第九回:風流を恋う情の友、私塾に入る。嫌疑を起こした悪童、学堂を騒がす。
【宝玉、ついに上学】
さて、秦業父子は賈家からの知らせを心待ちにしていた。私塾へ通う佳き日がいつになるか、その報せをただひたすらに待っていたのである。
実のところ、宝玉は秦鐘に一日も早く会いたくてならず、他のことはまるで手のつかぬ有様であった。そこで、明後日を初登校の日と定めると、「明後日の早朝、わたくしの屋敷へお越しください。そこから共に参りましょう」と認めた文を、使いの者に持たせた。
当日、宝玉がまだ薄暗いうちに目を覚ますと、襲人はとうに起き出でて、書物や筆といった学用品を美しく包み、すべての支度を整えていた。ただ、彼女は寝台の縁に腰を下ろし、どこか物思いに沈んだ面持ちであった。
宝玉の目覚めに気づくと、襲人は心の内を隠すように立ち上がり、彼の身支度を手伝い始めた。その憂いを帯びた横顔に、宝玉は戯れるように声をかけた。
「姉さん、またどうして浮かぬ顔をしているんだい。僕が学問所へ行くものだから、寂しくなって拗ねているのだろう」
すると襲人はふっと笑みをこぼした。
「何を仰います。勉学に励まれるのは、これ以上なく良いこと。そうでなければ、為すこともなく一生を終えることになりましょう。ただ、ひとつだけお願いがございます。お勉強の折には書物のことだけを、そして学舎を離れた時には、少しだけこの家のことを思い出してくださいまし。よその方々と戯れ騒ぎ、旦那様のお耳に入ることになれば、ただでは済みませぬ。そして、お励みになるのは結構ですが、あまり根を詰めすぎませぬように。一つには、多くを望めば身につきませず、二つには、お身体を大切にしていただきたいのです。これがわたくしの心からの願いでございます。どうか、お分かりくださいましね」
襲人の言葉一つひとつに、宝玉はこくりと頷いた。彼女はさらに言葉を続ける。
「冬のお召し物も包み、下男たちに預けてございます。学舎は冷えましょうから、お召し替えを忘れてはなりませぬ。お屋敷の中とは違い、誰も見てはおりませぬから。足炉や手炉の炭も渡してありますゆえ、あなた様から彼らに、炭を足すようお命じください。あのような怠け者たち、言われなければ喜び、あなた様が凍えるのを傍観しているだけでございましょう」
「案ずることはないよ。外へ出れば、僕が自分でうまくやる。君たちもこの部屋で塞ぎ込んでいないで、林の妹とでも笑い遊んでいるがいい」
そうこうするうちに支度はすっかり整った。襲人に促され、宝-玉は賈母、賈政、そして王夫人に挨拶すべく部屋を出た。晴雯や麝月らにも二言三言言葉を残し、まずは賈母のもとを訪れると、祖母からもまた心のこもった言葉をいくつか賜った。
続いて王夫人のもとへ、そして書斎にいる父、賈政に会いに向かった。あいにくその日は賈政の帰宅が早く、ちょうど食客たちと世間話に興じているところであった。
宝玉が中へ入り礼を尽くし、「学問所に参ります」と報告すると、賈政は冷たく笑った。
「その口で『学問所へ行く』などと、わしが聞けば恥ずかしくて死にそうだ。どうせ遊びに行くのが関の山であろう。よいか、わしのこの床を汚し、家の門を辱めることだけはしてくれるな」
側にいた食客たちは皆立ち上がり、笑って取りなした。
「旦那様、またそのようなことを。若君が今日から学問に励まれれば、二、三年もすれば名を挙げ、立身出世なされるに違いございません。もはや以前のような子供じみた振る舞いはありますまい。ささ、もうお食事時分でございます。若君、どうぞお早くお出かけください」
そう言うと、年嵩の者二人が宝玉の手を取り、外へと連れ出した。
「宝玉の供は誰か」と賈政が尋ねる。
