23話 "冒険者の危険"
ゴブリンを狩っていた森から少し離れた場所、森と平原の境にある丘陵に、俺らは潜んでいた。
「オークってでかいね...。とりあえず、あれを5体倒せばいいんだよね」
「うん。でもゴブリンと違ってあまり群れないらしいし、探して回るようだね」
ある程度観察が終わったので少しずつ近づく。
猪のような頭と成人男性くらいの体躯、鼻をひくひくさせて周囲のにおいを嗅いでいる。オークはにおいに敏感だ、気づかれる前に倒した方がいいだろう。
「ファイアボール!」
魔力が高熱を生み出し火球が生じる。
今まで火魔術を全く使えなかったが、ここはあまり火事になる要素もないので、心置きなく使える。
オークたちの足元に着弾した火球はそのまま炸裂し、足や腹部を吹き飛ばした。
「うわぁ爆発した!あんなのも使えるんだね、すごいじゃん!」
「でも何体か生き残っちゃったな。ファイアボルト」
生き残りを火の短矢で撃ちぬく。
今ある魔術で一番火力が高いのは火魔術だ。しかし使った後に水で消火をしないといけない、これが難点だ。
「一、二、三、四...、これで4体。近くにまだいるかどうか、ちょっと探してくるよ」
「気を付けてね。ゴブリンより強いから、油断しないように」
「わかった、すぐ戻るね!」
そう言ってサーシャは駆けだしていった。
俺はさっきからオークの核を取り出そうとしているが、ゴブリンより皮膚が固く、刃が通りにくい。
何とか魔術で切り開いて取り出せたが、かなり疲れる。次はサーシャに頼もう。
後ろから軽快な足音がする、サーシャが戻ってきたみたいだ。
「向こうに2体居たから倒してきたよー!これで依頼分はクリアできたね」
「一人で倒せたんだ...」
前々から思っていたがサーシャはかなり強い。
ホーンボアの突進を正面から切り伏せ、ゴブリンの集団を単独で殲滅できる。それに、いまもオーク2体を一瞬で狩ってきた。
一方で俺は8年ほど魔術を鍛錬してクラス3が精一杯、普段使いできるのはクラス2までだ。
魔術師としての実力はだいぶ微妙、これから冒険者として戦うなら、クラス3の攻撃魔法は覚えておきたい。
あらかた周囲のを狩り終わったのでギルドに戻る。
今日の戦果はオーク10体、合計で1万1500グロスだった。食費と宿代で8000は消えるので、貯金に回るのが3500。ペースを上げないと次の旅に出る資金が稼げなさそうだ。
街の周囲に出てきたオークはそこまで多くないらしい、これを狩りつくしたらまた別の依頼を探さないといけない。
次の日、いつも通り依頼を受けて森に行く。
今日はせめて2万は稼ぎたいが、しかし昨日の場所には数体しかいない。
まだオークはいるはずなのだが...
「オーク、全然いないね。森の方に行ったのかな」
「奥の方に行ってみようか、周りに気を付けて」
「了解。後ろは頼んだよ!」
きっと奥にいるだろう、そう考えた俺らは慎重に森を進む。
少し進むと、大きい足跡がいくつか見えてきた、つまりオークはまだ周囲にいるはず。
「シュウ、前にオーク。伏せて」
「何体いそう?」
「3、でもなんか様子がおかしいよ。どっかに走っていっちゃった」
「追いかけよう。慎重にね」
ふらふら歩いていたオークたちが何か周囲のにおいを嗅いだ後、すぐにどこかへ走っていった。
追いかけてくと、次第に森の匂いとは異なる匂いがしてきた。進んだ先にオークの集団が集まっているのが見えた。
豚とも人とも区別がつかないような鳴き声を上げ、手に持った棍棒を高らかに掲げている。
数が多い、十は超えている。
「なんであそこに集まってるんだろう。それに、何か変なにおいもするよ」
「...サーシャ、魔法で殲滅するから、ちょっと待ってて」
いつものようにサーシャを潜伏させず、単身で近づく。
強烈な腐臭がする。モンスターの朽ちた匂いではない、別の匂い。
とりあえずはあいつらを蹴散らさなきゃいけない。
「マジックミサイル、バインド」
「ギュイッ?!ギュイ!ギュイ!」
やはりゴブリンより賢いのだろう。
奇襲を受けた後、すぐにこちらを見つけて突進してきた。
しかし魔力の縄が足を絡めとる。
「ウィンドブレイド!アイススプリンター!」
風の刃と氷の破片が倒れたオークを襲う。
まとめて数体を葬れたら、あとは残党を簡単に始末するだけだ。
連続で魔術を使ってかなり疲れたが、この先を確かめないといけない。
口元を布で覆い、少しずつ近づく。
「あれ...、シュウ。その、それ、それさ」
「たぶん、人の、死体だ...」
多分。
そう言うしかない。人の形はとどめているものの、顔は判別できない。死体はオークに食い散らかされ、下半身は完全に潰れている。
しかし、一人分にしては体の部位が多い、そう思って周囲を探すと、もう一人の死体が転がっていた。
身元を確認しようと鞄を漁ると冒険者カードが出てくる。三人でパーティーを組んでいたようだった。
二枚分のカードを回収し、森から出る。
ギルドへの帰り道、サーシャは震えて何もしゃべらなかった。
「冒険者の死体を森で見つけた、と?」
「...はい、一応冒険者カードとかも回収してきたので」
受付嬢に回収したカードを渡す。
しばらく首をかしげて眺めていたが、ふと何かを思い出したように書類とカードを見比べている。
「このパーティー、確か少し前に依頼を受けて森に入っていった人たちですね。三人パーティーのはずでしたが、もう一人のカードは見当たりませんでした?」
「はい。周りを軽く探したんですが、全然見つからなくて」
「うーん、ならまあ森の奥に連れ去られたんですかねぇ。こちらお礼金の方です、場所の方教えていただければギルド職員が回収に向かいますので」
淡々と処理する受付嬢。
本当に慣れている、何度も処理したことがあるように。
「よくあること、なんですか?」
「はい。冒険者で一番少ないランクはSで、その次がDランクなんですよね。油断して危険に突っ込んだり、経験不足で突然の出来事に対応できなくて死ぬことが多いんです」
この人たちは慎重な方だったんですけどね、と続ける。
危険のある仕事だとわかっていたが、本当の死体を目にして大きく衝撃を受けた。
自分らも油断すればこうなる、力がなければこうなる。
その日の夕食は味がしなかった。




