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白薔薇が薫る庭園に円型のティーテーブルが三つ。
一つのテーブルに三人から四人が座れる大きさのもので、テーブルの中央には四段のスタンドに菓子と軽食が綺麗に並べられている。
その周りにはスタンドに乗せきれなかった焼き菓子とフルーツが乗った大皿。
テーブルを飾る花。
それぞれのテーブルの横にはティーポットと茶葉の入った瓶が乗せられたワゴン。
ワゴンには給仕をする侍女と執事が控えている。
私の席はクリスティアン様と付き合いのある方の夫人で固められ、姉たちの席にはカイヴァント伯爵夫人とコティペルト伯爵夫人の二人。
公爵夫人や侯爵夫人と同じ席では、さすがの姉たちもお茶を楽しめないだろうといった配慮に違いない。
まだコティペルト伯爵夫人やカイヴァント伯爵夫人なら、姉たちとも年齢が近いし会話もしやすそうだ。
姉の学院時代で起こした事も把握済みなので、ある程度の対処が可能とも言える。
それにしても、エルヴァスティ公爵夫人とニスカヴァーラ侯爵夫人の漂う気品は、生まれ持った素質ではないだろうか。その場に座っているだけなのに、姿勢を正すように背筋が真っすぐ伸びるのだ。
「マルヴァレフト公爵夫人、わたくしの事はレノンとお呼び下さいませ」
いきなりエルヴァスティ公爵夫人に名前呼びを許可されてしまった。
「わたくしの事もエレノアとお呼び下さいな。ずっとマルヴァレフト公爵夫人にお会いしたかったのですよ。あの洗髪剤や化粧水に保湿液! そしてグリーンティーも素晴らしい品ですわ」
今度はニスカヴァーラ侯爵夫人にも名前呼びと、個人事業で販路を広げた商品を利用しているのだろう。まだ国内で使用されている洗髪剤は、前世で使用していたシャンプーと違って仕上がりがゴワゴワになる。
トリートメントやコンディショナーは存在しておらず、洗髪剤の仕上げに香油を塗りたくるのだ。
これも匙加減を間違えると髪が油でギトギトとなる。
当然、しっとり潤うような髪質にはならない。
石鹸も同様だった。
無臭で泡が立たない上に肌が滑々にならず、常に乾燥肌っぽい仕上がりになる。石鹸は泡立ちが良く香りが良いものが欲しかった。勿論、肌が滑らかになるのは必須である。
その集大成がアールトネン伯爵領産の洗髪剤と石鹸、そして基礎化粧品の数々。
自分の為に欲しかったものだが、確実に売れるのは分かっていた。
「レノン様、エレノア様、とても光栄でございます。わたくしの事もリューディアとお呼び下さい」
「まあ! なんて可愛らしいお方なの。あのマルヴァレフト公爵が骨抜きになっているのも納得だわ」
「わたくしも主人から聞いて驚いていましたの。それもマルヴァレフト公爵にリューディア様を勧めたのが、なんと王太子殿下と言うじゃない。その場に主人と宰相補佐もご一緒にいたから、三人で背中を押したと言っていたわ」
あの大夜会でクリスティアン様と出会った時、そんな裏事情があったとは!
王太子殿下が私を彼に勧めた点が引っかかるが、最初から私に話しかけるのが目的だった事が分かった。
「リューディア様は学院より前ーー六歳で参加される王宮のお茶会の時から注目を集めていらしたのよ」
「そうそう。わたくしも同じ場にいたのですけど、確か伯爵家のご子息がリューディア様の傍から離れず、その場にいた者は微笑ましく見守っていたのですよ」
オリヴェル様と初めて出会った茶会の事だ。
初めての王宮で緊張していたせいか、あまり覚えていない。
「小さな騎士のようにリューディア様の傍におりましたわね。すぐにご婚約されたのに彼とはご縁がなくーーでも、リューディア様の運命のお相手は、最初からマルヴァレフト公爵だったのよ」
「マルヴァレフト公爵は誠実で良い殿方だわ。主人の話を聞く限り、リューディア様を幸せにして下さると思うの」
初めて会話をした二人だが、初対面からとても友好的だ。
「わたくしも彼と結婚できて良かったと思っております」
「わたくし達の前では無表情でいる事が多いのだけど、リューディア様の前ではどんな感じなのかしら」
クリスティアン様が無表情?
