず球形。

 舗装路にオニグモがうずくまっていた。そのお尻は頭胸部の半分くらいの幅しかないし、脚をツンツンしてもまったく反応しない。合掌。

※もちろん撮影したのだが、アスファルトを背景にしたせいか、オニグモが赤っぽくなってしまった。キャノンやオリンパスのカメラなら、ここまでの色かぶりは起きないんだが……色が気に入らない時はカラーバランスをマニュアルでセットするようだなあ。


 午後1時。

 いったん帰宅して買い物と昼食。

 で、今回はカメラを持ち歩いていたので、ジョロウグモの10ミリちゃんを撮影したのだが、そのお尻の黒い縦帯の両側は白い縦帯で、その中に黄色い部分があるという模様だった。まいったね。


 午後3時。

 光源氏ポイントにいる体長15ミリほどでお尻がソーセージ形の7本脚のジョロウグモに体長30ミリほどのバッタ(ツチイナゴ?)を少し弱らせてからあげてみた。

 ところがこの子は、円網の糸を噛み切りながら少しずつ近寄って、約20センチ下の円網の下端辺りでやっとバッタの腹部背面に牙を打ち込んだのだった。ジョロウグモに大型の獲物を与える場合は、体長や脚の本数まで考慮して獲物を弱らせなくてはいけないようだ。あるいは、最初からほとんど抵抗できないくらいに弱らせてしまうか、だなあ。


 午後6時。

 明日は傘マークが出ていたので103キロ走ってしまったのだが、いま確認したら「曇り時々晴れ」になっていた。腹筋と背筋と肩の腹面側と肘から先と骨盤の背面側と腿の内側が痛い程度で、特にひどい筋肉痛は出ていないから走ろうと思えば走れそうなんだが、休んだ方がいいかなあ……。


 午後9時。

 ガス漏れ警報器ちゃんの姿が見えない。これ幸いと掃除させてもらった。


 10月5日。曇り。最低16度C。最高21度C。

 午前1時。

 クロゴキブリが台所にいたので、捕まえようとして追いかけていたら玄関まで逃げて、マダラヒメグモの左前隅ちゃんの不規則網の中に駆け込んでひっくり返ってしまった。さすがに吊り上げられる大きさではないし、左前隅ちゃんも住居から出てこない。面白そうだから、しばらく放っておこうと思う。〔迷惑だろうな〕


 午前1時30分。

 クロゴキブリは不規則網から脱出していた。捕まえて捨てておく。


 午前7時。

 森滝丈也著『海のへんな生きものと暮らす僕』(2026年発行)を読み終えた。著者の森滝氏は鳥羽水族館の学芸員で「2013年から熊野灘の底引き網による生物採集を続け、これまでに40種以上の新種記載に関わった」というとんでもない研究者である。

 この本には生物らしくない形の生物とか変わった生態の生物とかが次々に出てくるのだが、作者にとって特に印象的だったのはヒメツマリウミグモの狩りの話だった。ちなみにウミグモというのは節足動物門・鋏角亜門・ウミグモ綱の生物なので、鋏角亜門・クモガタ綱のクモとは遠い親戚のような生物だと思う。ちなみに、この本には「胴体のスペースがあまりにも少なく、消化器官や生殖巣など内臓の多くが脚のなかにまで入り込んでいるほど。それはまるで宇宙生物のようだ」「最古の化石は、およそ5億年前のカンブリア紀まで遡る」などの説明がある。

 そこまではいいとして、作者が気になったのはヒメツマリウミグモがホンダワラコケムシという群体性動物を捕食する様子の描写だ。

「ウミグモは、コケムシの個虫から出ている触手に向けてゆっくりと脚を動かした。その脚先が触手に触れた瞬間、案の定、コケムシはスッと触手を引っ込めた。摂餌失敗か……、ところがウミグモは予想外の行動をとった。

 コケムシが触手を引っ込めると、ウミグモはそのまま脚先の動きを止めた。しばらくすると、コケムシは何ごともなかったかのように再びスルスルと触手を伸ばしはじめた。

 ウミグモは、その瞬間を待ちかまえていたのだ。

 コケムシの触手が伸びきった瞬間、一転の早業で、鎌のような爪で個虫を挟みこむとそのまま吻から中身をゼリーのように吸い込んだ」

 なんとまあ、これはうちの玄関に住みついているマダラヒメグモたちがダンゴムシを仕留める時と同じやり方ではないか! ダンゴムシは粘球糸で吊り上げられると球形の防御姿勢を取る。この状態ではダンゴムシ狙いらしいマダラヒメグモであっても手が出せない。それではどうするかというと、球形になったダンゴムシのすぐ側で待機するのである。そのうちにダンゴムシは「もう安全だろう」と判断して体を伸ばし始める。そこでダンゴムシの腹面に牙を打ち込むのだ。

 このタイプの狩りは待つということができないと成立しない。作者が行った実験ではジョロウグモもコガネグモも球形になったダンゴムシに牙を打ち込もうとしたものの、どうにもならないので円網から外して捨ててしまった。オニグモの円網に投げ込んだ時には、すでに夜が明けていたせいもあって捕帯を巻きつけたダンゴムシを住居に持ち帰ったのだが、おそらく捕食はできなかっただろう。

