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晴れ渡る空。
新緑の季節ーーーー王都で華やかな結婚式が行われた。
光沢のある白いドレス生地は七色に輝き、そのドレスを繊細な模様で彩る真っ白なレース。
ドレスに使われた同じレースのウエディングベールを纏った可憐な花嫁。
その傍らにはドレスと同じ素材で作られた、白い軍服に身を包んだ怜悧な美貌の若き公爵当主の花婿。
既に婚姻手続きを済んでいるので、この式は周知へのお披露目を意味している。
マルヴァレフト公爵当主の結婚式なだけあり、それに出席している貴族も大物揃いだ。
国王陛下夫妻に王太子殿下夫妻と王族を筆頭に、国内の高位貴族が勢ぞろいである。名家の子爵男爵を覗く下位貴族は式が行われた会場へは入れず、彼らは披露宴となる大広間にて主役の二人を目にした。
結婚披露宴の会場となったのは、贅沢にも王宮のダンスフロアである。
ここまで盛大な式を挙げる予定はなかったのだが、王太子妃と王女殿下と顔見知りとなったのをきっかけに、更にエルヴァスティ公爵夫人とニスカヴァーラ侯爵夫人の提案で披露宴が王宮になってしまった。
アールトネン伯爵家の勢力を上げて作り上げた結婚衣装は、王族を始め国内の貴族たちに大絶賛である。
私の花嫁衣裳は良い宣伝になったに違いない。
純白の花嫁衣裳から着替え、現在はクリスティアン様の瞳の色を纏ったドレスに着替えている。
こちらも新たな素材の綿ローンで作り上げた一品だ。
幾重に布を重ねているが柔らかくて軽いのが特徴である。
クリスティアン様は同じ素材で誂えた薄紫色の礼服に着替え済みだ。
これも二人揃って一対になるデザインであり、これまで結婚式で着用していた衣装スタイルを覆したらしい。前世では当たり前だった純白のウエディングドレスは、この世界では着る令嬢がいなかったようだ。
挨拶に訪れる貴族令嬢たちがドレスを絶賛してくれたのが嬉しい。
ドレスの色と素材にデザインは私が指定したものだが、全体像は祖母の指導で行われた。
クリスティアン様の衣装は、私の趣味が大いに発揮されたと言っても過言ではない。
前世で見た事のある中世時代の西洋の軍服が忘れられず、それを元にデザインしたら熱が入ってしまった。普段から騎士服を身に纏っているが、騎士服より軍服の方が好みである。
そのうち公爵領の騎士服を軍服にチェンジ出来ないか模索しているのは内緒だ。
「マルヴァレフト公爵と夫人、ご結婚おめでとうございます」
「アル、そしてレノン夫人」
エルヴァスティ公爵子息夫妻が挨拶に訪れる。
「ありがとうございます」
「リューディア様の衣装! 本当に素敵で溜息が出ましたわ」
「わたくしの実家の自信作の素材ですの。特に祖母が力を入れておりますので、近いうちに色んなデザインのドレスが出回るかと思います」
「まあ! それは楽しみね」
「私は炭酸水が気に入っている。あれを酒で割ると旨い」
アルベルト・エルヴァスティ公爵令息はハイボールが気に入ったようだ。
「わたくしは果実の入った炭酸水の方が好きだわ。男性の方はお酒を召されますが、女性は苦手な方も多いから果実を入れた商品を作ったのは素晴らしいわね」
「わたくしもレノン様と同じくアルコールが苦手で……」
前世では赤ワインにコーラを割って飲むのは好きだったが、この世界にコーラは存在していない。作り方すら知らないので、暇な時に創造でコーラを出して原料を鑑定しよう。
クリスティアン様とエルヴァスティ公爵令息が談笑し、私とレノン様が楽しく会話をしていると横から影が入ってきた。赤色が混ざった金髪に黄緑色の瞳の女性は、青銀色のドレスを纏っている。
素材はサテンに似ているが、他国から取り寄せた生地だろう。
国内のドレス生地の大半はアールトネン伯爵家発症で、魔物糸や木綿素材が多い。
クリスティアン様の髪色とも取れるドレスの色に、装飾品も銀の土台に紫紺に近い色の石がついている。