外で二、三度返事があり、やがて大柄な男が三、四人入ってくると、膝をついて礼をした。賈政が見れば、それは宝玉の乳母の子で、李貴という名の男であった。
賈政は彼に向かって言った。
「お前たちは毎日あやつについて学問所へ行きながら、一体どんな書物を読んだというのだ。くだらぬ噂話や揉め事ばかりを頭に詰め込み、ろくでもない遊びばかり覚えてきおって。わしに暇ができたなら、まずはお前の皮を剥いでから、あの進歩のない者と決着をつけてやる」
李貴は恐れおののき、慌てて両膝をつくと、帽子を脱いで床に頭を打ち付けながら「はっ、はっ」と答え、さらにこう言上した。
「若君は、すでに『詩経』の三巻目までお読みでございます。『呦呦として鹿は鳴く』やら、『荷の葉、浮き草』やらと。決して偽りは申しませぬ」
その言葉に、一座の者たちはどっと笑い声を上げた。賈政もまた、こらえきれずに顔をほころばせた。
そして言った。
「たとえ『詩経』をあと三十巻読んだとて、皆『耳を覆いて鈴を盗む』がごときもの。人を欺いているに過ぎぬ。お前は学問所の師傅に挨拶に行き、わしがこう言ったと伝えよ。『詩経だの古文だのは、すべておざなりでよい。まずは『四書』をみっちりと講義し、暗唱させることが肝要である』と」
李貴は慌ただしく「はっ」と応え、賈政がもはや何も言わぬのを見て、ようやく退出した。
その間、宝玉は一人、庭の外で息を潜めて待っていた。彼らが出てくるのを見るや、早足に歩き出した。
李貴らが服の埃を払いながら言う。
「若君、お聞きになりましたか。まず我々の皮を剥ぐと仰せですよ。よそのお宅の下男はご主人について良い思いをするというのに、我々はただ付き添って殴られ、罵られるばかり。これからは、少しは我々を憐れんでくださいまし」
宝-玉は笑って言った。
「なあ、兄さん、辛抱しておくれ。明日、僕がおごってやるから」
「小旦那様、誰があなた様におごってなどいただきたいものですか。ただ、我々の言葉に、一言でも半句でも耳を傾けてくだされば、それで結構なのでございます」
そう話しながら賈母の部屋へ着くと、秦鐘はすでに到着しており、賈母と話をしているところであった。そこで二人は挨拶を交わし、改めて賈母に別れを告げた。
その時、宝玉はふと黛玉に別れの挨拶をしていないことに気づき、慌てて彼女の部屋へと足を向けた。黛玉はちょうど窓辺の鏡に向かい、化粧を整えている最中であった。
宝玉が学問所へ行くと言うのを聞き、彼女は微笑んだ。
「結構なことね。この度の門出で、きっと『蟾宮にて桂を折る』偉業を成し遂げられるのでしょう。わたくしはお見送りには参りませぬわ」
「愛しい妹よ。僕が学問を終えて帰るまで、食事は待っていておくれ。おしろいや紅も、僕が戻るまで作らずにいておくれ」
しばし言葉を交わした後、宝玉は立ち去ろうとした。すると黛玉が慌てて彼を呼び止め、尋ねた。
「どうして宝姉さまにはご挨拶をなさらないの」
宝玉は笑って答えず、ただ真っすぐに秦鐘と共に学舎へと向かった。
この賈家の義塾は、屋敷からさほど遠くない、わずか一里ほどの距離にあった。もとは一族の始祖が、貧しく師を雇えぬ子弟のために設けたものである。一族のうち官位を持つ者は皆、その俸禄に応じて銀子を出し合い、学費に充てていた。そして、特に年嵩で徳の高い者を塾長に推挙し、子弟の教育を任せていたのである。
さて、宝玉と秦鐘が学舎に着き、皆と挨拶を交わしてから、その日の学びが始まった。この日より後、二人は共に来て、共に帰り、席を並べ、行動を同じくするうち、その仲はますます深く、親密なものとなっていった。加えて賈母が秦鐘をことのほか愛でたため、しばしば屋敷に三日、五日と泊まらせ、まるで自分の曾孫のように可愛がった。秦鐘の家があまり裕福でないのを見ては、着物や履物などを与えることもあった。
