< 2 >
祖母が公爵様の背中を目で追う。
「あの方は独身でしたね」
「はい……」
私は言葉に詰まったが、祖母は何となく察しているようだ。
「末娘には良縁が続くのに、なぜ上の孫娘たちには縁がないのだろうね」
溜息交じりに呟く祖母に、近くにいた兄リクハルドが首を傾げる。兄は六つ年上で父と同じ研究肌の人間ではあるが、幼い頃に結ばれた婚約者のヴェルナ・ペルンカ子爵令嬢と仲を深め、二年前に彼女と結婚したばかり。
先月には嫡男が生まれ、アールトネン伯爵家は安泰だろう。
義理姉となったヴェルナ姉様は、生後間もないお子と離れたがらず領地に残っている。
「リューディア、ダンスはどうする?」
「そのうち踊る機会がありそうだから、今夜は止めておくわ」
兄はダンスが苦手なのだ。
他の令息がダンスに誘うものなら、すぐに姉二人が絡んできそうで怖い。
視線を彷徨わせると、姉二人が数人の令嬢と談笑しているのが見えた。おそらく取り巻きの令嬢たちだろうか。
姉たちの周りにいる令嬢は、子爵霊場が二人に男爵令嬢が一人、準男爵令嬢と騎士爵家の令嬢だったと思う。
仮にも伯爵令嬢なら同列か、上位貴族の令嬢と親しくなっていれば、それなりの爵位を持つ令息を紹介して貰えたのに。
下位貴族の令嬢とバカにするわけではないが、あの令嬢たちの家庭の事情は把握している。
伯爵家に利益をもたらす家ではなく、おそらく姉たちから恩恵を貰うつもりで侍っているだけの存在。
「お兄様、わたくし何か食べたいわ」
「そうだね、私も午後から何も口にしていないんだ」
「お前たち、はしたないわよ」
祖母が口元を扇で隠すと目を細める。
これは笑っているのを隠す為の仕草だ。
「ごめんなさい、祖母様。はしたない音が鳴る前に対処してきます」
「妹よ、あちらのテーブルまでエスコートをさせてくれ」
「はい、お兄様。祖母様、ちょっと行ってきますわ」
私は兄のエスコートで再びビュッフェコーナーへ向かった。先ほどはドリンクしか見ていなかったので、王宮の料理には興味津々である。
「あら、今度はまた別の殿方とご一緒よ」
先ほどの夫人と令嬢が、同じ場所に残っていたらしい。
「先ほどの方といい、年上の方がお好きなのかしら」
その声に反応して兄が顔を上げて、夫人と令嬢を顔を見つめた。
「どちらのご婦人か分かりませんが、私の妹に話があるのですか?」
兄の言葉に夫人と令嬢が驚いた表情を浮かべる。
「え? もしかして……アールトネン伯爵令息様ですか?」
「そうですが?」
三人は兄の顔を凝視するように眺め、そして慌てたように淑女の礼儀を取った。体幹がぶれて恰好がつかない姿だが、兄に対して上級の礼儀をするのは、やはり下位貴族の者だったらしい。
貴族名鑑に掲載されているのは伯爵家からなのだ。
国で爵位が圧倒的に多いのが子爵家と男爵家なので、貴族名鑑に掲載しきれない数というのもあるが、この二つの爵位は変動が多いのも理由だろう。
男爵家が子爵へ上がる事もあれば、子爵家が男爵に下がる事もある。
そして平民が国の多大なる貢献をすれば準男爵位を賜ったり、魔獣討伐や騎士として名を馳せれば騎士爵になれるのだ。どちらも一代限りの爵位だが、貴族の仲間入りが果たせる。
一代限りの貴族家も貴族名鑑には載らない。
子爵家と男爵家が掲載されている場合、それは古くから存在している名家のみだ。
「先ほどから妹に対する言葉は不愉快だ」
「も、申し訳ございません」
「伯爵家に対する侮辱だろうか?」
「それは違います」
「あたくし達は聞いた噂話をしていただけで……」
しどろもどろに答える令嬢の顔色が悪くなっていく。
それに対して兄は小さな息を漏らす。
「どんな噂話か知りたいとは思いませんが、私の隣にいる妹はスキップ制度を利用して卒業できる程の才女だ。逆に双子の妹は卒業できたことが奇跡なほど頭が悪い。これは伯爵家にとって醜聞なのだが、なぜか双子の妹の良い評判ばかり耳にしている」