この令嬢の顔は初めて見る顔だった。
「クリスティアン様!」
その令嬢の声にエルヴァスティ公爵令息と会話をしていたクリスティアン様が振り向く。
「ーーーーコイヴレフト侯爵令嬢」
コイヴレフト侯爵令嬢とは、公爵領のサルメラ大森林にある魔獣討伐ポイントの左側にある領地の貴族家だ。
そしてクリスティアン様の兄の婚約者だった令嬢の家でもある。
「いやだわ、クリスティアン様。わたくしの事はトゥーリと呼んで下さいと言っておりますのに」
「コイヴレフト侯爵令嬢、妹君の件はーー改めてお悔やみ申し上げる」
「妹のアンティラの事は良いわ。あんな陰気臭い妹がいなくなっただけで邸内は明るくなったのだもの。クリスティアン様のお兄様が亡くなったのは残念ですが……本当になぜわたくしじゃなく、あんな妹が彼の婚約者になったのか理解出来ないわ」
「兄の婚約者殿はとても物静かで、兄も彼女に癒されていたと聞いている。たとえ身内であっても亡くなった方を悪く言うものではない」
「クリスティアン様は優しいのね!」
そう言った彼女はクリスティアン様の腕にしがみつくも、クリスティアン様はやんわりと腕を外す。はた目には分かりにくいが、彼女を目にしてからクリスティアン様の機嫌が悪くなっている。
彼女を苦手としているのか、もしくは元から嫌っているような態度だ。
それとは対照的に令嬢の態度を見ると、クリスティアン様を狙っているようにしか見えない。
彼の亡くなった兄の婚約者の姉という立場のようだ。
彼女にとって亡くなった兄とクリスティアン様を、自分の結婚相手として見ていたのだろう。二人の会話や態度を見ていれば、この令嬢がクリスティアン様に好意を持っているのが良く分かる。
クリスティアン様の兄に対してどんな態度でいたのか分からないが、おそらく彼女の初恋はクリスティアン様だろうと察しがつく。
「クリス、そろそろ時間じゃないか?」
二人の様子を伺っていたエルヴァスティ公爵令息が間に入る。
来場している貴族たちの宴は続くが、私とクリスティアン様は会場を中座して出る事になっていた。
既に書類だけ結婚している為、初夜とは言えないかもしれないが。
世間一般でいう今夜は初夜なので、私とクリスティアン様の二人は宴会の途中で出る事になっているのだ。
「そうだな」
「リューディア様、またご連絡致しますわ」
「ええ、お待ちしております」
エルヴァスティ公爵令息夫妻が令嬢の前に立ち塞がり、その隙にクリスティアン様と一緒に会場を出る。
そのまま空間魔法で領地の本邸へ移動した。
見慣れた景色にようやく一息つく。
「旦那様、奥様」
執事頭のアールノと彼の妻である家政婦長のヘルガが出迎える。
その背後に侍女頭のミカエラとユリアの姿もあった。
ユリアは妊娠初期だった為、今回の結婚式への参加は大事を取って本邸でお留守番だったのである。
彼女と料理長のルーカスが結婚する話を聞いた時は驚いたが、二人はとても良い雰囲気だった事もあり、結婚はスムーズに事が進んだ。式も簡素だが領内の教会で行い、二人の住居は本邸の中であるが上手くいっているのは嬉しい。
更に護衛騎士の二人であるエーヴァとイェンナも結婚が決まった。
エーヴァの結婚相手は、クリスティアン様の護衛騎士であるダーヴィド・ラウティオラ。
彼はラウティオラ侯爵家の三男で、護衛騎士統括という立場である。エーヴァの養父母であるオッツァラ子爵夫妻は、ラウティオラ侯爵家と繋がりを持てて感謝していた。
イェンナの方は本邸へ来てから、ずっと口説かれていた相手である。
彼もまた本邸で働く事務官の一人であり、マルヴァレフト公爵家の執務統括事務官長という立場。
更に彼ーーサロモンはコルッカ伯爵家の嫡男だったらしい。
ユリアに続いて二人も素晴らしい伴侶に恵まれた。
ゆくゆくはイェンナのみ護衛騎士を引退し、コルッカ伯爵夫人として婚家先を切り盛りする。
まだ当分先の話みたいなので、このまま護衛騎士を続けるらしい。