確かにクリスティアン様の表情筋は乏しいと思う事はあるが、そこまで無表情という事はない。
そもそも最初の出会いから「レディ」呼ばわりだ。
自然なエスコートで紳士的な態度だったと思う。
姉たちに対する態度は冷ややかではあるがーー祖母や父に対して礼儀正しい。
「旦那様の表情について気になった事はないですわね。あまり笑わない方ではありますが、無表情とは違う気がします」
「そうなのですね。わたくし達には無表情なのですよ。口数も少ないし……どちらかと言えば、主人たちの会話の聞き役に徹している感じかしら?」
「そうね……そんな感じだわ」
「旦那様はお話をされないのですか?」
クリスティアン様が無表情だったり口数が少ないとか意外すぎる。
さすがに饒舌とまではいかないが、私と二人きりの時は割と良く話す方だ。主に事業の事や日々の予定についての内容ではあるが、たまに他愛もない話をしてくれる。
「マルヴァレフト公爵はリューディア様とご一緒の時、どんな会話をされるのかしら?」
「そうですね……主に事業についての内容が多いでしょうか。他ですと領地と邸内の改善だったり、時には他領の特産品について話す事もありますわ」
ほとんど仕事関係の内容ばかりだ。
こうして改めて思い返すと、普段の何気ない話が少ない事に気づく。
「あら……夫婦らしい会話はないのかしら?」
「そうね、気になるわ。お二人のお子についての話はないのかしら?」
今の所は子供の話をした事はないが、ゆくゆくは後継者を産まなければならない。
数か月後に結婚式を挙げるので、ドレスの事を考えて現在は避妊しているのだ。
「子供は結婚式を挙げた後になるかと思います」
「そうだったわね。お二人のお子が早く見たいけれど……妊娠すると体形も変わるし、折角のドレスまで作り直さなくちゃいけなくなるわ」
「そうね、結婚式が終わるまでおあずけね」
二人ともしょんぼりとした様子だ。
さすがに淑女の仮面で表情は変わっていないが雰囲気がソレである。
「お子が出来たら賑やかになるわよ。わたくしは今の育児が落ち着いたら、次の子が欲しいと思っているの」
エルヴァスティ公爵夫人は第一子を育児中らしい。
「わたくしも次の子は女の子が欲しいわ。男の子は目が離せなくて」
ニスカヴァーラ侯爵夫人は二児の母で、二人とも男児のようだ。
「わたくしは健やかであれば男女どちらでも良いのですが、やはり公爵家の後継者を考えたら男の子が求められるのかしら」
「後継者に男女は関係ないと思うけれど、公爵家や辺境伯家は魔獣の討伐もあるから、女児より男児の方が私兵の統制が取りやすいわよね」
公爵家の領地は敷地面積が広いため、どうしても魔獣が生息している土地が含まれる。
これは辺境伯家も同様で、領地の側面には山脈と深い森が広がっているのだ。
魔獣でも危険度が低くて平地を領地に持つ貴族であれば、女性でも領主になれる。
危険度が高い魔獣が生息している場所を領地に持つ公爵家から辺境伯家では、魔獣を討伐するのを専門にしている自領の騎士団を持っている為、女性が領主になる事は少ない。
「旦那様も本来はマルヴァレフト公爵領の騎士団隊長で、次期伯爵を賜って魔獣討伐を専門にする予定でした」
「お父上とお兄様が伝染病でお亡くなりになったから……」
「あの時は言葉も出ませんでしたわ」
「お兄様の婚約者様も感染されたと聞いたわ。でも……マルヴァレフト公爵に知らせなかったらしいわよ。確か侯爵家の令嬢だったはずよね。婚約者だった方の家族に訃報を知らせないのは礼儀知らずだわ」
「旦那様のお兄様の婚約者だった方のご家族は、公爵家に訃報を知らせなかったのですか?」
「そうなのよ! 婚約者であるお兄様が亡くなっても、令嬢の訃報は知らせるべきじゃない? マルヴァレフト公爵が令嬢の訃報を知ったのは、葬儀が終わった後らしいのよ。それも主人と王太子殿下から聞いて知ったらしいわ」
クリスティアン様のお兄様の婚約者は、例のサルメラ大森林の湖がある場所の左側の先にある領地を持つコイヴレフト侯爵家の令嬢と聞いている。
