38話 "旅の道中"
「もう日が暮れてきたね」
「寝床、探そうか」
平原をひたすら続く街道、空はすでに橙色に染まっている。
シュワコヴォ市を立って半日、大荷物を抱えて六時間ほど歩き、今は夜を過ごすための場所を探している。
「待て!あそこ、ちょうど木が生えてるよ」
「いいね、あそこにしよっか」
街道から少し外れた場所、一本の木が立っている。
雨風を凌ぐにはちょうどいい、そばに荷物を下ろして夜を過ごす準備をする。
地面に支柱を突き刺し、布を被せてテントを建てる。
その近くに木の枝を集めて火をつけ、ランタンを木に吊るしておく。
「キャンプ、かんせーい!」
「だいぶ手慣れてきたね」
「もう5,6回はやってるもん」
武器はいつでも手の届く範囲に、警戒は怠らない。
何度か遠くにモンスターが見えていたので、急に襲ってくることもあり得る。
お腹も空いたので夕飯の準備を始めた。
日が沈んで辺りは真っ暗、ランタンと焚き火だけが煌々と照らしている。
チーズや干し肉を切り分け、木皿に黒パンと一緒に盛り付ける。サーシャが一口サイズに砕いたリンゴも添えておくと、なかなかに立派な夕飯になった。
「チーズ、結構しょっぱいね。干し肉もしょっぱいから喉が渇いちゃう」
「リンゴがすごく甘く感じる...、買ってよかったよ」
「お水飲もーっと...。あっそういえば、水って途中で足りなくなっちゃうだろうし、どっかで汲まなきゃじゃない?」
「途中の宿屋とかで汲めるはずだから、そこで補充かな」
流石に一週間分の水を持ち運ぶのは無理である。
魔法を使えば水は作れるが、喉は潤さないので飲料に適さない。
その代わり、洗い物などにはいくらでも使える。
「お湯、作ってくるね」
「はーい」
桶を片手に木の裏に行く。
水魔術で桶いっぱいに水を溜めた後、手を突っ込んで火魔術を使う。
湯気が上るくらいの温度になったら手を引っこ抜く。
熟練者なら水と火を同時に使ってお湯を生み出せるが、俺には難しいので水を溜めた後に加熱している。
「お湯溜まったよー」
「ありがと!体拭いてくるね~、見ないでよ!」
「見ないよ、焚き火でも見とくから」
俺、16歳。前世足せば34歳。
確かに女の子の体は気になる時期だが、リンゴを指の力だけで簡単に砕くような人の体を覗く気はない。
ビンタされたら頭がパンッと弾けるだろう。
それに、0歳から一緒に過ごしてきたんだから、今更見ようとも思わない。何回かすでに見ている。
ボーっと焚き火を見つめていると、髪をびしょ濡れにしたサーシャが戻ってきた。
頭をタオルで拭きながら焚き火の前に座り、自分の長髪を乾かしている。
淡い金髪が炎に照らされ、純金のような輝きを放つ。
それを横目に、タオルを待って木の裏に行く。
お湯を貯めて体を拭き、頭を洗う。
旅の中でも体を洗えるのは、魔法の素晴らしい点だ。
「うぅ、寒い寒い...」
「もうすぐ冬だもんね。これ以上寒くなったら、体を拭いてる途中に風邪ひいちゃうよ」
焚火に駆け寄って体を温める。
今は十月、秋の真っただ中である。
秋風が駆け抜ける草原は冷える。これからの冬、しっかり準備をせず野宿すれば、凍死してしまうだろう。
「次の都市で冬が終わるまで過ごす予定?」
「うーん...、年越しまで過ごした後に移動しようかなって」
「今向かってるのがルヴニツァだよね?その次の街はどこ?」
「えーっと...、あった。ボロヴィツェってところだね」
地図を取り出して経路をなぞる。
「ルヴニツァとボロヴィツェって近いの?」
「3,4日くらいかな。ボロヴィツェの近くに温泉があるらしいから、行ってみたいなって思って」
「温泉?」
「地面からお湯が沸き出てくる、天然のお風呂だよ」
「なにそれ!入ってみたい!」
季節的に到着は真冬、温泉で温まるのにちょうどいい季節になる。
本で温泉があると読んだ時から、ずっと行ってみたいと思っていた。
ちょうど近い場所にあるのだから、寄れるなら寄ってみよう。
「そろそろ寝よっか」
話しているうちに焚火が衰えてきた。
眠気も出てきたので、火を消して寝る準備をする。
「シュウ、寝てる時に襲われたらどうしたらいいかな?」
サーシャの言葉で思い出した。
モンスターが近くに来ることもあるし、盗賊に狙われることもあるかもしれない。
警戒のために罠を仕掛けておこう。
「サーシャ、ちょっと丈夫な木の枝を何本か探してきて」
「え?うん、わかったよ」
ピョンとジャンプして木の枝を掴み、それを勢いよくへし折った。
渡された枝を鉈でちょうどいい大きさに切り分けて、テントを中心に囲むように地面に突き刺しておく。
「バインド」
魔力の縄を持って、突き刺した枝に架ける。
「その魔法って色んなのに使えるんだね。これで、近くに来たら足を引っかけて転んじゃうってコト?」
「いや、こっからもうひと手間を...。アラーム」
縄に触れて魔術を付与する。
一瞬、赤く縄が光を放った後、再び薄青い半透明に戻った。
「アラーム?その魔法は何?」
「警報の魔法。これで縄に触れると、大きな音で警報が鳴るんだよ」
本当ならさらに隠蔽の魔術で縄を隠したいが、まだ覚えていないので草をうまく使って見えないように隠しておく。
これで周囲に罠を張れたので、安心して寝ることができる。
もぞもぞと狭いテントに入り込み、毛布で二人分の体を包む。
数枚の毛布で包むと、ようやく寒さがマシになった。
「サーシャ、おやすみ」
返事はない。
テントに入って数分、サーシャはもう寝ていた。