「奥様、準備を致しますのでこちらへ」
家政婦長と侍女頭、そしてユリアに促されてその場を去る。
部屋へ連れ込まれてドレスを脱ぎ、そのまま浴室へと案内された。そこで他の侍女とメイドが待機していて、彼女たちに全身を洗われた後に体をほぐすマッサージを受ける。
寝起きから結婚式の準備で慌ただしかった分、全身マッサージで身も心も癒された。
おかげで寝落ち寸前である。
「リディ?」
クリスティアン様の声が聞こえた気がするが、私の意識はぱたりと途絶えた。
そして翌朝、目覚めたと同時に昨夜のリベンジとばかりに、クリスティアン様からの甘い反撃を受けてしまったのは言うまでもない。
この結婚式でクリスティアン様が休暇を取っていた間、私たち二人は寝室から出る事はなかった。
季節は秋に移り変わり、現在は社交シーズン真っ盛りである。
社交シーズンは六月から始まり、その時期から少しずつ領地から王都へ貴族が流れてくるのだ。
初夏から夏場は避暑地へ出向く貴族もいるが、秋が深まるにつれて社交界も華やかになっていく。盛大に盛り上がるのは年末と年始にある王宮の大夜会。
前世でいう大晦日のカウントダウンが大夜会である。
これは年に一度しかないビッグイベントなので、国内の貴族たちが勢ぞろいする大規模なものだ。
それとは別に初夏から始まる高位貴族の子女たちのお茶会。
王族主催の園遊会も同じ時期にある。
これらは高位貴族のみ招待されるので、下位貴族たちはそれぞれの邸で行われる茶会と夜会に勤しむ。
私は赤ワインをコーラで割ったものが飲みたくて、ついにコーラとジンジャーエールを社交シーズンに合わせて世に出した。味のついた炭酸飲料はレモンとオレンジを合わせて四種類に留めておく。
前世では数多くの炭酸飲料が存在していたけれど、ノーマルな炭酸水があるので種類を増やしても意味がない。
最初は物珍しさで売れるかもしれないが、レモンとオレンジ、そしてコーラとジンジャーエールに叶わない事を知っている。それならノーマルな炭酸水を使い、自分好みの飲み方をすれば良い。
炭酸飲料の他には絶滅種であった薬草を使った薬の開発に成功した。
その薬で母イーリスの病が完治したのである。
長年ずっと寝込んでいた為、足腰の筋肉が衰えてリハビリは必要だが。
心身ともに回復薬と治癒魔法で健康にはなったが、体は痩せ細っているので食事療法で体重を戻す事が先決だ。
父も母の病が完治した事を喜び、アールトネン伯爵家に明るさが戻って何よりである。
そもそも原因不明と言われていた病だが、実は母イーリスの影武者であったレベッカ・クーセラの仕込んだ毒物が原因だった。彼女は少女時代から父エドヴァルドに恋慕していたらしい。
母が過労で倒れたのは偶然だったが、それを利用してパヌラ王国から取り寄せた毒物を入手し、母の飲み物へ入れていたようだ。そして母の影武者に立候補してアールトネン伯爵家へ入り込み、その後も母の食事や飲み物に毒物を入れ続けていたらしい。
母を毒物で陥れたレベッカ・クーセラは、アールトネン伯爵領は勿論、母の実家ステンロース伯爵領への永久追放に加え、生きている限り魔力を吸われ続ける施設へ。
その場所は犯罪者が最終的に辿る場所とも言われている。
施設は最新の技術で建築され、収監される部屋も清潔で掃除が行き届いたもの。人体に至っては厳粛な健康管理のもと、個々に合った栄養バランスで整えられた食事の提供に規則正しい生活。
それも全て一分一秒でも長く魔力を限界まで吸うのが目的だからだ。
魔力は命の源である理由から、すぐに命が消えては意味がない。
レベッカ・クーセラは命が消えるその瞬間まで、その施設で魔力を吸われ続けるだろう。
母親だと思っていた分、彼女が影武者と知った時は衝撃を受けた。
少女時代の報われない恋を引きずるのは本人の勝手であるが、その相手の妻に毒物を盛るのは別の話である。どういった経緯で毒物の存在を知ったのか分からないがーーー。
