第二十回:王熙鳳 正論で嫉妬を諫め、 林黛玉 気の利いた言葉で愛らしい訛りをからかう。
李嬤嬤の嫉妬と鳳姐の裁き
さて 宝玉が林黛玉の部屋で「ねずみ精」の話に興じていると 薛宝釵がやって来ました
宝玉が元宵節の詩で「緑蠟」の典故を知らなかったことを宝釵が軽く皮肉り 三人は部屋で互いに和やかに戯れ合っていました
宝玉は黛玉が食後に眠りすぎて食べ物が消化不良になったり 夜間に寝付けなくなったりするのを常々心配していました
幸い宝釵が来て皆で談笑していたため 黛玉は眠ろうとせず 宝玉は安心しました
ふと 自分の部屋から賑やかな大声が聞こえてきたので 皆で耳を澄ませました
黛玉が先に笑って言いました
あら あなたのお婆さま乳母と襲人が騒いでいますよ
襲人はともかく あなたのお婆さまが本気で彼女を責め立てるなら 老いぼれて分別を失ったものですわ
宝玉は慌てて駆け寄ろうとすると 宝釵がそっと腕を掴んで言いました
あなたは今 お婆さまと喧嘩するのはおやめなさい
あの方は年老いて分別がないのだから 一歩譲って差し上げるのが道理ですわ
宝玉は承知したと答え そのまま歩いて部屋に向かいました
部屋に入ると 李嬤嬤が杖を突いて床の上で襲人を激しく罵っているところでした
恩を忘れた小娼婦め
私があなたを慈しみ育てたのに 今 私が来たらあなたは偉そうに寝台に寝ている
私が来たのに挨拶一つしない
宝玉を狐のように惑わして自分だけに靡かせ 宝玉が私の言うことを聞かずにあなたたちの言葉に従うようにしている
あなたはただの何両かの銀子で買われた女中だろう
この部屋で勝手な振る舞いをして良いと思っているのか
良いか悪いか 外に出して下男とめとりさせてやるぞ
そうなってもまだあなたは妖精のように宝玉を惑わすか
襲人は最初 李嬤嬤が自分が寝ていたことに腹を立てているのだと思い 病気で汗をかいたばかりだったので 布団を被っていてあなたに気づかなかったと言い訳していました
しかし後に 宝玉を惑わす 狐の媚を売る 下男とめとりさせるという激しい言葉を聞き 思わず恥ずかしさと悔しさで 涙が頬を伝い泣き出してしまいました
宝玉はこれらの言葉を聞いてもどうすることもできず 襲人が病気で薬を飲んでいることを弁護し 信じないなら他の女中たちに聞いてくださいと言いました
李嬤嬤はこれを聞き いよいよ怒りが増して言いました
あなたはただ狐たちを庇うばかりで 私のことなどもう認めないのか
誰に聞けというのだ
誰もあなたの味方をするだろう
誰も襲人に逆らいはしない
私はすべてお見通しだ
老太太様や太太様の前で白黒はっきりさせてやる
あなたをここまで育ててやったのに 今や乳を飲まなくなったら私を放り出し 女中たちが私に対して偉そうにするのを許している
そう言いながら彼女もまた泣き出してしまいました
そこへ黛玉や宝釵らが駆け寄り お婆さま どうか彼らを少しだけ許してあげてくださいと優しく説得しました
李嬤嬤は二人が来たのを見て 彼らを引き留めてなおも自分の不満を訴え続けました
あの日のお茶のこと 茜雪が追い出されたこと そして昨日の乳酪のことなど 様々なことをくどくどと並べ立てました
ちょうどその時 鳳姐が奥の広間で賭け事の会計を終えたところでした
後ろから騒ぎ声を聞き 李嬤嬤の老いぼれ病が再発し 宝玉の周りの人を罵っているのだと察しました
ちょうど彼女は今日賭けに負け 気分が優れず当たり散らしたい心持ちだったのです
鳳姐は慌てて駆け寄り 李嬤嬤を引き留め 笑いながら言いました
ねえ お婆さま どうかご立腹なさらないでください
元日の祝いで老太太様がようやく機嫌良く過ごされたばかりです
あなたは年長者なのですから 他人が大声を出したら叱るべきですよ
まさかあなた自身が規律を知らずにここで騒ぎ立て 老太太様を不快にさせるつもりですか
誰が悪いかおっしゃってください
私が代わりにお仕置きしてあげます
うちには焼いた野鶏がありますから 早く私と一緒に酒を飲みに行きましょう
そう言いながら 李嬤嬤を強引に引っ張って行き 豊児に李お婆さまの杖と 涙を拭く手巾を持ってあげなさいと命じました
李嬤嬤は足が地につかないほどの速さで鳳姐に連れられて行き ながらも