 さてさて、ここでウミグモからマダラヒメグモに至るクモの狩りについて推理してみよう。

 まず注目するべきなのは水の抵抗だろう。長い脚を水中で動かすと大きな抵抗が生じるので高速で移動する動物には向かないのである。これはプールの底を歩くヒトと泳ぐヒトではどちらが速いかを比較すればわかりやすいだろう。

 というわけで、5億年前に現れたウミグモもゆっくり歩いていたはずだ。自動的にその狩りも獲物が隙を見せるまで待つというものだっただろう。この場合、海藻のような逃げることのない餌を食べるという方向へ進化するという道もあったはずだが、当時のウミグモはそれを選ばなかったか、選んだウミグモたちは生き残れなかったかだろうな。

 その後、植物を追いかけるように、クモを含む節足動物の祖先たちの上陸が始まる。この時代のクモはアシダカグモのように地上を歩くか、糸で内張りした穴を住居にしていたようだ。

 そして約4億年前(オルドビス初期)に飛行性昆虫が現れる。それを見上げていたクモの祖先の中には「あれ、美味しそうだなあ」「食べたいなあ」と考える子がいたに違いない。〔おいおい〕

 こうして円網を張るクモが現れる。この場合も、罠を仕掛けたら獲物がかかるまで待つ必要があるわけだが、1億年も前から待つことになれていたクモの祖先にとっては何の問題もなかったはずだ。

 その後、円網を張るクモが増えていくと、その分競争が激しくなる。すると「競争なんかしたくない」「もっと楽に生きたい」と考える子が現れるわけだ。〔こらこら〕

 そんな子たちが目を付けたのが、他のクモたちには捕食できないダンゴムシだったのだろう。ダンゴムシを捕食するのには、第一に吊り上げ式の罠を設置して待つこと、第二に吊り上げられた獲物が警戒を解くまで待つことが必要だ。逆に、この2つの段階で待つことさえできれば、セミのように羽ばたくこともバッタのように暴れることもできない短足のダンゴムシは安全に仕留めることができるわけだ。

「吊り上げ式の狩りはいいね。ダンゴムシは安全に仕留められる。クモが歩んできた進化の極みだよ」〔…………〕

 吊り上げ式の狩りのメリットはまだある。吊り上げることさえできれば、クモ自身の体長の3倍くらいの獲物であっても難なく仕留められるのだ。これをクモの立場で考えれば、より小型化できるということになる。小型化できればオトナになるのに必要な獲物の量は少なくなるし、時間も短くなる。つまり子孫を残しやすくなるのだ。

 なお、人間には理解しにくいかもしれないが、生物の目的は子孫を残すことである。そして基本的に小型の生物は大型の生物よりも子孫を残しやすい。これはゾウとネズミではどちらの繁殖力が強いかと考えれば理解しやすいだろう(単細胞生物ならもっと増えやすい)。しかし、人間は大型生物でありながら、文明を獲得することによって地球環境を破壊することと引き替えに爆発的な繁殖力を手に入れてしまった。作者がたまに「人間は地球の生態系に生じたがん細胞だ」と言うのはそういうわけだ。がん細胞にも生きる権利はあるとは思うけどね。


 午前8時。

 背筋が痛い。今日は休み。


 10月6日。曇りのち晴れ。最低19度C。最高26度C。

 午前9時。

 光源氏ポイントでは今日もジョロウグモが1匹、姿を消していた。多分、体長20ミリほどの子だったと思う。

 体長25ミリほどでお尻が太めのソーセージ形のジョロウグモにはオンブバッタの雌をあげておく。オンブバッタの雌はイナゴのように暴れないので、弱らせる必要はない。

※この子を2026年度の女王様にしよう。


 午前10時。

 用水路脇にいるコガネグモの17ミリちゃんは横糸を張っていなかった。おそらく、産卵まで絶食するつもりだろう。ただし、交接していないオニグモとナガコガネグモがギリギリまで産卵を遅らせて、結局は無精卵を産んだという観察結果もある。


 午後1時。

 今日はゆっくり70キロ走ったところでくじけた。70歳を超えると、1日休んだくらいでは100キロの疲れは回復しないのらしい。やだやだ。年は取りたくない。


 午後7時。

 ユニットバスの排水口の蓋を交換した。念のために片足立ちで体重をかけてみたが割れない。この手のものは体重100キロを基準に製造されるものなんじゃないかと思う。120キロ以上のヒトが入居していたか、わざとジャンプして、より大きな荷重をかけたのかもしれない。


 10月7日。晴れ時々曇り。最低16度C。最高26度C。

 午前9時。

 今朝は起きられなかった。休もう。


 10月8日。晴れ。最低13度C。最高24度C。

 午前3時。

 コンビニの店先にいた獲物は体長15ミリほどと体長5ミリほどのガが1匹ずつだった。ガを狙うクモであるオニグモたちが10月中に休眠に入ってしまうのは獲物が少なくなるからなんだろう。逆に言えば、ナガコガネグモやジョロウグモが狙っている獲物は10月になってもまだいるということになる。

