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私説 紅楼夢への夢  作者: 光闇居士


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19/33

第十七回:会芳園にて才を試し額に対聯を題す。賈宝玉、機敏にして諸賓を動かす。

挿絵(By みてみん)

『稲香村問答図』

「杏花春立つ、父子の問答。偽りの村に、真の夢。

墨の山水、魂の行方。紅楼の詩心、天を仰ぐ。」


【しおの】

【賈政、園内の命名を命じる】

さて、秦鐘が世を去った後、宝玉は身も世もなく泣き続けましたが、李貴らが必死になだめすかし、やっとのことで涙をおさめました。屋敷へ戻ってからもその悲しみは癒えることなく、賈母はいくばくかの銀子を遣わし、また別に供物を用意させて、宝玉を弔問へ行かせました。七日後には葬儀も滞りなく終わりましたが、ここに記すほどのこともございません。宝玉は来る日も来る日も秦鐘を偲び悲嘆に暮れるばかりで、なす術もありませんでした。

それからどれほどの時が流れたでありましょうか。ある日のこと、賈珍らが賈政のもとへ報告に参りました。

「園林の普請、滞りなくすべて仕上がりました。大老爺様にはすでにご覧いただいておりますゆえ、旦那様にもお目通しいただき、もし何か不手際がございましたら手直しをいたし、その後に扁額や対聯を掲げる運びといたしたく存じます」

賈政はこれを聞き、しばし腕を組んで思案しておりましたが、やがて口を開きました。

「その扁額と対聯が、まことに難儀なことよ。筋を通すならば、貴妃様よりお言葉を賜るのが本筋であろう。しかし、妃ご自身がその景色をご覧にならねば、いたずらに名を賜うことなどおできになるまい。さりとて、妃のご来臨を待ってからでは、これほど広大な庭に数多の楼閣を構えながら、名の一つもないのではあまりに寂しく味気ない。いかに花や柳、山や水があろうとも、何の風情も生まれぬであろうな」

そばに控えていた食客たちは、笑みを浮かべて進み出ました。

「旦那様のご慧眼、まことにその通りにございます。つきましては、我ら一同、愚考をめぐらしました。各所の扁額や対聯は、もとより欠かすことはできませぬが、今ここで本式の名を定めるべきではございません。ひとまずはその場その場の景色に合わせ、仮の名を二字、三字、四字としつらえ、提灯や幔幕にでも記して掛けておくのです。そして妃がお成りになられました折、改めて正式な御名を賜れば、万事滞りなく収まるかと存じますが、いかがでございましょう」

賈政も他の者たちもこれを聞き、皆、なるほどと膝を打ちました。

「まことご明察にござる。では、我らで本日見て回り、いくつか名を考えてみようではないか。良いものは用い、思わしからぬものは、後ほど賈雨村を招いて知恵を借りることにしよう」

皆は笑って答えました。

「旦那様が今日お考えになれば、必ずや素晴らしいものが生まれますものを。どうして雨村殿のお力など借りる必要がございましょうか」

賈政は笑って申します。

「そなたたちは知るまいが、わしは若い頃より花鳥風月を詠む詩才には乏しく、今や歳を重ね、公務に身をやつすうち、そのような風雅なことにはとんと疎くなってしまった。下手に考えつけば、堅苦しく古臭いものとなり、かえってこの美しき園林の風情を損なうことにもなりかねぬ。それでは興醒めも甚だしいわ」

皆はまた笑って申します。

「何、そのようなことはございません。我ら一同で旦那様のお考えを拝聴し、それぞれの長所を挙げて、良いものは残し、劣るものは取りされば、何の問題もございません」

賈政は言いました。

「それも一理あるな。折好く、今日は空も穏やかだ。皆で参ろうか」

そう言うと立ち上がり、一同を引き連れて庭園へと向かいました。

賈珍は先触れとして庭へ走り、皆に知らせました。このところ宝玉は秦鐘を亡くした悲しみでふさぎ込んでいたため、賈母はしばしば彼をこの新しい庭園へ連れ出しては心を慰めさせておりました。その日も宝玉はちょうど園内に入ったばかりでありましたが、賈珍が駆け寄ってきて、笑いながら声をかけます。

「おやおや、まだここにおいでか。旦那様がお見えになるぞ。早うお出なさい」

宝玉はこれを聞くと、乳母や小姓たちを連れて、慌てて庭を出ようといたしました。

ところが、角を曲がったところで、ちょうど皆を引き連れてやって来た賈政一行と鉢合わせしてしまいました。もはや避けることもできず、道端に立ちすくむほかありません。賈政は、近頃塾の師匠から、宝玉が読書は好まぬものの、対聯作りには格別の才を見せると聞いておりましたので、この好機に彼を伴わせ、その才を試してみようと思い立ちました。宝玉は父の意図も分からぬまま、ただ後について行くしかありませんでした。