私はもう命などいらない
いっそ今日は規律なんて無視して一大騒ぎして面目を潰したほうが あの娼婦のような女に腹を立てさせられるよりましだと言い続けました
後ろで宝釵と黛玉はそれを見て 手を叩いて笑いました
ああ この一陣の風 鳳姐が来たおかげで あの婆さんを連れ去ってくれたわ
宝玉は頷いてため息をついて言いました
またどこかの不満をここで晴らしているのだ
ただ弱い者を選んで難癖をつける
昨日はまたどの娘さんが彼女の機嫌を損ねたのか そのツケがここに回ってきたのだ
言い終わらぬうちに 晴雯が傍らで笑いながら言いました
誰も馬鹿ではないわ
あの人の機嫌を損ねてどうするんだい
もし機嫌を損ねたとしても それを引き受ける度胸があるならば 他人を巻き込む必要などないわ
襲人は泣きながら 宝玉を引き寄せて言いました
私のせいで一人の老婆様を怒らせたのに あなたは今また私のためにこんな人たちまで敵に回して
これだけでも私が受ける苦労は十分です
また他の人を引き込まないでください
宝玉は彼女が病気で さらにこのような煩悩を抱えているのを見て 慌てて怒りをこらえて黙り込み 彼女を慰めて再び寝て汗をかくように勧めました
また彼女が熱を出しているのを見て 自分がそばで見守り 横になりながら 病気を治すことだけ考えて どうでも良いことに腹を立てないようにと説得しました
襲人は冷笑して言いました
もしこんなことで生気を失っていたら この部屋には一瞬たりともとどまれないですよ
ただ こういう状態が長く続くのだとしたら 一体どうすれば良いのですか
いつもあなたに忠告しているでしょう 私たちのために人を敵に回すなと
あなたはただ一時の気持ちでそうするけど 彼らは皆心に留めていて 何かの折には 良い方にも悪い方にも言いふらして 皆がどうなってしまうのか
そう言いながら 思わず涙が流れましたが 宝玉を煩わすのを恐れ 強いてこらえました
麝月の優しさ
やがて雑用の婆さんが煎じた薬を二杯持って来ました
宝玉は彼女がちょうど汗をかいたばかりなので 起きさせたくなく 自分で薬の椀を持って寝台の傍らで飲ませました
そしてすぐに小さな女中たちに寝台を整理させました
襲人は言いました
あなたはご飯を食べるにしても食べないにしても とりあえず老太太様や太太様のところへ行って少し座って 娘さんたちと遊んでから戻ってください
私は静かに横になっているのがいいから
宝玉はこれを聞き 仕方なく彼女の髪飾りを外し 彼女が横になったのを見て 自分は上房へ向かいました
賈母と一緒に食事を済ませた後 賈母はなおも老管理人の婆さんたちとトランプ闘牌をして退屈を紛らわそうとしていましたが 宝玉は襲人のことを気にかけ 部屋へ戻りました
襲人はぼんやりと眠っているのが見えました
自分も寝ようとしましたが まだ時間が早かったです
その時 晴雯 綺霰 秋紋 碧痕は皆賑やかしいのを求め 鴛鴦や琥珀らのところへ遊びに行っていました
一人だけ麝月が外の部屋でランプの下で骨牌ごぱい相手に静かにしているのが見えました
宝玉は笑って尋ねました
どうして皆と一緒に遊びに行かないのかい
麝月は言いました
お金がないのです
宝玉は言いました
寝台の下にあんなにたくさん積んであるのに あなたが賭けに負けるほどないのかい
麝月は言いました
皆が遊びに行ってしまったら この部屋を誰が見るのですか
あの人襲人は病気だし
部屋中は上にはランプ 下には火がある
あの婆さんたちは年を取り 一日中仕えているのだから 休ませてあげるべきです
小さな女中たちも一日中仕えているのだから 今こそ遊ばせてあげるべきです
だから皆に行かせて 私がここで見ているのです
宝玉はこの言葉を聞き まるでもう一人の襲人ではないかと思いました
そこで笑いながら言いました
僕がここに座っているから 君は安心して行っていいよ
麝月は言いました
あなたがここにいるなら なおさら行く必要はないですね
二人で話したり遊んだりするのが良いではないですか
宝玉は笑いながら言いました
二人で何をするのかい
面白くないな
そうだ 今朝君が頭が痒いと言っていたね