 話は変わるのだが『週刊女性PRIME』というサイトに『未曾有の情報漏洩に、古川デジタル相「自分で守る」国民への呼びかけが波紋《国は守らないの?》疑問の声』という記事が載っていた。やれやれ……個人的にはこんなことに疑問を感じてはいけないと思うぞ。国が国民を守る理由などあるわけがないじゃないか(一部の国民はパフォーマンスとして救助することもあるかもしれない)。

 マイナ免許証にしろマイナ保険証にしろ情報が漏洩したら、それは個人の責任なのだ。ちなみに作者は免許証の更新をやめてしまったし、保険証の代わりに資格確認書を使っている。まあ、「国民の義務だ」とか「問題が発生した場合の責任はすべて国が負う」とか言われたならしょうがないと思うがね。


 午前11時。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんが住居から出ていた。


 午後1時。

 光源氏ポイントにいる女王様の円網に、そこらで捕まえた体長30ミリほどのイナゴを少し弱らせてから投げ込んでみた。この程度の体格差なら何の問題もなく仕留めてもらえる。

 イナゴはまだあるので、30メートルくらい先(以後「その先ポイント」と呼称する)にいたジョロウグモの中から、あえて体長17ミリほどの子を選んで、その円網に投げ込んでみた。この子は円網の糸を噛み切りながらイナゴに近寄って、脚先で数回チョンチョンし、さらに触肢で触れてから牙を打ち込んだ……のだが、そこはイナゴの翅だったのである。

「甘いな」

 ジョロウグモの捕帯は糸の本数が少なすぎるので、コガネグモ科のクモのように獲物の抵抗を封じるという目的では使えない。暴れる獲物に対しても危険を承知の上で牙が届く間合いに入るしかないのだ。

 だがしかし、ジョロウグモ一族には先祖代々、こういう時にこそ使うべき奥義が伝承されているのである。17ミリちゃんは右側の牙を抜いて左側の牙の少し前に打ち込み、次にまた左側の牙を抜いて右側の牙の少し前に打ち込むという、ヒトが慎重に歩くようなやり方でイナゴの胸部にたどり着いたのだった。常に片方の牙が翅を貫いている状態にしておけば、獲物を逃がさずに急所へたどり着くことができるのだ。

 作者はこの必殺技を「抜き牙差し牙」と呼称している。過去に一度だけ観察したのはガの翅に牙を打ち込んでしまった時なのだが、この奥義はイナゴに対しても有効だったのだなあ。いいものを見せてもらった。


 10月9日。晴れ。最低13度C。最高24度C。

 午前11時。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんが住居から出ていた。またダンゴムシを捕まえなくては。


 午後4時。

 上顎のぐらぐらしていた2本の歯を引き抜いた。ここは隣り合う歯2本にまとめてクラウンを被せてあったのだが、片方は歯の根が途中で折れ、もう1本は根ごと抜けたのだ。何十年も前に虫歯を治療した後、大量の膿が出て、さらに小さな骨片も出てきたから、その時から上顎の骨が痩せ続けているのらしい。

「そんなこともあるさ、年寄りだもの」


 午後9時。

 台所の天井に体長3ミリほどで濃い茶褐色のカニグモ体型のクモがいた。カメラを近づけただけで逃げたからカニグモの仲間で間違いあるまい。


 10月10日。晴れ。最低13度C。最高25度C。

 午前11時。

 マダラヒメグモの右前隅ちゃんの不規則網に体長5ミリほどのアリを少し弱らせてから落とし込んだ……のだが、右前隅ちゃんは住居に逃げ込んでしまった。落とした位置が近すぎたのかもしれないが、どうにも消極的な子である。もしかしたらこの子は雄の幼体で、来年の春にオトナになれるように食事制限をしているのかもしれない。

 左奥ちゃんには体長10ミリほどのダンゴムシをあげた。


 10月11日。晴れ。最低14度C。最高25度C。

 午前11時。

 マダラヒメグモの右奥ちゃんの姿が見えない……と思ったら、センサーライトの裏に入り込んでいた。うちのセンサーライトは水平の溝が一周しているので、そこに入り込んでいるようだ。センサーライトの下の隙間では狭すぎて「頭胸部隠して尻隠さず」になってしまうので引っ越ししたんだろう。センサーライトの電池交換ができないのは同じなんだが……。


 午後1時。

 光源氏ポイントにいる女王様の円網に体長25ミリほどのバッタの子虫を投げ込んでみた。そろそろと近寄った女王様は第一脚で何回かチョンチョンしてから、さっと踏み込んで牙を打ち込み第一脚と第二脚を高く上げた。自身と同じくらいの体長の獲物でも「危険だ」と判断するのらしい。

 一部のジョロウグモの円網には体長2ミリ以下の飛行性昆虫が数匹かかっていた。秋が来たのだなあ。


 午後2時。

 用水路脇にいたコガネグモの17ミリちゃんはいなくなっていた。産卵場所へ向かったのか、雄を訪ねて三千里の旅に出たのか、あるいは人間に追い払われたかだろうな。

 光源氏ポイントに戻ると、クズの葉の間に体長17ミリほどのナガコガネグモがいたので、その円網にそこらで捕まえた体長25ミリほどのイナゴを投げ込んだ。イナゴの下に入り込んだ17ミリちゃんはDNAロールで捕帯を巻きつけ、ピピっと2回ウ〇コをしてから、さらにバーベキューロールでぐるぐる巻きにした。なお作者はナガコガネグモにイナゴをあげる時には弱らせない。必要ないし、めんどくさいし。