一行が庭の正門へ着くと、賈珍が大勢の執事を引き連れて恭しく控えております。

「まずは門をすべて閉めよ。外から見て回り、その後で中へ入ることにする」

賈政が命じると、賈珍はすぐさま門を閉ざさせました。賈政がまず正面から門を眺めますと、それは間口五間の堂々たる構えで、屋根には丸瓦が葺かれ、棟はなまずの背を思わせる滑らかな曲線を描いています。門の格子や窓枠には、瑞々しい草花の模様が細やかに彫り込まれ、朱の塗りはなく、磨き上げられた壁と白い石の基壇が清らかで、そこには異国の草花模様が刻まれておりました。左右を見渡せば、雪のように白い漆喰の壁が続き、その裾には虎の皮のような模様の石が自然の趣のままに積まれています。華美に過ぎず、俗っぽさのないその佇まいに、賈政は心から満足いたしました。

門を開かせると、目の前には翠の山が衝立のようにそびえています。

「おお、見事な山だ」

皆が口々に感嘆の声を上げました。

「この山がなければ、門をくぐった途端に庭のすべてが見渡せてしまい、興が醒めるというものだ」

と賈政が申しますと、皆も頷きました。

「まことに。胸中に山河を抱くほどの構想がなければ、このような趣向は思いもつきませぬ」

言い終わって前方を見れば、白い奇岩が険しくそびえ立ち、あるものは鬼神のよう、あるものは猛獣のよう、苔むした岩肌を蔦が覆い、その間に羊の腸のように細く曲がりくねった小道がかすかに見えます。

「行きはこの小道から入り、帰りはあちらの道から出れば、隈なく見ることができよう」

賈政はそう言うと、賈珍に先導をさせ、自らは宝玉の腕を取り、ゆっくりと山道へ足を踏み入れました。ふと見上げると、山の頂きに鏡のように平らな白い石があり、まさに名を刻むのにあつらえたかのようです。賈政は振り返り、皆に笑いかけました。

「さて、諸君。ここには何と名付けるのが良かろうか」

これを聞き、ある者は「畳翠」が良いと言い、ある者は「錦嶂」を推し、あるいは「賽香炉」だ、「小終南」だと、思い思いの名を何十と挙げました。実のところ、皆は賈政が宝玉の学問の進み具合を試そうとしているのを知っていたので、わざとありふれた名を並べて座を濁していたのです。宝玉もまた、その意図を察しておりました。賈政は皆の意見を聞き流し、宝と玉に名を考えるよう命じました。

宝玉は答えました。

「古人は『新しきを創るは古きを述べるに如かず』と申します。ましてやここは庭の主要な景色でもなく、ただこれから始まる趣を探るための入り口に過ぎません。いっそ『曲径通幽処』、すなわち『曲がりくねった小道は奥深き処に通ず』という古詩の一句をそのまま用いるのが、かえって飾り気がなく、趣深いかと存じます」

これを聞いた人々は、皆、手を打って賛辞を送りました。

「なるほど、なるほど。若君はまことに天賦の才に恵まれていらっしゃる。我らのような書物に埋もれた者とは大違いでございますな」

賈政は笑って言いました。

「あまり褒めそやすでない。まだ若輩ゆえ、一つの知識を十に広げて遊んでいるに過ぎぬ。次の場所でまた考えさせるとしよう」

そう言って一行は石の洞窟へと入りました。そこは美しい木々が鬱蒼と茂り、珍しい花が咲き乱れ、一筋の清らかな流れが花木の奥から湧き出て、石の間を縫って流れ落ちています。さらに数歩進むと、次第に北へと開け、平らで広々とした土地に出ました。両側には天を突くような楼閣がそびえ、彫刻の施された軒や美しい欄干が、山の懐や木々の梢の間に見え隠れしています。眼下には雪のような渓流が流れ、石の階段が雲の中へと続いているかのようです。白い石の欄干が池をぐるりと囲み、三つの石橋が架かり、獣の顔をかたどった口から水が吐き出されています。その橋の上には一つの東屋がございました。賈政は皆と東屋へ上がり、欄干に寄りかかって尋ねました。

「さて、ここには何と名付けようか」

皆は口を揃えて申します。

「かの欧陽公が『酔翁亭記』にて『翼を広げたような東屋がある』と詠まれましたゆえ、『翼然』と名付けるのがよろしいかと」

賈政は笑って言いました。

「『翼然』も良いが、この東屋は水の上に建っておる。やはり水にちなんだ名がふさわしかろう。わしの拙い考えでは、同じく欧陽公の『両峰の間より流れ出ずる』という句から、『瀉』の一字を借りてくるのはどうだろうか」

ある客が言いました。

「なるほど。『瀉玉』の二字はいかにも見事でございます」

賈政は顎鬚をひねりながら考え込んでおりましたが、ふと顔を上げ、そばに控える宝玉を見て、彼にも一つ考えるよう促しました。

宝玉は慌てて答えました。

「旦那様が先ほどお考えになった名も素晴らしいのですが、さらに申しますれば、欧陽公が醸泉に『瀉』の字を用いられたのはまことに的を射ておりますが、ここの泉にも同じ字を用いるのは、少々趣を欠くように思われます。ましてやここは貴妃様がお成りになるための離宮、詩文もそれにふさわしくあるべきです。そのような荒々しい字面は、雅やかさに欠けるかと。もう少し奥ゆかしい言葉をお選びになるのがよろしいかと存じます」

