7話 "秘密の場所"
ある日、いつものように図書室で本を読んでいると、勢いよくドアが開けられた。
「シュウー、いる?」
いつもは外で遊んでいるはずのサーシャが図書室を訪れてきた。
「いるよ、どうしたの?」
「面白いものを見つけたんだよ、ついてきて!」
言われた通りについていくと、孤児院の裏庭についた。サーシャは裏庭の奥にいくと、そのまま林をかき分けて城壁に近づいた。
木板で閉ざされ、蔓や木で隠された通路。サーシャが見つけたのは、モニカさんが昔教えてくれた通路だった。
「これ、中が危ないからダメって言われたよ」
「大丈夫だよ。シュウも入ってみて、ここを潜ったら入れるんだよ!」
サーシャはそのまま潜って中に消えていった。
心配なのと単純に中が気になるので自分も入ってみる。木板と地面の間を潜ると、ジメジメとした暗い空間があった。
モニカさんは梯子が壊れて登れないと言っていた。確かに地面には壊れた梯子の残骸が転がっている、しかしその横に小さな階段があり、上に登れるようになっていた。
「この上だよ。ほら、一緒にあがろ!ちゃんと手を握ってね!」
サーシャは6歳の時をずっと覚えている、なので一緒に階段を登る時はいつも手を差し出してくれる。
いつもは大丈夫と断っていたが、暗く狭い階段でトラウマが戻りかけたのでしっかりと手を握ってのぼる。
階段を上り終えると、明るい空間が見えた。
階段は城壁の中に造られた小さな通路に繋がっていた、壁面の一部が崩れ日の光が差し込んでいる。通路の奥にも道が続いていたが、天井が崩れて進めそうにない。
「マチルダ先生がね、この壁はずっと昔に作られたものって教えてくれたんだ!昔は戦争ばかりで外に人が出れなかったんだけど、今はもう平和になったからたくさん家が作られたんだって!」
「サーシャ、ちゃんと授業きいてたんだね。あんまり聞いてないかと思ってた」
「ちゃんと聞いてるよ!シュウ見て、ここから街の向こうが見えるんだよ!」
壁に開いた穴を覗き込む。
前に行った丘は奥に森が見えたが、孤児院はその反対側にあるため景色が違う。奥に大河が流れてることから農家が多く、小麦畑が広がり風車が見える。
「院長先生にも聞いてみたんだ、西には王領ってところがあるんだって。ここから見えないくらい遠くにあるんだよ!」
「王領には王都があるって本で読んだよ。すごく大きな街で王様が住んでるんだよ、この前の騎士もここから来たんだって」
「どのくらい大きいのかな、ここの二倍も三倍もあるのかな?ミハウおじいさんが言ってた、翼の生えた騎士さんもいるのかな!」
その後も話は弾んで、気づいたら昼ご飯の時間が近づいていた。城壁を降りて孤児院へと戻り、モニカさんが作った脂っこいご飯を食べた後、図書室へと戻り再び本を読む。
魔術の練習が始まって数ヶ月、基本的な無属性魔術の練習と教本を読んでの勉強を続けていた。
魔力の使い方の練習ということで、しばらく魔力弾の射出しかやらせてもらえなかったが、つい最近初めて本当の魔術の練習が始まった。
魔力を光に転換し周囲を照らす魔法『ライト』、ただ光源を生み出して明るくなるだけの魔術である。
最初は内容を聞いて少し落胆したが、初めて自分の手で構築した魔術が周囲を照らすのを見て興奮した。
サーシャに見せに行こうとすると、モニカさんに首根っこを掴まれて止められた。こっそり魔法の練習をしているのは秘密にしなければいけないらしい。
教本を使った勉強として、最近は魔術の詠唱についても習った。
詠唱は二種類に分かれる、記憶した魔術を即座に出すためのものと、魔力操作を強めるためのものだ。
前者は一般的に使われるもので、十分に理解した魔術を口に出すだけで使える。一方で後者はあまり一般的でなく、特別な言語の呪文を唱えることで、より大きな魔術を引き起こすことができる。無詠唱でも魔術は使えるが、脳や精神に負担をかけたり時間がかかったりする。
ライトをたくさん練習したおかげで、俺はどこでも唱えれば光源を生み出すことができるようになった。この後はまた練習を重ね、いくつか生活に便利な魔術を教えてくれるらしい。
いままで図書室を使う子供は俺とボルゴ以外あまりいなかったが、最近よくルイザが来るようになった。
ルイザは裁縫にハマったらしく、裁縫の本を読みに図書室へ来るようになった。
三人が図書室にいるのを見て、サーシャもたまに姿を見せるようになった。あまり本に興味がないサーシャは騎士の物語をよく読んでいる。
図書室で四人が揃って本を読んでいるのを見た院長先生は、嬉しそうに笑った。
「本を読むことは良いことです、サーシャも本を読むようになるなんてねぇ」
ニコニコしている院長先生に、少し気になったことを聞いてみる。
「院長先生、ここって昔は戦争があったの?」
「おや、何かで聞いたのかな?…今はもう戦争が終わって随分経つけど、あの頃はたくさんの人が住む場所を失ってたんだよ。この街はね、元々は小さな砦だったんだけど、戦争が終わった後に人が集まって街になったんだよ」
「じゃあ、今は平和になったの?」
「あの頃と比べるとだいぶ平和になったよ。でもね、いまも街から離れたところではモンスターが暴れてる、冒険者が倒して周るけど、それでもまだたくさんいるんだよ」
院長先生は穏やかに、悲しそうにそう言った。
四人の顔を見てから再び話し出す。
「みんなも16歳になったら、ここを出て自分の道を探さなきゃいけません。どんな道があるのか、どうやってその道に進めばいいのかは、先生たちもわかりません。だからそれまでに、しっかりと自分の道を探すんだよ」