今は何もすることがないから 僕が君の髪を梳いてあげよう
麝月はこれを聞いて それがいいですねと言いました
そう言って文具や鏡箱を運んできて 簪や腕輪を外し 髪を解きました
宝玉は櫛を持って一つ一つ髪を梳いてやりました
ただ三五回梳いたところで 晴雯が慌ててお金を取りに入って来ました
二人の様子を見るやいなや 冷笑して言いました
あら まだ契りの杯を交わしてもいないのに もう頭を梳いているのかい
宝玉は笑って言いました
君も来なよ 僕が梳いてあげる
晴雯は言いました
私にはそんな大きな福はないわ
そう言ってお金を持つと 戸を叩きながら出て行きました
宝玉は麝月の後ろに座り 麝月は鏡に向かっているため 二人は鏡の中で相手を見つめ合いました
宝玉は鏡の中で笑って言いました
部屋中で彼女だけが文句を言うな
麝月はこれを聞き 慌てて鏡の中で手を振りました 静かにという意
宝玉は意図を察しました
突然 戸の音が鳴り 晴雯がまた駆け込んできて尋ねました
私がどう文句を言ったって
ちゃんと話し合おう
麝月は笑いながら言いました
あなたはあなたで行きなさいよ
また人に聞きに来るなんて
晴雯は笑って言いました
あなたはまた彼を庇うのね
あなたたちのやっているごまかしは 私は全部知っているわ
私が賭けの負けを取り戻してから話すわ
そう言って さっさと出て行きました
ここで宝玉は髪を梳き終わり 麝月にそっと付き添わせて寝床に就きました
襲人を驚かさないようにとの配慮でした
一晩中何事もなく過ぎました
賈環の乱暴と鳳姐の正論
翌朝目を覚ますと 襲人はすでに夜間に汗をかいていたため 少し楽になっているようで ただ米湯を飲んで静養していました
宝玉は安心し 食事の後に薛姨媽の方へぶらぶらと遊びに行きました
ちょうど正月の内で学校が休み 娘たちも裁縫をしないため 皆が暇な時でした
賈環も遊びに来ていました
ちょうど宝釵 香菱 鶯児の三人が囲碁囲棋に興じているのを見つけ 賈環も遊びたいと言い出しました
宝釵は彼を宝玉と同じように扱い 特に区別しなかったので 彼が遊びたいと聞き 一緒に座るように勧めました
十文銭を一組として賭けました
最初の一回は彼が勝ち 心の中では大変喜びました
しかしその後連続で負けてしまい 少し焦り始めました
ちょうど今度は彼が賽子を振る番で 七点を出せば勝ち 六点を出せば次に鶯児が三点を振れば勝てるという状況でした
彼は賽子を力一杯振りましたが 一つは五点で止まり もう一つは回り続けました
鶯児は手を叩いて一点幺よと叫びました
賈環は目を見開き 六 七 八と無茶を言いました
その賽子が偏にも一点で止まりました
賈環は焦り 手を伸ばして賽子を掴み上げ 六点だと言い張って銭を取ろうとしました
鶯児は明らかに一点ですと言いました
宝釵は賈環が焦っているのを見て 鶯児を睨みつけて言いました
大きくなるにつれて規律がないね
まさか坊ちゃんがあなたを騙すというのかい
早くお金を置きなさい
鶯児は心の中で不満でしたが 宝釵に言われては黙るしかなく しぶしぶ銭を置きました
口の中でぶつぶつと言いました
坊ちゃんという人がこのわずかなお金をごまかすなんて 私さえも見下している
前に宝二爺と遊んだ時は あんなに負けても焦らなかった
残りの銭を小さな女中たちが奪い合っても 笑って済ませたのに
宝釵は言い終わらないうちに遮りました
賈環は言いました
私が宝玉と比べられるか
あなたたちは彼を恐れて 皆彼と仲良くして 私が太太様の子でないからといって皆でいじめるんだ
そう言って泣き出しました
宝釵は慌てて 良い弟よ 早くそんなことを言うのはおやめなさい
人が笑うでしょうと慰め また鶯児を叱りました
ちょうど宝玉が歩いて来て この様子を見て何があったのか尋ねましたが 賈環は怖くて黙り込みました
宝釵はもともと彼の家の規則を知っていて 凡そ弟は皆兄を恐れるものだと思っていました
しかし宝玉は人に恐れられるのを好まない人でした
彼は 弟たちには皆両親が教訓を与えるのだから なぜ僕が余計なことをしてかえって疎遠にならなければならない
ましてや僕は正妻の子で 彼は側室の子だ
そうでなくても陰で噂されているのに まさか彼を管理などできるか