賈政は笑って言いました。

「ほう、皆はどう思うか。さきほどは『新しきを創るは古きに如かず』と言ったかと思えば、今度は『古きを述べれば粗にして不適当』と申す。では、そなたの考えを聞こうではないか」

宝玉は申します。

「『瀉玉』の二字よりは、むしろ『沁芳』の二字を用いる方が、新しくも雅やかかと存じますが、いかがでしょうか」

賈政は顎鬚をひねりながら頷きましたが、声には出しません。皆は慌ててその意見に賛同し、宝玉の才能を褒めそやしました。

「扁額の二字は決まったな。では、七言の対聯も一組考えてみよ」

と賈政が申します。宝玉は東屋に立ち、四方を見渡して心を澄まし、やがて朗々と詠み上げました。

堤をめぐる柳は三度水をくぐる緑を借り

岸をへだつる花は一筋の香りを分け与う

賈政はこれを聞き、頷きながらかすかに笑みを浮かべました。皆はまずもって絶賛の声を上げたのでした。

一行は東屋を出て池を過ぎ、一つ一つの山や石、一本一本の花や木を愛でながら進んでゆきました。ふと顔を上げると、前方に白い塀が見え、その中に数軒の瀟洒な家が、千本もの緑の竹に覆われてひっそりと佇んでいます。

「これはまた素晴らしい場所だ」

皆が感嘆する中、中へ入ると、入り口から曲がりくねった廊下が続き、階段の下は石畳の道となっていました。上には二、三間の小さな家があり、中は寝台や机、椅子が作り付けになっています。奥の部屋から小さな門を抜けると裏庭で、そこには大きな梨の木と芭蕉が植えられ、さらに二間の離れ座敷がございました。裏庭の塀の下にふと開いた隙間から、一筋の泉が流れ込み、幅一尺ほどの溝となって塀の内側を巡り、階段を回り、軒下を伝って表の庭へと至り、竹林の下をくぐって外へと流れ出ていました。

賈政は笑って言いました。

「この場所はなかなか良い。もし月の美しい夜に、この窓辺で書を読むことができたなら、一生を悔いなく過ごせようものを」

言い終わって、ちらりと宝玉に目をやると、宝玉ははっとして慌ててうつむきました。皆はすかさず言葉を挟んで場を和ませます。

「この場所の扁額は、四字で名付けるのがふさわしいでしょうな」

賈政は笑って尋ねました。

「して、いかなる四字か」

一人が「淇水遺風」と申しますと、賈政は「俗だ」と一言。また一人が「睢園雅跡」と申しますと、これも「俗だ」と退けました。

賈珍が笑って言いました。

「やはり宝の若君にお考えいただくのが一番でございましょう」

賈政は言いました。

「この子はまだ何も作っておらぬうちから、まず人の良し悪しをあげつらう。まことに軽薄なやつよ」

皆は言いました。

「いやいや、その批評がまた的を射ておりますゆえ、誰も何も言えませぬ」

「あまり甘やかすでない」

賈政は皆を制すると、宝玉に命じました。

「今日はそなたの好きにさせてやろう。まず批評を述べ、その後に作ってみせよ。さきほど皆が申したものは、使えるか」

宝玉は問われて答えました。

「いずれも、ふさわしくないかと存じます」

賈政は冷ややかに笑いました。

「どうしてふさわしくない」

「ここはまずもって貴妃様がお成りになる場所、必ずや帝の徳を讃えるものでなければなりませぬ。四字の扁額を用いるのであれば、すでに古人の言葉がございますので、新たに作るまでもございません」

「では、『淇水』や『睢園』は古人の言葉ではないと申すか」

「あまりに古めかしゅうございます。いっそ『有鳳来儀』、すなわち『鳳凰来たりて徳を讃える』の四字はいかがでしょうか」

皆はこれを聞き、「素晴らしい」と声を上げました。賈政は頷いて言います。

「この小僧め、管の穴から天を覗くようなものよな。では、対聯も一組作ってみよ」

宝玉はすぐさま詠じました。

宝鼎の茶の香尽きても煙はなお緑

幽窓の碁打ち終わりて指はなお涼し

賈政は首を振り、「まだ感心できぬな」と言うと、皆を引き連れてそこを後にしました。

歩き出そうとした時、ふと何かを思い出し、賈珍に尋ねました。

「これらの建物の中の調度品は、すべて揃っておるか。帳や緞帳、置物や骨董の類も、それぞれの場所にふさわしいものが整えられておるのか」

賈珍は答えました。

「置物はすでに数多く揃えてございますので、いつでも設えることができます。帳の類は、昨日、璉が申すには、まだすべては揃っていないとのこと。もともと普請の際にすべての場所の図面を描き、寸法を測って手配させておりますので、おそらく昨日あたりに半分ほどは届いた頃かと存じます」

賈政はこれが賈珍の管轄でないことを知り、人をやって賈璉を呼ばせました。

ほどなく賈璉が駆けつけ、賈政が品揃えの具合を尋ねると、彼は慌てて懐から紙の控えを取り出し、一瞥して答えました。

「蟒蛇模様の刺繍や絹織物など大小様々な幕が百二十組、昨日八十組が届き、あと四十組が未納でございます。緞帳は二百枚、こちらは昨日すべて揃いました。その他、猩々緋の帳二百枚、金糸を織り込んだ竹の簾二百枚、黒漆の簾二百枚、五彩の糸で編んだ簾二百枚は、それぞれ半分ずつが届いており、秋までにはすべて揃う予定でございます。椅子や机の掛け布、寝台の飾り布なども、それぞれ千二百枚ずつ揃いました」

