6話 "初めての魔術"
日差しが心地よい春の午前、俺はモニカさんと一緒に孤児院の裏庭にいた。
モニカさんは裏庭に行くと、そのまま畑用具の入った小屋の裏手に行き、小さい柵を乗り越えて行った。
「モニカお姉さん!?そっちって別の人の敷地じゃ...」
「こっちはミハウさんのお庭ですよぉ、魔術の練習に使うって言ったら許可してくれました~」
許可されたならいいのか...
そう思って柵をよじ登り向こう側へ行ってみる。一切手入れされていない庭木の間を通り抜けると、奥に雑草が好き勝手に生えた庭があった。
モニカさんは庭の真ん中まで行くとこちらを振り返り、咳払いをして話を始めた。
「ではまず、魔力の認知から始めましょう。私の手を握ってください」
差し出された手には半透明な水晶に似た石がある。
孤児院でもよく使われる魔力を含んだ石、魔石だ。ランタンなどに入った魔石と違い、薄青色の半透明で形も不均一だ。
とりあえず、言われたとおりにモニカさんの小さな手を握ってみる。
よくわからないまま手を握った俺の顔を見たモニカさんは、急ににやりと笑った。
握った手のひらの中で爆発が起きた。
実際には何も起きていない。だが確かに爆風のような衝撃波が手のひらの中で起きたのを感じた、衝撃波はそのまま手をすり抜け、握った手には一切傷はない。
わけがわからないと混乱している俺を笑いながら、モニカさんは説明をしてくれた。
「魔石の中に貯めた魔力を一気に放出したんですよ、強い魔力じゃないので怪我はしないですけど、高密度の魔力が一気に放出されるととんでもないことになるんですよ~」
「先に教えてくださいよ!」
「ちゃんと魔力を感じれたでしょ?じゃあ利き手を前に出して、魔力を自分で練ってみましょう~」
言われたとおりに手を前に掲げ、後ろに回ったモニカさんがその手を握る。
「心臓から魔力を送り出すイメージで、そのまま手に届けて手のひらにひねり出すみたいに。さっき手を通り抜けた魔力の感触を思い出してねぇ」
言われたイメージを頭の中で繰り返し、強く念じる。
しばらく繰り返すと、腕の中を何かが通る感触がした。ソレはそのままもぞもぞと腕の中を進むと、手のひらにぶつかった、そのままじわじわと外にあふれ出て目に見えない何かが蓄積するのを感じる。
蓄積したソレは徐々に空間を薄青色に染め、不定形な形でうごめく塊が生まれた。塊はうごめき続け、徐々に広がり拡大している。
「まだソレを動かさないで、ひねり出すのはもうやめてそのままそれを圧縮するようにイメージして。その塊を空気で補強するように、目に見えない手を伸ばしてつかんだのをくっつけちゃうみたいな感じでねぇ」
「どう、やったら、動かさないように、できます?」
「ソレはまだ自分の手とつながったままだよ、離れてるなんて考えないでねぇ。重要なのはイメージだよぉ、力んで全力でつかもうとしないで、余裕でつかんでいられるようなイメージね」
ひたすらに力みながら念じていた。指示の通りに力を抜いて、自分に従順に従っていると考えてみた。広がりながら薄まっていたソレが徐々に収縮し、均一な形になっていく。十分に圧縮された後、少しずつ大きくなったソレはこぶし大にまで成長した。
「うんうん、十分だね。じゃあそれをあそこにある木にぶつけてみましょ~、発射されるイメージで好きに考えてね。前に発射するんだよぉ」
発射するイメージ、発射、撃つ。
とっさに思い浮かんだのは矢だった。細長い棒状にとがった先端、鎧を貫くような矢。
イメージに従って塊が変形する。
木に狙いを定め、手に込めた力を抜く。
30cmほどの小さな矢へと変わった塊は、音もたてずに放たれ、薄青色の軌跡を描きながら一直線に飛来、そのまま木にぶつかり霧散した。木には直径数cmの穴が生まれていた。
「かなり上手ですねぇ、魔力の捻出も圧縮もできたし、変形と射出も成功!飛び散るイメージをされて爆発したらどうしよ~って思ったけど、ちゃんと発射できましたね!」
「もし、飛び散る風に考えてたらどうなってたんですか?」
「腕が吹っ飛んでたでしょうねぇ、いざとなったら一瞬で制御を奪えるように手を握ってたので、少しはマシになるかもですけど」
少しイメージを間違うだけで腕が吹き飛ぶ。
そんなものを操ってたと考えて、今更足が震えてしまった。
そんな俺を見て楽しそうに笑いながら注釈してくれた。
「そういう間違いは初めて魔術を練る時に起こりがちなものなので、二回目以降はあまり起きないですよ~。私が一人で魔術を使おうとしないで!って言ってたのはこういうことなんですよぉ。じゃあシュウくん、いまやった工程をちゃんと理解できます?」
「...魔力を体内から捻出して、それを圧縮しながら自然の魔力を誘導。収縮されたのを変形して射出、ですか?」
「かんぺき!今やったのが無属性攻撃魔術の基礎、変形の段階で転換を同時に行えば属性攻撃魔術になりますよぉ。ちゃんと理解してるってことは魔術概論と魔術理論基礎をちゃんと読んだんですね、初級魔術構築教本は読めてます?」
「まだ理論基礎を読み終えたばっかりで...」
「なら教本を読みましょう!ほら、図書室に行きますよぉ!」
走り出したモニカさんの背中を追って孤児院へ戻る。
その日の午後は二人で教本を読んで勉強をした。




