26話 "大都市シュワコヴォ"
ブルトヴァルト、血色の森と呼ばれる広大な森林。
中央エウレの4割ほどを覆うこの森は、植生とそれを覆う魔力が赤みを帯びていることから、遠目に見ると赤黒く見える。これが由来となって『血色の森』と呼ばれるようになったという。
凶暴なモンスターが多く棲むため、一般人はおろか、軍隊でさえここを通ることは難しい。そのため、この森を国境部に持つ大帝国とクラヴィスア王国の両国の交通手段は限られていた。
「あっ街が見えてきた!あれがシュワコヴォ市?」
遠くに市街地がかすかに見える。
その規模はジェログルードの中心街と比べても遜色はない。
「違うよ。あれはたしか、郊外に隣接する町だったはず...」
「あれが町?だってスクライラスより大きいよ?」
「町に着けばシュワコヴォ市の城壁が見えてくる、らしいよ」
郊外の町の規模でさえ故郷のスクライラスを上回る。
サーシャはどれくらいその市が大きいのか、いまいちピンと来ていなかった。俺も本で読んだだけで、実際にどれほど大きいかはよく知らない。
そんな俺らは、約二日と半日の旅路の後、シュワコヴォ市を目にすることができた。
「...でっっかい、ね」
「予想してた何倍も大きいや...」
地平線に広がる赤黒い森の中、灰色の壁がそびえたつ。
クラヴィスア王国の西部関門都市、シュワコヴォ。
ブルトヴァルトを切り裂くように建ち、数多の商人達の交易を凶暴なモンスターの魔の手から防ぎ、そしてその交易によって発展を遂げ、王都に次ぐ大都市といわれるほどにまで成長した。
そんな大都市の郊外で、俺らはあたふたしていた。
「宿場街ってどこだろう...、サーシャ見つけた?」
「人が多いし建物が多すぎて何も見つからないや...」
「このままじゃ野宿になるよ...、早いところ見つけなきゃ」
「ギルドに行ってみない?そこならおすすめの宿教えてくれるかも」
「それだ!」
サーシャの名案により、宿探しより先にギルドに向かった。
ギルドの大きさは都市の大きさに比例する。シュワコヴォ市ほどの大都市にもなれば、当然ギルドもデカい。
邸宅ほどの大きさのあるギルドにビビりながら足を踏み入れる。幸い受付の人は優しく対応してくれた。
「どうされましたか?」
「この都市に初めて来たんですけど、どの宿にいけばいいかわからなくて...。冒険者がよく使う宿とかってありますか?」
「お二人は冒険者の方ですか?でしたら、こちらのリストにある宿屋がおすすめですよ。このチケットは宿屋の入浴チケットになりますので、よかったらどうぞ」
流れるようにリストとチケットを渡された。
きっと宿屋から紹介料か何かをもらっているんだろう、そう思いながらリストに載っている宿屋を探しに、街の通りに向かった。
「シュウ、見間違えじゃなければ、この通りだけで宿屋が50くらいはあるんだけど...」
「リストに載ってるのは30件だけど、ここには10件くらいしかないや。多分、まだ宿屋が何十件もあるよ」
想像を上回り続ける都市の規模に疲れを覚えながら、何とか宿屋を見つけた。
宿泊料は一日8000グロス、二人分の部屋を取る余裕はないので一人部屋を一つだ。
ダニエルの酒場は風呂が無料だったがここは有料、三日分で1500グロスになる。
「お金、足りなくなるよ...」
「いろいろ想像を上回りすぎてるな。一日くらいゆっくり町を見たかったけど、明日から依頼を受けないとまずいかもしれない」
「手持ちが3万だもんね、お金に余裕ができるまで観光はお預けかぁ。今日はもう明日に備えて休む?」
「だね、そのほうがいい...、あっそうだ。ちょっと見せたいのがあるから、外に行こう」
「えーっ、もう少ししたら日が沈むよぉ」
サーシャの手を引いて外に出る。
たどり着いたのは城壁の近く、街の一角にある小さな砦だ。
「ほらサーシャ、見て!」
「見るって...あっ、騎士がいる!」
砦の周囲、数人に騎士たちが警備をしている。
この都市はブルトヴァルトの中心に近いためモンスターの襲撃が多い、それに加えて大帝国との国境に位置するため軍の要所でもある。
そのため、ここには王領から派遣される国境軍が駐留している。
国境軍に騎士がいると知ったら大喜びするだろうと思い、サプライズ的な感じで見に行こうと思っていた。そして今、サーシャは楽しそうに砦に突っ込んでいったので、サプライズにはなったと思う。
ちなみに、砦に突っ込んでいった不審者ということで危うくお縄になるところだった。