と考えていました
さらに彼の中には一つの愚かな考えがありました
あなたは何の愚かな考えかと思うでしょう
彼は幼い頃から姉妹の中で育ち 実の姉妹には元春 探春 叔母の娘には迎春 惜春 親戚には史湘雲 林黛玉 薛宝釵などがいました
彼は 天が人を万物の霊長として生んだのは 凡そ山川日月の精華は皆女性に集まり 男などはただの残滓や濁った泡のようなものだと確信していました
この愚かな念が心にあるため すべての男性を混沌とした濁った存在 いてもいなくても良いと見ていました
ただ父や叔父 兄弟に対しては 孔子が古今最高の人物であると説いているため 逆らうことはできなく その言葉だけは聞かなければなりませんでした
だから 兄弟の間では大体の情理を尽くすだけで済ませ 自分が長男だからといって弟たちの模範になることなどは考えていませんでした
そのため賈環らは彼を恐れてはいませんでしたが 賈母を恐れているため 彼に三分の譲歩をしているだけでした
今 宝釵は宝玉が彼を教訓するとかえって面白くないと思い 慌てて賈環を庇いました
宝玉は言いました
大正月に何を泣いているのかい
ここが良くないなら 他の場所へ遊びに行けば良いだろう
君は毎日勉強しているのに かえって頭が鈍くなったのかい
例えばこの物が良くないなら どうせあの物が良いのだから これを捨ててあれを取ればいい
まさかこの物を守って泣いていたら良くなるとでもいうのかい
君はもともと楽しみに来たのだから 楽しめないなら他の場所へ楽しみを探しに行けばいい
泣いていたら楽しめるとでもいうのかい
かえって自分を煩わすだけだから早く行きなさい
賈環はこれを聞き しぶしぶ戻りました
趙姨娘が彼の様子を見て尋ねました
またどこかで踏みつけられてきたのかい
尋ねても答えないので また尋ねると 賈環は言いました
宝姉さんと遊んでいたのに 鶯児がいじめて 僕の銭をごまかした
宝玉兄さんが僕を追い出したんだ
趙姨娘はチッと舌打ちして言いました
誰があんな高い場所へ行けと言ったのだ
下品で恥知らずな奴
どこでも遊べるだろう
なぜわざわざ行って嫌な思いをするのだ
ちょうどそう言っていると 鳳姐が窓の外を通りかかりました
全て聞こえていました
そこで窓越しに言いました
大正月にまたどうしたのかい
環弟は子どもなのだから 少しの間違いならあなたはただ教導すればいい
なぜそんな下品な言葉を言うのか
彼がどうあろうと まだ太太様や旦那様が彼を管理しているのだ
大声で罵ったりするなんて
彼は今主人なのだから 悪いことをしたら横槍で教導する人がいる
あなたに何の関係があるのか
環弟 出てきなさい
私と遊びに行こう
賈環は日頃から王夫人よりも鳳姐を恐れていたので 呼ばれるのを聞いて 慌ててはいはいと言って出て来ました
趙姨娘も黙り込むしかありませんでした
鳳姐は賈環に向かって言いました
あなたもほんとに意気地がない
いつも言っているでしょう
食べたいなら 飲みたいなら 遊びたいなら 笑いたいなら ただあの姉さん妹さん 兄さん嫂さんと遊びたいなら その人と遊べばいい
私の言うことを聞かないで かえってあんな人たちに教えられて歪んだ心になり 狐の媚を売って暴君のように振る舞っているのかい
自分で自分を尊重せず 下劣な方へ走り 悪い心を抱いているのに まだ人が偏心すると怨むばかりだ
いくら負けたのかい
たったこれだけでそんな様子なんて
賈環は尋ねられ しぶしぶ一二百銭負けたと答えました
鳳姐は言いました
あなたはまだ旦那様なのに 一二百銭負けただけでこんな様子だなんて
振り返って豊児を呼び 一貫の銭を取ってきなさい
娘さんたちは奥で遊んでいるから 彼を送って遊ばせてあげなさい
明日またこんな下品な真似や狐の媚を売るなら 私がまずあなたを叩いて 学校に報告させるわ
皮を剥がれるのは免れないわよ
あなたのこの不謹慎なせいで あなたの兄さん宝玉は歯痒い思いをしているわ
私が止めなければ 腸が出るほどの腹蹴りを食らわせているわよ
行きなさいと命じられ 賈環ははいはいと言って豊児について行き 銭を得て自分で迎春らと遊びに行きました
この話は一旦終わりとします