ひと月も経たぬうちに、秦鐘は栄国府の暮らしにすっかり馴染んだ。一方の宝玉は、やはり型にはまっていられない性分で、ただ己の心の赴くままに振る舞いたがる。そこでまた奇妙な性癖が顔を出し、ある日、秦鐘にこっそりとこう言った。
「僕たちは年も同じで、学友でもあるのだから、これからは叔父と甥などという間柄はやめて、ただ兄弟、友として付き合おうじゃないか」
秦鐘は初めこれを固辞したが、宝玉が頑として聞き入れず、彼を「弟」と呼んだり、字である「鯨卿」と呼んだりするので、秦鐘もまた、いつしかそれに流されるようになっていった。
この学舎に集うのは、皆、同じ一族の者か、その縁戚の子弟ばかりであった。しかし、俗に「龍に九子あり、皆それぞれ異なる」と言うように、人が多く集まれば、やはり玉石混淆、品性の卑しい者も交じっていた。
宝玉と秦鐘が来て以来、その花のような美しい容貌は皆の目を惹いた。とりわけ秦鐘は、内気で物腰が柔らかく、話す前に顔を赤らめるなど、どこか少女のような風情があった。宝玉は生まれつき誰に対してもへりくだり、丁寧で、優しく気の利いた言葉を交わす性質である。その二人が日増しに親密になっていく様子を見て、他の学友たちが妙な疑いを抱き、陰であれこれと噂し、悪し様に言うようになったのも、無理からぬことであった。
実は、薛蟠は王夫人の家に身を寄せて以来、この一族の学舎に若い子弟が多くいるのを知り、むらむらと男色の心を動かし、学問に通うふりをしていた。しかし、それも長続きはせず、ただ塾長の賈代儒に月謝を贈るだけで、何の進歩も見られなかった。彼の目的はただ、気に入った少年と懇ろになることだけだったのである。
この学舎の中にも、薛蟠の金銭や衣食の援助に釣られ、彼に身を任せた少年が幾人かいたが、ここでは詳しく記すまい。さらに、とりわけ多情な少年が二人いた。どの家の縁戚か、本名は何かは定かでないが、生まれつきの美貌と風流な物腰から、学舎中では二つのあだ名で呼ばれていた。一人は「香怜」、もう一人は「玉愛」である。
誰もが彼らに恋い慕う気持ちを抱いていたが、薛蟠の威勢を恐れて手を出す者はいなかった。そこへ宝玉と秦鐘が現れた。この二人もまた、かの美少年たちに憧れを抱いたが、彼らが薛蟠の知人であることを知り、軽々しく動くことはできなかった。香怜と玉愛の心の内でも、宝玉と秦鐘に対して同じような情が芽生えていた。こうして四人の間には、表には出さぬものの、互いを想う気持ちが通い合っていた。毎日学舎に入ると、四方に分かれて座るのではあるが、八つの瞳は互いを引き合い、言葉を交わし、詩に託して想いを伝え、心と心で通じ合っていた。表面上は、人目を避けているつもりであった。
しかし、あいにくと何人かの悪賢い者たちがこの様子に気づいていた。彼らは陰で目配せをしたり、咳払いをしたり、わざとらしく声を出したりして、そのような日々が続いていたのである。
たまたまその日、塾長の賈代儒は所用のため早くに帰宅した。学生たちに七言の対聯を一つ課し、明日までに対句を作るよう命じると、学舎のことは賈瑞に一時的に預けていった。都合の良いことに、薛蟠もこの頃はあまり学舎に顔を出さなくなっていた。そこで秦鐘はこの隙に香怜と目を見交わし、合図を送り合うと、二人はそっと裏庭へ出て、密やかに言葉を交わし始めた。
秦鐘がまず香怜に「お家の大人たちは、君が友と交わることをやかましく言うのかい」と尋ねた、ちょうどその時。背後で「こん」と咳払いが聞こえた。二人が驚いて振り返ると、そこにいたのは同窓の金栄という男であった。
香怜は少し気の早い性質であったから、恥ずかしさと怒りがこみ上げ、彼に問いただした。
「なぜ咳などする。我らが話していてはいけないとでも言うのか」
