67話 "援軍-後"
王領軍の精鋭、というのは伊達ではない。
フサリアと呼ばれる彼らは武術の達人であり、優れた魔術師でもある。
軍人貴族の子から選ばれ、幼少期から乗馬を嗜み、武と魔を学ぶ。
百人の少年から選抜され、十人のフサリアが生まれる。
彼らこそが、クラヴィスア王国が有する切り札である。
それが現れることは、王国がボロヴィツを見捨てないことを強く表している。
「動ける奴は城壁に、動けないやつも城壁に来い!剣でも石でもいい、モンスターを殲滅するぞ!」
絶望的な空気はもはやなく、勇ましい声が都市を包み込んでいる。
町のどこにいても、耳に入るほどにまで。
「...この声は?」
「ついに援軍が来たんだよ。修道士さん、あんたも休んで見に行くといい」
「いえ、まだどうなるか分かりません。私は疲れていませんので、皆さんが先にお休みください」
それだけ言うと、独特な修道服に身を包んだ男は再び祈りを唱える。
大地はそれに応え、城璧の亀裂をより強く繋ぎ治していく。
異教の祈祷術を物珍しそうに見ていた兵士たちだが、戦いの疲れを回復させるために市内へと向かい、東門には修道士一人が残された。
同時刻、南東。
三人の上級聖騎士が祈りと剣を振るい、アラクネを追い詰める。
剣に込められた聖なる魔力が外殻を焼き、放たれる闇魔術を中和していく。
凶悪な魔物と言えど、聖騎士の連携には手も足も出ない。
そしてついに、その首に剣が突き刺さった。
藻掻くアラクネの腹体が胴から切り離され、穢れた血が流れ出る。
聖なる魔力がその体を焼き切ったのを確認した後、聖騎士は剣を納める。
「ひとまず、攻撃は止みましたね」
「負傷者の撤退も完了しました。...町の方からの声を聞くに、騎兵隊も到着したようですね」
「聖騎士隊だけではその場しのぎにしかならないのではと懸念していたが、彼らが居れば明日にでも城壁の周辺は追いはらえるだろう」
九日目も日が傾き、あたりが暗くなっていく。
「フサリアも夜になれば活動できない、聖騎士隊の七名では夜の立哨をするのは難しい。市兵に負担をかけるしかないか」
「ルヴニツァに伝令が届いていれば、城主が歩兵団を派兵してくれるでしょうが...」
「最速で編成されたとしても、歩兵では到着まではあと数日がかかります。やはり、攻勢にて大部分を撃滅し、レイドを終わらせるしかないでしょう」
「衛兵顧問殿も恐らく同じ考えでしょうね。今日だけでどれほど減らせたのか、市内に戻ったら聞いてみましょう」
「援軍、誠に感謝いたします」
ボロヴィツ城の会議室。
城主はふくよかな体を豪華な椅子から起こし、集まった面々に向けて頭を下げる。
「訓練で近くに駐留していたため、レイドの報を聞いて急行した次第です。正式な王領からの派兵ではないため、我々にできることは限られています」
フサリアの王領騎士を代表した男は年老いた者だった。
軍馬に乗って槍を振るっていたフサリア達と違って、会議に出席したこの騎士は鎧を着ておらず、年齢もだいぶ差がある。
「衛兵顧問、ドミニクと申します。この時期ですと、王領外苑での訓練でしたか」
「貴方がドミニク卿でしたか、噂は聞いております。年明けの訓練が終わり帰還しようとしたところ、王領へ向かう伝令を見つけたので、話を聞いたのです。しかし、司教区から聖騎士が派遣されていたとは思いませんでした」
「我々も、正式な派兵ではないのです」
話を振られた聖騎士は苦笑しながら話す。
「聖女様が巡礼のために王国に入ると聞き、護衛のためにシュワコヴォに向かっていた所だったのですが...」
「護衛のために聖騎士が七人も?それほど動くとは、聞いたことがないですね」
「この冬はモンスターが少ない代わりに、匪賊が活発でしたからね。巡礼の道は匪賊の活動地域に加えて、ブルトヴァルト沿いです。聖女様に何かあっては、我々としても一大事です」
「なるほど。護衛のために移動していたところ、レイドの報を聞いて都市へ向かったと」
「その通りです」
偶然。
偶然が重なり、大きな幸運となった。
それでも、戦局は完全な優勢と言い難い。
「今日だけで二百に近いモンスターが打ち倒されたものの、依然として数百に上る数が市を取り囲んでいる。市民兵も衛兵も士気を取り戻したが、負傷者は三分の二を占めている」
「となると、籠城戦は厳しいですね」
「うむ。そこで、市外での野戦によって大部分を撃滅するのが得策と考える。王領騎士殿、市内にある物資をすべて使ったとして、どれほど戦力を補充できるか?」
「今もサーベルは健在であり、モンスター程度なら十分に戦えます。だが、騎兵槍が無ければ攻撃能力が大きく欠けてしまう」
「群れになったところを隊列を組んで踏みつぶすというのは難しいか...」
「...古い騎兵槍なら、地下の倉庫にあったはずだが、使えない物か?」
城主が声を上げる。
「先々代の時代のものだが、使えるのならぜひ使っていただきたい」
「戦乱時代の騎兵槍ですか。基本の構造は変わっていません、それがあれば十分に蹴散らすことができるでしょう。しかし、一族の宝物では?」
「武器は使われてこそ。都市が守られるのなら本望でしょう」
王領騎士は驚いた。
太った城主の見た目から、先々代の威光を笠に着る男だと思っていた。
しかし、都市を守るために身銭を切る姿からその様子は感じない。
「わかりました。それでは明日、我々の騎兵を以てモンスターを撃滅して見せましょう」