黛玉と湘雲の「咬舌子」
さて 宝玉はちょうど宝釵と笑い合っていると 突然人が史大姐さん史湘雲が来たと報せました
宝玉は聞いて 立ち上がろうとしました
宝釵は笑って言いました
待って
二人で一緒に行って 彼女に会いに行きましょう
そう言って 寝台を降り 宝玉と一緒に賈母の方へ来ました
ちょうど史湘雲が大声で笑い話をしているところで 二人が来たのを見て 慌てて挨拶を交わしました
ちょうど林黛玉が傍らにいたので 宝玉に尋ねました
どこにいたのかい
宝玉は宝姉さんの家にいたと答えました
黛玉は冷笑して言いました
やはりね
あそこで足を取られなかったら もう飛んで来ているはずだと思ったわ
宝玉は笑って言いました
君とだけ遊んで 君の退屈を紛らわすことしか許されないのかい
たまたま彼女のところへ行っただけで こんなことを言うなんて
黛玉は言いました
ほんとうに意味のない言葉ね
行こうが行かないが 私に何の関係があるの
私があなたに退屈を紛らわせろなんて頼んだわけでもない
あなたはこれからずっと私を無視してもいいわよ
そう言って 腹を立てて部屋に戻りました
宝玉は慌てて後を追いかけて行きました
また何をして怒っているのかい
たとえ僕が間違っていたとしても とりあえずそこに座って 他の人と少し話して笑っていなよ
また自分で塞ぎ込むなんてと尋ねました
黛玉は言いました
あなたには関係ないわ
宝玉は笑いながら言いました
僕は自然と君を管理することなんてできないけど 君が自分の体を粗末にするのを見ているわけにはいかないよ
黛玉は言いました
私が体を壊して死のうと あなたに何の関係があるの
宝玉は言いました
なぜそんなことを言うのかい
大正月に死んだり生きたりなんて
黛玉は言いました
偏に死ぬと言うわ
私は今すぐ死ぬ
あなたは死ぬのが恐ろしいなら長生きすればいいでしょう どうだい
宝玉は笑いながら言いました
もしこういう騒ぎを続けるなら 僕は死ぬのが恐ろしいなんて言っていられないよ
いっそ死んだほうがすっきりする
黛玉は慌てて言いました
そうよ そうよ
こういう騒ぎをするなら 死んだほうがすっきりする
宝玉は言いました
僕は自分が死んだほうがすっきりすると言ったんだよ
聞き違えて人を責めるな
ちょうどそう話していると 宝釵が歩いて来て言いました
史大妹湘雲があなたたちを待っているわよ
そう言って 宝玉を押して行かせました
ここで黛玉はますます腹が立ち ただ窓の前で涙を流していました
二杯の茶を飲む間もなく 宝玉がまた戻って来ました
林黛玉は彼を見ると ますます泣き咽びました
宝玉はこの様子を見て もう挽回できないと知り あらゆる優しい言葉を並べて慰めようとしました
しかし自分が口を開く前に 黛玉が先に言いました
あなたはまた何をしに来たの
どうせ今はあなたと遊んでくれる人がいるわ
私よりも詩を読むのも 作るのも 書くのも上手で 笑い話もできる
またあなたが機嫌を損ねるのを恐れて連れて行かれるのでしょう
私の生き死になんて放っておいてよ
宝玉は聞いて慌てて近づいてそっと言いました
君のような賢い人が まさか親しきは疎らにせず 先人は後人に譲らぬということさえ知らないのかい
僕は愚かだけど この二つの言葉だけは分かる
一つ目に 僕たちは母方の従姉妹だ
宝姉さんは両姨の従姉妹だから 親戚としては彼女のほうが君より遠い
二つ目に 君が先に来て 僕たちは一緒に食べ 一緒に寝て こうして大きくなった
彼女は後から来たのだから 彼女のために君を疎かにするなんてことがあるだろうか
林黛玉はチッと舌打ちして言いました
私はあなたに彼女を疎かにするように言っているわけではないわ
私がどんな人になってしまうのよ
私はただ自分の心のために言っているのよ
宝玉は言いました
僕も自分の心のために言っている
君だけが自分の心を知って 僕の心を知らないというのかい
林黛玉はこれを聞いて 頭を垂れて一言も発しませんでした
しばらくして言いました
あなたは人が動きの度にあなたを責めるのを恨むばかりで 自分が人を不快にさせていることを全然知らない
ちょうど今日の天気を見てごらん
明らかにこんなに寒いのに どうしてあなたはかえって緑色の毛皮のマントを脱いでいるのかい