 女王様は新たに体長5ミリほどのガを仕留めていた。

 よく太ったジョロウグモの雌が何か獲物を食べ始めたところへ雄がそろそろと近寄って交接したのだが、一二分後に気が付いた時には捕帯を巻きつけられていた。「交接できたら食われてもいい」「我がクモ生に一片の悔いなし」である。


 午後4時。

 帰宅すると、注文しておいたサイクリングシューズが届いていた。ロードバイク用のシューズはイナゴを捕まえると滑り止めが剥がれていくので、今回はソールに滑り止めのゴムが盛られているマウンテンバイク用のシューズにしてみたのだが、物差しの両端に新しいシューズと今使っているシューズを引っかけてみたくらいでは重さに差が現れない。最近のシューズはそれくらい軽くなっているのである。履いてみて問題がないようならこれを使おうと思う。


 午後8時。

 うちのカニグモちゃんは台所の天井にいる。ユウレイグモの仲間たちは天井と壁が接する部分を選んで歩いていたようだが、これはおそらく、網を張るクモだからなんだろう。徘徊性のクモは網を張りやすい場所を選ぶ理由がないのである。


 10月12日。晴れ時々曇り。最低15度C。最高25度C。

 午前8時。

 うちのカニグモちゃんは天井を1.5メートルくらい移動していた。


 午後1時。

 今日は新しいシューズを履いてみたのだが、踏み込み位置がつま先方向に寄りすぎだった。そこで4.5ミリくらい踵方向に移動させると、これでは後ろ過ぎる。結局1.5ミリ後ろに落ち着いた。

 光源氏ポイントでは大きめのジョロウグモたちの半分以上が横糸を黄色くしていたのだが、女王様はいまだに無色の横糸を張っていた。腹面から見ると頭胸部と腹部の比率が1対1.7くらいだし、太めだがソーセージ形のお尻の黄色い帯も頭胸部側に2本しかない。つまり、まだまだ成長期で食べ盛りというわけだ。そこでイナゴを1匹、少し弱らせてから円網に投げ込んだのだが、これが体長35ミリほどだったので、女王様は警戒して近寄ろうとさえしない。弱らせ方が足りなかったのだ。まあ、円網から外れて落ちなければ捕食してもらえるだろう。


 午後3時。

 女王様はイナゴをチョンチョンしている。ジョロウグモの狙いは弱い獲物なのである。

 明日のためにイナゴを5匹持ち帰ることにする。とりあえず、女王様が横糸を黄色くするまではイナゴをあげようと思う。


 午後4時。

 新しいシューズのテストを終えた。シマノのマウンテンバイク用シューズはロードバイク用に比べてつま先の余裕が大きくしてあるらしくて、ロードバイク用のように親指の爪が当たる部分に穴を開ける必要はなさそうだ。左足の甲に痛みを感じるのだが、これは慣らしが済むまではしょうがないだろう。


 10月13日。晴れ時々曇り。最低15度C。最高25度C。

 午前8時。

 蛍光灯のシーリングライトをLEDペンダントライトに替えたので、手元にある蛍光管をすべて資源回収に出した。予備の未使用品もあったのだが、しょうがない。


 午前11時。

 疲れている。今日は休み。


 午後1時。

 作者が入居しているアパートに続いて隣の家主の家のペンキ塗りが終わった。足場の組み立て、高圧洗浄、乾いてから2日かけてペンキ塗り、最後に足場解体で1棟辺り1ヶ月である。しかもドアノブにペンキを垂らしている。迷惑な話だ。


 10月14日。曇り一時雨。最低17度C。最高25度C。

 午前9時。

 光源氏ポイントの女王様は円網の右半分を張り替え中だった。その横糸はいまだに無色である。10月6にちにオンブバッタの雌、8日に体長30ミリほどのイナゴ、11日に体長25ミリほどのバッタの子虫、12日に体長35ミリほどのイナゴを食べてもまだ無色というのはとんでもない食欲だ。そのお尻もソーセージ形なので太くは見えないが、実際の容量はボンレスハム形の子と同じくらいになるだろう。頭胸部が大きい女王様体型だと大量の獲物を食べられるようだ。これなら大量の卵を産むことができるだろう。ただし、それはあくまでも十分な量の獲物を食べることができたならば、である。獲物が少ない環境では産卵できないままクモ生を終えることにもなりかねないはずだ。そういう環境では頭胸部が小さく、腹部も大きくならない平民体型の方がより早く産卵できるという点で有利になるはずだ(卵の数は少なくなるだろうが)。

 繰り返しになるが、この個体変異の幅広さこそがジョロウグモが繁栄している要因の一つなのではないかと作者は思う。

 女王様には今日も体長35ミリほどのイナゴを、12日より余計めに弱らせてからあげた。全開よりは積極的に獲物に近寄ってくる女王様だった。


 午前10時。

 女王様はまだまだ食べそうなので、小さめのイナゴを2匹とオンブバッタの雌を1匹捕まえておく。


 10月15日。曇りのち晴れ。最低14度C。最高21度C。

 午前2時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんと左奥ちゃんが住居から出ていたので、それぞれ体長10ミリほどのダンゴムシを不規則網に落とし込んであげた。もうダンゴムシも少なくなってしまったなあ。