「カタリーナ様とカトリーナ様は素晴らしい令嬢です!」
令嬢が双子の姉を援護する。
兄がバカにしたような笑みを浮かべた。
「デキの悪い双子の妹が素晴らしい? あの二人のどこを見て言っているのか理解できない」
「お兄様、その辺で……」
私は兄の袖を摘まんで話を中断させる。
そこへ運悪く話のネタの姉二人と、取り巻き令嬢にマリアンネがビュッフェコーナーへやってきた。
「あら、お兄様にリューディアじゃない」
「二人が一緒なんて珍しいわね」
姉たちがそれぞれ口を開く。
「お姉様、お久しぶりです。お元気そうで良かったですわ」
「リューディア、あたくしには挨拶はないの?」
マリアンネが顔を顰めながら呟いた。
姉二人とマリアンネに絡まれるのは非常に面倒臭い。
「お前たち、リューディアに絡むなよ。ただでさえ評判が悪いんだから、もう少し淑女の礼儀を覚えて場を弁えてくれ」
「お兄様はリューディアの肩をもつのね」
「そうよ。昔からお兄様はリューディアばかり」
姉二人の攻撃に兄はウンザリした表情を浮かべる。
「お前たちがリューディアの婚約者を追いかけまわし、二度も破談に追いやったんだ。肩を持つのは当然の事だろう」
「酷いわ……わたくし達だって悪気があってした事じゃないもの。ケラネン伯爵令息とクレーモラ侯爵令息が、リューディアの事で相談があるとおっしゃるから」
オリヴェル様とダニエル様が、姉たちに私の事で相談なんか持ち掛けない。
婚約者同士の仲を深めるはずの茶会へ押しかけ、私と婚約者を引き離して独占していたではないか。おまけに婚約者から送られてきた花束に、お揃いで使うはずだった万年筆も奪われた。
どの口が言うのか。
オリヴェル様とは六歳からの付き合いだから、それなりに婚約期間は長かったのだ。
自分たちに婚約者ができないのを棚に上げ、妹から婚約者を奪うなんて呆れてしまう。
「もういい。リューディア、戻ろう。祖母様が待っている」
「そうですね」
食事を楽しむつもりが、とんだ邪魔が入ってしまって残念だ。
大皿に盛りつけられた料理は、見た目はとても美しいものばかりである。先ほど口にした鴨肉っぽいローストは、生臭さがなく食べやすかった。
さすが宮廷料理人とも言うべきか。
私は再び兄にエスコートされて、祖母の元へ戻った。
「祖母様、もう帰っても良いかしら。お食事をしたかったのですが、姉とマリアンネに絡まれてしまい、食べ物を口にする状況じゃなくなって……」
私の言葉に祖母が小さく頷く。
「成人の儀を終えられたのだから良いでしょう。それと……リューディア、馬車の中で説明なさい」
「わかりました」
「リクハルド、戻りますよ」
私たち三人は夜会の会場を出て馬車乗り場まで向かう。
兄が入口に立っている衛兵に家名を名乗り、馬車で帰宅する旨を伝える。
ほどなくして馬車がやってきた。
兄が祖母と私をエスコートして馬車に乗せると、扉を閉じて内鍵を閉めてから座席へ腰を下ろす。
「リューディア」
「はい、祖母様。先ほどの方から結婚を申し込まれました」
「え?」
「そうですか」
兄は驚いた顔を浮かべ、祖母は納得した顔を浮かべる。
「家督を継いだばかりで慌ただしく、のんびりと婚約期間が設けられないそうです」
「ええ、事情は知っております」
「それで……母や姉たちの妨害を考慮し、王命を使って申し込みをするそうです」
「わかりました。領地へ戻ったら準備をしなさい」
「はい」
「リューディアはそれで良いのかい?」
「実は二人で話をした時に、わたくしの希望は伝えておいたのです。現在手掛けている事業を続けさせて欲しい事と、わたくしが自由に好きな事をしたい旨は伝わっていると思います」
私が手掛けている事業とは、この世界になかった野菜の品種の栽培と、シャンプーにトリートメント、そして泡立つ石鹸の販売事業だ。
野菜に関して似たようなものは存在するが、食べても美味しくない。
レタスにキャベツ、それと白菜!
