第三回:金陵城にて賈雨村、起復す。栄国府、林黛玉を収養す。
【賈雨村の復職】
さて、賈雨村が慌てて振り返った時、そこにいたのは、かつて同僚として同じ案件で弾劾され、免職になった張如圭という人物でした。張如圭はもともとこの土地の人間で、免職後は故郷で暮らしていました。今、都から古い役人の復職が奏上され、許可されたという知らせを聞きつけ、彼はあちこちでコネを探し、門戸を叩いているところでした。たまたま雨村に出会い、急いでお祝いの言葉を述べたのでした。
二人は挨拶を交わし、張如圭がこの復職の知らせを雨村に告げました。雨村は当然大いに喜び、慌ただしく二言三言語り合い、別れてそれぞれ家路につきました。
冷子興はこの話を聞き、すぐに計略を授けました。それは、雨村に林如海に頼み、都にいる賈政に取り計らいを頼んでもらうというものでした。雨村はその意図を理解し、別れて宿に戻ると、すぐに新聞(邸報)を探して事実を確認しました。
翌日、林如海に面会してそのことを相談しました。
如海は言いました。「天の計らいで、ちょうど都合が良い。妻が亡くなったので、都にいる義母(賈母)が、私の娘(黛玉)に世話をする者や教育する者がいないことを思い、以前から船を遣わして娘を迎えに来させていたのです。ただ、娘の病気がまだ完治していなかったので、出発していませんでした。今、あなたから教えをいただいた恩に、まだ報いていないと考えているところです。この機会に、心を尽くしてお礼をするのは当然のことです。ご安心ください。私はすでにこれについて計画を立てています。推薦状を一通したためて、義兄(賈政)に託し、必ず万全の配慮と協力をしてもらうように頼みます。そうして初めて、私のささやかな誠意を少しでも尽くすことができるでしょう。また、費用に関する慣例についても、義兄への手紙にはっきり書き添えてありますので、兄が心配する必要はありません。」
雨村は平伏し、口を開く間もなく感謝しました。そしてまた尋ねました。「お親戚の大人(賈政)は現在どのような官職におられますか?もし、私が軽率で、突然都へ行ってご迷惑をかけてはなりませんので。」
如海は笑って言いました。「私の親戚について言えば、あなたと宗族は同じ家系図に連なります。彼らは栄公の孫です。大義兄(長兄)は現に一等将軍を世襲しており、名は赦、字は恩侯。二義兄(次兄)は名は政、字は存周といい、現任は工部員外郎です。その人となりは謙虚で温厚であり、祖父の遺風を大いに受け継いでいます。遊び人や軽薄な官僚の類ではありません。だからこそ、私は手紙を書いて彼に依頼するのです。そうでなければ、あなたの清らかな志を汚すだけでなく、私自身もそんなことはしないでしょう。」
雨村はそれを聞いて、ようやく昨日冷子興が話したことが真実だと確信しました。そこで再び林如海に感謝しました。
如海は言いました。「もう月の初二日を娘が都へ出発する日に決めました。兄が同行して上京されれば、互いに都合が良いのではありませんか?」
雨村は恭しく命令に従うと答え、心中は大変得意になりました。
如海はそこで贈り物と送別の宴の準備を整え、雨村はすべて恭しく受け取りました。
【林黛玉の上京】
さて、女子生徒の黛玉は、体がようやく回復したばかりでした。父を置いて都へ行くことに耐えられませんでしたが、外祖母(賈母)が是非来るようにと強く望んだことと、如海が諭したのでした。
如海は言いました。「お前の父は年が五十に近く、再婚の意志はもうない。そしてお前は病気がちで、年が極めて幼い。上には実の母の教えがなく、下には姉妹や兄弟の助けがない。今、外祖母や叔父、姉妹たちを頼って行けば、私の心配が減る。どうして行かないと言い張るのか?」
黛玉はこれを聞き、涙を流して父に別れを告げ、乳母と栄府から来た数人の老婦人と共に舟に乗って出発しました。
雨村は別の舟に乗り、二人の小間使いを連れ、黛玉の舟に付き従う形で同行しました。
【栄国府に到着】
数日後、都に到着し、神京(都)に入りました。
雨村はまず服装を整え、小間使いを連れて、宗族の甥としての名刺を持って、栄府の門前に挨拶に行きました。
この時、賈政はすでに妹の夫からの手紙を読んでいたので、すぐに雨村を招き入れて面会しました。雨村の容貌が雄大で立派であり、言葉遣いも俗っぽくないのを見て、賈政はもともと読書人を好み、賢者を礼遇し、弱い者を助けるという祖父の遺風を持っていた上、妹の夫が特に頼んできたこともあり、雨村への厚遇はさらに格別なものとなりました。
賈政は全力を尽くして内々に支援し、皇帝への上奏があった日には、巧妙に「復職後、欠員待ち」という官職を手配しました。二ヶ月も経たないうちに、金陵の応天府(地方の長官)の欠員が出たので、その職に就かせ、賈政に辞去の挨拶をし、日を選んで任地へ赴任していきました。この話はここで終わりにします。
【黛玉の初訪問】
さて、黛玉が舟を降り、岸に上がった日、栄国府から派遣された駕籠と荷物を運ぶ車が、すでに久しく待っていました。
林黛玉は、母親から「外祖母の家は他の家とは違う」と常々聞かされていました。彼女が最近目にした、下級の使用人たちの着る物や使う物でさえ、すでに尋常ではなかったのですから、ましてやその家に着いた今はなおさらです。
そのため、一歩一歩注意を払い、常に心を引き締め、軽々しく一言も多く話さず、一歩も多く歩かないようにしました。人に笑われることを恐れたからです。
駕籠に乗って城内に入り、紗の窓から外を覗き見ると、街の繁華さ、人々の賑わいは、他の場所とはやはり違っていました。
さらに半日ほど行くと、突然通りの北側に二頭の大きな石獅子が蹲り、獣の頭の飾りがある三間の大きな門があり、門前には十人ほどの華やかな冠と美しい服を着た人々が座っていました。正門は閉まっており、東西の隅の門だけが出入りに使われていました。正門の上には一つの扁額があり、「敕造寧國府」(勅命により建てられた寧国府)の五文字が大きく書かれていました。
黛玉は思いました。「これはきっと外祖父の長男の家だろう」
そう思いながら、また西へと向かいました。さほど遠くない所に、同じく三間の大きな門があり、これが栄国府でした。しかし、正門は通らず、西側の隅の門から入りました。
