18話 "初めての宿"
ジェログルードまでの距離はおおよそ60km程度と聞いていた。
前世の日本なら、車で1時間半もあれば大体着くだろう。
しかしここは中世くらいの異世界、車なんてものはないし、馬も持っていない、そうなれば当然移動手段は徒歩である。
旅が始まり1日が経過した、一晩をテントの中で野宿し、携帯食料をかじってまた歩き出す。
俺は変わらない景色に飽きてきていたが、サーシャは全然テンションが落ちない。
そこらへんから面白いものを見つけてはしゃいで見せに来る、尽きない体力と元気の塊である。
また何か見つけたのか、こっちに手招きしている。
「シュウー!こっち来て、見えてきたよ!」
「見えてきた?」
「ほら、街が見えてきた!」
サーシャが指さす方を見ると、遠くに街が見えた。
スクライラス市より大きく、広い街道が街を通っている。
「行こう行こう、やっと着いたんだよ!」
勢いよく駆けだすサーシャを追いかけていく。
そうして、俺らはジェログルード市に到着した。
「すごい、スクライラスよりたくさん人がいる!」
「交易路の途中にあるから、人もたくさん来るらしいよ」
「そうなんだ、じゃあ市場に言ったら面白いのあるかな!」
そんな話をしながら周りをキョロキョロ見渡す、探しているのは宿屋だ。
冒険者登録もしたいが、今の時間は正午を越え、そろそろ夕方だ。登録は時間がかかりそうだし、荷物を置いて明日にしたい。
「サーシャ、宿屋っぽいのを見つけたら教えて」
「わかったよ!宿屋ってどんなの?」
俺もわからない、困ったな。
とにかく早めに宿屋を見つけないと、交易路を通る旅人で埋まりかねない。
キョロキョロしていたサーシャが、急に大声を上げた。
「あった!ほら、あそこの看板!」
指さした先にある看板を読む。
『ダニエルの酒場 宿泊できます!』
「あそこにしよう。よかった、野宿することになるかと思った」
「部屋が埋まっちゃう前に行かなきゃ、ほらはやくはやく!」
酒場の戸をくぐって中に入る。
メインホールでは何人かが酒を飲んでいる、ワイワイとした人々の間を通り抜けて、カウンターに向かう。
ガタイのいい店主がこちらに気づいた。
「いらっしゃい、飲食かい?宿泊かい?」
「宿泊で、一泊でいくらします?」
「一人部屋なら6000、二人部屋なら1万だ。うちは一階に風呂もあるぞ」
今の手持ちは4万、恐らくそこそこの期間滞在するだろうから、一人部屋を二つ取る余裕はない。
そうなると二人部屋になるだろう...
財布を見て悩んでいると、サーシャが店主に言った。
「一人部屋を一つで、三泊お願いします!」
「あいよ。部屋は12号室、二階の突き当りだ。飯は別料金、風呂はタダだけど夜中前までだ」
困惑、躊躇なく一人部屋を取った、確かにそれが一番お金がかからない。
階段を登りながらサーシャに聞く。
「一人部屋でいいの?」
「お金ないじゃん、二人くらいならベッドに入るでしょ」
確かにお金が全然ない、もう2万と2000しかないのである。
節約に喜びながら部屋に入る、狭い部屋にシングルベッドとテーブル、椅子が置いてあるだけのシンプルな一人部屋だ。
ようやく荷物を下ろせた。伸びをして椅子に座り込む、サーシャはもうベッドにダイブしていた。
「冒険者登録は明日にするとして、今日はどうする?」
「もう夕方だからご飯食べよー、なんかおいしいの食べたいけどお金もないし、今日も携帯食料かぁ」
「お金貯まるまで携帯食料だよ、この街でしばらく過ごすだろうし、宿泊代につかわなきゃ」
荷物から干し肉と黒パンを取り出す、数日分の旅の食糧を持ってきたので、ある程度は買わずに耐えれる。
のんびりご飯を食べていると、いつの間にか日が沈んでいた。風呂が閉まる前に入りたい、急いで荷物をしまって一階に降りてみる。
着た時よりもメインホールはにぎわい、いろんな人が好き勝手にしゃべっている。町民に職人、冒険者らしき人もいる。賑やかなホールを横目に、風呂場に入る。
風呂は魔石式シャワーで温水が出るタイプだった。
温水の出る量は限られる、桶にお湯を汲んでちゃっちゃと体を洗ってお湯で流す。
孤児院の風呂場と比べると劣るが、それでも体を洗えるのは快適だ。屈強で190cmはありそうな男が何人もいなければ、もっと快適だったかもしれない。
今まであまり気にしていなかったが、俺の容姿は前世と完全に同じだ。
黒髪で黒目で日本人の顔立ち、ここら辺ではちょっと珍しいので、少しジロジロみられている気がする。
風呂に上がって部屋に戻ると、すでにサーシャが風呂から戻っていた。
サーシャはあまり俺と身長が変わらない、16歳で170近くある。綺麗な淡い金髪でオレンジの目、黒髪黒目の俺と対照的に明るい色だ。
そんな明るい色のサーシャは深刻そうな顔で財布を見つめている。
今までにないくらい深刻そうで、暗い顔色だ。
「どっ、どうしたのサーシャ。確かにお金がないのは深刻だけど...」
「...さっきさ、お風呂場にいた人が冒険者だったから、いろいろ聞いてみたんだ」
本当に深刻に、ただならぬことのような声色で言う。
「冒険者登録って、お金かかるらしいよ」
深刻だ。