 午前10時。

 左奥ちゃんの不規則網の中に、やや小さめのマダラヒメグモが入り込んでいた。雄……なのか? 左奥ちゃんはすでに2回産卵しているんだが……。ああっと、マダラヒメグモの場合、すべての卵に受精させるためには2回の交接が必要だったなあ。


 午前11時。

 光源氏ポイントの女王様は円網の向かって左側の3分の1を無色の横糸で張り替えていた。もしかすると、ある程度大型のジョロウグモは横糸を黄色くしないのかもしれない。

 その先ポイントにはよく太ったジョロウグモがいた。背面側から見た時のお尻の長さは約20ミリなのに、中央部の腹面から背面までは約15ミリになっている。いったい何を食べたらこれほど太れるんだろう? 


 午後2時。

 また右眼の視力が低下した。明日は休もう。


 10月16日。晴れ時々曇り。最低15度C。最高26度C。

 午前1時。

 玄関先で体長17ミリほどのガを捕まえてしまった。


 午後2時。

 体長15ミリほどのガも捕まえてしまった。休みたいのに……。


 午後3時。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんと同居している雄(?)を撮影した。バックには左奥ちゃんの一部も写っている。


 10月17日。晴れ。最低15度C。最高24度C。

 午前11時。

 体長30ミリほどのイナゴ2匹とガを2匹、ポケットに入れて光源氏ポイントへ向かった。

 女王様は円網の向かって右半分を無色の糸で張り替えていた。そこにイナゴを投げ込むと、2日前よりは積極的に近寄って、イナゴの上で円網の糸を噛み切り、何回かチョンチョンしてから胸部の腹面に牙を打ち込んだ。……イナゴの腹面には大顎や爪の付いている脚があって危険だというのに、なんでセオリーを無視するんだよ、あんたは! 

「大っ嫌いだ、女王様なんか!」

 なお、張り替えてある部分の横糸の間隔は2日前と比べると広めで、しかも揃っていなかった。産卵前なら円網の張り替えそのものをしないはずだから、大型の獲物狙いに切り替えたのかもしれない。

 女王様用に持ってきたガ2匹とイナゴ1匹は他のジョロウグモたちに配っておく。

 体長25ミリほどの別のジョロウグモには枯れ草の下にいたダンゴムシを開きにしてからあげたのだが、今回もちゃんと牙を打ち込んでもらえた。

「ダンゴムシに問題はない」

 あまり注意して見ていたわけではないのだが、ナガコガネグモはいなかったような気がする。 


 10月18日。晴れ。最低9度C。最高23度C。

 午前11時。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんと雄(?)はまだ同居している。これは交接のための同居ではないだろう。では何かというと、越冬だろうか? テントウムシの成虫のように身を寄せ合って春を待つとか? 

※『虫散歩』というサイトに「自宅の玄関先にいたマダラヒメグモのオスとメス。(2012.9.27)」という画像が掲載されていた。珍しいことではないらしい。


 午後1時。

 光源氏ポイントの女王様は円網を張り替えていなかった。死海文書の記述通りである。〔嘘つくな!〕

 こんなこともあろうかと用意してきた体長17ミリほどのガを円網に投げ込むと、飛びついて牙を打ち込む女王様だった。円網にガがかかった場合は、急いで牙を打ち込まないと円網に鱗粉を残して逃げられてしまう。「このところ食べ過ぎだから食べない方がいいかも……」なーんて考えている暇はないのである。

 明日は「夏日」の予報が出ているから、明日か明後日には女王様も円網を張り替えるだろう。その時はまたイナゴをあげようと思う。

 光源氏ポイントではまた1匹、ジョロウグモが姿を消した……ような気がする。どこにどんなクモがいるかを把握しきれていないのだ。見取り図を作って、そこに書き込んでおくという手はあるんだが、そんなものは持ち歩きたくないし。


 午後3時。

 養老孟司著『読むこと考えること』(2026年発行)を途中まで読んだのだが、捨てた。こいつは昆虫を片っ端から殺して楽しんでいるネクロフィリアなのだ。こんな奴はとっとと地獄へ墜ちればいい。弥勒が許してくれるまで、殺した昆虫の数だけ地獄の鬼に切り刻まれるがいい。

「この人間めが!」

 作者もクモに食べさせることで間接的に昆虫を殺しているが、それでも食べたり、食べられたりすることで命のリレーが行われていく。しかし、養老のように昆虫をただ殺すだけでは命が無駄になってしまうではないか。

 悪魔よ去れ。地獄へ帰れ。

 

 10月19日。晴れのち曇り。最低15度C。最高27度C。

 午前11時。

 今日は風が強い。光源氏ポイントでもジョロウグモの円網の多くが潰れてしまっていた。

 しかし、女王様の円網は係留糸も枠糸も無事で縦糸と横糸だけがなくなっているようだった。つまり、意識して円網を外したように見えるのだ。昨日は横糸の間隔を広げていたことも合わせて考えると、これはかかる獲物が多すぎるので絶食を始めたということではないかと思う(あの1匹のガがだめ押しになったのかもしれない)。