駕籠かきが中に入って、一矢射るほどの距離を進み、曲がり角に来た時、駕籠を降ろして退出していきました。後ろの婆さんたちはすでに駕籠を降りて、急いで前へ来ました。
新たに三、四人の、十七、八歳の立派な身なりの小間使いが来て、再び駕籠を担ぎ上げました。多くの婆さんたちは歩いて周りを囲んで付き従い、一つの垂花門(内部の門)の前で駕籠を降ろしました。小間使いは退出し、婆さんたちが来て駕籠の簾を上げ、黛玉を助けて降ろしました。
林黛玉は婆さんの手に支えられて垂花門を入りました。両側には曲がりくねった回廊があり、中央には通り抜けの広間(穿堂)があり、その場所には紫檀の棚の上に大理石の大きな衝立が置かれていました。衝立を回り込むと、小さな三間の広間があり、広間の奥が後ろの正房(母屋)の大庭でした。
正面には五間の母屋があり、すべて彫刻された梁と彩色された棟で、両側には奥まで続く回廊のある廂房(わきの部屋)があり、様々な色の鸚鵡や画眉鳥などが掛かっていました。石段の上には、赤い服や緑の服を着た数人の女中が座っており、黛玉たちを見ると、皆急いで笑いながら迎えに来て、言いました。「たった今、おばあ様があなたのことを話題にしていたところです。ちょうどよくおいでになりました」
そこで三、四人が争って簾を捲き上げ、一方では「林のお嬢様が到着しました」という報告が聞こえました。
【祖母・賈母との対面】
黛玉が部屋に入った時、二人に支えられた髪の毛が銀のような老母が迎えに出てくるのが見えました。黛玉はすぐにそれが外祖母だと悟りました。
ちょうど拝礼しようとした時、すでに外祖母が彼女を腕の中にしっかりと抱き締め、「私の心臓、私の肉(愛しい子)」と泣きながら大声で泣き出しました。その場に控えて立っている者たちは、皆顔を覆って涙を流し、黛玉も泣き止むことができませんでした。
しばらくして、皆がゆっくりと慰めて泣き止ませた後、黛玉はようやく外祖母に拝礼しました。この方こそ、冷子興が言っていた史氏の太君、賈赦と賈政の母です。
その場で賈母は黛玉に一人一人紹介しました。「これはお前の大叔母(賈赦の妻・邢氏)、これはお前の二叔母(賈政の妻・王氏)、これはお前の先に亡くなった珠大哥の嫁、珠大嫂子(賈珠の妻・李氏)だ」黛玉は一人一人拝見しました。
賈母はまた言いました。「娘たちを呼びなさい。今日は遠い客人が来たのだから、学校へは行かなくてよい」皆が返事をし、二人が去っていきました。
【三姉妹と病の診断】
まもなく、三人の乳母と五、六人の女中に囲まれた三人の姉妹がやって来ました。
一人目は、肌がやや豊かで、ちょうど良い背丈、頬は新鮮なライチのように張り、鼻は白鳥の脂のように滑らかで、温和で物静か、見ていて親しみが持てます。(迎春)
二人目は、なで肩で細い腰、すらりとした背丈、瓜実顔で、俊敏な目と美しい眉を持ち、見つめると生気に溢れ、才気があふれており、見ていて俗っぽさを忘れます。(探春)
三人目は、背丈がまだ低く、容貌もまだ幼いです。(惜春)
彼女たちの髪飾りやスカート、上着は、三人とも同じ装いでした。
黛玉は慌てて立ち上がり、迎えに出て挨拶をし、お互いに顔を確かめ合った後、皆席に戻りました。女中たちがお茶を淹れてきました。
話題は、黛玉の母がどのように病気になり、どのように医者を呼び薬を飲み、どのように亡くなり葬儀を行ったかということに終始しました。
賈母は免れずまた悲しみ出し、言いました。「私のこの多くの子供たちの中で、唯一可愛がっていたのがお前の母だ。それが今日、私より先に逝ってしまい、顔一つ見ることもできなかった。今、お前に会ったのに、どうして私が悲しまないでいられよう!」
そう言って、黛玉を懐に抱き締め、またすすり泣き始めました。皆が慌てて慰め、説明して、ようやく少し泣き止みました。
皆は、黛玉の年齢は幼いが、その振る舞いや言葉遣いが俗っぽくないこと、体つきや顔つきは病弱で耐え難い様子なのに、自然と優雅な風情があるのを見て、彼女が病弱であることを知りました。
そこで尋ねました。「いつもどんな薬を飲んでいるのですか?なぜ急いで治さないのですか?」
黛玉は答えました。「私は元々このようで、食事を食べ始めた頃から薬を飲んでおり、今日まで途切れたことはありません。多くの名医を招き、処方を組み、薬を調合してもらいましたが、すべて効き目がありませんでした。
ある年、私が三歳の時、一人の癩頭の僧侶がやって来て、私を連れて出家させたいと言いましたが、私の両親は当然承知しませんでした。
すると彼はまた言いました。『もし手放したくないなら、この子の病気は一生治らないかもしれない。もし治したければ、これからは絶対に泣き声を聞かせないこと。父母以外の、外姓の親戚や友人の者には、一切会わせないこと。そうすれば一生無事に過ごせるだろう』
狂ったように、このようなくだらない話をしたので、誰も相手にしませんでした。今はまだ人参養栄丸を飲んでいます。」
賈母は言いました。「ちょうど良い。私は今、丸薬を調合させているところだ。彼らにもう一包多く調合させればよい」
【王熙鳳の登場】
この言葉が言い終わらないうちに、後ろの部屋から人の笑い声が聞こえ、言いました。
「私は来るのが遅れました。遠い客人を迎えることができませんでした!」
黛玉は驚きました。「この部屋の人々は皆声を潜め、息を凝らし、恭しく厳格であるのに、この来客は誰だろう。このように奔放で無礼だとは?」
心の中で考えていると、一群の妻たちと女中たちに囲まれた一人の人物が、奥の扉から入ってきました。
この人物の装いは、他の娘たちとは異なり、刺繍や飾りがきらびやかで、まるで神の妃、仙女のようです。
頭上には金糸の八宝を象嵌し、真珠をちりばめた髪飾りをつけ、朝陽に向かう五匹の鳳凰の飾りを揺らしています。首には純金の盤螭(とぐろを巻いた竜)の飾り輪をつけ、スカートの縁には豆緑色の宮縧、双衡比目(二羽の魚が寄り添う飾り)のバラの飾りを結びつけています。身には金糸の百蝶が花を舞う大紅の洋繻子の細身の上着を着て、その上から五色の飾り刺繍のある石青色のギンネズミの毛皮の褂を羽織り、下には翡翠色の花模様の洋縐のスカートを穿いています。