宝玉は笑いながら言いました
着ていたよ
君が怒ったのを見て 僕は一瞬で熱くなって脱いだのさ
林黛玉はため息をついて言いました
帰りに風邪をひいて またお腹が空いて食事をせがむのよ
二人がちょうどそう話していると 湘雲が歩いて来て 笑いながら言いました
二兄さん 林姉さん あなたたちは毎日一緒に遊んでいるけど 私はせっかく来たのに 少しも相手にしてくれないわ
黛玉は笑いながら言いました
まさに舌足らずな人はお喋りが好きね
「二」兄さんも言えないで ただ「愛」兄さん「愛」兄さんって
帰りに囲碁をする時には また「一愛三四五」なんて騒ぐのでしょうね
湘雲は舌が足りず「二」の音が「愛」になる
宝玉は笑って言いました
君が彼女を真似ていると 明日は君まで舌足らずになるよ
史湘雲は言いました
彼女は決して人を少しも許さないわ
専ら人の欠点ばかりを突く
自分が世の人より優れているとしても 会う人一人一人を茶化す必要はないでしょう
誰か一人指摘してごらん
あなたが彼女を茶化すことができるなら 私はあなたに従うわ
黛玉は慌てて誰かと尋ねました
湘雲は言いました
あなたが宝姉さんの短所を突く勇気があれば あなたが優れていると認めるわ
私はあなたに及ばないけど 彼女があなたに及ばないというのはどういうことかい
黛玉は聞いて 冷笑して言いました
誰かと思ったら 彼女のことね
私がどうして彼女の短所を突く勇気など持てるでしょうか
宝玉は言い終わらぬうちに話を遮りました
湘雲は笑いながら言いました
一生のうち 私は自然とあなたには及ばないわ
私はただ明日 舌足らずな林の婿林姐夫が得られるように祈っているわ
そうなれば あなたはいつも「愛」だの「哀」だのを聞くことになるわ
ああ 弥陀仏 それこそが私の願いだわ
この言葉に皆が笑い 湘雲は慌てて身を翻して走って行きました
次の展開を知るためには 次回をお待ちください
この第二十回は、賈家の華やかな内側で渦巻く人間関係の機微と、上流社会の光と影を描き出す重要な章です。
要約
1. 乳母の嫉妬と鳳姐の即断
宝玉が黛玉、宝釵と楽しく話している最中、自分の部屋で大きな騒ぎが起こります。乳母の李嬤嬤が、病気で寝ていたため挨拶を怠った筆頭侍女の襲人を激しく罵倒していたのです。李嬤嬤は、襲人が宝玉を惑わし、自分の影響力を奪おうとしていると嫉妬に駆られています。宝玉は襲人をかばいますが、李嬤嬤の怒りは収まりません。
そこへ、賭けに負けて機嫌の悪い王熙鳳(オウ・キホウ、鳳姐)が現れます。鳳姐は、規律を乱す李嬤嬤を権威とユーモアで瞬時にねじ伏せます。彼女は李嬤嬤を叱りつけながらも、食事に誘って強引に連れ出し、騒ぎを収束させます。この鳳姐の迅速で実用的な裁きに、皆は感心しつつも、彼女が私的な不満を公的な場で晴らしたことに気づきます。
2. 麝月の献身
その後、宝玉は病気の襲人の看病をします。他の侍女たちが皆遊びに出かける中、麝月だけが部屋に残ります。彼女は、他の者たち(特に年老いた者や下働き)を休ませるため、自分が留守番をしているのだと説明します。この献身的な姿勢に、宝玉は彼女を「もう一人の襲人」だと感じ、感銘を受けます。宝玉が親愛の情を込めて彼女の髪を梳いてやると、遊びから戻った晴雯が二人の親密さをからかいます。
3. 賈環の八つ当たりと鳳姐の教訓
宝玉の異母弟である賈環が、宝釵たちとのサイコロ遊びで負けていら立ち、不正をしようとします。侍女に指摘され、宝釵に庇われた賈環は、自分が側室の子だから皆にいじめられると泣き出します。
宝玉は、負けたなら別の遊びに行けばいいと、淡々と説教します。その後、賈環は母である趙姨娘に愚痴をこぼしますが、彼女は彼を叱責します。
再び鳳姐が通りかかり、趙姨娘の下品な物言いを厳しく叱ります。そして賈環を引き寄せ、「負けたぐらいでみっともない」と諭しながらも、彼に遊び代を与えて気前良さを見せます。しかしその裏で、「ずる賢い真似や下品な振る舞いをしたら許さない」と強い威嚇を与えます。鳳姐は、私情で嫉妬する李嬤嬤や、下劣な行いをする趙姨娘と賈環を、実力と規律で支配し、家内の秩序を保とうとします。