母の件も含めバラバラに見えるようでいて、それらを紐解いていくとパズルのピースのように繋がっているようだ。
全てがパヌラ王国に繋がっているとしか思えない。
本格的にパヌラ王国の貴族について調べようと決意する。
四年前に起こったマルヴァレフト公爵家の悲劇。
おそらくクリスティアン様の最初の結婚相手だった令嬢が始まりだろう。
そして亡くなった嫡男の婚約者ーー義理父を診察したパヌラ王国出身の医師の存在も謎のまま。
なぜ彼らは命を奪われたのか。
パヌラ王国そのものが関与しているのか、また関与しているのは一部の貴族だけなのか現時点では不明なのだ。
マルヴァレフト公爵領に自生していた薬草が目的だった事なのは分かっている。
その薬草が目的だったのは分かるが、クリスティアン様の大切な家族の命を奪ったのは許せない。
ーーーー隠密か諜報部員が欲しいわね。
マルヴァレフト公爵家にも隠密か諜報部員はいるのだろうか。
アールトネン伯爵家に諜報部隊は存在している。それらを動かせるのは代々当主と嫡男のみ。
私も存在を知っているだけで、彼らを目にした事は一度もない。
「クリスティアン様に要相談の案件ね」
深い溜息を漏らした後、執務机を整理してから部屋を出た。
いつもはユリアが傍に付き従っているが、彼女は三日前から出産に備えて安静にしている。あのユリアが母親になるなんて人生何が起こるか分からない。
私も先月の頭に貧血で倒れ、この邸内で体調を崩すのはおかしいと医師に診断して貰ったら、なんと妊娠四か月だった。自分が妊娠していた事に驚いたが、それ以上にクリスティアン様の喜びは凄かったのである。
私に対する過保護が半端ない。
結婚式に備えて避妊薬を飲んでいたけれど、式の当日から薬を飲むのを止めた結果だだろう。
元から子供は最低でも二人産む予定だったのだ。
私が妊娠するのが遅いか早いかの違いでしかない。
クリスティアン様は義理父と兄を失っているせいか、子供の誕生は嬉しいのだろう。
彼の為に子供は二人だけじゃなく、三人でも四人でも産んで家族を増やしてあげたい。将来この家を継ぐ子供の補佐をしてくれる兄弟は必要だろう。
「奥様、先ぶれのないお客様がお見えなのですが……」
考え事をしながら歩いていたので、人の気配に気づかなかった。
申し訳なさそうに言葉を告げる執事頭のアールノに促され、客人の待つ応接室へ向かう。
「アールノが対応しきれないなんて、わたくしのお姉様たちかしら?」
姉二人には前科がある。
「いえ……奥様は家名だけ存じあげているかもしれません。亡くなった若旦那様の婚約者の姉君である、コイヴレフト侯爵家の令嬢が奥様へ挨拶したいと申しているのです」
トゥーリ・コイヴレフト侯爵令嬢か。
結婚式の披露宴で初めて会ったが、これまで私が出席した社交の場で会った事がなかった。
クリスティアン様の事が好きみたいだけど、姉二人といい婚約者や妻がいる男性に恋慕するような女性とは関わりたくない。
「ああ……わたくしの結婚披露宴の時、クリスティアン様に声をかけてきたご令嬢ね」
「既に対面されておりましたか」
「ええ、お祝いの言葉は頂けませんでした」
私の言葉にアールノが深い溜息を漏らす。
「わたくしが知らないだけで、彼女はよくここへいらっしゃっていたの?」
「若旦那様の婚約者だった妹君様とご一緒においででしたが、妹君様が亡くなってからコイヴレフト侯爵家とは疎遠に近い状態です。今回のように先ぶれもなく訪れたのは初めてでございますね」
「そうなの? 先ぶれを出す余裕がないほど、何か急用でもあるのかしら?」
「奥様にお会いするまで何も言えないと……」
「わたくしとは初対面に近いはずですのに不思議ね」
アールノと会話をしながら歩いているうちに、客人の待つ応接室の前まで辿りついた。
息を吸い込み扉をノックしたのち、室内へ入る。
「お待たせしましたかしら?」