一対の鳳凰のような目は三角の形をしており、柳の葉のような二筋の眉は目尻を吊り上げています。すらりとした体つきで、風格は艶やかです。白い顔には春の笑みを含んでいますが、威厳は隠されていません。朱色の唇はまだ開いていないのに、笑みが先にこぼれています。
黛玉は急いで立ち上がって迎えました。
賈母は笑って言いました。「お前は彼を知らないだろう。彼は私たちの家で有名な、向こう見ずな暴れん坊だ。南の地方では俗に『辣子(唐辛子)』と呼ぶ。お前はただ『鳳辣子』と呼びなさい。」
黛玉が何と呼ぶべきか迷っていると、姉妹たちが皆急いで彼女に教えました。「これは璉嫂子(義姉)よ。」
黛玉は直接は知りませんでしたが、母親から「大叔父賈赦の息子賈璉が娶ったのは、二叔母王氏の姪で、幼い頃から男の子と偽って育てられた者で、学名は王熙鳳だ」と聞いたことがありました。
黛玉は慌てて愛想笑いをして挨拶し、「嫂」と呼びました。
この熙鳳は黛玉の手をとり、上から下まで細かく観察し、再び賈母のそばに座らせました。そして笑って言いました。
「天下に本当にこんなに美しい人がいたなんて、私は今日初めて見ました!しかも、この全身の品格は、まるで老祖宗(賈母)の外孫娘というより、まるで実の孫娘のようです。老祖宗が毎日口にも心にも一時も忘れないのも無理はありません。ただ可哀想なのは、私のこの妹がこんなにも運命が苦しく、なぜ叔母様が偏って早く亡くなってしまったのでしょう!」
そう言って、ハンカチで涙を拭きました。
賈母は笑って言いました。「私はやっと機嫌が直ったのに、お前がまた私を誘い出す。お前の妹は遠い道中から来たばかりで、体も弱い。やっと慰め終えたところだ。早く昔の話はやめなさい。」
この熙鳳はそれを聞いて、慌てて悲しみを喜びに変えて言いました。「まさにその通りです!妹に会った途端、私の心はすべて彼にかかりました。嬉しいやら、悲しいやらで、老祖宗のことをすっかり忘れていました。叩かれるべきです、叩かれるべきです!」
また慌てて黛玉の手を取り、尋ねました。「妹は何歳ですか?学校へは行ったことがありますか?今、何を薬を飲んでいますか?ここにいる間は家を恋しがらないでください。何か食べたいもの、遊びたいものがあれば、遠慮なく私に言ってください。女中や婆さんたちの態度が悪かったら、それも私に言ってください。」
一方では、婆さんたちに尋ねました。「林お嬢様の荷物はもう運び入れましたか?何人連れて来ましたか?急いで二間ほどの部屋を掃除して、彼らを休ませてあげなさい。」
話しているうちに、もう茶菓子が並べられてきました。熙鳳は自らお茶と果物を捧げました。
また、二叔母(王夫人)が彼女に尋ねました。「月々の給金はもう払い終えたかしら?」
熙鳳は言いました。「月給はもう支払い終わりました。さっき人を連れて裏の建物へ緞子を探しに行ったのですが、半日探しても、昨日奥様が言っていたようなものが見つかりませんでした。奥様が勘違いされているのだと思います。」
王夫人は言いました。「あってもなくても、大したことではない。」
そしてまた言いました。「ついでに二反ほど出して、この妹の服を仕立てるようにすればよかった。晩に思い出して、また人に行かせましょう。忘れないようにね。」
熙鳳は言いました。「これは私が先に予期していました。妹がこの二日のうちに到着するとわかっていたので、もう用意してあります。奥様が帰って目を通してくださってから、送って来させるようにします。」
王夫人は微笑んで、頷いて何も言いませんでした。
【賈赦との対面】
その場でお茶菓子が片付けられ、賈母は二人の老いた乳母に命じて、黛玉を二人の叔父に会わせるように言いました。
この時、賈赦(大叔父)の妻、邢氏が慌てて立ち上がり、笑って言いました。「私が外孫娘を連れて行きますと、かえって都合が良いでしょう。」
賈母は笑って言いました。「まさにその通りだ。お前も行きなさい。もうこちらへ戻ってこなくても良い。」
邢夫人は「はい」と返事し、そこで黛玉を連れて王夫人に暇を告げ、皆が穿堂(広間)の前まで見送りました。
垂花門を出ると、すでに多くの小間使いが緑の幌の青い絹張りの車を引いて待っていました。邢夫人は黛玉の手を取り、その車に乗り、婆さんたちが簾を降ろし、ようやく小間使いに担ぎ上げさせました。広い場所まで引いてきて、ようやく飼い慣らされたラバを繋ぎ、西側の隅の門を出て、栄府の正門の東側を通り過ぎ、一つの黒塗り(油)の大きな門に入りました。
儀門(中門)の前でようやく降りました。小間使いは退出し、ようやく車の簾が上げられ、邢夫人が黛玉の手を支えて、庭に入りました。黛玉は、この家屋と庭園は、きっと栄国府の庭園を隔てて作ったものだと推測しました。
三番目の儀門に入ると、果たして正房、廂房、回廊は、すべてが小ぶりで趣があり、先ほどの賈母の屋敷のような雄大で立派な造りではありませんでした。しかも庭には至る所に樹木や山石がありました。
しばらくして正室に入ると、すでに多くの華やかな装いの側室や女中が迎えていました。邢夫人は黛玉を座らせ、一方では人を外の書斎へやって賈赦を呼びに行かせました。
しばらくして人が戻ってきて報告しました。「旦那様(賈赦)がおっしゃるには、『連日体調が優れないので、娘さん(黛玉)に会うと互いに傷心してしまう。一時的に会うのを控えることにする。娘さんには傷心して家を恋しがらないように勧めなさい。おばあ様や叔母様と一緒にいれば、まるで実家と同じだ。 姉妹たちは拙いが、皆一緒にいれば、いくらか憂鬱も晴れるだろう。何か困ったことや不満があれば、遠慮なく言いなさい。遠慮して他人行儀にしないでほしい』」
黛玉は慌てて立ち上がり、一言一句を聞き入れました。
しばらく座ってから、辞去を告げました。邢夫人は夕食を食べてから帰るようにとしきりに引き留めましたが、黛玉は笑って答えました。
「叔母様がお心遣いで食事をくださるのは、本来辞退すべきではありませんが、まだ二叔父様(賈政)にも拝見しなければなりません。先に食事をいただいてしまうと失礼にあたるかと思います。後日改めていただくのでも遅くはないでしょう。叔母様のご理解をお願いいたします。」
邢夫人はそれを聞いて、笑って言いました。「それももっともだ。」