話しながら歩いてゆくと、突然、青い山が前方を遮りました。山の懐を回り込むと、黄色い土で築かれた低い塀がかすかに見え、その上は稲藁で覆われています。何百本もの杏の花が、まるで炎を噴くかのように咲き誇っていました。中には数軒の茅葺きの家が見えます。外には桑、楡、槿、柘といった若木が新しい枝を伸ばし、二列に編まれた青竹の垣根が曲がりくねって続いています。垣根の外、山の斜面の下には土の井戸があり、そばには桔槹や轆轤といった道具も備えられていました。その下には畑が広がり、美しい野菜や花がどこまでも続いています。

賈政は笑って言いました。

「ここはなかなかの趣があるな。人の手で作られた景色とは知りながら、こうして見ると、故郷に帰り田畑を耕したいという気持ちにさせられる。まずは中へ入って一休みしよう」

そう言って垣根の門へ向かうと、道端に一つの石碑が立っており、これもまた名を残すために設けられたものでした。

「これはまた素晴らしい。ここに扁額を掛けては田舎の風情が損なわれるが、石碑を立てるとは、一層趣が深まるというものだ。范石湖の田園詩でなければ、この妙は尽くせまい」

と皆は感心しました。

「さて、皆の者、名を付けてみよ」

と賈政が促します。

「先ほど若君が『新しきを創るは古きを述べよ』と申されましたが、ここはまさに古人が言い尽くした景色。いっそ『杏花村』と記すのがよろしいかと」

と皆が申しますと、賈政はこれを聞き、賈珍に向かって笑いました。

「良いことを思い出させてくれた。ここはすべて良いが、ただ一つ、酒屋の印である酒幌がない。明日一つ作らせよ。派手にする必要はない。そこらの村にあるようなものを作り、竹竿で木の梢に掛けるのが良い」

賈珍は承知し、さらに言いました。

「ここでは珍しい鳥などを飼うより、鵝や鴨、鶏などを飼うのが、全体の調和がとれてよろしいかと存じます」

賈政も皆も、「それは一層素晴らしい」と賛同しました。

賈政はまた皆に向かって言いました。

「『杏花村』は良いが、正式な名としては使えぬ。村の名は、貴妃様のご来臨を待って賜らねばならぬ」

「まことに。では、仮の名は何といたしましょうか」

皆が思案していると、宝玉は待ちきれなくなったのか、父の許しを待たずに口を開きました。

「古詩に『紅杏の梢に酒旗を掛ける』とございます。今はひとまず『杏帘在望』、すなわち『杏の酒帘が望める』の四字ではいかがでしょう」

皆は「『在望』の二字が素晴らしい。それに『杏花村』の意も含まれている」と褒めそやしました。

宝玉は冷ややかに笑って言います。

「村の名に『杏花』の二字を用いるのは、あまりに俗で耐えられませぬ。また古人の詩に『柴の門は水に臨み稲の花香し』とあるに倣い、『稲香村』とする方が、ずっと趣深いかと存じますが」

これを聞いた人々は、いよいよ歓声を上げ、手を叩いて「素晴らしい」と叫びました。

賈政は声を荒らげて叱りつけました。

「この無知な小僧め。そなたがどれほどの古人を知り、どれほどの言葉を覚えたというのだ。先生方の前で知ったかぶりをするでない。そなたが先ほどから申す戯言は、ただそなたの賢愚を試すための座興に過ぎぬ。本気にするでないわ」

そう言うと、皆を引き連れて茅葺きの家へ入りました。中は紙の窓に木の寝台と、華やかさが一掃された質素な作りです。賈政は内心では喜んでおりましたが、宝玉を睨みつけて言いました。

「ここはどうか」

皆はそっと宝玉の袖を引き、「良いと申せ」と合図しましたが、宝玉は聞く耳を持ちません。

「『有鳳来儀』の場所には及びませぬ」

賈政はこれを聞き、怒りを露わにしました。

「愚か者め。そなたは華麗な建物ばかりが良いと思い、この清らかな趣が分からぬか。まったく、書を読まぬからこうなるのだ」

宝玉は慌てて答えました。

「旦那様のお諭しはごもっともにございます。ですが、古人が常に申す『天然』の二字は、いかなる意味でございましょうか」

皆は宝玉の頑固さに呆れ、その愚かさは治らぬものかと眉をひそめておりました。今、彼が「天然」の二字を問うたので、慌てて口を挟みます。

「他のことは知らずとも、なぜ『天然』を知らぬのか。『天然』とは、天が自然に作り出したもので、人の力でこしらえたものではないのだよ」

宝玉は言いました。

「やはりそうでございますか。この場所に田畑や家を設けたのは、明らかに人の手で無理に作り上げたもの。遠くに村はなく、近くに町もない。背後に連なる山脈もなく、水に臨んでもその源はない。上に寺の塔が見えるでもなく、下に町へ通じる橋があるでもない。このようにぽつんと孤立しているのは、どうにもこの大観園の景色にはそぐわないように思われます。先の場所のように、自然の理に適い、自然の気が満ちている場所と比べて、どうでございましょうか。たとえ竹を植え泉を引いたとしても、人の手が加わり過ぎて趣を損なうことはございません。古人が『天然図画』の四字を用いたのは、まさに、その場所にあらぬものを無理に作り、その山にあらぬものを無理に築くことを戒めたもの。いかに精巧に作ろうとも、結局は不自然さが残るからではございませんか」