これらは土魔法と創造スキルの組み合わせで収穫できたが、それ以降の栽培に躓いた。現物を父に見せて量産できる方法はないかと研究している段階である。
自分が食べたい分は魔法で何とかなるが、私がいなくても栽培できる方法が見つかれば、伯爵家の新たな特産品になるので父には頑張って貰いたい。
そしてシャンプー類だが、この世界の洗髪剤は泡が立たない上に髪がごわつく。
髪をしっとりなめらかにする香油を使用しないといけないし、その香油をつけすぎると今度は油っぽくなってベタベタするのだ。
体を洗う石鹸も泡立ちが悪くて匂いも良くない。
前世では固形石鹸も存在していたが、液体ボディソープは素晴らしかった。泡立ちがよく肌もすべすべになるし、何といっても良い香りがするものばかり。
当たり前のように使っていたものが、この世界では使えない。
前世のように当たり前な物にしたいのと、これらを広めて販促すれば老後は安泰である。
「リューディアが事業から抜けないと聞いて安心したよ」
「伯爵家の新たな特産品になるのよ。そう簡単に引けないわ」
「お前たち二人がいれば安泰だわね。それに比べて……あの嫁は見る目がないわ」
「祖母様、もしかして真っすぐ領地へ?」
「ええ、あの嫁と孫娘に会いたくなんてないわ。おまけにロヴィーサまで入り浸っているようだから、近いうちにロヴィーサの婚家へ連絡を入れて引き取って貰うつもりよ」
父の妹である叔母のロヴィーサは、暇を持て余しているのか伯爵家に入り浸っているのだ。
彼女の夫キーヴェリ子爵は、領地なしの中央貴族。
一般的に領地なしの中央貴族とは、代々宮廷に仕える官吏や秘書官を務める家系である。
これが伯爵家以上の爵位だと、宮廷騎士に王宮騎士団、財務大臣や宰相職、それに宮廷魔導士と幅広い。
中には由緒正しい名家の子爵家は、それに該当されるが領地を保持している為、爵位を継いで当主になれば嫡男に宮廷の仕事を譲って領地へ戻る。
領地を運営しながら宮廷の仕事は出来ない。
侯爵家あたりは同時にこなしそうだが、その分、家庭を顧みるのは無理がある。
叔母のロヴィーサは領地なしの家へ嫁いだ為、社交も限られて暇なのだろう。嫡男のマティアスも王宮官吏で事務官をしていると聞く。
伯爵家へ入り浸っているのは、叔母とマリアンネの二人だけだ。
自分の実家へ入り浸り、更に伯爵家のお金で豪遊しているらしいので、そろそろ祖母様も堪忍袋が切れそうである。
母も小姑が入り浸るのは気に入らないらしく、祖母にどうにかして欲しいと手紙を送ってくるほどだ。
「あの孫たちも黙っていれば器量は良いのだけど、見てくれだけで異性が群がるのは若いうちだけよ。年を重ねていけば美貌は衰える。そうなると中身を磨いてなければ、結婚にこぎつけても早々に離縁される。それを分からせるのが嫁の務めだと言うのに……どうしてあんな孫が出来たのか」
「わたくしも兄を見てそう思います」
本当に姉二人は会話が通じないモンスターである。
そんな二人の姉を溺愛している母も同じ存在に見えた。
デビュタントの夜会から数日が過ぎた日ーーーー約束通り王家から書状が届いたのでる。
私は本邸の自室で引っ越しの準備を進めていた。
「お嬢様、こちらはどうなさいますか?」
侍女のユリアが一着のドレスを手にすると、私の判断を待つ。
目の前に差し出されたドレスは、私が思い付きで作ったものだった。前世で少し憧れたブランドのワンピースを真似たもの。一着が最低でも五万円もするワンピースにペチコート。ワンピースの上にはオーバーブラウスと、ニットのカーディガンだったり、季節によっては毛糸のカーディガン。