 なぜ絶食するのかというと、第一に産卵が近いので食べる必要がないという可能性が考えられるだろう。9月中旬頃までに交接していたとすれば、そろそろ産卵してもおかしくはないはずだ(気温にもよるだろうが)。

 第二に単なる食べ過ぎ。ただし、その場合には、なぜ横糸を黄色くするというステップをスキップしたのかという問題が残る。もしかすると、ある程度大型のジョロウグモの雌成体は横糸を黄色くしないのかもしれない。

 明日は雨らしいので、イナゴ2匹は他のジョロウグモたちに配ってしまった。女王様が円網を張るようなら改めてイナゴを捕まえよう。


 午後2時。

 光源氏ポイントでゴミ拾いをしてくれている人間がいた。世の中、猿ばかりではなかったのだなあ。ありがたいことである。


 午後3時。

 マダラヒメグモの右前隅ちゃんが住居から出ていた。しかし、そのお尻の大きさに変化がないような気がしたので眼の位置を下げてみたら、1センチくらい出っ張っている板の下に卵のうが2個あったのだった。〔迂闊な奴め〕


 午後9時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんに体長12ミリほどのダンゴムシをあげた。今回はコンクリート面の上を転がすことになってしまったのだが、ダンゴムシが歩き始めると、すぐに左前隅ちゃんが降りてきて吊り上げた。


 10月20日。曇りのち雨。最低17度C。最高26度C。

 午前10時。

 買い物の途中で体長30ミリほどの細め体型のイナゴを捕まえた。明日はこれを持って光源氏ポイントへ行こうと思う。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんの不規則網には10月15日頃から雄らしいマダラヒメグモが同居している。そこで疑問を感じた。この不規則網に1匹の獲物がかかったら、この2匹はどういう行動を取るんだろうか、と。

 疑問を感じたら実験するのが一番である。そこで体長12ミリほどのダンゴムシを捕まえて、不規則網の上から落とし込んでみた。不規則網にひっかかったダンゴムシがもがき始めると左奥ちゃんが駆け寄ってきたのだが、雄は姿を見せない。雌の方が大きいのだから当たり前だな。しかし、いくら雄でも霞を食べて生きることはできまい。あり得る可能性としては、不規則網の糸を食べているのか、左奥ちゃんが食休みをしている間に獲物を盗み食いするかだと思うのだが、観察を続けている間はパソコン作業ができないのだった。どうしたものやら……。


 午前11時。

 雄が住居から出て左奥ちゃんの近くにいたのだが、数分後にはいなくなった。左奥ちゃんに追い払われたようだ。同居は許すが、獲物は譲らないということらしい。この辺りはジョロウグモの雌と同じだな。


 午後5時。

 左奥ちゃんはダンゴムシを食べていて、雄はそれを住居の入り口からうらやましそうに見ている。〔クモの表情がわかるのか?〕

 奥さんがごちそうを食べているのをテーブル越しに見せられている甲斐性無しの亭主のようだ。


 午後10時。

 念のために血圧を測ってみたら166と87だったので風呂に入った。多分、1週間ぶりか10日ぶりか、それくらいのはずだ。さすがにお湯が垢だらけになったので、お湯を抜いてからシャワーを浴びた。


 10月21日。晴れのち雨。最低19度C。最高30度C。

 午前6時。

 ガス漏れ警報器の下に体長4ミリほどのマダラヒメグモがいた。そこはダメだと言ってるじゃないかあ!〔マダラヒメグモ語じゃないと通じないだろ〕


 午前11時。

 今日は風が強いので、光源氏ポイントにいるジョロウグモたちの円網もいくつか潰れていた。

 確認はできないのだが、今日も2匹か3匹のジョロウグモが姿を消していたようだ。

 女王様は円網の向かって左半分を張り替えていた。右半分にも小さな羽虫が多数かかっているし穴も3個開いているから、昨日のうちに全面張り替えをして、今朝、左半分を張り替えたのかもしれない。なお、横糸は無色のままである。左側に弱らせたイナゴを投げ込むと、それなりに積極的に近寄って、イナゴの腹部後端に牙を打ち込む女王様だった。

 その先ポイントでは体長7ミリほどのオニグモ体型のクモが残業していた。


 午後1時。

 光源氏ポイントの近くの森の縁では、1匹のジョロウグモの円網に下の方から別のジョロウグモが侵入するところだった。侵入者は円網の中に踏み込むと、第一脚2本を振り上げて、さらに踏み出そうとしたらしいのだが、網の主も下に向けていた第一脚を振り上げて近寄って行くと、円網の外へ逃げ出した。ジョロウグモも円網の中が縄張りであるようだ。ただし、今回は2匹のジョロウグモの体長に大きな差がなかったので、侵入者が明らかに大きかった場合はどうなるのかわからない。

 