言い終わらぬうちに、賈政は怒りに顔を赤らめ、「この者をここからつまみ出せ」と命じました。皆が宝玉を外へ連れ出そうとしたところへ、また「呼び戻せ」と声がします。そして、さらに対聯を一組作るよう命じました。

「もし出来が悪ければ、ただでは済まさぬぞ」

宝玉は詠むほかありませんでした。

新たに増したる緑は葛を濯ぐほとりに沿い

良き雲は香を以て芹を摘む人を守る

賈政はこれを聞くと、首を振り、「ますますつまらぬ」と言い捨て、皆を連れて出て行きました。

そこからまた山の斜面を回り、花をくぐり柳を渡り、石を撫で泉に寄り添いながら、様々な草花の棚を過ぎ、牡丹の東屋を越え、芍薬の畑を渡り、薔薇の庭に入り、芭蕉の茂みを出て、曲がりくねった道を進んでゆきました。ふと水の流れる音が聞こえ、見ると石の洞窟から流れ出ています。上からは蔦が垂れ下がり、水面には花びらが浮かんでいました。

「素晴らしい景色だ」

と皆が感嘆します。

「さて、諸君、何と名付けようか」

「もはや考えるまでもございません。まさに『武陵源』の三文字がふさわしい」

賈政は笑って言いました。

「またもやありふれた名だな。それに古臭い」

「では、『秦人旧舎』の四字ではいかがでしょう」

宝玉が口を挟みました。

「それはあまりに露骨すぎます。『秦人旧舎』とは乱を避けて隠れ住むという意味。どうしてここに用いることができましょう。いっそ『蓼汀花漵』、すなわち『蓼の茂る渚と花の咲く水辺』の四字ではいかがです」

賈政はこれを聞くと、ますます「戯言を」と吐き捨てました。

一行は水の洞窟へ入ろうとしましたが、賈政は船があるかと尋ねました。

「蓮摘みの小舟が四艘、乗り合いの舟が一艘ございますが、まだ仕上がっておりませぬ」

と賈珍が答えます。

「入れぬのは残念だ」

「山の上の回廊からも入れます」

賈珍が先導し、皆で蔦につかまり木を撫でながら進んでゆくと、水面に浮かぶ花はますます多く、水はますます清らかに、ゆらゆらと揺れながら流れていました。池の両岸にはしだれ柳が並び、桃や杏と入り混じって天を覆い日を遮り、まさに俗世を離れた景色です。ふと柳の陰に朱塗りの欄干の橋が見え、それを渡ると道が開けました。そこには清々しい瓦葺きの家があり、磨き上げられた煉瓦の塀が続き、青い瓦が見えます。大きな主山から分かれた山の尾根が、皆この塀を貫いていました。

賈政は言いました。

「この場所の家は、少々味気ないな」

そうして門をくぐると、突然、目の前に天を突くような大きな築山が現れ、四方を様々な奇岩が囲み、中の家をすっかり覆い隠し、一本の花も木もありません。ただ、数多くの珍しい香草が生い茂り、あるものは蔓を這わせ、あるものは枝を伸ばし、山の頂から垂れ下がり、石の隙間を貫き、軒を飾り柱を巡り、階段を這い上がり、緑の帯のようになびき、あるいは金の縄のようにとぐろを巻いています。あるものは実が辰砂のように赤く、あるものは花が金木犀のように香り、その芳香は、どんな花の香りとも比べようがないほどでした。賈政は思わず笑って言いました。

「面白い。面白いが、何という草か、とんと見分けがつかんな」

ある者は薜荔や藤蘿だと申しましたが、賈政は「それらでこれほど良い香りがするはずがない」と申します。

宝玉が進み出て言いました。

「確かに違います。この中にも藤蘿や薜荔はございますが、あの良い香りがするのは杜若と蘅蕪です。あちらはおそらく茞蘭、こちらは清葛。あの赤い実は紫芸、緑の葉は青芷に相違ございません。思うに、『離騒』や『文選』などの書物に見える珍しい草々も、今では年月が経ち、その名を知る者もいなくなったため、人々がその形から勝手な名を付け、誤りが誤りを伝えて、本来の名が失われてしまったものも多いのでしょう」

言い終わらぬうちに、賈政が叱りつけました。

「誰がそなたに尋ねたか」

宝玉ははっとして下がり、それ以上は口を開きませんでした。

賈政は、両側が廊下で繋がっているのを見て、その廊下を歩いて入りました。そこには五間の清らかな家が連なり、四方に廊下が巡らされ、緑の窓と油の塗られた壁は、これまでのどの場所よりも清雅な趣をたたえています。

