表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/8

2人目の仲間

「Sクラス合格、おめでとう!」 「君たちこそ、我が国の未来だ!」


 試験会場は歓声と拍手に包まれていた。  俺、セラ、セシリアの3人は壇上で喝采を浴びていた。  だが、俺の表情は引きつっていた。


(……やばい)


 アドレナリンが切れかけている。  測定試験で見せた「白銀の閃光」。あれは俺の肉体という「貧弱な導線」に、発電所並みの電流を無理やり流した結果だ。  父さんとの修行で鍛えた肉体でなんとか耐えているが、内側はボロボロだ。


「……悪い、少しトイレに行ってくる」 「え? あ、うん。大丈夫エドくん? 顔色が悪いよ」 「感動で震えてるだけさ」


 心配するセラに笑顔を作り、俺は早足で壇上を降りた。  人気のない廊下へ出た瞬間、足取りが重くなる。


(ぐ、ぅぅ……! 全身が、焼ける……)


 血管に熱した鉛を流し込まれたようだ。  視界が明滅し、平衡感覚が失われていく。  トイレまで、あと数メートル。だが、その距離が果てしなく遠い。


 ガクン、と膝から力が抜けた。


「――っ」


 受け身を取る余裕もない。  俺の体は冷たい石畳へと崩れ落ち――なかった。


 ふわりと、甘い香りと柔らかな感触が俺を受け止めた。


「無茶をしますのね」


 耳元で涼やかな声がした。  薄れゆく視界に映ったのは、銀髪の少女。セシリアだ。  彼女は俺を抱き留めると、その胸に手を当てた。


「じっとしていて。回路が焼き切れていますわ」


 彼女の掌から、**「透明なエーテル・ブルー」**の魔力が流れ込んでくる。  それは驚くほど緻密で、優しい光だった。  熱暴走していた俺の神経が、急速に冷却され、修復されていく。


「……すまない、助かった」 「いいえ。私の家紋は医療を専門にしていますので……でも、不思議ですわね」


 セシリアは治療を続けながら、俺の顔を覗き込んだ。  その瞳は、まるで全てを見透かしているかのように知的で、鋭い。


「3年前、貴方は魔力がわずかでした。それが今日、突然『白銀』の輝きを見せた。……普通に考えれば、あり得ない成長速度ですわ」

「……俺が、隠れて血の滲むような努力をしたとは思わないか?」

「魔力は努力ではどうにもなりません。それは貴族の常識ですもの」


 彼女はクスリと笑った。それは「答えを知っている」者の笑みだった。


「ねえ、エド君。あの白銀の魔力……本当に『貴方のもの』かしら?」


 俺は観念して、ため息をついた。  やはり、このスペックは侮れない。俺の嘘などお見通しだ。  なら、いっそ取り込んでしまうのが正解だ。


「……場所を変えよう」


 俺たちは空き教室へと移動した。  俺は懐から、一つの**「レプリカの宝玉」**を取り出し、彼女に見せた。


「なんだか分かりますわね? これ」

「ええ。3年前、我が家の宝物庫にあった『開かずの箱』。……その中にあったものですわね?」


 その通り。だが、これは俺が作ったレプリカだとはまだ言わない。


「ああ。あの時、箱を開けた俺はこれを手に入れた。これは1000年前の勇者の遺品アンティークだ。この宝玉には、膨大な魔力が込められている」


 俺は宝玉を指先で回したあとに、念力で宝玉を動かした。


「実は俺に魔力はない。だが、こいつを外部魔力として使えば、魔法が使える。さっきの白銀の光も、こいつから引き出したものだ」


 嘘は言っていない。  セシリアは興味深そうに宝玉を見つめ、そして俺を見た。


「つまり貴方は、その力を使いこなすための『技術』を独自に開発した、ということですの?」

「そうだ。そして俺は、これを使ってやりたいことがある」


 俺は彼女を真っ直ぐに見据えた。


「俺のチームに来い、セシリア。お前のその規格外の魔力が欲しい。俺と一緒に、この世界を変えよう」


 俺の勧誘に、セシリアは少しだけ沈黙した。  そして、ふわりと妖艶で不敵な笑みを浮かべた。


「ええ、いいですわ。貴方のチームに入って差し上げます」

「本当か!」

「ただし、条件があります」


 セシリアは俺の顔を覗き込み、楽しそうに言った。


「3年前の『あの言葉』……覚えていますわよね?」

「え?」

「貴方、私に言いましたわ。**『俺は魔王になる』**と」


 ドクン、と心臓が跳ねた。


(う、嘘だろ……? 覚えていたのか!?)


 俺の顔が一気に熱くなる。  あれは3年前、テンションが上がってつい口走ってしまった言葉だ。  今思い返すと、恥ずかしすぎて死にたくなるような「中二病」全開のセリフ。   しかし、前世の仲間に会うためのだったとはいえ「俺は魔王になる」なんて、黒歴史以外の何物でもない。


「い、いや、あれは……その、若気の至りというか……」

「ダメですわ。私はその言葉に惹かれたのですから」


 セシリアは逃がさないと言わんばかりに微笑む。


「中途半端な反逆者では困ります。世界を敵に回してでも覆す……真の魔王になると誓うなら、私の魔力、全て貴方に捧げますわ」


 それは脅迫のようであり、求愛のようでもあった。  どうやら彼女は本気で、俺にあの中二病設定(魔王)を演じさせようとしているらしい。


(くそっ……! なんでこいつの前だと調子が狂うんだ)


 俺は恥ずかしさを誤魔化すように、苦し紛れの言葉を吐き出した。


「……お、お前も、『勇者』に会ってみたいのか?」


 魔王が現れれば、対になる勇者が現れる。  俺のその言葉に、セシリアはキョトンとした後、意味ありげに微笑んだ。


「そうね。……ふふ、そういうことにしておこうかしら」


 その瞳の奥にある真意は読めない。  だが、契約は成立した。


「交渉成立だ。……よろしく頼むぜ」

「ええ。期待していますわ、私の魔王様」


 俺たちは握手を交わした。  痛みは消えていたが、別の意味で顔が熱いままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