どういった経緯で婚約されたのか聞いていないが、もし絶滅種と呼ばれている薬草が目当てで婚約を決めたのなら、ますますコイヴレフト侯爵家を疑ってしまう。
コイヴレフト侯爵家というより、その婿養子となったパヌラ王国出身の現当主。
パヌラ王国出身の高位貴族であるなら、幼い頃から薬草について徹底的な教育を受けているはずだ。あの国は薬草の聖地と呼ばれるほど、国民も薬草についての知識が豊富だと聞いている。
専門的な事については貴族の方が詳しいと思うが、その国出身の者は薬草を見分けるのは容易いだろう。
ーーーーコイヴレフト侯爵家について調べた方が良い。
「話は変わりますがーー貴方のお姉様、結婚願望はあるのかしら?」
「え? 姉たちですか?」
「そうよ」
「姉……カタリーナお姉様は良い方がいれば結婚したいようです。お顔が整った男性が好みなので、爵位は子爵家までなら縁があれば承諾すると思います。カトリーナお姉様の方は、お相手の顔が整っているだけじゃなく、高位貴族の嫡男か当主を狙っているみたいで……その、なかなかお相手が見つからないのです」
「ああ……そういえば容姿に拘る方たちでしたわね」
「見目が良くても中身が良いとは限りませんのに……」
「祖母様がお姉様たちに再教育をされているようです。その成果がカタリーナお姉様に見られていまして、良き縁があれば姉も喜ぶと思います」
カトリーナの方は絶望的と言って良いだろう。
まず先にカタリーナが片付けば、祖母も安心するかもしれない。
「それなら!」
「そうね! あの方が宜しいのではなくて?」
「わたくしもそう思うわ」
「誰か心当たりがいるのですか?」
「そうなの! とても良い方なのだけれど、三年前に奥様を亡くされてから再婚もされずお一人でいるのです。彼なら見目も良いし性格も悪くないわ」
「年齢が少し上になってしまうけれど、彼にはお子がいないので婚約というより、即結婚という形になりそうね」
なんと!
その相手はパーヤネン辺境伯様で年齢は三十二歳らしい。
パーヤネン辺境伯は八年前に結婚されたが、そのお相手となる方は婚約時代から虚弱体質だった為、療養を繰り返し婚姻も伸びたようだ。
ようやく結婚したのに奥様の体調が優れず、三年前に儚くなってしまわれたらしい。
パーヤネン辺境伯は奥様が亡くなった後、ずっと独身を貫いていたようだ。
容姿が整っている上に性格も悪くないらしい。
年齢が三十を超えている理由から、そろそろ再婚をと周りからせっつかれているとのこと。
そんな掘り出し物がいたとは!
「そんな方がいらっしゃるとは思いませんでした」
辺境伯なら伯爵家よりも家格は上になる。
彼を紹介するなら双子同士で取り合いになるだろうか。
「もう一人いるのよ」
「あの方ね」
そのもう一人と言うのがユレルミ伯爵様で年齢は二十八歳。
彼もまた容姿が整っていて、性格も悪くないらしい。
そして婚姻歴はあるが円満離婚をして、五年前から独身でいるようだ。
彼もお子はいない。
ユレルミ伯爵様が独身でいるのは、単純にクリスティアン様と状況が似ているのが理由のようだ。
伯爵家の領地に魔獣が生息している森に面している地域があり、五年前に隣領地がスタンピードが起こった際に、救援要請で嫡男だった兄と補佐していた次兄が駆け付けたが、その時の負傷が原因で二人同時に儚くなったのである。
隣領の領主とその嫡男、更に多数の討伐隊の命が失われた事は、国内でも大きなニュースになっていたらしい。
当時まだ父親のユレルミ伯爵が現役だったけれど、愛する息子を二人も失った事が原因なのか、精神的病で寝込むようになって当主交代を急いだ。
三男に嫡男の婚約者だった令嬢と婚姻を決めたが、最終的に二人は円満な離縁を選んだらしい。
おそらく婚約者だった令嬢は、彼の兄の嫡男を忘れられなかったのだろう。
この五年は当主引継ぎと婚姻に続き、離縁の手続きが重なって再婚する機会がなかったのかもしれない。
どちらもクリスティアン様より年上になる。
「あの姉たちの旦那様になるのなら、同年代よりも年齢差があった方が上手くいくと思っております」
「そうよね。同年代の令息たちでは扱いは難しいと思うわ」