金栄はにやにやと笑いながら言った。
「お前たちが話すのは構わんが、わしが咳をしてはいかんという法はないだろう。わしが聞きたいのは、なぜはっきりと言葉にせず、そんな風にこそこそとしているのか、ということだ。もう見つけたぞ。何を言い訳するつもりだ。まずわしに見料を渡せ。そうすれば誰にも何も言わん。さもなくば、皆の前で洗いざらいぶちまけてやるぞ」
秦鐘と香怜は顔を真っ赤にして焦りながら、「お前は一体何を見つけたというのだ」と問い詰めた。金栄はせせら笑った。
「今、本当のことを見つけたのさ」
そう言うと、手を叩いて笑いながら叫んだ。
「美味そうな焼き餅だ。お前たち、誰も食べに行かんのか」
秦鐘と香怜は怒りと焦りに身を震わせ、慌てて中へ戻ると、賈瑞の前で金栄の非道を訴えた。金栄が理由もなく二人を辱めた、と。
この賈瑞という男、実は金に汚く、品行の劣る人物であった。学舎の中では公の立場を利用して私腹を肥やし、子弟たちに自分をもてなさせていた。後には薛蟠に取り入り、金銭や酒食を得ていた。薛蟠が横暴な振る舞いをしても、彼はそれを止めるどころか、かえって悪事に加担して機嫌を取っていたのである。
あいにく、薛蟠は浮草のような性分で、今日は東を愛し、明日は西を愛でるというありさま。近頃はまた新しい相手を見つけ、香怜と玉愛の二人はすっかり打ち捨てられていた。金栄もかつては薛蟠の寵愛を受けていたが、香怜と玉愛が現れてからは見捨てられ、その香怜と玉愛さえもが、最近では顧みられなくなっていた。そのため、賈瑞も頼るべき相手を失い、薛蟠が新しい友を得て古い友を捨てたことを不満に思うどころか、香怜と玉愛が薛蟠に自分を推薦してくれないことを逆恨みしていた。
そのようなわけで、賈瑞や金栄らの一団は、香怜と玉愛の二人に嫉妬の念を抱いていた。今、秦鐘と香怜が金栄を訴えに来たのを見て、賈瑞の心はますます不機嫌になった。秦鐘を面と向かって叱りつけることはできないので、かえって香怜を見せしめにし、彼が余計なことをしたのだと厳しく非難した。香怜はかえって面目を失い、秦鐘もまた、気まずそうに自分の席へと戻っていった。
金栄はますます得意になり、首を振り、舌を鳴らしながら、口の中でなおも悪態をついていた。玉愛はそれを聞いて憤慨し、二人は席を隔てて口論を始めた。金栄は「たった今、二人が裏庭で口づけし、尻を触り合っているのを確かに見たぞ。草の根を引き抜いて長さを比べ、どちらが先に事を致すかを決めていたのだ」などと、聞くに堪えぬ暴言を吐き散らした。金栄はただ得意になって言いたい放題を並べ立てたが、まさか他にもその言葉を耳にしている者がいるとは、夢にも思っていなかった。
誰知ろう、その言葉はまた別の一人の男を怒らせてしまった。その者とは、寧国府の正式な玄孫にあたる賈薔という名の青年であった。彼は両親を早くに亡くし、幼い頃から賈珍のもとで暮らしていた。今や十六歳になり、賈蓉よりもさらに風流で美しい顔立ちをしていた。彼と賈蓉は兄弟のように親しく、常に影の形に添うように共にいた。
寧国府は人が多く口さがない。不満を持つ下人たちが、主人の悪口や噂を言いふらすのを常としていた。そのためであろうか、また何か良くない噂が流れた。賈珍もその噂が芳しからぬことを聞きつけ、自らも疑いを避けるため、賈薔に部屋を分け与え、寧国府から出て自活させていたのである。
この賈薔は、外見が美しいだけでなく、内面もまた賢かった。表向きは学舎に通っているというだけで、実際は人の目を欺くためのもの。相変わらず闘鶏や犬の散歩、花見や遊びに明け暮れていた。上には賈珍の溺愛があり、下には賈蓉の助けがあるため、一族の者で彼に逆らおうとする者はいなかった。