ニットのカーディガンは網目が細かいものと、すかし編みやシーズン毎のモチーフがある。毛糸のカーディガンもシンプルなものから可愛らしいモチーフ。
それだけには留まらず、アウターに靴下と靴、バッグにアクセサリーまで様々だ。
コサージュは鉄板ともいうべきアイテム。
トータルコーディネートだと金額は軽く十五万円以上かかるが、このブランドの服は重ね着をするのが当たり前だったので、憧れはあったけど着ることが叶わなかった。
異世界転生して憧れの服を作ってみたが、やはり重ね着をしないと物足りなさを感じる。
「需要はあると思う?」
どうせなら売れそうな物を作った方が良い。
「そうですね……平民には人気が出そうかも。生地に直接柄をつけるなんて発想は、お嬢様にしか出せません。それにデザインも良いですし、貴族令嬢にはお忍び用のワンピースといった所でしょうか」
「それだわ! 令嬢のお忍び用のワンピース」
「裕福な平民にも手が出そうですし、幾つか仕立てて貰いましょう」
「引っ越して落ち着いてからでも遅くはないわ。それじゃ、それも荷物に入れておいてちょうだい」
ユリアと二人で荷物を整理していたら、部屋の外が騒がしい事に気づいた。
「何かしら?」
「さあ? 見てきます」
ユリアが手を止めて部屋の扉へ向かい、そっと外の様子を伺う。
その直後、部屋の扉を閉じて鍵をかける。
「お嬢様、上のお嬢様たちがおります」
「え?」
なぜ姉二人は本邸に戻ってきたのだろう。
王都で母が勧める茶会や夜会で忙しいのでは?
すると間もなく扉を叩く音が響く。
「リューディア! ちょっと、いるんでしょう」
「扉を開けなさい、リューディア!」
二人の剣幕に私とユリアが顔を見合わす。
「どうしましょう?」
「あの様子はただ事じゃないわよね」
ひっきりなしに扉を叩く音が続いている。
「仕方ないわね……」
深いため息を漏らすと、扉の鍵を解除して姉二人を招きいれた。
「お姉様、王都から引き揚げて来ましたの? もう婚約者探しは宜しいのですか?」
「そんな事より、どういう事よ!」
「そうよ。なぜアンタが結婚するの? おかしいじゃない」
姉たちの言葉から、私の結婚がバレたのだろう。
「おかしいとは?」
公爵様は王命にしてくれたはずだ。
おかしいと言われても、公爵様に指名されたのは私である。
「だって公爵家よ? しかも公爵家の当主!」
「クリスティアン・マルヴァレフト公爵様の年齢を考えたら、リューディアよりわたくし達の方が近いじゃない!」
「そうよ。なぜいつもリューディアなの? おかしいじゃない!」
「おかしいと言われても……その王命ですから、わたくしに断る勇気はないわ。それとも、お姉様は王命に逆らえると思っているの?」
「なっ!」
「アールトネン伯爵令嬢なら誰でも良いのでしょう? だったら長女のわたくしが妻になるわ!」
「タリ―、こういう時だけ長女の権利を主張するなんて卑怯よ!」
「トリ―だって、たまに妹を主張するじゃない」
私の部屋で双子の姉たちが騒ぎ出す。
そこへ騒ぎを聞きつけた祖母が姿を現した。
「何を騒いでいるのですか、はしたない」
「お、祖母様……申し訳ございません」
「それで? 何を騒いでいたのです?」
祖母に促され、姉たちは私の結婚に異議を唱えにきたと告げたのである。
「呆れた……またもや妹の幸せの邪魔をするのですか? これが破談になれば三度目ですよ」
「わたくし達に縁談が来ないのに、なぜいつもリューディアなの? おかしいじゃない」