「リューディア様は同年代でも上手くいきそうですわね」
「わたくしは……旦那様との婚姻がなければ、自分から宰相様に申し込んでいたかもしれません」
中身が元アラフォーのせいか、イケおじに弱い。
執事頭のアールノも捨てがたいが、彼には妻である家政婦長のヘルガがいる。
独身男性の中では宰相が好みに近い。
次がクリスティアン様だ。
彼が次点になっているのは、クリスティアン様の年齢が二十五歳という若さにある。
「宰相様!?」
「まあ……マルヴァレフト公爵が結婚を申し込んでいなければ、わたくしの義理の母になっていたのね」
ニスカヴァーラ侯爵夫人はにこやかだった。
「わたくしは年上の方に弱いのです。年齢を重ねた色気というか……全てを包み込んでくれるような包容力? 以前、父と一緒に国王陛下と謁見した事がありまして、その時に宰相様にお会いして心がときめいたのです」
「分かりますわ!」
「わたくしは同年代の方が長く一緒にいられて良いのだけど」
「確かに……将来的に長く一緒に過ごしたいのなら、同年代の方が確率は高いわね。あくまで相手が健康体であるのが前提ですが」
「そうね。健康体でも突然の事故や伝染病といった事が有り得るのだもの」
エルヴァスティ公爵夫人とニスカヴァーラ侯爵夫人に挟まれ、好みの男性像や恋愛小説のどういったシーンが理想といった話で盛り上がる。
この世界での恋愛小説は主に短編小説が多く、本の厚さが薄いものばかり。
前世で読んでいたような分厚い本ではなく、パンフレット並みの薄さなので読みごたえがない。
読み応えのある長編の小説を書いてくれる作家を発掘したくなる。
こういった娯楽関係は時間にゆとりが出来た後でも間に合う。
「ユレルミ伯爵様とパーヤネン辺境伯様へは、どういった伝手で連絡を取れば良いのかしら?」
これだけは押さえておきたい。
「マルヴァレフト公爵から王太子殿下へ言付けを頼んだ方が早いわよ。学院時代と比べて更生できているなら、王命にしてしまえば丸く収まるわ」
「そうね!」
二人が悪戯を思いついたような子供っぽい笑みを浮かべる。
「すぐには無理な話だ」
「私の妻は楽しそうだな」
背後から声がして振り向くと、クリスティアン様と数名の男性の姿を視界に捉えた。
いつの間に傍まで来たのだろうか。
足音はおろか気配すら全く感じなかった。
「リューディア、楽しそうな話をしていたね」
「クリスティアン様」
クリスティアン様と一緒に来た男性は、それぞれ自分の妻の傍へ立つ。
「アル、いつの間に来ていたの?」
「つい先ほど」
アルベルト・エルヴァスティ公爵令息が自分の妻に微笑む。
「クラン」
「エレン、楽しそうだね」
ニスカヴァーラ侯爵夫妻が頬にキスを送り合っている。
とても仲が良さそうだ。
アーヴィッコ侯爵家の執事とメイドが椅子を運んできたので、クリスティアン様たちは同時に腰を降ろす。
「クリス、オレたちに紹介してくれないのか?」
「リューディア、右にいるのがアルベルト・エルヴァスティ、左にいるのがクラウス・ニスカヴァーラだ」
クリスティアン様がおざなりな紹介をする。
私は彼らの中で新参者の立場なので、椅子から立ち上がって形式な礼儀で返す。
「初めまして、リューディア・マルヴァレフトです」
「若いって良いね! なんとも初々しい幼な妻」
この国での十六歳は成人した大人扱いである。
前世での認識では十六歳の年齢だと幼な妻に当て嵌まるが、公式に成人した女性に対して使う言葉ではない。
もしくは見た目が幼いという意味だろうか。
確かに彼らの奥方と比べたら幼いという言葉が当て嵌まる。
「クリスの事での相談ならいつでも聞くよ」
クリスティアン様は親しい友人には「クリス」と呼ばれているようだ。
憧れの愛称呼び。
「彼女ね、マルヴァレフト公爵との縁談がなかったら、宰相様へ求婚する予定だったらしいわよ」
まさかの暴露。
「嘘!? あの父上に?」
「どうやら年上の男性が好ましいようね。マルヴァレフト公爵もギリギリ年上だからセーフじゃないかしら」
ニスカヴァーラ侯爵夫人が冗談めいた口調で告げる。
「まさか本当なのか、リューディア?」