「この東屋で茶を煮て琴を弾けば、もはや名香を焚く必要もあるまいな。この趣向は思いもよらなかった。皆の者、必ずや優れた名を考え、この風情に応えよ」

と賈政は感嘆しました。

皆は笑って言います。

「もはや『蘭風蕙露』の四字をおいて他にございません」

「うむ、それが一番良かろう。では、対聯はどうか」

一人が進み出て、考えた句を披露しました。

麝蘭の芳香は斜陽の庭にたなびき

杜若の香りは明月の洲に漂う

皆は素晴らしいと申しましたが、ただ「斜陽」の二字がふさわしくないと言いました。その人は「古詩にも『蘼蕪を手に満たして斜めの日を嘆く』とあります」と弁じましたが、「それではあまりに寂しい」と退けられました。

また一人が、考えた句を詠み上げました。

三径の香風は玉の蕙を漂わせ

一庭の明月は金の蘭を照らす

賈政は顎鬚をひねりながら思案し、自らも一句ひねり出そうとしておりました。ふと顔を上げると、宝玉が傍らで黙り込んでいるのを見て、叱りつけます。

「なぜ言うべき時に黙っておるのだ。まだ人に問われるのを待つつもりか」

宝玉はこれを聞いて答えました。

「この場所には『蘭麝』も『明月』も『洲渚』もございません。そのように形にとらわれていては、二百の対聯を作っても尽きませぬ」

「誰がそなたの頭を押さえつけて、それらの字を言えと命じた」

「では、扁額は『蘅芷清芬』の四字ではいかがでしょう。そして対聯は、

吟を成したる荳蔲は才なお艶やかに

睡り足りたる酴醾は夢もまた香し

賈政は笑って言いました。

「それは『書は蕉葉を成して文なお緑』という古い句のもじりではないか。珍しくもない」

皆は言いました。

「かの李太白の『鳳凰台』の詩も、まったく『黄鶴楼』のもじりでございますが、いかに巧みに作り変えたかが肝心。今、よくよく味わってみますと、先の対聯は、むしろ元の句よりも幽玄で生き生きとしております。元の句の方が、かえってこちらを真似たようにさえ感じられますな」

賈政は笑って言いました。

「そのような理屈があるものか」

そう言って、皆で外へ出ました。あまり歩かぬうちに、高い楼閣がそびえ立ち、幾重にも重なる建物、それを囲む壮麗な宮殿、遥かに続く回廊が見えてまいりました。青い松が軒を払い、玉の欄干が基壇を囲み、金色の獣の顔や色鮮やかな龍の頭が飾られています。

「ここが正殿か。ただ、少々華美に過ぎるな」

と賈政が申しますと、皆は口を揃えて言いました。

「いえ、こうでなければなりませぬ。貴妃様は質素を好まれ、華美を厭われますが、今日の尊いお身分を考えれば、礼儀としてこのようであっても、決して過ぎたことではございません」

話しながら歩いていると、正面に一つの玉石の牌坊が現れました。上には龍がとぐろを巻き、精巧な彫刻が施されています。

「ここには何と記すべきか」

と賈政が問いますと、皆は「必ずや『蓬莱仙境』がよろしいでしょう」と答えました。賈政は首を振って、黙っていました。

宝玉はこの場所を見て、心の中にふと何かを思い出しました。どこかで見たことがあるような気がするのですが、いつのことだったか、どうしても思い出せません。賈政はまた彼に名を考えるよう命じましたが、宝玉はただひたすら前の景色を思い出そうとしており、まったくその気になれませんでした。皆はその意図を知らず、半日も父に責められて気力も尽き、才能も枯渇してしまったのだろうと思いました。これ以上試練を与えて騒ぎを起こされては面倒だと、皆で慌てて賈政をなだめました。

「もうよろしゅうございましょう。明日またお考えいただくことにいたしましょう」

賈政も、賈母を心配させたくないという気持ちがあり、冷ややかに笑って言いました。

「そなたのような小僧にも、できぬ時があるとはな。よかろう。一日だけ猶予を与えてやる。明日またできねば、許さぬぞ。ここは肝心な場所ゆえ、特に良いものを作るのだぞ」

そう言って、皆を引き連れて出て行きました。改めて見渡してみると、門を入ってからここまで歩いたのは、庭全体の半分ほどに過ぎないことが分かりました。そこへ、賈雨村の使いからの知らせが届いたと報告がありました。

「この残りは見て回れぬな。だが、どうせあちらから出るのだ。詳しく見ずとも、少しは眺めておこう」

賈政はそう言うと、一行を連れて歩き出しました。

大きな橋の前に着くと、水が水晶の簾のように流れ込んでいます。実はこの橋が、外の川から水を引き込むための水門なのでした。

「この水門は何と名付けようか」

と賈政が尋ねると、宝玉が答えました。

「ここは沁芳泉の源でございますから、『沁芳閘』と名付けてはいかがでしょう」

「戯言を。あえて『沁芳』の二字を用いることはない」

賈政はそう言い捨てました。

そこから一行は先を急ぎました。清らかな広間や茅葺きの家、石積みの塀、花を編んだ窓、山の麓の尼寺、林の中の道場、長い廊下、曲がりくねった洞窟、四角い家、丸い東屋など、賈政は皆、中には入らずに通り過ぎました。半日も歩いて足が疲れたので、どこかで休もうと思っていたところ、前方にまた一つの屋敷が現れました。

