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転生者の異世界旅行記  作者: 豆板醤
第2章 新人冒険者
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32話 "怒り狂う牛頭"

「ンモォォオオオォォ!!!」


森に咆哮が響く。


昨日、宿でサーシャに話したことを思い出す。

『ミノタウロスはすぐにブチギレて暴れだすらしいよ』


俺の足元には切断されたミノタウロスの頭。

恐らく目の前の奴は俺が殺したと勘違いしただろう。


ミノタウロスが巨大な斧を振りかぶる。

あのグレートアクスにかすりでもすれば、俺は粉々になるだろう。


腰が抜けてへたり込んでしまった。

頭上を轟音を立てて斧が通る。


「シュウ逃げて!」


後ろからサーシャの悲鳴が聞こえる。

一瞬、ミノタウロスの視線がそっちにずれた。

チャンスかもしれない。


「アクアサイス!!」


絞りだすように、掠れた声で叫ぶ。

喉をめがけて放った水の刃は斧に阻まれ、思うように当たらなかった。

ミノタウロスの視線が俺に戻る。


「フォグ、プロテクト!」


霧で視界を遮る。

怒り狂って振り回される斧を前に魔力障壁は意味をなさなかった。

何とかサーシャのところまで後退することができたが、事態は特に変わらない。


「シュウ、どうする?逃げた方がいいんじゃ?」

「逃げても追いつかれる、今ここで倒すしかない...」


霧が晴れ、再び牛頭がこちらを睨む。

バルシュさん達が言っていた。ミノタウロスは残虐で、獲物を追い詰めて殺す。

今ここで殺さなければ、俺らは追い詰められてなぶり殺される。


ミノタウロスが前屈みになって斧を構えた、足が地面を掴んでいる。


「突っ込んでくる、避けるよ!」


近くにあった太い樹の後ろに隠れる。

森の中での突進、あの巨体では木々に引っ掛かってうまく進めないだろう。


「シュウ!私が攪乱するから、その隙に攻撃して!」

「危険すぎるよ!」

「大丈夫、全部避けるから!」


サーシャが木の後ろから飛び出す。

左手には短槍、勢い良く振りかぶって投げられたそれは、ミノタウロスの左肩に突き刺さった。


自らの体を傷つけられ、さらに激高する怪物。

一撃で大樹を叩き折る斧がサーシャめがけて何度も振りかざされる。

そのすべてを軽い身のこなしで避け、時折すれ違いざまに切りつけている。


あの巨体と怪力を前に、一歩も引かず戦っている。

そして、俺の役目はそれを見守ることじゃない。


「マジックスピア、ウィンドブレイド!」


背中を見せた隙を狙って魔術を放つ。

槍が腹を貫き、刃が背中に傷をつける。

鬱陶しい魔術に振り向いた隙を狙って、サーシャが会心の一撃を叩き込んだ。


血飛沫が飛び散る。

トロールすら両断した斬撃を受け、膝をつくミノタウロス。


血走った眼が、ゆっくりとサーシャを振り返る。

再び立ち上がったミノタウロスが、大きく斧を振りかぶる。

背後から重傷を負わせた忌々しい少女に向けて、それが投げられた。


「ウルルゥァア!!」


少女の喉から出たとは思えない雄叫び。

サーシャは迫りくるグレートアクスに向かって剣を振りかざした。

凄まじい金属音が森に鳴り響く、剣にぶつかったことで軌道がずれた斧は、背後の大木に突き刺さった。


息絶え絶えになったサーシャが地面にへたり込んだ。

ミノタウロスが背中から血を垂れ流しながら、ゆっくりと近づく。



『止めなきゃ』

そう思った時、すでに体が走り出していた。

身体強化で地面を跳び、ミノタウロスの背中の傷に向けて手をかざす。


「ファイアアロー!」


火の矢が傷を焼きながら炸裂し、体内を焼き尽くした。

崩れ落ちた巨体、着地した俺はすぐに走り、炭化した傷口に短剣を差し込む。


僅かに藻掻いた後、暴れまわった巨体から静かに力が抜けた。

ミノタウロスは、今度こそ死んだ。


安堵で地面にへたり込みながら、同じようにへたり込むサーシャを見る。


「サーシャ、大丈夫?」

「シュウの方こそ、大丈夫?」


お互いの顔を見た後、クスクスと笑いあう。


「ありがとうね、シュウ。かっこよかったよ!」


ニコニコとしたサーシャにそう言われ、少し照れてしまった。

サーシャは投げられた斧を何とか弾いたが、強い衝撃を受けたことで右手を動かせなくなってしまった。


今、手元に回復薬はない、街に戻ったら治療をしなければ。

それまでの帰路に襲われたら対処は俺、近接戦はできっこない。

震える足を急かしながら足早に帰った。



疲労でふらふらしながらギルドに入り、カウンターに向かう。


「おや、もう討伐したのですか?!」

「はい...、森を歩いていたら、ミノタウロスに出会ってしまって」

「なるほど,,,、それは不運でしたね。もう一人の方は?」

「今は教会の方で治療をしてます、先に達成の報告だけ来ました」


一緒に教会で治療を待とうとしたが、『先に報告しといて!』と言われた。

子供じゃないから付き添いはいらないと言っていたが、やはり心配だ。


「なるほど。とりあえず、達成の方は確認しましたので、後ほどお二人でお願いします。説明などに関してはその時にしますね」

「わかりました、明日にまた来ます」


心配なのをなんとなく察してくれたのか、詳しいことは明日になった。

急いで教会に走る。腕がしびれただけ、と言っていたが心配だ。

自分の体より大きな斧を、あれだけの速度で投げられた斧を弾いたんだ。


ふいに出会ってしまったミノタウロス。

運が悪ければ、死んでいたのは俺らだった。

トロールとは完全に格が違う、別物だ。



息を切らしながら走り、教会に着いた。

教会の中は、治療が終わったサーシャがぴょんぴょん跳ねながら聖騎士を困らせているところだった

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