彼は賈蓉と最も親しい間柄である。今、誰かが秦鐘をいじめているのを見て、黙っているはずがなかった。すぐにも前に出て不平を訴えようとしたが、ふと思い直した。
「金栄や賈瑞たちは皆、薛の叔父貴の知り合いだ。以前、わしも薛の叔父貴とは親しかった。もしわしが口を出せば、彼らが薛の叔父貴に告げ口をして、我らの仲が悪くなるやもしれぬ。かといって放っておけば、このような噂が広まって皆が不愉快な思いをする。ここは一つ、計略を用いて懲らしめるのが良かろう。そうすれば噂も収まり、面目も保てる」
考えが定まると、彼もまたそっと外へ出るふりをし、宝玉の小姓である茗煙を密かに呼び寄せ、あれこれと指示を与えてけしかけた。
この茗煙は宝玉の一番の腹心であり、まだ若く、世間知らずなところがあった。今、賈薔から、金栄がこのように秦鐘を辱め、ひいては彼の主人である宝玉まで巻き込んでいると聞かされた。ここで懲らしめておかなければ、次はますます図に乗って手に負えなくなるだろう、と。茗煙はもとより人を威圧することを好む性分である。この話を聞き、さらに賈薔という後ろ盾を得たからには、もう怖いものはない。真っすぐに学舎の中へと戻り、金栄を探した。もはや「金さん」などとは呼ばず、ただ「金とやらの、お前は何様だ」と怒鳴りつけた。
賈薔はそこでわざとらしく靴を踏み鳴らし、服を整え、日差しを見て「もうそんな刻か」と呟いた。そしてまず賈瑞に、所用があるので早退すると告げた。賈瑞は彼を引き止めることもできず、その行くに任せた。
その頃、茗煙はまず金栄を掴まえ、「俺たちが尻を貸そうが貸すまいが、お前に何の関係がある。お前の親父に手を出したわけでもあるめえ。いい子だったなら、外へ出てこの茗大爺様に一発殴られろ」と言い放った。学舎中の子弟は皆、唖然として成り行きを見守っていた。賈瑞は慌てて「茗煙、暴れるな」と大声を出したが、金栄は顔を真っ青にして「謀反だ。下男の分際でこのような真似を。お前の主人に言いつけてやる」と叫んだ。そして手を振りほどき、宝玉と秦鐘に掴みかかろうとした。
彼がまだ近づかぬうちに、頭の後ろからひゅっと音がし、一枚の硯が飛んできた。誰が投げたのかは分からなかったが、幸いにも金栄には当たらず、傍らの席に当たった。その席には、賈蘭と賈菌が座っていた。
この賈菌も栄国府の近い傍系の曾孫で、彼の母も若くして夫を亡くし、賈菌一人を育てていた。この賈菌は賈蘭と最も仲が良く、二人は同じ机で学んでいた。賈菌は年は幼いものの、気性が強く、たいそう腕白で、人を恐れることを知らなかった。
彼は自分の席から冷ややかに事の次第を見ていたが、金栄の仲間が陰で彼を助け、硯を投げて茗煙を打とうとしたのを見つけた。それが茗煙には当たらず、自分の机の上に落ちてきたのである。正面に置いてあった磁器の水差しが粉々に砕け、黒い墨が書物の上に飛び散った。賈菌が黙っているはずがない。「この野郎ども、ついに手を出したな」と罵ると、彼もまた硯を掴んで投げ返そうとした。
賈蘭は物分かりの良い子であったから、慌ててその硯を押さえ、「良い弟よ、我らには関わりのないことだから」と懸命に説得した。しかし賈菌は我慢ならず、両手で書物の箱を抱え上げると、向こう側に向かって振り下ろそうとした。なにぶん体が小さく力も弱いため、向こうまでは届かず、宝玉と秦鐘の机の上に落ちた。がらがらと音を立てて机にぶつかり、書物や紙、筆や硯が床に散らばり、宝玉の一碗の茶も割れてしまった。賈菌は席を飛び出すと、硯を投げた者を掴まえようとした。
金栄はその時、手元にあった長い竹の棒を掴んでいたが、場所が狭く人が多いため、それを振り回すこともできない。茗煙は早くも一発食らい、大声で叫んだ。
「お前たちも手を出せ」
宝玉にはまだ三人の小姓がいた。一人は鋤薬、一人は掃紅、もう一人は墨雨という。この三人が腕白でないはずがない。皆が一斉に叫んだ。
