48話 "賊長"
「マジックスピア」
音を立てて空気を裂く魔力の槍が賊を貫く。
階段から飛び降り、もう一人の賊目掛けて鉈を投げつける。
魔力を再び練り直し、友人の背に立つ。
「シュウ!」
「これ今どうなってる?」
「その部屋に他の人、賊はあと五人くらい!」
サーシャが一人を斬り捨て、残りは推定四人。
この階の賊が一通り片付いたので、サーシャに近寄って安全を確認する。
「サーシャ!怪我はない?」
「うん、全然元気だよ!」
クルっと一回転するサーシャ。
特に傷もなく、いつも通り元気そうだ。
無理しているような雰囲気もなく、本当に無事なようだ。
「こっちの部屋に拉致された人がいるけど、どうやって脱出するか困ってて」
「上の階に外に出れる通路があるよ。安全を確保したら、みんなを連れて行こう」
「おっけー!」
上の階からどたどたと足音が聞こえる。
人が段々と集まってきているようだ。
鉈を構え、魔力を集中させる。
サーシャの長剣は狭い通路内では扱いずらい。
なので俺が先頭に立って二階を上がる。
階段から二階に向けて魔石を放り投げる。
すぐに閃光が弾け、光を直視した人達の狼狽える声が聞こえた。
飛び出して近くの賊にファイアボルトを撃ち込み、障壁を張って状況を確かめる。
賊は四人、一人倒したので残り三人だ。
「サーシャ!」
「でるよーっ!」
姿勢を低くして飛び出したサーシャ。
目が見えず混乱する賊の足を斬りつけ、崩れ落ちたところにとどめを刺す。
サーシャの頭上を通るように魔術を放ち、相手の視力が戻る前に無力化する。
僅か一瞬で四人を倒し、制圧が終わった。
「これで全員...かな?」
「全部で十人くらい、って聞いたよ。でも十人以上いるよね...」
「多分、十二人くらいかな、全部で」
今のところ、あの細身の男以外に魔術を使うような賊は居ない。
あいつがここのリーダーだったんだろうか?
「じゃあ下の階からみんなを連れて来よ...ッ!危ない!」
サーシャが剣を振るった。
金属がぶつかり合う音が響き、投げられた短剣が床に落ちる。
「帰って来てみりゃ、見張りもメイジも、みーんなやられてやがる」
俺が通ってきた方の通路から、誰かが来る。
髭面の中年の男、手斧と短剣を持って、ゆっくりと現れた。
「ガキ二人が全部やったのかよ?とんだ厄日だな」
「おっさんも賊?」
「ここのボスだよ。まあ手下はもう死んだみたいだがな」
可笑しくてたまらないといった様子で笑う髭面の男。
ただ、目は一切笑っていない。
賊のボスが弱いなんてことは考えづらい。
動きから目を離さず、鉈と魔術を構える。
男の姿が消えた。
視界の左端に、一瞬の残像が見えた。
「バインド、アイススプリンター、プロテクト!」
「...チッ!」
拘束のために放った縄を手斧で切り裂き、無数の鋭利な氷の破片をすべて避ける。僅か一瞬で、障壁の前まで迫られた。
凄まじく速い。
が、それ以上に速い剣撃を受けて吹き飛んだ。
「痛ってえな...。この金髪のガキ、馬鹿力すぎるだろ」
「シュウ、大丈夫?!」
「無事!」
男は手斧と短剣でサーシャの剣を防いだ。
トロールをそのまま両断するような一撃を防ぐ、かなり強い。
どうにかして動きを拘束したい。
「マジックミサイル」
「はぁ...、やっぱ魔術師は面倒だなっ!」
左右から挟むように迫る光弾を投擲した短剣で炸裂させ、正面から突進するサーシャを受け流す。
「シュウ、今!」
「マジックスピア!」
サーシャが横に跳ぶのと同時に槍を放つ。
クラス1の魔術だが、貫通力は手持ちの魔術の中では一番高い。
高速の一撃、避けることはできないだろう。
男が自分に向かって進む魔術を見据え、手を向ける。
盾で弾くように、手の甲で魔術を受けた。
そして、槍が弾かれた。
完全に予想していなかった。
一瞬の動揺、その隙に接近されていた。
反射的に展開した障壁。
しかし、男の拳はそれを貫通し、俺の腹に直撃した。
「...ッァ」
「シュウ!」
吹っ飛んで壁に叩きつけられる。
息がすべて吐き出され、声にならない呻きが出る。
止めを刺そうとする男の追撃はサーシャによって止められた。
俺を守るように前に立つサーシャ、男はいつの間にか手斧を捨てていた。
男の手、薄っすら青みを帯びた銀の手甲がある。
ミスリルだ。
魔力を帯びた銀、あれで魔術を中和された。
「対応力のある魔術師のガキに、バケモンみてえな剣使いのガキ...。本当にどこから来たんだ?」
こちらと距離を取り、観察する男。
普段は両手で剣を振るサーシャが、いつの間にか左手を下げている。
一撃受けたらしく、少し顔をしかめている。
ゆっくりと下がってくるサーシャ。
俺にだけ聞こえるように小さな声でつぶやく。
「多分、このままだとまずいかも...」
サーシャは左腕を負傷、俺は腹にかなり重い一撃をもらって動けそうにない。
対して男は無傷、サーシャの剣を防いで腕が痺れた程度だろう。
状況はこちらが完全に不利。
姿勢を低くし、攻撃態勢に入る男。
サーシャがそれを受けるべく剣を構える。
両者が静かに睨みあい、空気がひりつく。
その静寂を、ノックの音が打ち破った。