応接室にある三人掛けのソファの中心に座り、優雅な仕草で紅茶を啜っている客人に笑みを浮かべた。
トゥーリ・コイヴレフト侯爵令嬢は夜会に着るような派手なドレスに身を包み、銀と紫紺色に近い石の装飾品をゴテゴテと飾りつけてる姿である。
どう見てもクリスティアン様の色を意識している装いだ。
彼女の年齢は二十四歳と聞いている。
その年齢で令嬢と呼ばれているのだから独身なのは間違いない。
おまけに妻のいる男性に恋慕している様子から、彼女に婚約者はいないのだろう。万が一、彼女に婚約者がいたとしても、それを気にしていない時点で親しくする必要はない。
「それで?」
私が室内に入ってきても礼儀のない相手に言葉を促す。
そのついでに耳飾りに魔力を注ぎ、クリスティアン様との通話を可能にしておく。
「あら、失礼致しましたわ。わたくしはコイヴレフト侯爵家の長女でトゥーリ・コイヴレフトと申します。貴方はアールトネン伯爵令嬢ですわよね?」
「一年と半年前に旦那様と結婚したので、現在はリューディア・マルヴァレフトですわね。わたくし共々コイヴレフト侯爵家と交流がないので、ご令嬢がご存知ないのは仕方ない事ですわ」
アールノもコイヴレフト侯爵家とは疎遠になっていたと言っていた。
今更なんの話があるのだろうか。
クリスティアン様ではなく私を指名したとなれば、何となくだが予想がつく。
「わたくしの事はご存じありませんの? クリスティアン様とは親しくお付き合いしていたのよ。彼だけじゃなく、亡くなった父君と兄君とも親しい間柄でしたの」
「マルヴァレフト公爵家の方々と親しい間柄とおっしゃいますが、旦那様から一切ご令嬢のお話をお聞きした事がございませんの。王太子殿下ご夫妻、エルヴァスティ公爵令息ご夫妻、ニスカヴァーラ侯爵令息ご夫妻に、フオヴィネン辺境伯様のお話は良く聞きますのに……おかしいわね」
私は頬に手を当てながら首をこてんと傾げて見せる。
「旦那様は親しい方のお話を良くされるのですよ。その中でご令嬢のお話をされた事がないので、旦那様と親しい間柄ではないと勝手に判断させて頂きますね」
にっこりと笑みを浮かべながら目の前の相手に告げた。
「奥様、こちらへ」
ワゴンを引いてきた侍女頭のミカエラと家政婦長のヘルガが応接室に入り、私にソファへ座るように促す。
私がソファへ座ったタイミングでティーカップにグリーンティーを注ぎ入れた。
客人のコイヴレフト侯爵令嬢には普通の紅茶で、私には高級品であるグリーンティーを出すあたり、あからさまに対応の差をつけているらしい。
私は現在妊娠しているので、カフェインを含む紅茶を口にするのを控えているだけだが。
「そちらのお茶は色が違うのね」
私のティーカップを覗き込みながら告げる。
お茶の色の判別はつくけど、商品名までは知らないようだ。
「ええ、健康の為に開発したグリーンティーというお茶ですの」
材料はサルメラ大森林に自生している魔素を含んだ雑草だが、茶葉にして飲むと体力が回復する効果があると知り、すぐに商品化したものである。材料費がタダなので利益は大きい。
コイヴレフト侯爵令嬢はいきなりソファから立ち上がり、給仕をしていたミカエラに向かって声を上げた。
「グリーンティーですって!? わたくしにも同じものを出しなさい」
まさかグリーンティーの存在を知っていると思ってなかったが、今は社交シーズンで他家の茶会か夜会に参加した際に噂を耳にしたのだろう。
このグリーンティーは公爵領の特産品として、貴族向け用に高級茶葉として開発したもの。貴族向けという事で風味と香りに力を入れるのに苦労した。茶の色も透明に近い緑である。
公爵領の領民には最初にブレンドしたものを安価で提供する形となった。
各地にある公爵家の騎士団駐在所と宿舎には無料で提供している。魔獣討伐で体力を消耗し、命を落とす確率を防ぐのが理由だ。
このお茶を飲むようになってから、騎士団員たちの士気が高まったのは言うまでもない。