4. 黛玉の嫉妬と湘雲のからかい
史湘雲が来訪した際、黛玉は宝玉が宝釵の元にいたことに嫉妬し、皮肉を言います。宝玉は、自分と黛玉の関係がより親密で先にある(血縁と時間の長さ)と理屈で説得しようとしますが、黛玉は感情的な傷つきを訴えます。宝玉は、君が怒ったので熱くなったからコートを脱いだ、とロマンチックな言葉で慰めます。
そこに湘雲が加わり、黛玉は湘雲の舌足らずな訛り(「二」が「愛」のように聞こえる)をからかいます。湘雲はこれに対し、黛玉が宝釵の短所を突く勇気がないことを指摘し、黛玉が宝釵を恐れていると逆襲します。そして湘雲は、黛玉が「舌足らずな夫」を得ることを願うという悪意のある冗談で黛玉をからかい、場を和ませながら逃げ去ります。
この回の作品の真髄と時代背景
時代背景と政治
この物語が描く時代背景(清代中期)において、賈家のような大貴族(通俗貴族)は、世襲の特権と政治的コネクションの上に胡坐をかいています。
政治的衰退の暗喩: 賈家という巨大な屋敷の腐敗(金銭管理の混乱、賈環のような落伍者、李嬤嬤の放縦)は、当時の清朝の官僚体制や貴族制度が、外見の華やかさとは裏腹に、内部から崩壊しつつある状況を象徴しています。
権力の私物化: 王熙鳳(鳳姐)の統治は、この体制の縮図です。彼女の「裁き」は公明正大さではなく、家の体面と実質的な統制を優先します。彼女が李嬤嬤を素早く排除し、趙姨娘を懲罰するのは、あくまで家内の秩序を回復し、上位者の威厳を守るためであり、法や道徳に基づいているわけではありません。これは、権力が私的な感情や打算によって運用される、腐敗した貴族社会の政治を反映しています。
通俗貴族と民衆の営みの違い
貴族の営み(賈家): 生活の根幹が「遊興」「人情」「体面」にあります。仕事や生産性はほとんど描かれず、詩、碁、遊び、そして複雑な愛憎劇に時間が費やされます。彼らは「人々の視線」を異常に気にし、その視線こそが自分たちの地位を保つ生命線です(賈環が泣くのは「体面を潰された」から)。
民衆/下層の営み(乳母・侍女): 彼らの生活は、貴族の「支配」と「庇護」に依存しています。李嬤嬤の嫉妬は、彼女の老後の保障(=宝玉への影響力)を守るための生存本能であり、襲人が懸念するのは、些細な対立がもとで将来「良い方にも悪い方にも言いふらされて」追放されることへの恐怖です。彼らの感情の動きは、貴族社会の絶対的な権力構造が生み出す生存競争の結果なのです。
文化・宗教的真髄の解読
この物語が読者に示した真髄は、「人生は幻影であり、愛執は苦である」という仏教的・道教的な思想です。
反儒教的価値観(宝玉の愚かな念):
宝玉が「男は残滓や濁った泡、女は万物の精華」と信じる愚かな念は、儒教的な家父長制(男を尊び、学問・立身出世を至上とする価値観)への根源的な反逆です。彼は政治や功名利禄を拒否し、女性たちとの純粋で儚い感情の世界に真実を見出そうとします。
愛執(執着)の苦しみ:
黛玉の嫉妬、李嬤嬤の怒り、賈環の不満、全ては「失うことへの恐れ」や「得られないものへの執着」、すなわち愛執から生じる苦しみ(ドゥッカ)です。
黛玉は宝玉の愛という「唯一の真実」に執着し、それが宝釵に移ることを恐れて苦しみます。
李嬤嬤は宝玉への影響力という「過去の栄光」に執着し、それが襲人に奪われることを恐れて苦しみます。
この物語は、豪華絢爛な貴族の生活を描きながらも、その内部に潜む愛執と苦悩を浮き彫りにし、最終的には、この美しい世界さえもが「夢」(紅楼夢)であり、幻に過ぎないという仏教的な真理を読者に示唆しているのです。
中国封建社会における奴婢の確執:資源競争と生存戦略
貴族邸宅における奴婢間の確執は、単なる女性同士の嫉妬や個人的な不満に留まらず、彼らの「生存権」と「社会的地位の向上」をかけた、極めて現実的かつ苛烈な資源競争でした。
1. 確執の深層:資源としての「主人の寵愛」
奴婢にとって最も重要な資源は、主人の無形の寵愛と有形の恩恵です。
資源の形態現代社会の概念貴族社会での具体例
経済的資源給与・ボーナス・年金衣食の質、毎月の月俸、祝儀(紅包)、主家引退後の年金(老後の扶養)、子女への職の斡旋。