「よし、あそこで一休みしよう」

賈政がそう言うと、皆を引き連れて碧桃の花を回り、竹と花を編んだ丸い門をくぐりました。まもなく、白い塀に囲まれ、緑の柳が垂れ下がる一画が見えてまいりました。

賈政が皆と入ると、入り口から両側に廊下が続いています。庭にはいくつかの築山が配され、一方には数本の芭蕉、もう一方には一本の西府海棠が植えられていました。その姿はまるで傘のようで、絹のような緑の糸が垂れ、赤い花が咲きこぼれています。

「見事な海棠だ。これまで数多の海棠を見てきたが、これほど素晴らしいものはない」

と皆が賛美しますと、賈政が言いました。

「これは『女児棠』と呼ばれ、異国の種だ。俗に『女児国』から伝わったと言われるが、荒唐無稽な話よ」

「荒唐無稽とは言いながら、どうしてその名が長く伝わったのでございましょうか」

皆は笑って尋ねました。

宝玉が進み出て言います。

「おそらくは、詩人がこの花の色が紅く、まるで脂を塗ったようで、病にかかったかのようにか弱く、奥ゆかしい女性の風情に近いことから、『女児』と名付けたのでしょう。それが世間の俗人の耳に入り、彼らがそれを歴史書に書きつけて証拠とし、俗説が俗説を伝え、誤りが誤りを伝えて、皆が真実と思い込むようになってしまったのです」

皆は身を乗り出して素晴らしいと賛美しました。話しながら、一行は廊下の軒下に設けられた寝台に腰を下ろします。

「何か新鮮な言葉を考えて、ここに名を付けてみよ」

と賈政が尋ねました。

ある客は「蕉鶴」の二字が最も素晴らしいと言い、またある客は「崇光泛彩」が素晴らしいと言いました。賈政も皆も、「素晴らしい『崇光泛彩』だ」と口を揃えました。宝玉も「素晴らしい」と言いましたが、ただ「惜しい」とため息をつきます。

「なぜ惜しいのか」

と皆が尋ねると、宝玉は言いました。

「ここには芭蕉と海棠が植えられ、その意味は暗に『紅』と『緑』の二字を含んでおります。芭蕉だけを言えば海棠が欠け、海棠だけを言えば芭蕉が欠ける。どちらか一方だけでは、この場所の趣は成り立ちませぬ」

「では、そなたの意見はどうか」

「わたくしの考えでは、『紅香緑玉』の四字が、両方を満たして素晴らしいかと存じます」

賈政は首を振り、「良くない、良くない」とだけ言いました。

そうして、皆を引き連れて部屋の中へと入りました。ここの部屋は他の場所と違い、間仕切りがありません。四方はすべて透かし彫りの美しい木の板で、あるいは雲と百の蝙蝠、あるいは歳寒の三友、あるいは山水人物、鳥や花、様々な模様が、名人の手によって彫られ、五色に彩られ、金が施され宝石が嵌め込まれていました。その棚の一つ一つが、書物を収めたり、香炉を置いたり、筆や硯を置いたり、花を生けたりする場所になっており、その形も様々です。突然、五色の紗が貼られた小窓が現れたかと思うと、突然、色鮮やかな絹が軽く覆われた奥ゆかしい戸が現れます。しかも壁一面に、骨董品や玩具の形に合わせて掘り込まれた窪みがあり、琴や剣、掛け花瓶などが、壁と一体となっていました。皆は口々に、「素晴らしい工夫だ。よくぞ考えたものだ」と賛美しました。

実は、賈政らは中へ入って二層ほど進むうちに、すっかり道に迷ってしまっていました。左を見れば通じる門があり、右を見れば窓があって隔てられ、近づいてみると、また書棚で遮られています。振り返って歩くと、窓紗が明るく透け、門の通路が行けそうに見え、門の前に着くと、突然、正面からも一群の人々が入ってきましたが、それは大きな鏡に映った自分たちの姿なのでした。鏡を通り過ぎると、ますます門が多く見えます。賈珍が笑って言いました。

「旦那様、わたくしについてお越しください。この門から出ると裏庭で、裏庭から出れば、かえって近道でございます」

そう言って、また二層の紗の戸棚や錦の格子を回り込むと、果たして一つの門があり、外へ出ると庭には薔薇と宝相華が咲き乱れていました。花の衝立を回り込むと、青い渓流が前を阻んでいます。

「この水はまたどこから来たのだ」

と皆が驚くと、賈珍は遠くを指差して言いました。

「もとはあの水門から流れ始め、あの洞窟を経て、東北の山の奥からあの村へ引き込まれ、また一つの流れを作り、南西へと引かれ、すべてが合わさってここに来て、また一つになってあの塀の下から出て行くのです」