 10月22日。曇りのち晴れ。最低18度C。最高21度C。

 午後1時。

 今起きた。今日は休み。女王様も食欲ないだろうしな。


 10月23日。晴れのち曇り。最低8度C。最高20度C。

 光源氏ポイントではよく太っていたジョロウグモがいなくなっていた。

 その他に、おそらく産卵前で食欲をなくしている子も2匹。

 女王様は円網を張り替えていないような気もしたのだが、とりあえず体長30ミリほどのイナゴを弱らせてから投げ込むと、女王様はイナゴに飛び付いて牙を打ち込んだ。1日置きにイナゴを1匹というのが正解のようだ。

 10月下旬だというのに新たなジョロウグモが現れた。体長は18ミリほどでお尻は細めのソーセージ形。ただし、すでに黄色い横帯が4本になっている。左の第二脚を失っているらしくて7本脚である。この子にも体長30ミリほどのイナゴを弱らせてからあげたのだが、知らん顔をしている。うーん……もしかすると、この子は交接していないのかもしれない。


 午後3時。

 7本脚ちゃんがイナゴを食べていた。脚が足りない分、消極的になっているだけならいいいんだが……。


 午後5時。

 今日は指が冷えた。そろそろ指付きグローブに替えるべきかもしれない。


 10月24日。曇りのち雨。最低15度C。最高19度C。

 午後1時。

 今日は雨。予報では明日も雨。26日も雨。27日に台風が関東地方に接近して、通過すれば晴れるのらしい。疲れているからちょうどいいかもしれない。

 10月25日。曇りのち雨。最低18度C。最高23度C。

 午前11時。

 近所のツゲの木にいるジョロウグモは、いまだに体長10ミリほどでしかない。獲物が少ない場所に円網を張ってしまうとこういうことになるんだろう。

 台風30号は明日、九州へ上陸して、その後は温帯低気圧になるらしい。


 10月26日。雨。最低17度C。最高17度C。

 午前1時。

 洗濯物を干している間に部屋の中にカが数匹入り込んでしまった。それを硬っ端から殺したのだが、うまく潰さずに仕留められたカを2匹、体長2ミリほどのマダラヒメグモの幼体の不規則網に落とし込んだ。2ミリちゃんは知らん顔をしているが、気が向いたら食べてもらえるだろう。


 10月27日。雨時々曇り。最低16度C。最高20度C。

 午前10時。

 玄関ではマダラヒメグモの左奥ちゃんと同居している雄だけが住居から出ていた。

 買い物のついでに確認すると、スーパーの西側にいるジョロウグモは体長17ミリほどになっていた。

 その近くにはもう1匹のジョロウグモがいて、こちらは体長15ミリほどで何か獲物を食べている。

 さらに、ツツジの植え込みの中には体長5ミリほどのコガネグモの仲間の幼体もいた。お尻はアイボリーから濃い茶褐色へのグラデーション。


 午前11時。

 帰宅してから体長15ミリほどのダンゴムシを左前隅ちゃんの不規則網に、7ミリほどのダンゴムシを左奥ちゃんの不規則網に落とし込んだ。

 少し経ってから見に行くと、左前隅ちゃんはダンゴムシを仕留めていたのだが、左奥ちゃんの不規則網でダンゴムシの腹面に食いついているのはどう見ても体長2ミリほどのマダラヒメグモの幼体だった。お母さんとお父さんの他に子供まで同居していたのらしい。〔ほんとかよ?〕

 改めて確認すると、左奥ちゃんの最初の卵のうには出のうした跡が残っていた。もしかすると、血縁関係にある子グモなら1匹くらいは同居が許されているのかもしれない。マダラヒメグモは奥が深い。


 午後1時。

 マダラヒメグモの左奥ちゃんと同居している雄が住居から出ていた……のだが、ダンゴムシを横取りする様子はない。自分の立場をわきまえているのだろう。


 午後2時。

 光源氏ポイントでは、また1匹のジョロウグモが円網を張るのをやめていた。

 女王様は無色の糸で円網を張り替えたらしいのだが、その円網には小さな羽虫が多数かかっている。そこへ体長35ミリほどのだいぶ弱っているイナゴを投げ込もうとしたら、先にカメムシがかかってしまった。しょうがない。女王様がそれを仕留めてホームポジションに固定するのを待ってイナゴを投げ込む。女王様はイナゴも仕留めてからカメムシを食べ始めた。やれやれ……。


 午後3時。

 明日のために、体長35ミリほどの茶色型のイナゴを1匹捕まえた。


 10月28日。晴れ。最低11度C。最高19度C。


 10月29日。曇り一時雨。最低8度C。最高17度C。

 午前1時。

 最低気温が一桁だ。まいったね。


 午前9時。

 マダラヒメグモの左前隅ちゃんと同居している雄が住居から出ていたので、体長7ミリほどのダンゴムシを落とし込んであげた……のだが、住居から飛びだしてきた子は左奥ちゃんの方だった。同居することは許すが、獲物まで譲る気はないということらしい。まあいいか。ダンゴムシの命は無駄にはならなかったんだし。


 午後1時。

 光源氏ポイントの女王様は円網を張らずに数本の糸からぶら下がっていた。その下には大量の小さな羽虫で太い紐状になった円網が垂れ下がっている。背面を見せているので比較し難いのだが、お尻がわずかに細くなったような気もする。もしかすると産卵して戻って来たのかもしれない。まだ産卵していない場合でも3日以内というところだろう。