クリスティアン様が意外そうな表情を浮かべた。
「そうですね……わたくしは同年代の方より、年上の方と会話をしたり一緒に過ごしたりする方が落ち着くのですよ」
「なるほど、納得した」
私がクリスティアン様との結婚を承諾した事だろうか。
「クリスが結婚を申し込まなかったら、オレの義理の母になってた可能性もあったのか!」
惜しい事をしたと、ニスカヴァーラ侯爵夫妻が互いに笑みを零す。
「クリスティアン様がプロポーズをして下さったので……わたくしは今の生活に満足しています」
「リューディア」
「マルヴァレフト公爵は若い奥様にメロメロね」
「こんなマルヴァレフト公爵は見た事がないわ! リューディア様、あなた凄いわね」
「わたくしの前でのクリスティアン様は、いつもこんな感じですわよ?」
私が首を傾げると、全員が違うと首を振る。
「基本的に無表情で、機嫌が悪い時は仏頂面なのよ?」
「そうそう、たまに怖い時があるわ」
エルヴァスティ公爵夫人とニスカヴァーラ侯爵夫人に言われ、ふと隣のクリスティアン様の顔を覗き見る。
いつも見ている顔だ。
「こちらのテーブルは楽しそうだね」
王太子殿下が近づいて来るのが見える。
「レヴィ、それ気に入ってくれたのか」
クリスティアン様の言葉に王太子を見ると、彼の手にグラスがあった。
「コレ、なかなか良いね! 口の中でシュワシュワして面白い」
どうやらグラスの中身は持参してきた炭酸飲料だったらしい。
ただの炭酸水と果汁を混ぜたものを用意してきたのだ。
果汁を混ぜたものは、レモンとオレンジの柑橘二種類である。
ソーダ水も候補にいれていたのだが、最初はこの三種類だけの方が良い。
炭酸水は実質コストがゼロに近いので、販路が広がれば利益はボロ儲けである。
果汁に使用している果実も廃棄処分されるような物だ。それを無駄にせず果汁を絞り、残った皮などはジャムやお菓子などの材料に回している。
「リューディアの発案の商品だ」
「アールトネン伯爵家の者は商才に優れているのだな。マルガレータ夫人はドレス生地の生産、令嬢は洗髪剤に石鹸。そして化粧品の販促で活躍している。当主のアールトネン伯爵と嫡男の令息は研究肌ではあるが。優秀な者が揃っていて羨ましい限りだ。結婚後はマルヴァレフト公爵家の名でグリーンティーと炭酸水か」
「レヴィのおかげで素晴らしい妻を得た」
「そうだろう? もっと感謝するが良い」
「それなら、オレたちにも感謝するんだな」
「そうだ」
王太子に続いてエルヴァスティ公爵令息と宰相補佐が口を挟む。
こちらは褒め称えられて恥ずかしさで一杯だ。
「得難い妻を娶れて果報者だな」
「それを実感している」
「若い妻にデレデレしているクリスは貴重だな」
「皆にも教えてやろう」
その後、王太子殿下から王太子妃のアイナ・ハーヴィスト妃殿下と、彼の妹であるヘルミーナ・クヤラ王女殿下を紹介され、お茶会は和やかな会話で大いに盛り上がったのである。
この場に初参加だった双子の姉二人は、周りの雰囲気に圧倒されたのか始終おとなしくしていた。
お茶会が終わった直後に、私は祖母へ姉二人の婚約者候補が見つかった旨を知らせておく。
彼らを紹介してくれたのは、ニスカヴァーラ侯爵夫人とエルヴァスティ公爵夫人の二人だと追記した。そして姉の婚約者候補の二人に話を持ち掛け、彼らの合意が得れば王命として正式に話が来るというのも忘れずに知らせる。
あのお茶会で姉二人がこれまで参加していた物が、とても薄っぺらい物だったと気づいたのなら儲けものだ。
高位貴族の中でも上位が集まる茶会が催されるのは非常に少ない。
その希少価値な茶会に参加して、姉たちの何かが変われば良いと思う。
姉二人も母の影武者に育てられなければ、現在と違っていたのかもしれないのだ。
まだ三歳だった妹を池に落とすような姉たちではあるが、アールトネン伯爵家の血を継いでいるのだから地頭は悪くない。祖母の再教育にも熱が入り、先日以上の成果が見られれば彼女たちの結婚も夢ではないはず。
そんな遠くない未来を胸に秘め、私は自分の結婚式の準備に追われる日々を過ごすのだった。