これを聞いて、皆は「素晴らしい」と感嘆しました。

そうして話していると、突然、大きな山が道を塞ぎました。

「道に迷った」

と皆が言うと、賈珍は笑って言いました。

「わたくしについてお越しください」

また先導し、皆が彼に従って山の麓を通り、ふと角を曲がると、平らで広々とした大きな道があり、一気に大門の前へ出ました。

「面白い、面白い。まさに神業だ」

と皆が言ううちに、一行は外へ出ました。宝玉は心の中ではただ庭のことが気にかかっておりましたが、父の許しがないので、仕方なく書斎までついて行きました。賈政は突然彼のことを思い出し、叱りつけます。

「そなたはまだ帰らぬのか。まだ遊び足りないと見える。こうして半日も遊び回って、お祖母様がどれほど心配しておられるか。早く帰りなさい。可愛がってやっても無駄なことよ」

宝玉はこれを聞き、ようやく退出したのでした。

さて、この続きはまた次回に。

第十七回の要約

この回は、主人公・賈宝玉ほうぎょくの非凡な才能と、旧弊な価値観を持つ父・賈政かせいとの対立が鮮やかに描かれる場面です。

完成した壮麗な庭園「大観園」を、賈政が食客たちと共に視察します。正式な命名はまだ先のため、各所に仮の名前を付けることになり、偶然その場に居合わせた宝玉も同行させられます。

一行が園内を巡る中、食客たちは古人の詩文を借りたありきたりの名前を提案します。しかし宝玉は、その場の景色や空気の本質を見抜き、より独創的で詩情豊かな名前や対聯ついれんを次々と生み出していきます。彼の天賦の才に、同席した大人たちは舌を巻くばかりです。

しかし、父の賈政は、息子の才能を認めつつも、その自由奔放な感性や、権威におもねらない鋭い批評精神を「生意気だ」と一喝します。特に、人工的に作られた田園風景「稲香村」を宝玉が「不自然だ」と批判した際には激怒し、二人の価値観の断絶が浮き彫りになります。

この回は、大観園の美しさを読者に披露すると同時に、旧来の儒教的権威(賈政)と、既成概念にとらわれない純粋な自然観と感性(宝玉)との対立を象徴的に描き出しています。


「紅楼夢」の真髄の解読

この文学作品が、その時代背景を通して読者に示したかった真髄は、「うつろいゆく定めの中で、真実の価値とは何か」という問いです。


1. 時代背景と社会構造

物語の舞台は18世紀の清朝中国。表面上は繁栄の頂点にありながら、その内側では貴族社会の腐敗と退廃が進み、没落の影が忍び寄る時代です。作者自身の没落貴族としての体験が色濃く反映されています。

貴族の「虚」: 賈家のような貴族の営みは、皇帝との縁故で保たれる見せかけの栄華(虚)です。内部では権力争いや贅沢が蔓延し、人間性は失われつつあります。

民衆の「実」: 対照的に、たまに訪れる農民の老婆などの暮らしは貧しくとも、生命力に満ちた現実(実)として描かれ、貴族社会の空虚さを際立たせています。


2. 文化と思想 — 儒教的秩序への反抗

この物語の核心は、当時の社会を支配していた儒教の価値観と、主人公・宝玉が体現する道教・仏教的な自然思想との対立にあります。

儒教(父・賈政の象徴): 立身出世、家父長制、礼儀と秩序を重んじる現実的な価値観。これは、人間を社会の歯車として捉える窮屈な世界です。

自然思想(主人公・宝玉の象徴): 宝玉は、儒教的な学問を嫌い、世俗的な成功に全く興味を示しません。彼は、穢れのない少女たちとの純粋な交流や、自然の美しさの中にこそ、人間本来の清らかな魂(情)が存在すると信じています。これは、社会的な束縛から解放された、個人の魂の自由を求める思想です。


3. 宗教観 — すべては儚い「夢」である

作品全体を貫くのは、「この世の栄華も人の営みも、すべては儚い夢幻である」という仏教的な無常観です。

物語は、天界から石(宝玉)が人の世に落とされるという神話的な枠組みで語られます。冒頭と結末に登場する謎の僧侶と道士は、この世の出来事がすべて定められた運命であり、やがて消えゆく幻であることを示唆します。

宝玉が夢で見る「太虚幻境」は、登場人物たちの悲劇的な運命を予言する場所であり、この世のすべてが「かりそめ」であることを象徴しています。

結論として示したかった真髄

「紅楼夢」が読者に示したかったのは、以下の点に集約されます。

栄華の儚さ: どんなに栄華を極めた一族も、やがては必ず滅びゆく。この世の富や権力は、執着すべき真実の価値ではない。

封建社会への批判: 家父長制や身分制度といった社会の理不尽さが、いかに多くの才能ある女性たちの運命を翻弄し、個人の純粋な魂を踏みにじるかを告発する。

「情」の賛美: 社会的な成功や秩序よりも、人が生まれながらに持つ純粋な心(情)や、他者を慈しむ愛情こそが、何よりも尊いものである。

この物語は、賈一族の栄枯盛衰という壮大なドラマを通して、偽りの価値観に満ちた社会の中で、人が本当に求めるべき「真実の心のあり方」とは何かを、時代を超えて私たちに問いかけているのです。

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