 円網を張っていないジョロウグモは他にもいて、草の間に数本の糸を張ってそこにいる子が1匹、束になった糸からぶら下がっている子が3匹いた。この4匹はおそらく産卵を終えていると思う。つまり、この子たちは「卵のうを守る」をしていないのである。 

 茶色型のイナゴはその先ポイントにいるジョロウグモたちの中から食欲がありそうな子を選んで円網に投げ込んであげた。

 体長17ミリほどでお尻がラグビーボール形のジョロウグモは比較的大きな縦横25センチくらいの蹄形円網を張っていたので、体長7ミリほどのアリをあげておく。

 なお、森の縁には円網を張っているジョロウグモが6匹いた。陽当たりが悪いと獲物が少なくなるのか、成長そのものが遅くなるかするんだろう。


 10月30日。曇り時々晴れ。最低11度C。最高20度C。

 午前11時。

 体長5ミリほどのガを捕まえたので、スーパーの西側にいるジョロウグモの15ミリちゃんの円網に投げ込んだ。縦7センチ横15センチくらいの円網でバリアーも多いのだが、白い壁を背にしているために、どこまでが円網なのかわからない17ミリちゃんよりはマシなのだ。

 ガに駆け寄った15ミリちゃんは牙を打ち込むと、第一脚と第二脚4本を高く上げた。それほど大型の獲物ではないだろうと思うのだが、気温が低下すると捕食能力も下がるはずなので、獲物が大型化したのと同じことになるのかもしれない。

 金網で囲われた運動場の中にいた近所のネコに「にゃあ」と呼びかけたら近寄って来たので、指を差しだしたら金網越しに鼻チョンしてくれた。ネコに触れるのなど何年ぶりだろう。


 午後2時。

 光源氏ポイントまでは行ってみようかと思ったら雨がぱらついてきた。

 さすがにこの季節に濡れながら走る気にはなれないので、サイクリングシューズのつま先に養生テープを貼る。通気孔を塞げば、それなりに冷えにくくなるのだ。

 ついでに書いておくと、最近はサングラスのレンズも割れなくなった。オークリーのEVゼロシリーズのレンズは削ってから使うのが正解だな。〔よい子は真似……してもいいけど、自己責任でね〕


 10月31日。晴れ時々曇り。最低12度C。最高24度C。

 午前7時。

 パソコン部屋の隅にいる体長3ミリほどのマダラヒメグモ(多分)も同じくらいの体長で細い体型の黒っぽいクモと同居しているのに気が付いた。おそらく、細い子は雄だろう。作者はほとんど掃除しないので、この部屋の隅はかなり安定した環境なのである。獲物は少ないと思うんだけどね。


 午後1時。

 また失敗した。光源氏ポイントの女王様が円網を張り替えていたのだ。縦50センチ横40センチくらいだから、2回目の産卵を目指しているんだろう。

 どうも、体長20ミリ以上のジョロウグモのうち、元の円網に戻って2回目の産卵を目指す子が10パーセントくらいはいるようだ。とりあえず、そこらで捕まえたイナゴを弱らせてから円網に投げ込んだのだが、落ちてしまう。粘球が劣化しているのだ。おそらく、昨日張り替えてそのままなんだろう。それをまた捕まえて、わずかに上を向いている側にそっと載せた……のだが、女王様は円網の端まで逃げてしまった。こうなったジョロウグモはしばらくの間は捕食してくれない。しょうがない。運が良ければ、そのうちに食べてもらえるだろう。

 光源氏ポイントには体長4ミリほどのゴミグモが2匹いた。8月に出のうしたとして3ヶ月でこの体長である。夏の間は休眠していたんだろうか? 越冬できるクモなら、生き急ぐ必要はないんだろう。

 その先ポイントには円網にもたれかかっているジョロウグモがいた。お尻はソーセージ形だし、脚をツンツンしても反応がない。産卵を終えて元の円網に戻ったところで力尽きたんだろう。合掌。


 午後2時。

 女王様はイナゴを食べていた。もっとうまく食べさせることができるようにならなくてはなあ。

 森の縁にいた体長20ミリほどのジョロウグモが獲物を食べていたのだが、その獲物の脚はどう見てもジョロウグモのそれなのだった。

「ごめんください。旅の途中、難儀しております」

「それはそれはお困りでしょう。何もございませんが、どうぞお入りください」

「ありがとうございます」

 と、引き入れておいて、背後から牙をグサッと……なーんて、人間のようなことをクモがやるわけはない。ジョロウグモにとって円網の中は縄張りであることは侵入する方もわかっているはずだ。おそらくは、「出て行きなさい!」と威嚇された時に逃げ遅れたんだろう。気温が下がれば逃げ足も遅くなるのに対して、襲いかかる方はあまり遅くならないのかもしれない。


 午後4時。

 帰宅すると、マダラヒメグモの右前隅ちゃんと左奥ちゃんが住居から出ていた。またダンゴムシを捕まえるようだなあ。


 午後5時。

 降圧剤を飲んだら血圧が116と77だ。風呂に入れない。

 


     クモをつつくような話 2026 その4に続く


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