40話 "不審物投擲の容疑"
「ようやく一息つけるよ...」
「長旅、かなり疲れたね」
シュワコヴォ市から約七日間、ようやくルヴニツァ市に着いた。
ルヴニツァ市は今まで見てきた都市と違って、完全に城壁に囲まれている。
城壁外に建物はほとんどなく、四つの城壁に寄って囲まれた広い都市だった。
城門でも検問が行われており、関所より詳しく質問をされた。
また荷物を全部下ろして検査を受けたせいで、疲労がかなり溜まっている。
「シュウ、明日は何やる?」
「どうせ分かってるでしょ?」
「...一日くらい休まない?」
七日間の旅に関所での通行税に宿代...
ここ最近は出費に出費が重なり、貯金がほとんどなくなってしまった。
そうなればやることは一つ。
「依頼、受けよう!」
「なんで初日から...、少しは休もうよ」
「今日で宿代を稼げれば明日は休めるから、今日は頑張ろう」
ルヴニツァ市から少し離れた沼地、モンスター討伐の依頼をしに来ていた。
沼の岸に立って目的のモンスターを探すと、真ん中の方に発見することができた。
「あっ、居たよ!リザードフォーク!」
「うーん、思ったより奥にいるな...。どうやって倒そうかな」
魔術もクロスボウも射程外、50mより先は完全に手が届かない範囲だ。
「石でも投げてみる?」
「それなら届くかも、ちょっとこっちにおびき寄せてみて」
そこらへんに落ちていた手ごろな石をサーシャに手渡し、思い切り投げてもらう。
ちょうど群れの中の不運なリザードフォークに命中、キレたトカゲたちがこちらに向かって突っ込んできた。
「一旦下がって、陸におびき出さないと魔核が剥げない」
「了解!」
沼地を泳ぐように走るリザードフォーク、水際での戦いは向こうが有利だ。
岸には上がろうとせず、沼の中でうろうろして様子を見ている。
「上がってこないね...、どうする?」
「ちょっかいかければ寄ってくるかな、ファイアボルト!」
火の短矢がトカゲの頭を掠めた。
何度か繰り返していると、ついに何体かが岸に上がってきた。
「来た!バインド、アイスアロー!」
「私、左をやる!」
トカゲの視線はちょっかいをかけてきた俺に向いている。
サーシャが注意の向いていない側面から斬りかかり、何体かを両断した。
オークやトロールと違って、リザードフォークは素早い。
風のように動くサーシャを捉えると、鞭のように尾を振った。
「おぉ?思ったより尻尾が硬い!」
剣で一撃を防いで弾くと、根本から尾を切り落とし、燕返しで振り上げて背中を切り裂いた。
魔術で攻撃しているが、素早い動きで避けて接近される。
棘の生えた尾をプロテクトで防いだ後、エンチャントした大鉈で頭を叩き割る。
やはり近接武器を買っておいて良かった。
戦闘が終わった後、リザードフォークの死体から魔核を剥ぎ取る。
沼地のリザードフォークを倒して4万グロス、Cランクの討伐依頼は危険度が上がる代わりに報酬も高い。明日と明後日を休みにしても金は足りるだろう。
「シュウ、早くしないと城門しまっちゃうんじゃない?」
「あっ確かに、急いで帰らなきゃ」
ルヴニツァの城門は日没の一時間ほど前には閉まる。
今は昼過ぎ、片道一時間半ほどかかるので、ちょっと急がないと間に合わなくなるかもしれない。
少し早足の帰り道。
ルヴニツァの円形の城壁が見えてきた。
閉門前には街に着いたので、依頼達成の報告をするために都市の中を進んでギルドに向かう。
都市は四重の壁で囲われている。
中心は教会や貴族の城が、その外には商人や職人の街が、三つ目の壁の中は住宅街や宿場町、ギルドがある。
そして四つ目の壁の内側、露店や市民の家の奥に、働くことのできない浮浪者や卑しい身分の者たちのスラムのような町が広がっている。
時々道に物乞いが現れるが、巡回の兵士に蹴り飛ばされて路地へと戻っていく。
サーシャが干し肉を一枚上げようとしたが、兵士に止められて諦めた。
軽犯罪者やどうしようもない人々だから施す必要はない、らしい。
「三つ目の城壁と四つ目の城壁の間に堀があるのも隔離なのかな...」
橋の上、肉串を食べながらサーシャがつぶやく。
三つ目と四つ目の壁の間にある幅10mほどの水の入った堀、そこそこの高低差があり、街の地面から4,5mほど下に水面がある。
「もともと三つの城壁だったけど、外に街ができたから拡張したんじゃない?三つ目と四つ目、作られた時期がかなり違いそうだし」
「...あっ、本当だ。貧しい人たちの家も囲ってあげた、ってことなのかな」
「きっと、そうなんじゃないのかな」
限りある城壁の中に働けない人々を住まわせる必要はない。
それでも居場所を追い出されていないのなら、危険な壁の外から守っているということなのかもしれない。
「可哀そうだから助けてあげたいけど、兵士の人たちはそんな必要ないって止めてくるし...」
「盗みとかで捕まった人も多い、って言ってたし、そこまで助けようと思わなくてもいいんじゃない?」
「全員盗人ってわけじゃないし、不幸な人は少しでも報われてほしいよ」
サーシャの言ってることは全然理解し、俺もそう思う。
ただ、実際に不幸な人と悪人を区別して助けるのは難しいだろう。
俺らはただの冒険者、それをする資金も余裕もない。
急にサーシャが黒パンの入った袋を投げた。
夜の空を飛んで堀を越えていき、スラムの方へと消えていった。
「不幸な人に、届いたらいいなあ...」
この後、巡回の夜警に『不審な物をルヴニツァ市民の住む街に向かって投擲した』という容疑で職務質問を受けた。




