VS全ての存在を人間に変える能力者の少年
星野天使が強いという噂を聞きつけ異世界からひとりの能力者の少年が打倒に名乗りを上げた。
黒髪で中肉中背の一般的な容貌をした少年だが口元には挑発的な笑みが浮かんでいる。
小柄な星野を見下ろし、少年は言った。
「お前がどれだけ強かろうと俺には関係ねぇ。絶対に俺が勝つ」
「そうですか」
眉ひとつ動かさず平然としている星野に少年は続けた。
「俺はどんな相手だろうと人間に変える能力を持っている。神だろうが悪魔だろうがお前のような天使だろうが関係ねぇ。人間になればこれまでの優位性は完全に消える。威張っていた奴が急に弱気になるんだからなあ。痛快極まりねぇぜ」
少年は最強の天使を人間に変えてしまえばただの小中学生程度の少年が目の前にいるだけとなり無表情は消えて泣いて許しを乞うと考えた。
自分こそが元の世界でもこの世界でも最強で無敵だと根拠のある自信を抱いていた。
「やめたほうがいいですよ」
「ケッ。そんなに自分が天使であることを失うのが怖いのか。俺に会ったのが運の尽きってやつだ。世の中は弱者が強者に従うように出来ているんだよ!」
星野に凶悪な笑顔を向けて指を鳴らした途端、少年は吐血した。
「ゴフッ! ゴフゴハッ!」
両膝から崩れ落ち口元を手で抑える。
「大丈夫ですか」
上から星野が無表情で訊ねてくる。少年は脳の理解が追い付かなかった。
いつものケースなら指を鳴らすだけでどんな相手も人間になってきた。例外はない。
それなのに目の前の星野には何ら変化は生じていない。
むしろ自分がこれまで経験したことがないほどの強烈な負荷と疲労感を覚えている。
星野が淡々とした口調で語った。
「僕は世界の影響を受けません。どの世界に行ったとしても僕は天使のままで、変えることはできないのです。それを無理にでも変えようとした場合、そのようになります」
落ち着いた口調で語る星野の顔を少年は見た。
星野の瞳はガラス玉のように何の感情も映し出してはいない。
事実だけを淡々と語っているのだが、少年にとっては怪談よりも恐ろしく全身から冷たい汗が一気に噴き出し、身体が小刻みに震えだした。
辛うじて少年は立ち上がったが顔は真っ青だ。
「顔色が悪いようですが、大丈夫ですか」
「お、俺に近づくな化け物ォ! 頼む、来ないでくれぇ!」
自分の優位性を完全に崩壊させられた少年は元の世界へ帰り、二度と星野の前に現れようとはしなかった。
 




