42話 "拉致"
「なんか、今日はあまり天気が良くないね」
天気は曇り、時々パラパラと雨粒が降る。
本格的に降り始めたら、視界も悪くなって魔術も弓も当たらない。今日は依頼を受けないで、明日やる依頼を探しに行こう。
服を着込んで宿を出る。
都市の住民は冬越しの準備が済んだらしく、薪や食糧を抱えて走る姿はもう見ない。
「ほんと、最近寒いよね〜」
「もう11月だからね。再来週くらいにはもう12月だよ」
「冬の旅服、ちゃんとあったかいの買わないとね」
最近はリザードフォークの討伐や、ハーピーの巣作りを妨害の依頼をしている。
ギルド曰く、今年の冬は去年よりはモンスターが少し少なくて落ち着いている、らしい。
「モンスターが多い年は、都市が完全に囲まれることもある。って、本当に恐ろしいね」
「だから城壁の外に町が広がらないんだね」
空を見上げると、城壁と城壁を繋ぐ空中廊下が見える。
兵士が行き交う通路と胸壁、弩砲や長弓兵が外を睨んで警備をしている。
「あれも全部対モンスターなのかな」
「だね。シュワコヴォも同じようなのがあったけど、向こうは投石器とかもっと大きかったな」
「こっちは騎士も見ないし、都市によって違うんだね」
雑談しているうちに、ギルドの目の前についた。
依頼を探したりするのには割と時間がかかる。
サーシャに金貨2枚と銀貨3枚を手渡す。
「依頼探している間に、何か必要そうなものがあったら買っておいて」
「おっけー、任せて!」
元気な返事を聞きながらギルドに入る。
依頼ボードには新しい依頼がいくつか増えていた。
オーガの討伐やモンスターの動向調査など。
討伐依頼はこれまで受けてきたものだが、動向調査の依頼は初めて見た。
今季のモンスターの動きがいつもより少ないため、その原因の調査が依頼として出されたようだ。
それ以外にも何種類かの依頼が張り出されている。
どれを受けようかな。
シュウがギルドに依頼を探しに行ってる間、暇なので近くにある露店が開いてるか覗きに行ってみる。
あそこの肉串、美味しかったからまた食べようかなあ。
硬貨を手に通りを歩く。
今日は少し小雨、通りもあまり人がいない。
雨で露店が開いてなかったら、足りない道具でも買いに行こうかな。
何かが視界に入った。
その方を向くと、通りの脇の路地で誰が揉み合ってるのが見えた。
少女が二人の男に掴まれ、連れ去られようとしている。
「ちょっと、何してるの!」
路地に飛び込んで男と少女の間に入る。
小太りの男と細身の男、それと旅人らしい少女。
少女が助けを求めるように掠れた声で言う。
「助けてください!この人達、急に路地に引き摺り込んできて...」
「うるせぇ!クソ、邪魔しやがって...」
小太りの男が急に入ってきた私を睨む。
目、男の目が違う。明らかに普通の人じゃない、ソッチの人の目だ。
反射的に腰の剣に手を当ててしまう。
男もローブの中から何かを取り出そうとする。
「ちょっと待てちょっと待て!誤解だよ、嬢さん話を聞いてくれ」
細身の男が私たちの間に入ってきた。
小太りの方を後ろに押し除けると、私の方を向いた。
「別にこの子に乱暴しようとしたわけじゃない、落ち着いてくれ」
「本当に言ってるの?」
男が私の肩に手を置き、落ち着くように言う。
「あぁ、とりあえず話を聞いてくれ...スリープ」
肩に置かれた手がうなじに滑り込み、何かが行われた。
急激な眠気。視界がぼやけ、意識が薄れてきた。
毒?いや、多分魔術だ。
「阿呆。最初から喧嘩腰はやめろ、これが一番早い」
「クソッ...。おい、ガキが逃げるぞ!」
「あぁ。この金髪を担いどけ、早く行くぞ」
隙を見て逃げ出した少女が、何かに拘束されて転ぶ。
叫ぼうとしたが、口を覆われて声を封じられた。
慣れた手つきで麻袋を頭に被せられ、細身の男が担ぐ。
こいつら、拉致の匪賊共だ。
このままじゃ攫われる。シュウはまだギルドにいる、助けを求めても無理だ。
せめて何か、何か印を残さなきゃ。
薄れる意識の中、力を振り絞って手に込める。
「ほら、さっさと運ぶぞ」
担がれた私の体がどこかへ運ばれていく。
眠気に抵抗することができず、私の瞼は閉じられた。




