9話 "十歳"
「魔力の流れを水みたいに滑らかに、前に放射する感じです」
練った魔力を水へと転換し放出。
すると掲げた手に水流が生まれ、シャワーのように流れていった。
10歳、ついに年齢が二桁となった。
10歳を超えた孤児たちは孤児院の手伝いを任される。孤児院の管理は7人の大人が行うには人手が足りない。そのため、裏庭の畑の世話や冬越しの準備などを成長している孤児たちが行っている。
手先が器用で裁縫好きなルイザはだいぶ前から衣服の修繕などの手伝いをしている。力が強いサーシャは畑の世話や薪運びを手伝い、ボルゴと俺は掃除の手伝いをしている。
魔術の訓練も進展し、ついに属性転換の訓練が始まった。
まず最初に、モニカさんが得意な水魔術を学んだ。
簡単な水の生成と放水といった基礎水魔術は掃除に非常に役立ち、風呂掃除や洗濯が非常に快適になった。
しかし畑の水やりや飲水には水魔術は役立たない、魔法で生まれた水は魔力に帰すため渇きを満たすことはできない、そのため掃除や洗濯などが主な使い道になる。
「シュウくん、魔術を練るまでだいぶ早くなりましたねぇ」
「これって温度の調節とかはできないんですか?」
「火魔術をある程度できるようになれば、複合させてできますよぉ。温水をある程度の水量出せるようになれば、旅とかではかなり便利なんですよぉ」
「火魔術と水魔術を同時に...」
「だいぶ難しいので、まだまだ後になりますかねぇ」
そうして練習が終わり、孤児院に戻って手伝いをする。
衣服を倉庫にしまうことを頼まれて部屋に取りに行くと、ルイザがいた。
「あっルイザ、なにしてるの?」
「擦り切れたのとかを縫い直してるんだ、シュウはこれ取りに来たの?」
「うん、これを運べばいいの?」
「そうだよ、でももうちょっと待っててね。あと少しで縫い終わるから」
そういわれて部屋の隅に座って待つ。
ルイザの手は器用で、数枚の服をすぐに縫い直した。そうして縫い直された服を折りたたみ、衣服の束を担いで部屋を出て倉庫を目指す。
倉庫に服をしまいに行く途中、畑作業を手伝うサーシャの姿が見えた。
井戸で水を汲み、バケツ二つを担いで畑に走っていく。サーシャは同年代の男子より力持ちで、足もめちゃくちゃ速い。この前の鬼ごっこ大会で最後まで逃げ切れたのはサーシャとモニカさんの二人だけだった。
4,5人に隅に追い詰められたサーシャはジャンプして壁を蹴り人々の頭を飛び越えると、そのまま人波を風のようにすり抜けて逃げ切ったのだ。
今も水汲みを一切疲れた様子を見せず往復している、サーシャの常人離れした動きを目にしつつ、服を倉庫に押し込んで戻る。
手伝いが終わった後はいつも通り図書室に向かう。
今までは魔術の教本や小説などをよく読んでいたが、最近は少しずつ読む本が変わり、地図本やモンスターなどを読むことが増えていた。
理由は単純で、卒業が少しずつ近づいてきたからだった。12歳になると自分が卒業後どうするかを院長先生やマチルダ先生と話し、自分の道を進む準備を始めなければならない。
きっと俺は進路を決めることができず、ひたすらに引っ張り続けてしまう。前世の、高校生活の時もそうだった。
明確な進路を決めきれず、大学へ進学ということにして未来を決めることを後回しにしてしまった。
進路の先生はちゃんとした意志をもって進学しないと何にもならないと言っていたが、結局俺は特に意思を持たず進学を決めた。
だから今度はしっかり調べ、具体的な進路を決めれるようにしたい。そう思って本を探していたが、職業一覧なんて本は置いておらず、とりあえずで世界のことを知ろうと地理やモンスターについて学ぶ本を読んでいる。
他のみんなはどうするのだろう。
ボルゴは最近街に来た商隊に興味を示していた。なんでも東の地から来たらしく、緑茶の茶葉や漢方薬などを面白そうに見ていたのを覚えてる。計算も早いボルゴはもしかしたら商人になるのかもしれない。
ルイザはどんどん裁縫がうまくなっている。最近は破れた服を違和感なく縫い合わせて直したり、使えなくなった布の切れ端で掃除用の雑巾を作ったりしている。あれだけ手先が器用なら仕立て屋を目指せそうだ。
サーシャは...どうするんだろうか。いまもミハウおじいさんの語る物語を欠かさず聞くサーシャは、ずっと騎士に憧れ続けている。
孤児が騎士になろうとすれば、方法は教会に入るか貴族に仕え従者として成り上がるかである。
活発すぎるサーシャに教会は無理だろうし、従者になるしかないだろう。なぜ活発だし魔術好きなモニカさんが教会に入れたのだろうか。
自分は何ができるだろう。
魔術を極めに学院に行くにしてもそこまで頭は賢くない、商人の道も同様に難しい。冒険者としてモンスターを倒しながら旅するか?簡単な魔術しか扱えない非力な男には難しいだろう。
学問にしても商業にしても、前世より強い能力が求められる。
あと2年間の間に答えは出せるのだろうか?