そこで二、三人の乳母に命じて、先ほどの車で「お嬢様を大切に送って差し上げなさい」と言いました。黛玉はそこで辞去しました。邢夫人は儀門の前まで見送り、また皆にいくつか言い含め、車が行くのを見届けてからようやく戻りました。
【賈政の正室と王夫人】
しばらくして、黛玉は栄府の奥へ入り、車を降りました。
婆さんたちに導かれ、東へ曲がり、一つの東西に貫く広間を通り抜け、南側の本堂(大庁)の後ろ、儀門の内側にある大きな庭へと向かいました。
上には五間の大きな正房があり、両側の廂房は鹿の角のような屋根や耳房があり、四方八方へと繋がり、高く立派で、賈母の居所とは異なっていました。黛玉はこここそが正式な奥向きの正室であり、一本の大きな石畳の道が大門へと直結しているのだと悟りました。
堂屋(広間)の中に入り、頭を上げて正面を見ると、まず赤金に青地の大扁額が目に入りました。扁額には「榮禧堂」(えいきたん)という大きな三文字が書かれており、その後に「某年月日、榮國公賈源に書を賜う」という一行の小さな文字と、「萬幾宸翰之寶」(皇帝の筆の宝)という印がありました。
大きな紫檀の彫刻された机の上には、三尺ほどの青緑色の古い銅鼎が置かれ、朝廷に参内する墨龍の大きな絵が掛けられていました。片側には金の鳥獣模様の彝(古代の酒器)、片側にはガラスの箱がありました。
床には二列に十六脚の楠木の折りたたみ椅子が並び、また一つの対聯があり、黒檀の板に銀の象嵌の文字が施されていました。
座上の珠玉は日月を照らし、堂前の黼黻は煙霞に輝く。
下に一行の小さな文字で、「同郷世教弟勳襲東安郡王穆蒔拜手書」とありました。
実は、王夫人(二叔母)が普段座ったり宴会したりする場所は、この正室ではなく、この正室の東側にある三間の耳房(わきの部屋)の中でした。
そこで老乳母が黛玉を東の部屋の入口へ案内しました。
窓際の大きな平床には猩紅色の外国産の毛織物が敷かれ、正面には大紅に金銭模様の蟒の背もたれ、石青色に金銭模様の蟒の肘掛け、秋香色に金銭模様の蟒の長い敷物が設けられていました。両側には一対の梅の形をした外国産の漆塗りの小机が置かれています。左側の机には文王鼎(香炉)と匙、箸、香盒があり、右側の机には汝窯の美人觚(花瓶)があり、花瓶の中には季節の生花が活けられ、茶碗や痰壺などが置かれていました。
床面には、西向きに四脚の椅子が一列に並び、すべて銀紅色の花模様の椅子カバーがかけられ、下には四組の足置きがありました。椅子の両側にも一対の高い机があり、机の上には茶碗と瓶花が備えられていました。その他の調度品については、細かく述べる必要はないでしょう。
老乳母たちは黛玉を平床に座らせようとしましたが、平床の縁には二枚の錦の座布団が向かい合って設けられていたため、黛玉はその位置を見て、平床には上がらず、東側の椅子に座りました。
この部屋の女中が慌ててお茶を捧げてきました。黛玉はお茶を飲みながら、この女中たちを観察しました。その装いや衣装、振る舞い、動作は、やはり他の家とは異なっていました。
お茶を飲み終わらないうちに、一人の赤い綾の上着に青い繻子の縁取りのある背心を着た女中が来て、笑って言いました。「奥様が、林のお嬢様には向こうの部屋に座るようにと仰せです。」
老乳母はそれを聞いて、そこでまた黛玉を案内して、東側の回廊にある三間の小さな正房に入りました。
正房の平床には、一つの座卓が横に設けられ、テーブルの上には書物や茶器が積まれていました。東の壁に面して半ば古びた青繻子の背もたれと肘掛けが設けられていました。王夫人は西側の席の下側に座っており、これも半ば古びた青繻子の背もたれ付きの座布団でした。
黛玉が来たのを見て、東側へ席を譲りました。黛玉は心の中で「これは賈政の席に違いない」と推測しました。そこで、平床の縁に並ぶ三脚の椅子に、半ば古びた墨で柄をつけた椅子カバーがかけられているのを見て、黛玉はその椅子に座りました。
王夫人は重ねて彼女を引っ張って平床に上がらせようとしましたが、ようやく王夫人のそばに寄り添って座りました。
王夫人はそこで言いました。「あなたのお叔父様(賈政)は、今日斎戒に行かれたので、また改めて会ってください。ただ、一つだけあなたに言い聞かせたいことがあります。あなたの三人の姉妹は皆極めて良い子で、今後一緒に読書や裁縫をしたり、たまたま一緒に遊んだりする時も、皆譲り合ってくれるでしょう。
ただ、私が最も心配でならないのは一つです。私には一つの『悪の根源、災いの種』、家の中の『混世魔王(世を乱す悪魔)』がいます。今日は寺に願掛けに行っているので、まだ帰ってきていません。晩には彼に会えばわかるでしょう。あなたはただ、今後彼を相手にしないことです。あなたの姉妹たちでさえ、彼に関わろうとはしないのですから。」
【宝玉の素行と黛玉の心構え】
黛玉も母親から常々聞かされていたことでした。二叔母が生んだいとこは、玉をくわえて生まれ、極めて腕白で、読書をひどく嫌い、最も好むのは女性の部屋でうろつくこと。外祖母がまた極度に溺愛しており、誰も手がつけられません。
今、王夫人がこのように言うのを見て、このいとこのことだと悟りました。
そこで愛想笑いをして言いました。「叔母様がおっしゃるのは、あの玉をくわえて生まれたお兄様のことでしょうか?実家にいた時も、母からいつも聞いていました。このお兄様は私より一歳年上で、幼名を宝玉と呼ぶ。極めて腕白だが、姉妹たちには大変優しいと。ましてや、私が来たからには、 当然姉妹たちとだけ過ごすでしょう。兄弟たちは当然別の庭、別の部屋にいるのですから、どうして関わろうなどとするでしょうか?」
王夫人は笑って言いました。「事情を知らないのね。彼は他の人と違う。幼い頃から老太太(祖母)に可愛がられて、もともと姉妹たちと同じ場所で甘やかされ慣れてしまったのだ。もし姉妹たちが彼を相手にしない日があれば、彼はかえって少しは大人しくなる。たとえ面白くなくても、裏門を出て、陰で彼の二人の小間使いに八つ当たりをして、ぶつぶつ文句を言って終わりだ。もしこの日、姉妹たちが彼と一言でも多く話すと、彼は心の中で喜び、どれほどの面倒を引き起こすかわからない。だから、あなたに彼を相手にしないように言い聞かせているのだ。彼は口を開けば、ある時は甘い言葉を言い、ある時は天を恐れず地を恐れぬことを言い、ある時は気が触れたり、ぼけたりする。決して信じてはいけない。」
