39話 "関所と検問"
「関所、見えてきたね」
シュワコヴォ市を発って三日目、ようやく関所の近くに着いた。
平原を流れる小さな川、それに沿うように土塁や木の柵が建てられている。
「なんか思ってたより厳しそうだね」
「通行料を払うだけって聞いてたんだけどな...」
石造りの関門には何人かの兵士が立っている。
検問を受けている商隊はしばらく検査を受けた後で、ようやく通過していった。
本来は通行料を払えばすぐ通れると聞いたのだが、ちょっと様子が違いそうだ。
「そこの二人、武器を下ろしてこっちに来い!」
関門に近づくと、兵士に呼び止められた。
睨むようにこちらを見る兵士、視線は俺の方を向いている気がする。
おとなしく武器を下ろして兵士に渡し、検問を受ける。
「名前と職業、目的を言え」
「シュウ、冒険者です。ルヴニツァに依頼を受けに来ました」
「サーシャ、冒険者です!シュウと同じで、依頼を受けに来ました!」
「証明できるものを出せ」
懐から冒険者カードを取り出して渡す。
身分証としても使える冒険者カード、結構便利かもしれない。
「...よし、確認した。次はこっちに荷物を出せ、中身を検査する」
「全部ですか?」
「持っている荷物全てだ、早くしろ」
言われたとおりに荷物を下ろす。
リュック、矢筒、水袋、魔石ランタンや桶...、荷物がかなり多いので、下ろすだけで一苦労だ。
兵士が下ろした荷物を近くの机に乗せると、一つ一つ中身を調べだした。
厳しい態度の検査。少し緊張していると、優しそうな兵士が話しかけてきた。
「ごめんね。普段はこんなに厳しい検査じゃないんだけど、時期が悪かったね」
「何かあったんですか?」
「近頃、この辺で匪賊が暴れていてね...。都市や街道で人を拉致して、違法奴隷にして売りさばいているんだよ」
クラヴィスア王国に奴隷はあまりいない。
農奴は昔に廃止されたため、今は刑罰の一つとしての犯罪奴隷くらいだ。
拉致した人を奴隷にするのはもちろん違法、売ったりするのは極刑確定の大罪だ。
「男、このクロスボウはどこの物だ?」
「スクライラスの弓具職人に作ってもらいました」
「ふむ...、本当みたいだな、よし。検査が終わった、通行料を出せ」
金貨10枚を手渡す。
一人当たり5万グロス、二人で10万になる。なかなかに出費が痛い。
兵士はしっかり10万あることを確認した後、通行証を手渡してきた。
「時間がかかってすまなかったな。クロスボウを持った冒険者は珍しいから、つい疑ってしまった」
確かに、冒険者ギルドでもクロスボウ持ちは見たことがなかった。
基本的に兵士が持つような武器、そんなのを持った冒険者は確かに少し怪しい。
「それと、ルヴニツァに行くのだろう?」
「はい、途中で野宿して明後日には着くかなと」
「ここから四時間ほど歩けば宿屋がある。あと、匪賊の警戒でルヴニツァの城門が日没より早く閉まる。気を付けないと、城壁の外で野宿することになるからな」
「そうなんですね、ありがとうございます!」
いい情報を聞くことができた、危うく城門の前で野宿するところだった。
兵士にお礼を言った後、すぐそばの井戸で水を汲み、再び歩き出した。
数時間歩いて、兵士が言っていた宿屋にたどり着いた。
検問や匪賊の影響か、普段は活気があふれていそうな宿屋が少し寂れて見える。
「あとどのくらいでルヴニツァに着くの?」
「うーん、三日くらいかな。明日は野宿になるね」
「遠いなぁ...、今まで二日か三日で着いたのに」
重い荷物を背負っての長旅、サーシャも少し疲れているようだ。
宿屋の雰囲気は少しピリピリしていて、周りの話を盗み聞きしていても匪賊や誘拐といった単語が聞こえる。
「都市の方もこんな風にピリついてるのかな、だとしたら嫌だなぁ」
「聞いてる感じ、結構規模が大きいみたいだね。グロズスキ領だけじゃなくて、ボグリャスカの方でも起きてるみたい」
「えっ、じゃあ西の方全体ってコト?」
「うん。大きな組織が賊を雇ってやってるみたい」
あまり情勢が良くないときに来てしまったのかもしれない。
ただ、これだけ大きな事をすればすぐに王領が動いて取り締まりにくる。
きっと、あと少しで収まるだろう。
夜、部屋で少し大きな石を手にいじっている。
前に本で読んだ錬成術、それを試してみたくなったので、どうにか石で何かしらできないか挑戦している。
「シュウ、石ころ触って何してるの?砕きたいならやってあげる?」
「別に砕こうとはしてないよ...。ちょっと遊んでるだけだから、寝てていいよ」
「そうなんだ。じゃあ、おやすみ」
すぐに寝息が聞こえてくる、本当に寝つきがいい。
錬成術、伝説では石を金に変えたり不死の薬を創ったりなどで描かれている。
実際はそこまで派手なものではなく、鉱物から金属を取り出したり、薬剤に回復の効能を付与するなど、産業や薬学の分野に役立つものだ。
しばらくいじっていたが、一切変化は起きない。
いつの間にか石を手にしたまま寝てしまっていた。
翌朝、目が覚めて手に違和感を感じた。
手のひらには、鉄の結晶の生えた石ころがあった。