権力資源昇進・キャリアパス部屋持ち(一等侍女)の地位、主人の私物へのアクセス権(鍵の管理)、主家上層部への直言権。
社会的安全終身雇用・社会的地位良い相手との結婚(親族内婚)、悪評による放逐(追放)からの免除、家族との引き離しを防ぐ権利。
例えば、『紅楼夢』第二十回の李嬤嬤(乳母)の怒りは、まさに「年金」と「地位」という生存資源の剥奪に対する危機感です。
乳母は、かつては宝玉の生活の決定権を持つ最高権力者でしたが、宝玉が成長し、襲人が寵愛を得るにつれて、その権力は急速に衰退しました。彼女の怒りは、老後の安定という生命線を脅かす襲人への切実な嫉妬であり、その本質は世代交代の波に飲まれた旧勢力の悲鳴です。
2. 主人を巻き込む戦略:讒言と「忠誠心」の武器化
奴婢には、権力を得るための公式な昇進制度や法的な手段がありません。彼らに許された唯一の武器は、主人への直接的または間接的な「訴え」であり、特に「讒言」は、ライバルを葬るための最も恐ろしい手段でした。
忠誠心という名の讒言:
優秀な奴婢は、ライバルを攻撃する際に、決して「嫉妬」や「私怨」を口にしません。彼らは、相手の行為が「主家(または主人)の体面、金銭、または名誉」を損なうと訴えます。例えば、襲人がもし李嬤嬤を追い出すなら、李嬤嬤が「主人の金銭を不正に使い込んだ」とか「家の秘密を外部に漏らした」といった形で、主家の秩序と安全という大義名分を掲げて訴えるでしょう。
感情的依存の利用:
特に宝玉のような主人(権力を持つが精神的に未熟な人物)に対しては、その感情的な弱点を突くことが常套手段です。襲人は、自分が病気で苦しむ姿を見せたり、「私のせいでまた人を怒らせた」「皆があなたの悪口を言うようになる」と主人の罪悪感を刺激し、間接的に宝玉に自分を庇護させます。
3. 生命と社会的地位を脅かす具体例
奴婢の確執がもたらす結末は、多くの場合、ライバルの「社会的死」、そして時に「物理的死」でした。
脅威の形態具体的な行為と結果『紅楼夢』からの類例
社会的死(第一級の脅威)「放逐(追放)と下男との結婚」:奴婢が主家を追われることは、生計手段、住居、親族との縁の全てを失うことを意味し、当時の社会では生存権の剥奪に等しい。李嬤嬤の「外に出して下男とめとりさせてやるぞ」は、相手のキャリアの完全な破壊を意味します。茜雪(李嬤嬤に同調したとして)の追放、晴雯の理不尽な追放(その後の病死)、司棋の理不尽な追放。
物理的暴力・毒殺薬物や呪術:極秘裏に行われることが多く、特に毒殺は、主人の食べ物や飲み物に携わる侍女にとって、最大の攻撃手段でした。また、呪術によって主人や主母の健康を損なわせるという告発は、相手を死に追いやる冤罪の温床となりました。賈環の母・趙姨娘が馬道婆と共謀し、宝玉と鳳姐を呪い殺そうとする事件(実際には未遂に終わる)。これは、側室が嫡子の代理人を物理的に排除しようとした極めて悪質な例です。
冤罪と名誉毀損男女関係の捏造:未婚の侍女にとって、「主人の寵愛を受けた」という名誉と同時に、「不貞」や「私通」の濡れ衣は、社会的地位を完全に破壊します。主家がこの種の不祥事を嫌うことを知り、ライバルを陥れるためにこの種の告発が頻繁に用いられました。晴雯が病床で宝玉と私通したと讒言され、追放される(この告発の背後には、襲人などへの嫉妬や、王夫人の好みでないという個人的な嫌悪があった)。
4. この第二十回のマニアックな深読み
李嬤嬤が襲人に向けて放った罵倒「あなたはただの何両かの銀子で買われた女中だろう」は、この確執の深さを最もよく表しています。
これは単なる悪口ではなく、襲人の「出身」という身分上の弱点を突いた、極めて致命的な侮辱です。賈家の奴婢には、代々仕える「世僕」や、貧困のため一時的に売られてきた「買婢」がいました。買婢である襲人は、主家への忠誠心や人脈が世僕に比べて弱く、一度主人の庇護を失えば、容易に捨てられる存在です。
李嬤嬤は、襲人の地位の不安定さを利用し、彼女がどれほど優れていても、「あなたは結局、安価に買われた使い捨ての道具だ」という冷徹な事実を突きつけて、その精神的・社会的な生命力を打ち砕こうとしたのです。