「この女郎の子め、武器を使いやがったな」
墨雨はそこで門のかんぬきを引き抜き、掃紅と鋤薬は馬の鞭を手に、皆で群がって攻めかかった。
賈瑞は焦ってあちらを止め、こちらをなだめたが、誰も彼の言うことには耳を貸さず、大乱闘となった。子供たちの中には、この機に乗じて手を貸し、面白がる者もいれば、臆病で隅に隠れる者もいた。また、机の上に立ち上がり、手を叩いて大笑いし、「やれ、やれ」と囃し立てる者もいた。一瞬のうちに、騒ぎは頂点に達した。
外にいた李貴ら大人の下男たちは、中でただならぬ物音がするのを聞きつけ、皆で中へ駆け込み、一斉に騒ぎを鎮めた。何が原因かと尋ねたが、皆の言うことはまちまちで、ある者はこう言い、ある者はああ言った。
李貴はまず茗煙ら四人を一喝し、外へ追い出した。秦鐘は頭を金栄の棒にぶつけ、皮が薄く剥けていた。宝玉がちょうど上着の裾で彼の頭を撫でてやっていたところであった。皆が騒ぎを止めたのを見て、彼は命じた。
「李貴、書物を片付けよ。馬を引け。わたくしは旦那様にご報告に参る。我らは不当に辱められた。他のことはさておき、礼を尽くして賈瑞先生に訴え出たのに、先生はかえって我らを責め、人に罵られるのを黙って聞いていたばかりか、茗煙を殴らせ、秦鐘の頭にまで怪我をさせた。このような場所で、何の学問ができようか。茗煙は、わたくしが辱められたから手を出したのだ。もう、ここは終わりだ」
李貴はなだめた。
「若君、どうかお気を鎮めてください。旦那様はご用事で家に戻っておられます。このような些細なことであの方を煩わせれば、かえって我らの方が分が悪くなりましょう。わたくしの考えでは、ここの事はここで収めるのが一番でございます。わざわざ旦那様をお騒がせするには及びますまい。これはすべて、賈瑞先生の不行き届き。旦那様がご不在なのですから、あなたがこの学舎の責任者。皆があなたの采配を見ております。皆が悪事を働いたなら、叩くべき者は叩き、罰すべき者は罰する。どうしてこのような騒ぎになるまで放っておかれたのですか」
「わしが止めよと叫んだが、誰も聞かなかったのだ」と賈瑞は言った。
李貴は笑って言った。
「お気を悪くなさらないでいただきたいが、日頃のあなたの行いが少しばかり正しくないから、この弟たちが言うことを聞かぬのです。もし旦那様の前で事が大きくなれば、あなたとて無関係ではいられませぬぞ。早く決着をつけ、事を収めるのが賢明でございましょう」
「決着などつけぬ。わたくしは断じて帰る」と宝玉は言い張った。秦鐘は泣きながら言った。
「金栄がいるのなら、僕はもうここでは学べない」
「なぜだ。よその者が来て良いのなら、我らが来てはならぬという法があるか。わたくしは必ず皆に仔細を話し、金栄を追い出させてみせる」
そう言うと、宝玉は李貴に尋ねた。
「金栄はどの家の縁戚なのだ」
李貴は少し考えて言った。
「もうお聞きになりますな。どの家の縁戚かと尋ねれば、ますます兄弟たちの仲が悪くなるだけでございます」
すると茗煙が窓の外から言った。
「あいつは、東の通りにいる賈璜様の奥方の姪御にございます。何の威光があるわけでもないのに、我らを脅かすとは。賈璜様の奥方は、ただ鳳姐さまに頭を下げて質入れの金策を頼むようなお方。わたくしは、あのような奥様など、目もくれてやりませぬ」
李貴は慌てて彼を叱りつけた。
「お前のような小僧が、知ったようなことを言うな」
宝玉は冷ややかに笑った。
「誰の縁戚かと思えば、賈璜の奥方の姪か。わたくしが行って、わけを聞いてやろう」
そう言って帰ろうとする。茗煙を呼び、書物を包ませた。
茗煙は書物を包みながら、また得意になって言った。