黛玉は一つ一つ返事をしました。
【王熙鳳の居所と夕食】
すると、一人の女中が来て報告しました。「老太太(賈母)の部屋から夕食の呼び出しです。」
王夫人は慌てて黛玉の手を取り、奥の扉から後ろの回廊を通り西へ進み、隅の門を出ると、一つの南北に広い脇道がありました。南側には倒座(北向き)の小さな三間の控えの広間があり、北側には薄紅色の大きな衝立が立っています。その後ろに一つの小さな門があり、小さな一軒の建物がありました。
王夫人は笑って黛玉を指し示して言いました。「ここはあなたの鳳(熙鳳)姉さんの部屋よ。後で彼女を訪ねてここに来なさい。何か必要なものがあれば、遠慮なく彼女に言えばよい。」
この庭の門にもまだ髪を結い始めたばかりの五、六人の小間使いが、手を垂れて立っていました。
王夫人はそこで黛玉の手を取り、一つの東西に貫く広間を通り抜け、賈母の後ろの庭へ行きました。そして、奥の扉に入ると、すでに多くの人々がここで控えており、王夫人が来たのを見て、ようやくテーブルと椅子を設置しました。
賈珠の妻、李氏がご飯を捧げ、熙鳳が箸を並べ、王夫人が汁物を運びました。
賈母は正面の平床に一人で座り、両側には四脚の空の椅子がありました。熙鳳は慌てて黛玉を引っ張り、左側の最初の椅子に座らせました。黛玉は非常に謙遜して辞退しました。
賈母は笑って言いました。「あなたのお叔母様やお義姉さんたちは、ここでは食事をしない。あなたは客人なのだから、このように座るのが当然だ。」
黛玉はようやく席を譲ってもらい、座りました。賈母は王夫人に座るように命じました。迎春たち三姉妹も席を譲ってもらい、ようやく上って来ました。迎春は右側の最初に座り、探春は左側の二番目、惜春は右側の二番目に座りました。
傍らには女中がはたき、うがい用の器、手拭いを持って控えています。李氏と熙鳳の二人は机のそばに立ち、料理を分け与えています。外の部屋で控えている妻や女中たちは大勢いましたが、咳一つさえ聞こえませんでした。
静かに食事が終わると、各自の女中が小さな茶盆でお茶を捧げてきました。
【宝玉の再登場】
当時、林如海は娘に福を惜しみ、養生するように教えており、「食後には必ず飯粒が喉を通り過ぎるのを待ち、少し時間を置いてからお茶を飲むこと。そうして初めて脾臓や胃を傷つけない」と言っていました。今、黛玉はここでは多くのことが実家の作法とは合わないのを見て、従わざるを得ないので、すべて一つ一つ改めるより他ありません。そこでお茶を受け取りました。
すぐに人がまたうがい用の器を捧げてきました。黛玉も同じように口を漱ぎました。手を洗い終 わると、またお茶が捧げられました。これこそが飲むためのお茶でした。
賈母は言いました。「お前たちは下がりなさい。私たちだけでゆっくり話すことにするから。」
王夫人はそれを聞いて、慌てて立ち上がり、また二言三言世間話をしてから、鳳と李氏の二人を連れて去っていきました。
賈母は黛玉に何を読んでいるのか尋ねました。黛玉は答えました。「ちょうど『四書』を読んだばかりです。」
黛玉はまた姉妹たちが何を読んでいるのか尋ねました。賈母は言いました。「何を読んでいるというのだ。ただ文字を二、三認識できる程度で、目を開けたままの盲人ではない程度よ!」
この言葉が言い終わらないうちに、外から一陣の足音が聞こえ、女中が入ってきて笑って言いました。「宝玉様がいらっしゃいました!」
黛玉は心の中でちょうど疑っていました。「この宝玉という人物は、一体どのような手に負えない人間、世間知らずの子供なのだろう?あの蠢物には会わない方が良いのだが。」
心の中でそう考えていると、女中が報告を言い終わらないうちに、一人の若い公子が入ってきました。
頭上には髪を束ねた宝玉を象嵌した紫の金の冠を戴き、眉の高さには二匹の龍が珠を奪い合う金色の鉢巻を締めています。二色の金糸で百蝶が花を舞う大紅の袖の細い上着を着て、五色の絹糸で花を結び、長い房飾りのある宮縧を締め、外には石青色で花模様の八つの丸い模様が浮き出た外国製の絹の裾の長い上着を羽織り、青い繻子の厚底の小さな朝靴を履いています。
顔は中秋の名月のようであり、肌の色は春の夜明けの花のようです。もみあげは刀で裁ったように整い、眉は墨で描いたように美しく、顔は桃の花びらのように、目は秋の波のように澄んでいます。怒っている時でさえ笑っているように見え、睨みつけている時でさえ情愛を帯びています。
首には金の龍の形の飾り輪をつけ、また一本の五色の絹の組紐が、一つの美しい玉を結びつけています。
黛玉は一目見るや、大変驚き、心の中で思いました。「何と不思議なこと!まるでどこかで会ったことがあるようだ。
この宝玉は賈母に挨拶を済ませると、賈母はすぐに命じました。「お前の母に会ってきなさい」宝玉はすぐに振り返って去っていきました。
しばらくして戻ってくると、もう冠や帯を替えていました。頭の周りの短い髪はすべて小さな三つ編みに結ばれ、赤い絹糸で結ばれています。それがすべて頭頂の産毛に集められ、一つの大きな三つ編みに編まれると、漆のように黒く輝くのでした。頭頂から毛先まで、四つの大きな真珠が連なり、金の八宝の房飾りが垂れ下がっています。
身には銀紅色の花模様のある半ば古びた大きな上着を着ており、相変わらず飾り輪、宝玉、お守りなどを身につけています。下半身は松花色の花模様の絹のズボンが少し見え、錦の縁取りのある墨で柄をつけた靴下、厚底の大紅の靴を履いています。
ますます顔は白粉を塗ったように、唇は紅を差したように見え、視線を動かすたびに情愛に満ち、話す言葉は常に笑みを含んでいます。生まれつきの優雅な色気は、すべて眉の先にあり、生涯の万の情の思いは、すべて目尻に集まっています。
その外見は極めて優れていましたが、その内情を知ることは難しいものでした。後世の詩に、宝玉を評して極めて的確な二つの詞があるのですが、それは次の通りです。
理由もなく愁いを求め、恨みを捜し、 時には愚か者、時には狂人のよう。 たとえ良い皮の袋(外見)に 生まれたとしても、 腹の中は元々草と木の莽原。 落ちぶれて世間の事情に通じず、 愚かで頑固、文章を読むのを怖がる。 行いはひねくれ、性質はわがまま、 世間の誹謗など気にかけない!
