33話 "昇格"
「うちのサーシャが迷惑をかけて…、すみません」
ペコペコと平謝りする俺。
目の前にいる聖騎士の顔は兜で隠れ見えないが、どことなく楽しそうにしているのは感じた。
「いや、問題ない。下級の聖騎士である自分に、これほど興味を持ってもらえるとは、嬉しい限りだ」
朗らかに笑う聖騎士。
頭が硬い人が多いと聞いていたので怖かったが、優しい人で本当に良かった。
謝罪が終わり、治療をしてくれたシスターの話を聞く。
「骨に少しひびが入ってしまったようですね、治癒をかけておきましたので、数日は安静にしてください」
「ありがとうございます、助かりました」
「いえいえ、これも教会の務めですので…。ところで、ミノタウロスのグレートアクスを弾いたと聞いたのですが…」
「そうなんです。投げられたのを弾いて、それで腕が痺れたみたいで…」
俺の話を聞いたシスターが目を丸くして驚く。
そばで話を聞いていた聖騎士も、感嘆の声を漏らす。
「おぉ、神よ…、まさか本当とは。オーガに勝る怪力と、グリフォンの如き勇猛さを持つ少女だ」
「ほんと、オーガみたいですよ」
「シュウ、今私のことオーガって言ったでしょ!」
教会に寄付を渡し、お礼を言って宿に戻る。
サーシャは治療された腕をブンブン振り回している。
安静にと言われたのはもう忘れたようだ。
「それで、Cランクに昇格できたの?」
「まだ討伐の報告だけだよ。明日詳しい説明があるらしいから、今日はもう帰って寝よう。それと、安静にね」
「はーい」
適当な返事、大丈夫だろうか。
次の日、元気そうなサーシャと一緒にギルドへ向かう。
受付に向かうと隅の方のテーブルに案内され、そこから詳しい説明が始まった。
「ミノタウロスの討伐の方が確認できたので、Cランクの昇格条件をすべて満たしました。よって、『ガウェイン』はDランクからCランクパーティーに昇格となります、おめでとうございます」
冒険者の証明であるカードに書かれた文字がCへと変わる。
「四か月でのCランク突入は非常に早いです、かなり珍しいですよ」
「そうなんですか?」
「お二人のようにほとんど毎日依頼を受ければ四か月ほどで昇格できますが、それを行った大半は死亡してしまうので...」
知らず知らずのうちに、だいぶ危険なことをしていたらしい。
しょうがない、だってお金がないんだから。
「昇格依頼も、多くの人は対象のモンスターが見つからずに一週間や一か月ほどかかるので...」
「私たち、なんか偶然遭遇しちゃったもんね」
「かなり運が悪かったよ、ほんとに」
夜、怒り狂ったミノタウロスが夢に出て寝付けなかった。
サーシャも夢に出てくるのか、唸り声をあげていた。
「お二人も感じているとは思いますが、CランクはDランクと比べものならないほど危険になります。毎日依頼を受けるということはせず、休息をしっかり挟んで、万全な状態でお願いします」
「Cランクの依頼、どんなのがあるんですか?」
「そうですね...。討伐依頼以外だと、調査や護衛、この前の合同依頼のようなレイド防止などですね」
『Cランクからが本当の冒険者』、そう言われることがある。
Dランクは冒険者のなり立て、約半数は一年たたずに死亡する。
残った者たちが経験を積み、昇格するのがCランク。ここが冒険者の主力になる。
しばらく細かい説明などを聞き、Cランクの必要な知識をあらかた覚えた。
多分サーシャは半分も覚えていない。
「最後に、ギルドの書庫なども利用できますので、興味があったらどうぞ」
「書庫?そこって、魔術の本とかはありますか?」
「少しなら、確かあった気がしますね...」
書庫、行くしかない。
説明が終わった後、さっそく許可を取って書庫を覗きに行く。
物置ほどのスペースに棚が二つ、モンスターの図鑑やレイドの記録などが置かれている。
なんでもいいから魔術の本...、なさそうだ。
「シュウ、こっちに魔術の本っぽいのあったよ?」
「なんて本?」
「えーっと、『二次転換の基礎』ってやつ」
目的の本があった。
「ちょっと貸して!」
「勢いすごいなぁ...。じゃあ私、しばらく騎士物語でも読んでるね」
そう言って隅っこに移動していった。
そんなサーシャを横目で見た後、本を開く。
二次転換、魔術の技術の一つ。
水属性から氷に、風属性から雷へといったものが代表的だ。
派生魔術と呼ばれるこれらが、俺はどうしても苦手だった。
氷魔術を初めて使う時も何度も失敗したし、いまだに一度で覚えきれていない。
それでも人と比べると覚えるのは早いらしく、モニカさんは何の問題もないと言っていた。
もう一つの有名な派生魔術、雷。
高い攻撃能力を持つ一方、操る難易度は他よりも高い。
雷魔術の練習を始めて一週間、いまだに一切操れていない。
「これが操れたら、ミノタウロスもオーガも一撃だったのに...」
ほぼ回避不可で、圧倒的な破壊力。
もしあの時使えていれば、遭遇と同時に葬れただろう。
できないことを嘆いても仕方ない。
地道に練習、Cランクに入ってからはより慎重に、進んでいこう。