「旦那様がご自分で行かれるには及びませぬ。わたくしが奴の家へ行き、『おばば様からお言伝てがございます』と偽り、車を雇って連れて参り、おばば様の前で問い質すのが手っ取り早うございます」
李貴は慌てて怒鳴った。
「お前は死にたいのか。帰ったらただでは済まさぬぞ。まずお前を打ち据え、それから旦那様や奥様にご報告し、宝玉様がすべてお前に唆されたのだと申し上げる。せっかくわしが半分まで事を収めたというのに、また新たな騒ぎの種を蒔くでない」
茗煙はそれでようやく口を閉ざした。
この時、賈瑞もまた騒ぎが大きくなるのを恐れ、自分に責めが及ぶのを避けたい一心で、仕方なく秦鐘に謝罪を求め、宝玉にも頼み込んだ。初め、二人はこれを拒んだ。しかし後に宝玉が、「帰らずにいても良いが、それならば金栄に謝罪させよ」と言った。金栄は最初は承知しなかったが、後には賈瑞も彼に謝罪するよう強く求め、李貴らも金栄に、「もとはと言えばお前が始めたことだ。お前があのようなことをしなければ、どうしてこんな結末になったか」と言い聞かせた。
金栄はやむを得ず、秦鐘に向かって会釈した。しかし宝玉はまだ許さず、土下座を求めた。賈瑞はただ事を収めたい一心で、こっそりと金栄に説得した。
「俗に言うだろう、『人を殺すといえども、頭を地に付けさせるまで』と。お前が騒ぎを起こしたのだから、少しばかり我慢して頭を下げれば、それで終わりだ」
金栄は仕方なく、前に進み出ると、秦鐘に土下座した。
さて、この話の続きは、また次回に譲ることとしよう。
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第九回の簡潔な要約
主題:学堂での「情痴」の芽生えと封建的階層の衝突
1. 賈宝玉の上学と父賈政の訓戒
上学の動機: 宝玉は学友となった秦鐘との親密な交流を求め、早速私塾(義学)へ通い始めます。
賈政の訓戒: 宝玉は父賈政に挨拶に行きますが、「お前は遊んでいるのが一番だ」と皮肉を言われ、従者の李貴が「流言飛語を教えた」として叱責されます。賈政は、学問は四書を徹底するよう指示します。
襲人の懸念: 侍女の襲人は、宝玉の遊び癖や父との関係を心配し、彼に慎重に行動するよう忠告します。
2. 学堂での「風流」と嫉妬の勃発
親密な交流: 宝玉と秦鐘は私塾で「叔甥」の関係を捨て、「兄弟」として極度に親密になります。
同窓の確執: 私塾には、薛蟠の寵愛を受けていた美少年たち(香怜、玉愛など)がおり、彼らは宝玉と秦鐘に惹かれ、四人の間で視線による「情意」が交わされます。
金栄の嫉妬: これに嫉妬した同窓の金栄が、秦鐘と香怜が裏庭で密会していたと公然と罵り、乱闘のきっかけを作ります。
3. 騒動と収束
集団乱闘: 茗煙(宝玉の小姓)が主人の名誉のために金栄に掴みかかり、賈蘭、賈菌らも巻き込み、硯や書物箱が飛び交う大乱闘に発展します。
李貴の仲裁: 賈瑞(塾の責任者)が無能なため騒動は収まらず、最終的に従者の李貴が仲裁に入ります。
謝罪と決着: 宝玉が金栄の親戚(賈璜の妻)の地位の低さを指摘し、賈母に訴えると強硬に主張したため、騒ぎを恐れた賈瑞は金栄を強制的に秦鐘に土下座させて謝罪させ、事件を収束させます。
物語における重要性
貴族社会の頽廃の具現化: 賈家の私塾という教育の場が、男色(龍陽之興)や階層間の確執、不正に満ちていることが露呈し、賈府の内部の腐敗と道徳的崩壊を象徴しています。
宝玉の「情痴」の拡大: 宝玉の「情」への執着が、女性だけでなく美少年たちとの交流にも拡大し、彼の世俗的な情愛の経験を深めていきます。
使用人の権力構造: 宝玉の乳母(李嬤嬤)や小姓(茗煙)が、主人の庇護を背景に学堂や家中で絶大な影響力を持つことが描かれています。