富貴にあっても楽しむことを知らず、 貧窮になれば寂しさに耐えられない。 惜しむらくは、良い青春の時を無駄にし、 国に対しても、家に対しても、望みはない。 天下に無能な者、これに勝るものなく、 古今に不肖な者、二つとない。 遊び人や富裕な子弟に言づける: この子の真似はするな!
【玉を投げ捨てる宝玉】
賈母は笑って言いました。「客人にまだ会っていないのに、服を脱いでしまうとは。早くお前の妹に会いに行きなさい!」
宝玉はすでに一人多い姉妹がいるのを見て、すぐに林叔母の娘だと推測し、慌てて挨拶に来ました。
互いに挨拶を終え、席に戻って、その容姿を細かく観察すると、他の皆とは別格でした。
二筋の眉はまるで顰めているようで、煙を纏っているようでありながら、顰めているようでなく、一対の目はまるで泣いているようで、露を含んでいるようでありながら、泣いているようでなく見えました。憂いは両頬に生まれ、愛らしさは全身の病に覆われています。涙の光が点々とし、か細い息遣いがかすかに聞こえます。静かな時は美しい花が水面に映るように、行動する時は弱い柳が風に揺れるようです。心は比干(古代の賢人)よりも一竅(一穴)多く、病は西施(古代の美女)よりも三分勝っているかのようです。
宝玉は見終わって、笑って言いました。「この妹には、私は以前会ったことがある」
賈母は笑って言いました。「またでたらめを言うのか。お前がいつ彼女に会ったというのだ?」
宝玉は笑って言いました。「たとえ会ったことはなくても、私が見て顔立ちが優しく、心の中では旧知の仲だと思っている。今日を遠い別れの後で再会したことにしても、悪いことはないでしょう」
賈母は笑って言いました。「もっと良い、もっと良い!そうであれば、もっと仲良くなるだろう」
宝玉は黛玉のそばに歩み寄って座り、また細かく打診しました。そして尋ねました。「妹は読書をしたことがありますか?」
黛玉は答えました。「読んだことはありません。ただ一年だけ学校へ行き、わずかに文字をいくつか認識できる程度です」
宝玉はまた尋ねました。「妹の尊いお名前はどの二文字ですか?」黛玉はそこで名を言いました。
宝玉はまた字を尋ねました。黛玉は答えました。「字はありません」
宝玉は笑って言いました。「私が妹に一つの妙なる字を贈ろう。『顰顰』の二文字が極めて素晴らしいのではないか」
探春はそこで何に基づいているのか尋ねました。宝玉は答えました。「『古今人物通考』に『西方に黛という名の石があり、眉を描く墨の代わりになる』と書いてある。ましてやこの林妹は眉尻がまるで顰めているようだ。この二文字を取って用いるのは、なんと二重の妙ではないか!」
探春は笑って言いました。「どうせまたあなたの杜撰(でっち上げ)でしょう」
宝玉は笑って言いました。「『四書』以外は、杜撰なものが多すぎる。私だけが杜撰だというのか?」
そしてまた黛玉に尋ねました。「玉も持っているかい、持っていないかい?」
皆はその言葉の意味が分かりませんでしたが、黛玉は彼が玉を持っているので、私にもあるかどうか尋ねているのだろうと推測しました。そこで答えました。「私はあの玉は持っていません。考えてみれば、あの玉は珍しい物で、どうして誰でも持てるでしょうか」
宝玉はそれを聞いて、たちまち狂気の病を発作させました。その玉を首から外し、力任せに投げ捨てて、罵りました。
「何が珍しい物だ!人の身分の高低すら選ばないくせに、まだ『通霊(霊が通じる)』だの『通霊でない』だのと言う!私もこの面倒なものはもういらない!」
驚いた人々は一斉に玉を拾いに行きました。
賈母は焦って宝玉を抱き締めて言いました。「この罪深い子!お前が腹を立てて、人を殴ったり罵ったりするのは簡単だ。どうしてその命の根を投げ捨てたりするのか!」
宝玉は顔中を涙で濡らして泣きながら言いました。「家の姉さんや妹さんは皆持っていないのに、私だけが持っている。私はつまらないと思っていた。今、こんな神仙のような妹が来たのに、彼女も持っていない。やはりこれは良いものではないとわかる!」
賈母は慌てて彼を宥めて言いました。「お前のこの妹は元々これを持っていたのだ。お前の叔母(賈敏)が亡くなった時、お前の妹を手放すのが忍びなかったため、仕方がなく、彼の玉を身に着けて行ったのだ。一つには殉葬の礼を全うし、お前の妹の孝行の心を尽くすため、二つにはお前の叔母の霊が、娘に会ったつもりになれるためだ。だから彼は持っていないと言ったのだ。自分で自慢するのは良くないと思ってのことだ。お前がどうして彼と比べられるか?まだちゃんと慎重に身に着けて、お前の母(王夫人)に知られると大変だぞ」
そう言って、女中の手から玉を受け取り、自ら彼に身に着けさせました。宝玉はそう聞くと、大いに道理があると思い、それ以上別の言い分を立てることはありませんでした。
【黛玉の居場所と襲人】
その場にいた乳母が黛玉の部屋について尋ねました。
賈母は言いました。「今、宝玉を移動させて、私と同じ続きの間の暖かい部屋にいる。お前の林さんはとりあえず碧紗の帳の中に一時的に安置しよう。この冬の終わりを過ぎたら、春になったら改めて彼らの部屋を片付けて、別の場所を整えることにする」
宝玉は言いました。「素晴らしいおばあ様、私はこの碧紗の帳の外のベッドで十分落ち着いていられるので、どうしてまた出ていって、おばあ様を落ち着かなくさせる必要がありますか」
賈母は少し考えて言いました。「それもそうだ」
一人に一人の乳母と一人の女中が世話をし、残りの者は外の部屋で夜勤をして呼ばれるのを待つことになりました。