「おかしくはありません。貴方たち二人が無能だから縁談が来ないのです。以前から言い聞かせていたはずですよ。見てくれだけを磨いても意味はないと、大事なのは内面を磨く事だと教えたはずです」
「だったら、リューディアはどうなのよ」
「そうよ! わたくし達が無能なら、妹のリューディアだって無能じゃない!」
その言葉に祖母のこめかみに青筋が入る。
「リューディアのどこが無能だと言うのです。貴方たちと違ってスキップ制度で早々に学院を卒業し、その後はこの領地でエドヴァルドに助言をして、更に個人で事業を展開しているのですよ。貴方たちは王都で何をしているの? 婚約者探しと言い訳をし、伯爵家の資産を食い潰して呑気に過ごしているだけじゃないの」
祖母の剣幕に押され、あの姉たちがおとなしくなった。
「貴方たち二人の成績は学年でも最下位で、伯爵家にとっても醜聞でしかないわ。リクハルドとリューディアは主席なのに、同じ兄弟でこんなに違うなんて」
「お母様は何も言わなかったわ……祖母様はリューディアを庇うのね」
「事実を言っているのです。勉学はおろか礼儀もなっていない。そんな貴方たちに婚約者が見つかるとは思えないわ。結婚がしたいのなら、せめて礼儀作法をしっかり身につけ、刺繍も寄付できる出来栄えにならないと無理ね」
祖母の言葉にカタリーナは無言になる。
逆にカトリーナは更に食いついてきた。
「アールトネン伯爵令嬢なら誰でも良いのでしょう? 公爵家へ嫁ぐのはわたくしでも良いじゃない。リューディアには他に相手が見つかるかもしれないけど、わたくしは結婚するなら高位貴族の嫡男か当主が良いのよ」
「本当に呆れてしまうわ。無能な令嬢に公爵夫人は務まりませんよ。マルヴァレフト公爵家の領地は、国内でも最大規模の領土を誇る所よ。魔獣の数も多いと聞くわ。あなたは公爵夫人として何ができるの?」
「公爵夫人として社交を立派にこなせるわ!」
「社交だけが夫人の務めではないわ。公爵様の執務の補佐、家政だったり慈善業務もある。領民の生活だって守らないといけない。どれか一つでも貴方にできる事はありますか?」
「家政ならお母様を見て知っているわ」
「では、家政とは?」
祖母の質問にカトリーナが胸を張って答える。
「家政とは侍女やメイドを褒めることよ」
どや顔で答えるカトリーナに、祖母の青筋が幾重にも増えてしまった。
「家政とは邸の規律を守り、侍女やメイドの教育指導と指示を出すこと。使用人たちの給金の計算に予算のやりくり、備品や食材の発注に帳簿の記入と領収証の整理。招待状への返信に加え、季節ごとの挨拶の手紙と特産品のサンプルを送って販路を広げる事。家政といっても幅広く色んな作業があるわ。これでもほんの一部なのよ。貴方に出来るの?」
「わたくしだって教えて貰えたら出来るわよ」
「貴方は学院で何を学んだの? これらは学院の中等部の淑女教育の授業で習ったはずよね? その年齢で知らないでは済まないわよ。本来なら即戦力であるはずなのだから、貴方の年齢で教えを乞うのは恥ずべき行為になるわ」
「わたくしは公爵夫人になりたいのよ」
「どう足掻いても貴方には務まらない。それに適齢期を過ぎた無能な娘は、この伯爵家に必要はないの。あと二年だけ待ってあげるから、自力で結婚相手を見つけなさい。わたくしが見つけても良いのだけど、その代わり断る事は許さないわ」
祖母を本気で怒らせた姉二人は、護衛騎士によって私の部屋から追い出された。
「リューディア、マルヴァレフト公爵様と幸せになりなさい」
祖母の優しい口調で告げられる言葉に、胸がほっこりとなる。
「はい。有難うございます、祖母様」
私をそっと抱きしめた後、祖母も部屋から去ってしまった。




