20話 "ゴブリン"
ジェログルードはスクライラス市よりも血色の森に近い、そのためゴブリンなどが集落を近くに作るらしい。たまにオーガなども現れるんだとか。
依頼の森は練習に使っていた森よりも鬱蒼としていて、視界が悪い。武器を構えて警戒しながら歩き進めていく。
武器と役割的にサーシャが前衛、俺が後衛になる。
頼もしい背中を見ながら、いつでも打てるようにクロスボウは弦を引いて置き、魔術もいつでも放てるようにする。
「ゴブリンってどこにいるの?割と進んだ気がするけど、見当たらないよ」
「痕跡も見当たらない、基本的に集団で行動するらしいから見つけやすいと思ったんだけど」
「もっとうじゃうじゃいるのかと思ったけど、そうでもないんだね」
そうこう言いながら進んでいると、ふと遠くから声が聞こえた。
人の声にしては醜い声、おっさんの咳払いみたいな声だ。
「サーシャ、伏せて。声がする」
「...ほんとだ、人じゃないね。望遠鏡どこだっけ...あった!」
サーシャが望遠鏡をのぞいて探す。
少し覗いて、望遠鏡をすぐにしまった。
「森だから見ずらい!近づいた方が早いや!」
「ゆっくりね、バレないように慎重に」
屈んで声の方向に少しずつ近づく。
ある程度進んで、ようやく声の主が見えた。
緑の肌にぼろ衣の衣服、粗末な武器を持った集団、ゴブリンだ。
「ゴブリンだ...、初めて見た」
「私も、なんか不細工だね」
ゴブリンは不細工、というより醜かった。
そして本で読んだ通り、集団で動いている。ここから見えるのは7体、石槍や斧を持っているのがなんとなく見えた。体格も小さく力も強くない、これなら魔術とクロスボウで数を減らして、すぐに終わりそうだ。
そう考えていると、サーシャが何かに気づいた。
「シュウ、見て。一番後ろにいるあいつ、弓持ってるよ!」
ゴブリン集団の最後尾、サーシャの言う通り弓を持ったやつがいた。
粗末な弓だが遠距離武器に変わりはない、最優先目標が決まった。
「サーシャ、まず弓持ちを倒した後に、魔法で何体か蹴散らすね。そしたら残ったのをお願い」
「おっけー。じゃあ、やっちゃおう!」
「エンチャント」
クロスボウに魔力の纏った矢をつがえ、狙いを定める。
移動するゴブリンの予測位置を考え、慎重に待つ。
息を吸って、吐いて、吸って、吐く。
トリガーを引く。
放たれた矢がゴブリンの頭部を射抜き、炸裂した魔力が頭を吹き飛ばした。
クロスボウをしまい走る、混乱したゴブリンの集団に追い打ちをかけるため、魔術の射程まで近づかないといけない。
全力ダッシュで近づき目測およそ30m、射程内だ。
「マジックミサイル!」
青く光る円筒が4つ生成、目標は先頭と後尾の二体ずつ。
捕捉したら発射、青い軌跡を残しながら魔力の光弾が飛んでいく。
「ングルァ!」
「ブルグァ!ブルグァ!」
仲間が吹き飛んだことに驚いたゴブリンが叫ぶ。
命中したのは二発、ゴブリンは残り4体だ。
近くに伏せていたサーシャが飛び出す。
「よいしょぉ!」
マジックミサイルの光弾よりも早い速度で飛び出したサーシャ。
ゴブリンが対応できるはずもなく、一体が長剣で逆袈裟切りにされた。
そのまま近くにいたゴブリンを蹴り飛ばして木に叩きつけ、追撃で頭を蹴り潰す。
それを踏み台に加速、もう一体の頭を刎ね、最後の一体は突きで首を刺した。
戦闘は終了、体を射抜かれたり切り裂かれたりしたゴブリンの血であたりが血まみれ、頭だったり肉片だったりが散らばっている。
サーシャは剣をしまわず、森の奥を警戒している。俺もクロスボウの弦を引きなおして警戒しておく、ゴブリンの一つの群れは数十体を優に超える。この集団もその一部で、奥からさらに来てもおかしくない。
警戒を頼もしい相方に任せ、ナイフで心臓をえぐる。
さっきはあまり気にしなかったが、人型の生物の心臓をえぐるのはあまり気持ちのいいものではない。
これは人ではないと自分に言い聞かせながら、ゴブリンの核をえぐり取る。
取れたのは6個、1個はサーシャが核ごと切り伏せてしまった。
「これで5300、まだ時間あるし、もう少し狩りたいなあ」
「確かにね。私もまだ全然余裕!でも、奥に行きたくはないなぁ、群れには出会いたくないし」
「なら、軽くご飯食べながら、ここらへんで待ち伏せしてみよう」
鞄から干し肉を取り出し昼食をとる。
ゴブリンの血肉を見た後であまり食べる気は起きないと思ったが、そんなことはなくバクバク食べれた。
前世だったら気持ち悪くて吐いて、数日は寝込んでいるだろう。やはり死ぬと精神に変化があるんだろうか?
急にサーシャが声を上げた。
「ん、声がした!ほらシュウ、クロスボウ持って!」
「耳がいいなあ、全然聞こえなかったよ」
再びエンチャント、矢をつがえて構える。
槍を持ったゴブリンが3体、仲間の凄惨な姿を見て何か叫んでいる。
射程距離ギリギリ、もう少し近づくのを待とう。
そう思っていると、ゴブリンが懐から何かを取り出した。
角笛、口に近づけて吹こうとしている。
慌てて撃った。頭は外れたが右肩を吹き飛ばし、何とか角笛を阻止した。
金色の残像、さっきと同じようにサーシャがゴブリンを惨殺し、戦闘は終わった。
「シュウ、急に撃ったけどどうしたの?」
「ほら、これ。やっぱり角笛だ...」
何かの動物の角を加工した角笛、さぞかし大きな音が鳴るだろう。
「うわ、これで仲間を呼ぼうとしたのかな...。たくさん来てたら危なかったね」
「これで群れが全部押し寄せたらとんでもないことになっちゃう、本で読んでおいてよかったよ」
「だね。...えっと、この三体で900グロス、今のところ6200だね。まだ宿屋一泊分だよ...」
あまりに収穫がしょぼい、こんな安いのかゴブリン。
二人してしょぼくれていると、聞きなれた足音が聞こえた。
木のような外皮に鋭い角、殺意にあふれる突進。
「まずいホーンボアだ、シュウ!」
「バインド、マジックスピア!」
魔力で練られた縄が足を絡めとった。
しかし魔力の長槍は肝心なところで外してしまった。
もう一度魔力を練り、より威力の高い一撃を創る。
「アイスアロー!」
氷の長矢が脳天を直撃、そのまま突き刺さった。
藻掻くこともなくホーンボアは絶命、ドスリと地面に倒れた。
今までで一番大きな個体だった、2年前なら死んでいただろう。
「シュウ、お手柄じゃん!確かホーンボアの爪と角、一本1200とかだよ!」
「こっ...この大きさなら多分、1500グロスはすると思う」
「それなら4500?ゴブリン15体分じゃん」
振り返ってゴブリンを見る。
あまりにカスだ...、小鬼から小銭に名前を変えるべきだ。
臨時収入を解体しながら、ふと思う。
ホーンボアもモンスターと呼ばれるが、ゴブリンのように魔石はない。何をもってモンスターと呼ぶんだろうか?
肉を解体していた時、本に書かれていたことをふと思い出した。
モンスターと動物の差は、人を集中的に狙うか否かである。