一方では熙鳳がすぐに人をやって、薄紫の花模様の蚊帳と、数枚の錦の布団と繻子の敷物などを送らせました。
黛玉はただ二人だけを連れて来ていました。一人は幼い頃からの乳母である王婆々、もう一人は十歳の小さな女中で、やはり幼い頃から身の回りにいた、名を雪雁と言います。
賈母は雪雁が非常に幼く、まるで子供であること、王婆々がまた大変年老いているのを見て、黛玉が満足 せず、手助けにもならないだろうと推測し、自分のそばにいる二等女中で、名を鸚哥という者を黛玉に与えました。その他にも、迎春たちと同じ例で、各自、幼い頃からの乳母の他に、四人のしつけ役の婆々、身の回りの世話(髪飾りや手洗い)をする二人の女中の他に、五、六人の掃除や雑用をする小さな女中が付きました。
その時、王婆々と鸚哥が黛玉に付き添って碧紗の帳の内側にいました。宝玉の乳母である李婆々と、上級女中で名を襲人という者が、外側の大きなベッドに付き添っていました。
実は、この襲人も賈母の女中で、本名は珍珠でした。賈母は宝玉を溺愛しており、宝玉の女中に心から尽くす者がいないのを恐れ、かねてより襲人が心が純粋で善良であり、職務を完璧にこなすのを好んでいたため、彼女を宝玉に与えました。
宝玉は、彼女の本姓が花であることを知り、また昔の人の詩句に「花気襲人(花の香りが人に襲いかかる)」という句を見たことがあったので、賈母に報告して、名を襲人に改名しました。
この襲人も少しばかり愚直なところがありました。賈母に仕えていた時は、心にも目にも賈母一人しかいませんでしたが、今や宝玉に仕えて、心にも目にも宝玉一人しかいません。ただ、宝玉の性質がひねくれていたため、度々宝玉を諫めることがあり、心中は本当に憂鬱でした。
【金陵からの手紙】
その晩、宝玉と李婆々はもう寝ていました。襲人は内側の黛玉と鸚哥がまだ寝ていないのを見て、自ら化粧を落とし、静かに部屋に入り、笑って尋ねました。「お嬢様、どうしてまだ休まないのですか?」
黛玉は慌てて「姉さん、どうぞ座ってください」と勧めました。襲人はベッドの縁に座りました。
鸚哥は笑って言いました。「林のお嬢様はここで悲しんでおられます。一人で涙を流し、目を拭いながら言われるのです。『今日来たばかりなのに、さっそくお宅の坊ちゃんの狂気の病気を引き起こしてしまった。もしあの玉を壊してしまったら、私のせいではないか!』と。だから悲しんでおられるのです。私がやっとのことで慰めたところです」
襲人は言いました。「お嬢様、どうかそうしないでください。将来、これよりもっと奇妙な、笑い話のようなことがまだあるかもしれませんよ!彼のような振る舞いのために、あなたが気に病んで傷心していたら、傷心しきれないかもしれません。早く気に病むのはやめてください!」
黛玉は言いました。「姉さんたちが言うこと、心に留めておくことにします。ところで、あの玉は一体どのような来歴なのですか?上には文字も彫られているのですか?」
襲人は言いました。「家族全員も来歴を知りません。上には元々穴が開いていて、生まれた時、彼の口から取り出されたと聞いています。私が持ってきて、あなたに見せてあげましょう」
黛玉は慌てて止めて言いました。「結構です。今夜も遅いので、明日見るのでも遅くはないでしょう」
皆はまたしばらく世間話をして、ようやく寝静まりました。
翌日起きると、賈母の元へ挨拶に行った後、王夫人の部屋へ行きました。
ちょうど王夫人と熙鳳が金陵から来た手紙を一緒に開いて読んでいるところでした。また、王夫人の兄夫婦の元から二人の妻が話をしに来ていました。
黛玉は詳しい事情を知りませんでしたが、探春たちは皆知っていました。それは、金陵の城内に住む薛家(王夫人の妹の夫の一族)の伯母の息子、いとこの薛蟠が、財力を恃んで権勢を笠に着て、人殺しの事件を起こし、現在応天府の役所で審理中である、という話でした。
今、叔父の王子騰がその知らせを聞いたので、彼の家内の者を遣ってこちらに知らせ、彼を都へ呼び寄せようと考えていたのでした。
さて、その後の展開は、次回の解説をお待ちください。
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第三回の要約
この回は、物語の主要人物と舞台が本格的に登場する、非常に重要な導入部です。大きく分けて二つの出来事が描かれます。
賈雨村の復職
職を失っていた知識人の賈雨村は、林黛玉の父・林如海の推薦と、都にいる親戚・賈政の尽力によって、見事に官職への復帰を果たします。これは、物語の背景にある貴族社会の「コネ」の力を示しています。
林黛玉の栄国府入りと運命の出会い
母を亡くし病弱な少女・林黛玉は、父の勧めで都にある母方の祖母・賈母が暮らす栄国府に身を寄せることになります。
黛玉は、初めて訪れる栄国府の壮麗さと、そこに住む人々の複雑な関係性や厳格な作法に圧倒されながらも、細心の注意を払って振る舞います。
優しい祖母・賈母、三人のいとこの姉妹(迎春・探春・惜春)、そして一族の実権を握る華やかで有能な義姉・王熙鳳らと次々に対面します。
そして、物語の主人公であるいとこ賈宝玉と運命的な出会いを果たします。
二人は互いを見るなり、「まるで以前どこかで会ったことがあるようだ」という不思議な感覚に襲われます。
宝玉は、自分だけが持つ特別な「玉」を黛玉が持っていないと知ると、「こんなものは要らない」と癇癪を起して玉を投げ捨ててしまいます。これは、彼が世俗の価値よりも黛玉との精神的な繋がりを重んじる、型破りな人物であることを強く印象付けます。
この冒頭部分が示す「真髄」の解読
