5話 "魔術適正調査"
8歳の春、俺はサーシャたちと一緒にスクライラス城の広間にいた。
クラヴィスア王国では、いくつかの都市で子供の魔術適正の調査を実施している。
スクライラス市もその対象都市の一つに指定されおり、城の広間には都市に住むすべての8歳児が集まっていた。
ボルゴとルイザは初めて入る城に落ち着かない様子だ。
スクライラス城は城というより邸宅に近く、城壁で囲まれた丘陵の中心に建てられている。
テレビなどでしか見ることのない中世ヨーロッパ風の邸宅を、実際に入ることができる感動と驚きで緊張してしまう。
一方でサーシャは広間で待機している騎士に夢中で、緊張など一切なく今にも飛びつきそうな勢いだった。
広間にいる騎士は外の兵士と違い王領から派遣された騎士らしく、装備も動きも明らかに格が違う。
サーシャ以外にも何人かの子供が夢中で見ているが、置物のように一切動じない。
しばらく待っていると自分の名前が呼ばれた。
案内に従って奥へ進むと書斎のような場所についた。中にはローブを纏った3人の人がいる、真ん中の老人は水晶玉の前に座り、両脇の男は杖と本を持っている。
モニカさんがこの調査は王立魔術研究院が行ってるものと言っていたのを思い出した、広間の騎士と同じように王領から派遣された魔術師なのだろうか。
そんなことを考えていると調査が始まった。
「名と生まれを」
「シュウです、スクライラス孤児院に拾われました」
「名簿と一致しているな、では水晶に触れなさい」
ドキドキしながら手を伸ばす。
震えた手が水晶玉に触れると、水晶の中に変化が生まれた。透明だった水晶玉に薄水色が咲き、螺旋状を描いて回転している。
「この回転の向きを反対にしてみよ、念じるだけでいい」
言われたとおりに念じてみる、数秒遅れて回転が緩やかになり、だんだんと回転の向きが変わっていった。
しばらく水晶玉を言われたとおりにいじって調査は終わり、魔術師たちは記録を終えた後に結果を告げた。
「魔力の質は平均より上、体内魔力は平均並みで属性転換の適正もこれといって無く、操作精度も並み。総合的に見て平均的といったところだな」
「...僕は魔法が、使えるんですか?」
「完全に使えないものなどごくわずか、ほとんどの者が魔法を使える。君は魔力の質が平均より高い、もし魔法を洗練したいのならば、努力次第で高みを目指せるだろう」
「わかりました、ありがとうございます!」
シュウとして生まれて8年目、この世界で魔法が使えることが分かった。
今までで一番うれしかった。憧れだった魔法が自分にも扱える、テンションが上がりすぎて廊下で転びかけてしまった。
広間に戻戻る途中、見覚えのある人影が廊下にあった。
若い銀髪の女性、モニカさんだ。俺のことを待っていたらしく、こちらに気づくと手招きをしてきた。
「調査が終わったみたいですねぇ、なんて言われました?」
「えっと、魔力の質が平均より上でそれ以外は平均並みって言われました」
「おぉ、ならいいほうですね。操作精度はセンスがあれば上がりますし、他のは操作精度があればなんとかなるもんですよ。質が高いなら十分いいほうです」
十分いいほうらしい。
魔力の質は魔術で起こせる影響に直結し、鍛錬などで上がることがない生まれ持った才能になる。
体内魔力も成長することがないが、操作精度が高ければどうにかなるものである。
つまり、魔術を扱ううえで十分な才能がそろっていることになる。
そのあとは雑談しながら広間に戻り、モニカさんは院長先生と少し話をして孤児院へ帰っていった。
他の三人も調査が終わった。ボルゴは全部平均で風の属性適正、ルイザは操作精度が僅かに高い、そしてサーシャは体内魔力が平均より上という結果だった。
全員の調査が終わったので帰宅しようとしたとき、サーシャがいつの間にか広間の騎士に話しかけに行っていた。
活発な少女の視線に負けたのか、しぶしぶ握手に応じている。騎士と握手することができたサーシャは、帰り道を鼻歌交じりのスキップで帰った。
孤児院に帰り、さっそく魔法を教えてもらおうと、二階の図書室にいるであろうモニカさんのところへ向かった。
図書室のドアの前まで来たとき、中から話し声が聞こえた。
「あなたが魔術を教えるというのですか?」
「シュウくんは魔術に興味があるみたいで、なら教えて上げたいなぁと思って」
「修道女が魔術を教えるとなると、町の教会はいい目をしませんよ。また遠くに飛ばされるかもしれません」
「もとからあまりいい目で見られてないので...、飛ばされるってなったら修道服脱ぎ捨ててここに居座りますよぉ」
「なぜあなたは、そこまでして魔術を教えようとするのですか?」
「マチルダ先生も普段から言ってるじゃないですか、外で生き抜く知識と力を身につけなきゃいけないって」
「私も私ができることを教えたいんですよ」




