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転生者の異世界旅行記  作者: 豆板醤
第1章 旅立ちまで
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8話 "ある冬"

9歳の冬、いつもと同じような午前だった。

小さな孤児たちはミハウおじいさんの話を聞きに暖炉に集まり、年齢が十を超えた孤児たちは孤児院の手伝いをしている。冬になるとやることは多くなる、薪木を運ぶことや衣服の準備などは手伝いとして孤児たちに任され、大人たちは食料の保存を確認したり暖房器具の修理で忙しくなる。

当然、モニカさんも孤児院の仕事で忙しくなるため、この時期は魔術の勉強もお休みになる。サーシャとボルゴはミハウおじいさんの話を聞きに一階へ、ルイザは壊れた衣服を縫い直す手伝いをしている。そのため、冷え切った図書室にいるのは俺一人だった。

最近は棚から発掘された練成術の本をよく読んでいる。整理が進むと、意外と図書室に魔法関係の本が多くあることがだんだんと分かってきた。元教会なのに、これらの本はどこから来たんだろうか。


本を読んでいると、外の景色がふと気になり窓を覗き込んだ。

長く続いていた曇り空からはついに雪が降り始め、孤児院から見える外の景色も白さが増していた。雪が十分に積もれば、サーシャははしゃいで雪遊びに飛び込むだろう、去年は雪合戦に全力を出しすぎて四人まとめて風邪を引いてしまった。


ぼーっと雪を眺めていると、ふと違和感を感じた。

雪や雨が降れば通りを歩く人は減り、いつもより静かになるはずだった。しかし今日はなぜかいつもより人の行き交う姿が見えている、遠くの路地では普段見ない姿の人々が見えた。

鈍い色をしたチェーンメイルと長槍、城主の衛兵たちがなぜか慌ただしそうにしているのが見えた。


ふいに鐘が鳴った。

スクライラス城の鐘楼に吊るされた古い大鐘が打ち鳴らされる。普段ならされることがない轟音で窓が揺れ、外を行き交う人々も慌てて建物に入っていった、道を全力で走る人がいる。外で買い出しに行っていたモニカさんが大急ぎで帰ってきているのが見えた。

気になって一階に降りると、鐘の音に泣き出した子たちを先生たちが落ち着かせていた。院長先生とミハウおじいさんは険しい表情で窓の外を眺め、マチルダ先生はモニカさんを心配していた。

孤児院のドアが勢い良く開いて誰かが入ってきた。


「もっ、もどりました~、びっくりしましたよ本当に」

「モニカ!何が起きたんですか?」

「西の河で小さなレイドが起きたらしいですよぉ、リザードフォークの群れが農村に突っ込んできて騒ぎになってたみたいです」

「それで大鐘が鳴らされたのかい?」

「長らくレイドなんて起こらなかったからのぉ、小さな街にリザードフォークが来れば騒ぎにもなろう」


息を切らしながら戻ってきたモニカさんとマチルダ先生が会話している。

モンスターの襲撃が城壁外の農村で起きたらしい、ミハウおじいさんが言っているのを聞く限り、長い間そういう事態は起きていなかったみたいだ。


しばらく孤児院の中で過ごし、夕方になると大鐘が三回なった。

事態が終わった合図らしく、通りに少しずつ人気が戻っていった。だんだんと日常が戻っていき、子供たちは昼間を思い出して皆怯えていたが、夜が近づくと次第に寝静まっていった。


次の日の朝、街の教会から弔鐘が鳴らされた。

昨日のレイドの際、衛兵や冒険者が来るまでの時間を稼ぐために戦った農民に死者が出ていたらしい。被害が改めて掲示板に張り出されていた、畑がいくつか荒らされ家が一軒倒壊、そして農民が4人死亡した。レイドに現れたモンスターはリザードフォーク6匹、大河を遡上してきた群れだったらしく、この時期に来るのは非常に珍しいと騒ぎになっていた。


普段城壁に入らない農民が集まり教会に参列している。

重苦しい冬の雰囲気が一層重くなり、数日間は街全体が死を悼んでいた。今まで何度も死者を知らせる弔鐘が鳴ることはあったが、モンスターとの戦いによって死者が出たことも、それを悼む弔鐘がなることも聞いたことがなかった。

この世界が決して平和ではなく、常にモンスターとの戦いが起きているということを改めて実感した。


城壁から眺めていた大地は平和ではない、俺らはそこで生きていくことになるのだろう。

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