2人目の仲間
「Sクラス合格、おめでとう!」 「君たちこそ、我が国の未来だ!」
試験会場は歓声と拍手に包まれていた。 俺、セラ、セシリアの3人は壇上で喝采を浴びていた。 だが、俺の表情は引きつっていた。
(……やばい)
アドレナリンが切れかけている。 測定試験で見せた「白銀の閃光」。あれは俺の肉体という「貧弱な導線」に、発電所並みの電流を無理やり流した結果だ。 父さんとの修行で鍛えた肉体でなんとか耐えているが、内側はボロボロだ。
「……悪い、少しトイレに行ってくる」 「え? あ、うん。大丈夫エドくん? 顔色が悪いよ」 「感動で震えてるだけさ」
心配するセラに笑顔を作り、俺は早足で壇上を降りた。 人気のない廊下へ出た瞬間、足取りが重くなる。
(ぐ、ぅぅ……! 全身が、焼ける……)
血管に熱した鉛を流し込まれたようだ。 視界が明滅し、平衡感覚が失われていく。 トイレまで、あと数メートル。だが、その距離が果てしなく遠い。
ガクン、と膝から力が抜けた。
「――っ」
受け身を取る余裕もない。 俺の体は冷たい石畳へと崩れ落ち――なかった。
ふわりと、甘い香りと柔らかな感触が俺を受け止めた。
「無茶をしますのね」
耳元で涼やかな声がした。 薄れゆく視界に映ったのは、銀髪の少女。セシリアだ。 彼女は俺を抱き留めると、その胸に手を当てた。
「じっとしていて。回路が焼き切れていますわ」
彼女の掌から、**「透明な青」**の魔力が流れ込んでくる。 それは驚くほど緻密で、優しい光だった。 熱暴走していた俺の神経が、急速に冷却され、修復されていく。
「……すまない、助かった」 「いいえ。私の家紋は医療を専門にしていますので……でも、不思議ですわね」
セシリアは治療を続けながら、俺の顔を覗き込んだ。 その瞳は、まるで全てを見透かしているかのように知的で、鋭い。
「3年前、貴方は魔力がわずかでした。それが今日、突然『白銀』の輝きを見せた。……普通に考えれば、あり得ない成長速度ですわ」
「……俺が、隠れて血の滲むような努力をしたとは思わないか?」
「魔力は努力ではどうにもなりません。それは貴族の常識ですもの」
彼女はクスリと笑った。それは「答えを知っている」者の笑みだった。
「ねえ、エド君。あの白銀の魔力……本当に『貴方のもの』かしら?」
俺は観念して、ため息をついた。 やはり、この女は侮れない。俺の嘘などお見通しだ。 なら、いっそ取り込んでしまうのが正解だ。
「……場所を変えよう」
俺たちは空き教室へと移動した。 俺は懐から、一つの**「レプリカの宝玉」**を取り出し、彼女に見せた。
「なんだか分かりますわね? これ」
「ええ。3年前、我が家の宝物庫にあった『開かずの箱』。……その中にあったものですわね?」
その通り。だが、これは俺が作ったレプリカだとはまだ言わない。
「ああ。あの時、箱を開けた俺はこれを手に入れた。これは1000年前の勇者の遺品だ。この宝玉には、膨大な魔力が込められている」
俺は宝玉を指先で回したあとに、念力で宝玉を動かした。
「実は俺に魔力はない。だが、こいつを外部魔力として使えば、魔法が使える。さっきの白銀の光も、こいつから引き出したものだ」
嘘は言っていない。 セシリアは興味深そうに宝玉を見つめ、そして俺を見た。
「つまり貴方は、その力を使いこなすための『技術』を独自に開発した、ということですの?」
「そうだ。そして俺は、これを使ってやりたいことがある」
俺は彼女を真っ直ぐに見据えた。
「俺のチームに来い、セシリア。お前のその規格外の魔力が欲しい。俺と一緒に、この世界を変えよう」
俺の勧誘に、セシリアは少しだけ沈黙した。 そして、ふわりと妖艶で不敵な笑みを浮かべた。
「ええ、いいですわ。貴方のチームに入って差し上げます」
「本当か!」
「ただし、条件があります」
セシリアは俺の顔を覗き込み、楽しそうに言った。
「3年前の『あの言葉』……覚えていますわよね?」
「え?」
「貴方、私に言いましたわ。**『俺は魔王になる』**と」
ドクン、と心臓が跳ねた。
(う、嘘だろ……? 覚えていたのか!?)
俺の顔が一気に熱くなる。 あれは3年前、テンションが上がってつい口走ってしまった言葉だ。 今思い返すと、恥ずかしすぎて死にたくなるような「中二病」全開のセリフ。 しかし、前世の仲間に会うためのだったとはいえ「俺は魔王になる」なんて、黒歴史以外の何物でもない。
「い、いや、あれは……その、若気の至りというか……」
「ダメですわ。私はその言葉に惹かれたのですから」
セシリアは逃がさないと言わんばかりに微笑む。
「中途半端な反逆者では困ります。世界を敵に回してでも覆す……真の魔王になると誓うなら、私の魔力、全て貴方に捧げますわ」
それは脅迫のようであり、求愛のようでもあった。 どうやら彼女は本気で、俺にあの中二病設定(魔王)を演じさせようとしているらしい。
(くそっ……! なんでこいつの前だと調子が狂うんだ)
俺は恥ずかしさを誤魔化すように、苦し紛れの言葉を吐き出した。
「……お、お前も、『勇者』に会ってみたいのか?」
魔王が現れれば、対になる勇者が現れる。 俺のその言葉に、セシリアはキョトンとした後、意味ありげに微笑んだ。
「そうね。……ふふ、そういうことにしておこうかしら」
その瞳の奥にある真意は読めない。 だが、契約は成立した。
「交渉成立だ。……よろしく頼むぜ」
「ええ。期待していますわ、私の魔王様」
俺たちは握手を交わした。 痛みは消えていたが、別の意味で顔が熱いままだった。