作者がこの第三回を通して、はじめに読者へ示したかった真髄は、以下の三点に集約できます。
壮大な舞台「栄国府」と複雑な人間模様の提示
黛玉の視点を通して、読者はまるで彼女と一緒に栄国府を訪れたかのような体験をします。きらびやかな調度品、大勢の使用人、厳格な礼儀作法。これは、物語が展開される封建貴族社会の縮図です。一見すると華やかで秩序だったこの世界が、いかに窮屈で、人間関係が複雑であるかを暗に示しています。ここが、登場人物たちの喜びと悲しみが生まれる「檻」のような場所であることを予感させます。
物語の中心テーマ「運命的な愛」の提示
宝玉と黛玉が出会った瞬間に感じた「既視感」と、宝玉が黛玉のために自分の命の次に大事な「玉」を投げ捨てるという衝撃的な行動。これは、二人の関係が単なるいとこ同士のものではなく、前世から定められた宿命的な魂の結びつきであることを象徴しています。この「木石の縁」と呼ばれる運命的な愛が、この壮大な物語の縦糸となっていくことを読者に宣言しているのです。
「繁栄」の裏に潜む「衰退」の兆し
一族の絶対的な権力者である賈母の溺愛、実権を握る王熙鳳のしたたかさ、そして最後に触れられる親戚・薛蟠が起こした人殺しの事件。これらは、栄華を極める賈家に潜む問題を暗示する伏線です。特に、宝玉の常軌を逸した行動は、この社会の価値観(学問で出世すること)から外れた存在であり、一族の未来にとっての不安要素でもあります。作者は、この物語が単なる貴族の華やかな暮らしを描くのではなく、栄華の頂点からやがて避けられない衰退へと向かう、壮大な「盛者必衰」の物語であることを、冒頭から巧みに示唆しているのです。
簡潔に言えば、第三回は「壮大な舞台設定」「運命的な主人公たちの登場」「物語全体の悲劇的なテーマの暗示」という三つの役割を一度に果たしており、『紅楼夢』という巨大な物語の扉を開ける、極めて巧みな導入部と言えるでしょう。
『紅楼夢』の物語の奥行きを決定づける、侍女、使用人、物語に深く関わる周辺人物に焦点を当て、さらに詳細な人間関係図を掘り下げて解説します。
特に、主役級の女性たち(金陵十二釵)に仕える主要な侍女たちは、その主人の運命と密接に結びついています。
『紅楼夢』詳細人物相関図:侍女と周辺人物
I. 栄国府 賈母(史老太君)の周り
賈母は最高権力者であり、彼女の周りの侍女は最も権威があります。
| 人物名 | 役割/地位 | 主な特徴と関係性 |
鴛鴦 | 賈母の筆頭大侍女 | 忠実で権威があり、賈母から絶大な信頼を得ている。賈赦から側室に求められるが断固拒否する。
琥珀 | 賈母の侍女 | 賈母の身の回りの世話をする。
| 王善保家の | 賈母の乳母の夫の妻 | 賈府の年配の使用人。権威を笠に着て、賈母の威光を利用する。のちの「抄検大観園」の発端となる。
II. 賈宝玉(主人公)の周り
宝玉の部屋(怡紅院)の侍女たちは、皆「金陵十二釵副冊」に入るほどの美しい女性たちであり、彼の精神的な支柱です。
| 人物名 | 役割/地位 | 主な特徴と関係性 |
襲人 | 宝玉の筆頭侍女 | 献身的で思慮深く、第六回で宝玉の初めての相手となる。後に宝玉の側室(姨娘)と見なされる。
晴雯 | 宝玉の侍女 | 俊敏で美しく、口が達者。宝玉を心から慕うが、その気性の激しさから妬まれ、悲劇的な最期を遂げる。
麝月 | 宝玉の侍女 | 忠実で穏やか。襲人と晴雯の間に立ち、部屋の調和を保つ。
茗煙 | 宝玉の小姓(小廝) | 宝玉の遊び相手兼従者。機転が利き、宝玉の秘密の用事を引き受ける。
III. 林黛玉の周り
黛玉の侍女は人数が少ないですが、彼女の繊細な心を知る存在です。
| 人物名 | 役割/地位 | 主な特徴と関係性 |
紫鵑 | 黛玉の筆頭侍女 | もとは賈母の侍女で、黛玉に付けられた。黛玉を実の妹のように愛し、彼女の結婚問題に深く関わる。
雪雁 | 黛玉の侍女 | 年少の侍女。
IV. 王熙鳳(鳳姐)の周り
鳳姐の部屋(庁)の侍女は、彼女の強大な権力を支える実務担当者です。
| 人物名 | 役割/地位 | 主な特徴と関係性 |
平児 | 鳳姐の筆頭侍女 | 機知に富み、賢明。賈璉の側室でもあるが、鳳姐に虐げられている。鳳姐の家政の右腕。
| 周瑞家の | 鳳姐の乳母の妻 | 賈府の主要な連絡係。外部の親戚(劉姥姥など)との窓口となる。
V. 物語序盤の主要な周辺人物
物語の展開、特に賈家の衰退と絡んで重要な役割を果たす人物群です。
| 人物名 | 所属/関係 | 概要と主な役割 |
甄士隱 | 第一回の主人公 | 物語の導入役。夢幻を通して通霊の玉を知り、人生の無常を悟って出家する。黛玉の行方不明の異母姉(英蓮/香菱)の父。
賈雨村 | 士大夫/官僚 | 第一回、第二回の重要人物。士隱の友人であり、第五回で葫蘆案を乱裁し、情に囚われ世俗に流される人物の典型。
冷子興 | 都の商人 | 第二回で賈雨村に「栄国府の演説」を行い、読者に賈府の詳細な内情と衰退の兆しを語る解説役。
劉姥姥 | 貧しい親戚 | 鳳姐の母方親戚の連宗。第六回で初めて賈府を訪れ、貧乏人の視点から賈府の豪華絢爛な生活を描写し、物語に喜劇的要素と現実味を加える。
秦可卿 | 寧国府の賈蓉の妻 | 美貌と神秘性を持つ女性。宝玉の夢に現れ、「太虚幻境」へ導く。病死するが、死因には様々な憶測がある。
薛蟠 | 薛家の息子 | 第四回で馮淵を撲殺し、賈雨村に「葫蘆案」を裁かせる原因を作る。放蕩息子の典型。
この詳細な相関図により、賈府の複雑な構造と、各人物が持つ運命的な繋がりがより鮮明になったかと思います。




