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転生者の異世界旅行記  作者: 豆板醤
第3章 冬の旅と戦
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56話 "会議-前"

「ただいまより、ボロヴィツに迫るレイドへの防衛会議を開きます」


ボロヴィツ城の一室、城主の執事が宣言する。

豪華な椅子に腰かける太った城主は、しかめっ面で窓の外を睨んでいる。

長テーブルを囲む様々な人々は、執事の宣言を聞いて表情を引き締めた。


「詳しい状況について、冒険者ギルドボロヴィツ支部長、お願いします」


説明を任された支部長が立ち上がる。

全員の視線が集まる中、ゆっくりと説明を始めた。


「ボロヴィツ市から南西方向にて、モンスターの大群と高位個体の接近を確認、レイドが発生しました。付近の監視櫓は壊滅しており、これらの情報は連絡依頼を受けた冒険者によって持ち帰られました。」

「その冒険者は?直接報告はできないのか?」

「重傷を負いながら走り続け、見たすべてを伝えた後、息を引き取りました」


監視櫓から街までは数十kmはある。

質問者はその冒険者に敬意を表し、次の質問を投げた。


「次に、最も肝心なことを。つまり、その大群の規模は?」

「四百から五百ほど、中核と思われるモンスターは不明です」


規模的には中規模、だが小さな街が抗うにはあまりに多い。

一人が手を上げ、気になる点を口に出す。


「確認された高位個体が中核なのでは?」

「報告によると、その個体は大群から孤立しパーティーを襲撃したとのことです。一般的に、レイドの中核となるモンスターは集団から孤立しません。推測にはなりますが、恐らく別に元凶が居ます」

「...それは、レイドの中核が、高位個体を従えるほどの力ということですか?」

「可能性があります」


部屋が沈黙に落ちる。

確認された高位個体はアラクネ、Aランクの蜘蛛の体を持つ女体の怪物。

Aランクの中では下の中ほどだが、それでも強力なのには違いない。

それを従えるとなれば、ワイバーンや巨人ほどの実力者が居る可能性が高い。



執事は部屋を見渡し、次の議題を始める。


「...状況について、皆様にご理解いただけたと思います。我々の市としての意向は無論、防衛になります」

「質問です。確認にはなりますが、避難は不可能という認識でよろしいですか?」

「レイドの到着はおよそ半日後、それまでの間に二千の市民に家財の持ち運びを禁じ、身一つで冬季の平野を渡らせることになります」

「わかりました、遮ってしまい申し訳ありません」


商人が深々と礼をし、再び席に着く。


「続けます。防衛をするにあたり、皆様の協力が必須となります。そのため、皆様が供出することのできる戦力の提示をお願いいたします」


テーブルに着く全員に頭を下げ、兵士に目配せする。

合図を受け取った兵士が立ちあがった。


「ボロヴィツ衛兵団隊長のコルマです。衛兵団は五十名を有し、内訳は弩兵十五名とハルバード兵三十五名です。士気も高く、勇猛果敢な兵ばかりですが、ほとんどが戦闘経験がありません」

「衛兵顧問のドミニクである。市民徴兵で二百ほどの人員は確保できるが、壁内の警戒くらいにしか役立たん。儂も前線にて戦いたいが、この老体じゃ足手まといになる。よって、防衛指揮を行わせてもらう」


傷だらけの老人が威厳を持った声で話す。

隣に居るコルマは市の戦力が頼りないことを心の中で嘆き、腰を下ろした。


「では次に、冒険者ギルドからお願いします」

「現在、街に滞在している冒険者は十五名。幸い、Cランク五名にBランク十名と、戦力の質は十分に高いです」

「パーティーごとの人員規模は?」

「四人が一組、三人が三組、二人が一組です。配置に関しては、こちらから適切な者を選ばせていただきます」


パーティーを崩せば普段のパフォーマンスは発揮できない。

冒険者のことは冒険者に任せるのが最良になる。


冒険者ギルドの発言が終わると、執事は頼りになる最後の戦力に目を向ける。


「次に教会の方、お願いいたします」

「はい。司教の代理になりますが、私から報告させていただきます」


祝福を受けたサーコートに身を包んだ男性が立ち上がる。

温和な表情の中年の男、少し頼りなさを感じる。


「教会には六名のシスターが在籍していますが、彼女らは自分のメイスを振るったことすらない、か弱い乙女たちです。不安な心境の市民たちに寄り添い、傷ついた兵士の治療が精一杯です」

「となると、教会からの戦力は...」

「私一人です。下級の聖騎士の身ではありますが、全力をもって神の御意思と市民の期待に応えさせていただきます」

「十分に心強いです、ありがとうございます」


兵士五十名に歴戦の冒険者十五名と、聖騎士一名。

ここまでが頼りになる戦力だ。



そしてここからが、頼りにならない戦力だ。


「市に滞在する商人を代表し、私が報告させていただきます」


商人達の中から、一人の男が立ち上がった。

温和でふくよかな外見。ただ、その目は帳簿とそろばんに命を注ぐ男の目だ。


「残念ながら、戦力と呼べるものは護衛剣士八名のみです。これらの戦力はもちろん、無償で提供いたします」


大きな商隊でなければ、護衛の数はそのくらいだ。

モンスターが少ない冬。有象無象を大量に雇うより、腕利きを数人雇う方が安上がりで済む。


無償提供なのは、ここで出し渋れば死ぬのが自分たちだからだろう。

ただ、その分の損はどこかで取り返しに来る。


「最後に市から報告を。すでに救援の要請は領主様やルヴニツァ向けて放っております。しかし、救援が行われたとしても到着は最短でも二週間後。その間、我々は耐え続けなければなりません」


執事が言い放った。



戦力はテーブルに並べられた。

会議は続く。

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